ロックマンXセイヴァーⅡ 第参章~交差する力~

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『第五階層へ降りるルートはその先だ。急げセイア』
「了解。このまま突っ切る!」
 おおよそ現実空間では再現出来そうもないサイバーチックな空間の中、
ロックマン・セイヴァーはそれを楽しむ様子もなく走り続けていた。
 辺りには電脳世界独特の光のラインが多々見える。
何を模したのか判らない、言葉では言い表しにくい建造物に囲まれたそこは、現実から離れたもう一つの戦場だった。
 これが現実ならば敵機の接近は気配で判るというものを。この世界ではそんな常識が全く通じない。
三百六十度好きな方向から突然姿を現わし、攻撃を仕掛けてくる敵機達は、個々の戦闘力とは裏腹に手強い。
セイアはここに来るまでに、既に幾度かのダメージを負ってしまっていた。慣れない戦場で、上手く実力が発揮出来なかったからだ。
 所々に被弾したアーマーを気にかけつつも、セイアはウィドの声に指令されたルートを急ぐ。
が、そんな侵入者の進行を止めようと、セイアの目と鼻の先で巨大な敵機の姿が現れた。
『セイア!』
「判ってる!」
 しかしセイアは止まらない。セイアを制止しようとするウィドの声にそう答えつつ、セイアは飛翔した。
エックス・サーベルを抜き放ちつつ、飛燕脚からの推力を利用し、連続的に回転運動を始める。
サーベルを頭上に構えたまま高速回転を始めるセイアは、おのが身体を一つの弾丸とし、そのままゴーレムの様な姿の敵機に突っ込む!
辺りに三日月型のエネルギーを発散しつつ、弾丸となったセイアが敵機を貫いた。三日月斬だ。
『成る程。だが正面にエネミーの反応が多数。陸地タイプだ』
 この世界において『陸地』と形容することほどのデタラメは恐らくない。
けれど、ウィドにもセイアにも他にそれを形容する言葉が見つからなかった。
 常識の通用しないこの世界で、『地面』と認知させる部分から離れられない敵機のことを、ウィドは『陸地タイプ』と言い表した。
事実上は間違っていようとも、その言葉をしっかりとセイアは理解した。そして、自らがそれに対抗しうる為の最善たる技を瞬時に繰り出す!
「疾風っ!」
 急停止するセイア。が、彼の姿を模したエネルギーの塊は、ダッシュの姿勢を保ったままに敵機の大群へと突っ込んでいく。
傷つく恐れも撃ち落とされる恐れもないエネルギーの塊・疾風は、自らに触れるもの全てに、文字どおり疾風のような斬撃を刻んでいく。
疾風牙のスキルを上乗せされた疾風は、この技の元々の持ち主を越える威力で、敵機達を瞬時に破壊せしめて見せた。
「下降ルートを確認。これより第五階層に突入する!」
『了解。しかし第五階層には今までにないエネルギーが確認されている。気を抜くなよセイア』
「判ってる」
 疾風が作り出した進路の先に、ポッカリと口を開けるゲートが見える。
一見覗いただけでは下の階が確認出来ない暗黒の穴だが、さっきからこれと同じものを三つも潜ってきたセイアに、今更躊躇いはなかった。
 バスターに装填していた特殊武器を通常のバスターモードへと還元しつつ、セイアは思い切り下降ゲートへと飛び込んだ。
第四層から第五層へと景色が変わる。自分自身という存在が別の空間へと飛ばされるような違和感は、四つ目を潜った今でも拭いきれない。
 スタンと予期しないうちに足の裏が地面の感触を感じる。地面が知覚出来ないうちに着地してしまうのはなんとも不親切な作りだ。
セイアはそんな風に心の中で愚痴を云いながらも、セイアの口をついて出たのはエクスクラメーションだった。
「くっ・・!?」
『セイア、どうした!』
「なんだこれは・・!?」
 全く見覚えのない――ここに来た時点でそんなこと続きだったが――光景に、思わずセイアは声を上げた。
 さっきまでの第一層から第四層のいずれにも当てはまらない、特異な空間。
敵機と思える物体は存在していない・・いや、まだ確認出来ないが、その代わりに視界を埋め尽くすものがあった。
「これが・・謎のエネルギーの正体か」
 セイアがそう形容したのは、辺りを埋め尽くす程に存在している金色の球体。
今までのような防衛型ではないことは、これらから発せられるエネルギーからも、その唯ならぬ外見からも容易に判断がつく。
 機械特有のブーンという異音を発しながら、それらの球体の表面には赤いエネルギーラインが走っていた。
禍々しい・・と、云うのかもしれない。雰囲気的にはあのシグマに近い感じだ。
『こちらのレーダーには何も映っていない。セイア、何が見える!』
「どうやらコイツ等が元凶の一端みたいだ。コイツ等は防衛用じゃない!」
 気が付けば、亀のようにのろのろとした動きながらも、空間いっぱいを埋め尽くしていた金の球体は除々にセイアへと集まりつつあった。
バチバチと赤いエネルギーが走る表面は、どう見えても触れてただで済むとは思えない姿だ。
 もしコイツ等がこの騒ぎの元となったものならば、破壊するしかない――!
 セイアは手始めに一番手前の二つ三つを、エックス・サーベルの斬撃で真っ二つに斬り裂いた――つもりだった。
 しかしセイアの意識とは裏腹に、金の球体は何事も無かったかのように近づいてくる。
もう一度サーベルの斬撃を浴びせるが、刃はスッと空気を裂くように球体の表面を擦り抜けてしまう。
「くっ、手応えがない!」
 まるで雲を相手にしているような気分だ。
 もう片手をバスターに変化させ、手当たり次第に光弾をぶつけてみるが、やはり効果はない。
 あっと言う間にセイアは後方の隔壁へと追い込まれてしまっていた。
こうしている間にも、ふわふわと浮遊する金の球体達は、除々に除々にセイアとの距離を縮めていく。
 第四階層へと続く上昇ゲートを見上げてみたけれど、既にガッチリと閉鎖されていて、
第四階層へセイアが戻ることを断固として拒否していた。
『何があった!応答しろセイア!』
「バスターもサーベルも通用しないんだ!このままじゃ・・うわっ!?」
『どうした!』
 セイアの死角からも迫ってきていた球体が、ついにセイアを捉えた。
最初に呑み込まれたのはサーベルを持つ右手。隙が出来たそこに、我先にと群がる球体が、次々とセイアの身体の各所に食らい付いてくる。
右手、左手、胴、両足。セイアに食らい付いたそれらは、言い様のないエネルギーの奔流を、セイアの体内へと一気に流し込み始めた。
「くっ!離れろ・・!うっ・・うわぁぁぁぁっ!!」
『セイア!セイアっ!!』
「ウィ・・ドっ、ぐぁあぁぁぁぁっ!!」
 このまま意識を手放してはいけない!――心の中ではそう理解しつつも、体内を侵し始めたエネルギーは、
セイアの意思とは無関係にその身体を侵食し始めた。
 必死にセイアの名を呼ぶウィドの声が少しずつ遠くなっていく。身体に力が入らずに、サーベルの柄がカランという音を立てて足元に転げ落ちた。
 駄目押しとばかりに残った部位を埋め尽くしていく金の球体。
最後に残った顔面が呑み込まれたとき、セイアの意識は暗黒の渦へと放り出された。
「うっ・・・・ぁ」
『セイアぁぁっ!!』
 現実とはかけ離れたその空間に木霊する悲鳴は途絶え、代わりに相棒の名を絶叫する声だけが響く。
喉を痛めてしまう程に強く叫んでも、それに応えてくれる声はなかった――


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「リミテッド。イクス、レイ、イクセ。そして各種リミート・レプリロイドか。これまた厄介なことになったね」
 モニタを埋め尽くすデータの羅列にじっくりと目を通したあと、ふとDr.ゲイトが呟いた言葉がそれだった。
 Dr.ゲイト。数年前のナイトメア事件発祥の張本人にして、ロックマン・セイヴァー・・セイアの制作者。
以前はゼロの破片を元に作り出したナイトメア・ウィルスによって荒廃した地球の支配を目論んでいたのだが、
事件の終焉の際にエックスによって救出され、それ以来イレギュラー・ハンター専属の研究員として働いている。
 つい昨日まで各地のハンター支部を回っていたゲイト。彼が本部に帰るなり知らされた事実とデータは、並の人材ならば卒倒しそうな内容だった。
 レプリフォース大戦の最中でエックス・ゼロによって撃破された筈のレプリロイドの再来。
データに残る、リミテッドという名の脅威。そしてそれがセイアに取り憑いたことで誕生した三体の強力な敵。イクス、レイ、イクセ。
「折角ゆっくりと話が出来る機会が出来たというのに、なかなか穏やかじゃないシチュエーションだね、ウィド君?」
「俺は元からコイツ等に立ち向かう為、イレギュラー・ハンターに訪問したんだ」
「ふうむ。まぁ、そういう事にしておこうかな。
 それにしても、なかなか厄介な敵が現れたものだよ。ボクの作ったナイトメア・ウィルス以来かな?」
 そうおどけた様に云うゲイトの顔は、困惑よりも余裕の二文字が先に出ているように思う。
 ウィドが相変わらず食えない奴だと肩を竦めていると、ゲイトは変わらずの微笑を口もとに浮かべたまま、
今度はセイア――今は健次郎の姿だ――の片腕をそっと握った。
「どうだい、セイア?腕は痛むかい?」
「い、いえ。もうすっかり大丈夫です。痣も消えたし」
「うんうん、成る程」
 興味深そうに頷きつつ、ゲイトは健次郎の袖を捲る。つい先日・・学校での闘いがあった日以来、腕に痛みは走っていない。
あんなにクッキリとあった痣も綺麗に消えている。逆に不安になる程に。
「リミテッドについてのデータを詳しく読んだことはないから断定は出来ないけど、どうやらそのイクス達三人が君から分離したことで、
 同時に君に取り憑いていたリミテッドが剥離したようだね」
「はぁ・・」
「その証拠にここ数日のエネルギー環境も落ち着いている。完全とは云えないかもしれないけど、元には戻ったってことかな」
「・・リミテッドによるパワーアップ効果も同時に消え失せたがな」
 ボソリ。ウィドは横から口を挟んだ。
 勿論セイア自身の安定性が何より大事であり、あんな風にセイアが暴走することがなくなったことを喜ぶべきであることはウィドにも充分判っていた。
寧ろたった一人の友達であるセイアの命に別状がなくて、大いにホッとしている方だ。
 けれど、問題はそれとは別のところにある。
「うーん、そうだね。確かに記録に残る異常な高出力を今のセイアが発揮するとは思えない」
「つまり、僕は・・?」
 健次郎が首を傾げると、ゲイトは珍しく口もとの笑みを崩した。
ほんの少し真剣な顔で、そっとセイアの両肩を包み込み、呟く。
「つまり、リミテッドによる異常出力を失ったことで、君はイクス達に対抗しうる力をも同時に失った・・ってことだよ」
「えっ・・」
「残念だが、それは事実だ。あの時のセイアの戦闘力から予測される奴等の力は・・想像を絶すると云っていい。
 例えお前が強化アーマーを装備したところで、勝負は見えているんだ」
「なら、僕は奴等に対して何も出来ないっていうの?」
「そうは云っていない。俺とDr.は全力で奴等に対抗しうる為の対策を立てる。
 だからお前は、それが完成するまで決して奴等と闘ってはいけないんだ」
「・・奴等が攻撃を仕掛けてきたら?」
 健次郎は少し苦い顔で尋ねた。来るべき答えはなんとなく予想出来ていたけれど、尋ねずにはいられなかった。
そしてウィドの代わりにゲイトが、健次郎の予想した通りの応えを口にした。
「その時は、残念だけど逃げるしかないかな」
「そんな・・!奴等がすることを黙って見てろって云うんですか!」
「・・別にお前が勝手に闘いを挑み、犬死にするのは自由だ。だが忘れるな。
 奴等に勝てる可能性があるのは、エックスとゼロがいない今・・お前しかいないということを。
 もしお前に彼等と同じように人々を護る気があるのなら、我慢することも大切だ」
 半分はデタラメだった。ウィドは、自分の本心とは全く逆のことを云っていた。
 ウィドだって・・いや、ウィドは健次郎が死ぬのが恐かった。健次郎が敵に殺されるのは何よりも辛い、そして苦しい。
きっと健次郎がそれでも闘いを挑むと云ったなら、半狂乱になって止めるだろう。
それでも健次郎に事の重大さを、そして自らの立場を理解して貰うにはこう云う他なかった。
彼には辛いだろうと理解しつつも兄達の名を出したのはその所為だ。
「ウィド君の云うとおりだよセイア。申しわけないけど、今のボク達は君しか残っていないんだ。
 もし本当に奴等に勝ちたいと願うなら、君がするべきことは判っているね?」
「ウィド・・Dr.・・・。・・判りました」
 しゅんと項垂れて、健次郎は小さな声で了解の意を呟く。
 そんな彼の様子にゲイトはほんの少しの慈愛を含んだ笑みを浮かべつつ、そっとその薄い蒼の髪を撫でる。
ここ数日ロクな手入れも出来ないでいるのだろう。元々細くしなやかな髪は、随分とバリバリになってしまっていた。
 髪の手入れも出来ない程に張り詰めていたのだ。そう思うと、ゲイトはつい一年前程前まで元気だった蒼の青年の姿を思い出さずにはいられなかった。
「さぁ。君は少し疲れているんだ。沢山のことが一気に起こったからね。
 こっちはウィド君と一緒に作業を続ける。セイアは部屋に戻った休みなさい」
「で、でも・・」
「心配するな。対策も解析もすぐに終わらせる。奴等と闘えるようになってもお前がそんなんじゃあ、結果なんて期待出来ないぞ」
「そうそう。ハンターとして、時には休むことも大切なんだからね」
 二人にやんわりと肩を押され、健次郎は諦めたように肩を竦めると、小さくコクンと頷いた。
「判った。僕は一足先に部屋に戻るよ、ウィド。そっちの方・・お願い出来るかな」
「任せとけ。戦闘で殆ど役に立たない分、しっかりお前のサポートをしてやるさ」
「うん。ありがとう」
 一つニコッと笑って、健次郎は服の中に隠していたエックス・サーベルとZセイバーを机の上に置くと、会釈と共に研究室を去っていった。
 二本の柄をそっと手にしたウィドは、健次郎の背中がドアに覆い尽くされたのを見届けてから、くるりとゲイトの方へと振り返った。
ゲイトはふとウィドの手の中の二本の柄を手にとると、それらをマジマジと見詰めた。少し懐かしそうな視線だった。
「ふうん。これはゼロのセイバーだね。何故これをセイアが?」
「・・そ、それは」
 いつも淡々としているウィドが口籠もったのを、ゲイトは見逃さなかった。
けれど敢えて詮索する気はないらしく、ゲイトは余った手をウィドの頭の上に置いた。
「まぁそれは聞かないでおくよ。誰にでもプライバシーというのは存在するからね」
「あ、あぁ」
 ウィドはゲイトに何か苦手意識を持っていたが、ようやく今その正体が判ったように思う。
ゲイトはよく相手の心を見透かしたような態度を取る。そしてそれを見透かしながらも敢えて何も知らないような物言いで応える。
他人に対してどちらかというと閉鎖的なウィドにとって、ゲイトのそういった性格は少し刺激というか、新鮮味が強すぎたのかもしれなかった。
「しかし、随分とボロボロになったものだよ。ついこの前新品同様にして上げたというのに」
 見事なBy The Way。素知らぬ顔でゲイトが手の中で弄ぶのは、セイアの愛剣であるエックス・サーベルだった。
 無数のラーニング技を放ち、沢山の新必殺技の出力変化に耐えてきた光剣の柄は、
今まで彼が潜り抜けてきた闘いがどれ程凄まじいかを一目で物語っている。
 これには流石のウィドですら気が付かなかった。今までの沢山の信じ難い事象の中でセイアのサーベルの状態を確認出来るほどの余裕はなかったのだ。
「セイアには辛い闘いを強いることになるね・・」
「・・セイア自身が闘うと云っているんだ。俺達がどうこう云う筋合いはない筈だ」
「ふふ、全く。何を強がっているんだい?」
「つ、強がってるだと?」
「そう」
 モニタの前の椅子に腰掛けたゲイトは、丁度ウィドに背を向ける構図になる。
ウィドは振り返らなかった。ただ何も無い廊下へと続くドアを見詰めながら、同じく振り返らないゲイトの声を聞いていた。
相変わらず何かを見透かしたようなゲイトの声は、やはりウィドの心の奥をつんっと刺激した。
「誰よりセイアを心配しているのはウィド君・・君じゃあないか。そんな物言いをしたところで、このボクの目はごまかせないよ」
「べ、別に俺は・・」
「ふふ。まぁ君がそう云うのならかまわないけどね。ただ、セイアは君にとって初めての友人だ。そうだろう?」
 一体このナルシストの科学者はどこまで知っているというのだ。
心の中で驚嘆と溜息を同時に放ちつつ、ウィドは面食らう他無かった。
 対してゲイトは楽しそうにキーボードを叩きながら、片手でちょいちょいと自分の横の椅子を指さした。
隣に座れ、と云っているらしい。
「・・さて、無駄話もここまでだ。あのリミテッド達に対抗しうる対策を、君は練っているんだろう?それを聞かせてくれないかな」
「やれやれ・・」
 ボリボリと後頭部を掻きながら、ウィドは渋々ゲイトの隣の席につく。
 服の内ポケットに厳重に保管しておいたデータディスクを手近のスロットルに差し込み、その内容をモニタへと出力させる。
映し出されたプログラムの羅列に、流石のナイトメア・ウィルス開発者も、驚いたように目を見開いていた。
そんなゲイトの顔を見て、ウィドは少しふふんと踏ん反り返った。ようやく一つ勝ったような気がした。
「・・素晴らしいね。確かにこれなら、リミテッドにも対抗出来るかもしれない」
「あぁ。だが、このデータ配列を実現するのはかなりシビアだ。そこで、アンタの力を貸してもらいたい」
「OK。勿論協力させて貰うよ。ただ、かなり高度な作業になるけど、大丈夫かい?」
 そう尋ねるゲイトの顔に、ウィドがNOと応えるという憶測は全くなかった。
それはウィドにも判っていることであるから、ウィドはわざと声に出さずに小さく頷いてみせた。
 そしてどちらかともなく二人はキーボードをたたき始める。その二人の顔に、今までの冗談混じりの会話の気配は全くない。
天才を越える天才と呼ばれたDr.ゲイトと、若き天才科学者ウィド・ラグナーク。そんな二人の夢の共同作品が、そう遠くない未来で生まれるのだ。
「・・ところでDr.」
「うん、なんだい?」
 依然としてキーボードを叩きつつ、ウィドはふとゲイトを呼んだ。そして尋ねた。
「アンタは・・俺のことを知っているのか?」
「さぁ、何のことかな。ボクが知っている君は、謎の天才少年科学者だよ」
「・・」
「そしてボクは、Dr.バーンの幼馴染み。それだけさ」
「・・・!」
 やれやれ本当に食えないやつだ。
一人で作業している時とは較べものにならない程スムーズに進む指を認めつつも、ウィドは隣で一人楽しそうな科学者に溜息をつく他無かった。


 ロックマン・エックス。そしてゼロは現代の最先端技術をもってしても正体不明のレプリロイドだ。
いや、正確には違う。何故なら『レプリロイド』と称される種族は全てロックマン・エックスを素体として生まれているからだ。
 つまりはセイア、ゲイト、そしてあのシグマですら実質的にはロックマン・エックスのコピーに過ぎない。
今のこの世界に存在している者の中で、エックスを始祖としないレプリロイドは一体しかいない。そう、ゼロだ。
 かつて紅いイレギュラーとして出現したゼロも、レプリロイドの始祖となるに充分値する脅威的な構造を持つ。
 果たしてエックスとゼロ、彼等の本来の制作者は誰で、そしてどういった目的で生み出されたのか。
Dr.ケイン、エックス亡き今、それを知るのは彼等の弟であるロックマン・セイヴァーしか残っていない。
 余談だが、一年前の宿命の決着の際にセイアが目の当たりにしたであろう歴史の裏側は、
数々の評論家や科学者から好奇心溢れる視線で見られていたが、セイアが頑なにそれを喋らなかったため、結局は謎のままになったという。

 通称『Fusion Cross』。ウィドが捻り出した計画の名前だ。
それは即ちロックマン・セイヴァーがイクセ等ハイパー・リミテッドの脅威に対抗しうる為の強化案。
平たく云えば新たな強化アーマーについての設計図だ。
 生みの親のゲイト、そしてウィド自身も大いに認めるセイアの可能性。
当初ゲイトが生み出したときに推定された予想最大出力を遙かに上回る功績を持つ彼は、いまやエックス、ゼロを越えた最強のレプリロイドだ。
だが、それでも所詮は現代の科学者が生み出したエックスとゼロの模造品。初期戦闘力はまだまだエックス達へは及ばない。
なにせブラックボックスだらけだった彼等だ。そんな彼等の限界最大戦闘力を知る者はこの世界に誰一人とていない。
エックスは一年前に没し、ゼロは生還しつつも行方不明になっているのだから。
 この『Fusion Cross』内においての主旨。それはズバリ、セイアに対してエックスとゼロの実質的な融合――FUSIONだ。
 エックスとゼロが残していった数々の戦闘データを元に、セイアの潜在能力を最大発揮しつつ、その出力に大いに耐えうるアーマーを創り出す。
イクセ等リミテッド達が強化されたセイアの潜在能力の一部だというのなら、セイアにはそれ以上に潜在能力を発揮して貰わなければならないのだ。
 勿論そんな無茶な要望に応えうるアーマーを創り出すのは至難の業だ。
一介の科学者ならば、そのコンセプト自体を絶望視し、とっくに破棄しているだろう。
 けれどゲイト、ウィド。何よりセイアには後がない。
絶望だの不可能だのと四の五の云う暇があるのなら、それを成し遂げる為の道筋を作った方が余程早い。
 それ程にイクセ等ハイパー・リミテッドの力は脅威的なのだ。ウィドとゲイトがさっきセイアに云ったばかりの台詞だが、
リミテッドの剥離した今のセイアが彼等三人に闘いを挑み、勝てる確立は万に一つもない。
例えセイアにエックス・ラーニングシステムが装備されていようとも、セイアを知り尽くしているだろう彼等にはそよ風程の障害に過ぎないと云える。
 だからこそウィドとゲイトはハイパー・リミテッドというかつてない強敵に対抗しうる鎧を創り出そうと決意したのだ。
イレギュラー・ハンターとして、被害がこれ以上拡がる前に奴等を倒す為に。そして何より、ゲイトは大切な息子を、ウィドはたった一人の親友の命を護る為に。


「・・しかし君も無謀な男だね」
 かなりの間キーボードの叩く音しか聞こえなかった部屋の中で、そんな言葉を口にしたのはゲイトだった。
ブラインドタッチなんて基本中の基本とでも言いたげな見事なタイピングの腕を見せびらかせながらにそう云ったゲイトに、
ウィドも負けないくらい達者なタイピングを披露しつつ、一言云った。
「・・しかしこうでもしない限り、奴等を倒すことは出来ない」
「うんうん。最もな意見だと思うよ。事実セイアも君もそんな顔をしているからね」
 プログラムの開発度は、元々ウィドが開発を進めていた五分の一程度に加え、もう五分の一程度まで進んでいる。
流石は天才科学者ゲイトだと思い知らされる速度だ。端から見ればのらりくらりとイライラする程の遅さの進行だが、
これ程膨大なデータ量を的確に処理・構築していく様は、その手の方面を噛ったことのある者ならば、思わず舌を巻かずにはいられないだろう。
「こんな無茶なアーマーを考え出すのは君くらいなものだよ。ボクだったきっともっとマシなコンセプトでいくと思うからね」
「ならアンタならどういった強化を考え出す・・?」
「うーん、そうだね。ナイトメア・ウィルスで相手を混乱させて、その間に攻撃するっていう案はどうだい?」
「・・・本気で云っているのか?」
「勿論冗談だよ。つまり何が云いたいかというと、それくらい馬鹿げた思考でなければ、奴等に我々の力だけで対抗しようとは思わないってことさ」
 エックスとゼロがいてくれたら――そう思ってしまうのは不謹慎だろうか。
それでもそう思わずにはいられなかった。彼等はいつだってなんとかしてくれた。どんな脅威をも打ち倒してきた。どんな強敵をもやぶってきた。
「ボクはね、ウィド君。口惜しいんだよ」
「うん?」
「どうしても思ってしまうのさ。何故ボクの息子ばかりこんな目に・・とね」
「・・・」
 四年前のナイトメア事件よりも更に少し前、ゲイトの創り出した八人の息子達は処分された。
決して彼等がイレギュラー化したわけではない。彼等は全くの無罪だった・・といっても過言ではなかっただろう。
 その当時ゲイトは学会では異質な存在だった。同僚であるエイリア――勿論現在ハンターでオペレータを務めている彼女だ――が語るに、ゲイトは天才過ぎた。
上部からの課題をまもらず、自らが高みを目指すままに次々と高性能レプリロイドを創り上げていく彼。
学会はそんな彼と彼が生み出したレプリロイドの力に恐怖し、嫉妬した。
かつて世界を混乱に陥れたナイトメア事件は、そんな学会の愚かな一面が作り出したのかもしれなかった。
 事故に見せかけたとはいえ、彼の息子達を破壊したのは彼を取り巻く世界だった。
一度目は学会の秘密裏の陰謀によって。そして二度目はセイアの兄でもあるエックスの手によって。
それでも決定的に違うのは、彼等の二度目の死は彼等自身が望んで闘ったという点だろう。
ゲイトにとって、息子達を二度失ったことに変わりはなかったのだが。
「だから少し恐いのさ。今度はセイアが自分の意思を貫き、散っていくのではないかってね。
 そしてボクは・・散っていく息子の背を押す執行人なんじゃないかとね」
 ゲイトがレプリロイドだからだとかそういうことは全くもって意味をなさない陳腐なことだった。
ゲイトはレプリロイドの科学者だけれど、確かに人の親なのだから。
 ヤンマークも、シェルダンも、ヒートニックスも、ヴォルファングも、ミジニオンも、タートロイドも、スカラビッチも、プレイヤーも――そしてセイアも。
みんなゲイトの大切な息子達だから。
「・・ふっ、セイアが一度でもアンタに呪いの言葉を吐いたことがあったか?」
「ウィド君・・」
「アンタが自分の息子達の死を哀しむのは勝手だ。だがアンタは彼等にそれを強要したか?違うだろう。
 彼等は彼等なりにアンタについていこうとした。そしてセイアも、自分の意思でリミテッドと闘う決意をしたんだ」
 セイアの瞳に曇はなかった。彼は云ったのだから。キッパリと。リミテッド達と闘う、と。
付き合いが浅いウィドにでも判る。セイアは自分の痛みを他の誰かの所為にするような愚か者ではない。
「彼等が死んだのを自分の所為にするなんて、これほどの侮辱はない。そうだろう、Dr.?」
「・・そうだね」
 そう自嘲気味に笑ったゲイトは、次第にプッと吹き出すと、はははと少し軽い笑いを立てた。
 これには流石に手を止めたウィドは、少し不機嫌そうな顔でゲイトを見やった。
全く人が真面目に話を聞いてやっているというのに、なんだコイツは・・と、そんな視線で。
「あははは。いやいやごめん。別に君のことを笑っているわけじゃあないんだよ」
「なら、なんだというんだ」
「他人にこんなことを話したのは初めてだけど、まさか君がそんな風に云ってくれるとは思わなくてね」
 ポンッと頭に手を置かれ、ウィドはなんだかむず痒い気持ちで席を立った。
ゲイトに「なにを云って」と抗議しようと思ったのだ。けれどウィドの行動は突然ゲイトが突き出してきた掌によって阻止された。
「ウィド君!」
「な、なんだ突然!」
「どうやらボク達の仕事がまた一つ増えたようだよ」
 そう云ってゲイトはPCに差し込んでいたメモリを素早く引き抜いた。恐らくデータのバックアップを隔離する為だろう。
科学者として最終手段とも思える強制隔離の様を見て、ウィドも慌てて手近のモニタを覗き込む。
そこに表示されるエラーメッセージを目にして、ウィドは「ちぃっ」と小さく舌打ちをした。
「こんなときにお客さんみたいだね」
「やれやれ、厄介な時に・・!」
 メッセージの内容はアラートだ。大抵こういった類のエラーは外側からの侵入者、或いはウィルスが流された際に作動する。
しかし大抵はハンターの誇るワクチンによって自動的に除去される筈なので、こんな風にアラートを響かせる事態というのはかなりの緊急事態だといえよう。
それもレッドアラートだ。作業を少しでも早く進めなければならない現状だというのに。ウィドが思わず毒づいてしまう気持ちもなんとなくゲイトには判った。
「ワクチンプログラムを受け付けない、か。随分手の込んだ侵入者だな」
「呑気なことを・・」
「マズイ。どうやら敵さんはマザーコンピューターの最下層までアクセスしてしまっているらしい」
 カチャカチャとキーボードを弄くっていたゲイトは、慌ててその手を離した。
既にベース内の全てのコンピュータは操作を受け付けないだろう。
下手をすればキーボードを通してレプリロイドであるゲイトにもウィルスが侵食する危険性がある。
 そのことはウィド、ゲイト両名が判りきっていたことだ。
例え人間であるウィドが操作を変わったところで結果は変わらない。
「ちっ。これではハンターの遠隔操作型メカニロイドは・・!」
「全体イレギュラー化。ベース内は壮絶な室内戦・・と云ったところかな」
「こんなウィルス如き・・!」
 憎々しげに叫ぶウィドの意識とは裏腹に、ドンっと乱暴な音が響き、研究室のドアが派手に吹っ飛んだ。
廊下と較べて若干暗い室内からは逆光で上手く見ることは敵わなかったが、乱暴な来訪者のアイカメラの輝きだけはいやにハッキリと見える。
 ウィドはハッとしたように腰のレーザー銃を手にとり、ゲイトはふぅという溜息と共に肩を竦めた。余り焦っている様子はなさそうだった。
うーんと何かを考え込むような仕草でメカニロイド達を見詰めるゲイト。元々科学者型として開発されている彼に武装などある筈がない。
ウィドはじわじわと研究室内に入り込みつつあるメカニロイド達にレーザーの照準を合わせつつ、未だに焦る素振りすら見せないゲイトを怒鳴りちらした。
「ふうむ、成る程。もしかしたらこれもリミテッドの仕業かもしれないな。
 ボク達・・そしてセイアのいるハンターベースを直接襲撃する。それもセイアが休息している隙をついて。
 かなり大胆な作戦だけど、意外と効果があるものだね」
「呑気に解説をしてないでアンタも構えろ!来るぞ!」
「まぁまぁそんなに力む必要はないよ。それよりボク達はマザーコンピュータに侵入したウィルスを除去することを考えないと」
「この状況が見えないの・・・か・・?」
 怒鳴り声を上げようとしたウィドは、別の角度から飛び込んでくる第三者の叫び声に、その怒声を掻き消された。
「おぉぉぉぉっ!!」
 その声が聞こえたのは、メカニロイド達の向こう側。つまり廊下の方からだ。
 ふふんと余裕なゲイトと、突然の第三者の乱入を尻目に、研究室いっぱいを占拠しつつあったメカニロイド達の機体は次々と宙へ浮かぶと、
スッスッと廊下の方へと消えていく。
 どんどん彼等の個体数は減り、遂には廊下が見えた。ウィドが素早く廊下へ駆け出し、メカニロイド達が消えていった方向を覗くと、
そこには暗黒の球体が浮遊していた。天井すれすれに存在するそれに、次々とメカニロイド達が呑まれ、消えていくのだ。
「これは・・!」
 新たな敵かと思いきや、その球体は全てのメカニロイドを呑み込み終えると、ふっとその命を散らした。
あとには球体のコアだっただろうメカボールが残っていただけで、そのボール自体もそれを放っただろう人物の方へと還っていった。
「ウィド、大丈夫!?」
「セイアか!」
 パシッとボールを掌で受け止めたのはセイアだった。紅のアーマーに身を包み、戦闘形態と姿を変えた健次郎。
 そこでウィドはようやく理解した。先程次々とメカニロイド達を呑み込んでいった暗黒の球体の正体を。
 バグ・ホールだ。かつてのドップラーの反乱での闘いの際、エックスがグラビティ・ビートブートから入手した特殊武器。
人工的なブラックホールを短時間作り出し、標的を呑み込み、消滅させることの出来る汎用性の高い武器だ。
その規模はほぼ完全に自由とさえ云われていて、最小は微生物レベル、最大は地球サイズをも作り出す。
 セイアの放つバグ・ホールは改良が加えられていて、設定した対象のみを標的とし、消滅させることの出来る機能が追加されている。
これによってセイアは大量のメカニロイド達を薙ぎ倒しつつ、研究室まで辿り着いたのだろう。
「補助メカニロイドがイレギュラー化している・・。ウィド、これは一体?」
「どうやらマザーコンピュータをやられたらしくてね」
 ウィドが質問に応えるより先にセイアの疑問に答えを手渡したのは、研究室からひょこっと顔を出したゲイトだった。
「マザーコンピュータを!?」
「かなり強力なウィルスを流されたらしいんだ。最善を尽してみたけど、ここでの操作やワクチンは全く通用しなかったよ」
「ならマザールームに直接ワクチンを入力しに・・」
「無理だね」
 ウィドの意見はすっぱりと否定された。ゲイトがここまで単刀直入に物事を否定することは珍しい。
それ程までの事態なのだろうということは、容易に想像出来ることだった。
「確かにマザールームに行ってワクチンを入力すれば理論的には平気だろう。
 けどボクがマザーにウィルスを流すとしたら、まずはマザールーム自体を完全にシャットアウト。更にあらゆる入口に防御策を張り巡らせるけどね。
 君は違うのかい?」
「・・確かに、ご最もだ。だが、他に手は・・」
 云いかけて、ウィドは沈黙した。ワクチンという科目において自分と遜色ないゲイトがこうまで云うのだ。
ウィド自身がどうこうしたところで結果は同じだろう。けれど他に手がないこともまた然り。
これにはゲイトも黙ってしまった。いつもの余裕の笑みは相変わらずだが、きっと内心では酷く焦っているのだろう。
 セイアがあらかたバグ・ホールでメカニロイド達を掃除してくれたお蔭か、メカニロイド達の追撃はなさそうだったが、このままではどちらにせよまずかった。
メカニロイド達は比較的簡単に倒すことが出来るだろうが、問題なのはデータベースの方だった。
 イレギュラー・ハンターのデータベースには、これまでのハンターの歴史や隊員一人一人のデータなどが細かく入力されている。
その中には勿論セイア・・ロックマン・セイヴァーをはじめ、エックスやゼロのデータも残っている。
セイアはいつもこのデータベースから引き出される情報をもとに、メンテナンスやアーマーの修復を行っている。
そして何より、ウィドとゲイトが今まさに誕生させようとしている新兵器も、ここのデータベースに残っているエックスとゼロのデータをフル活用しているのだ。
 今ここでデータベースを破壊されれば、もはやリミテッド達と闘う術は消滅してしまう。要約すれば最高の問題はこれだ。
「ウィド、Dr.・・」
 これはセイア自身も充分承知している事実だった。
だからかもしれないけれど、セイアは沈黙する二人の科学者に、何かを決意したような瞳を向けた。
「僕が、そのウィルスを倒しに行きます!」
「なんだと!?」
「・・・・セイア、本気で云っているのかい?」
 息子の発言に初めて表情を強張らせたゲイトは、いつもよりも数段低い声でそう問いかけた。
普段の彼を知る者ならそのギャップに驚くことだろうが、セイアはただコクンとだけ頷いた。
その仕草が、彼の発言を冗談から出たものではないことを証明してくれた。セイアは本気なのだ。
「僕がマザーコンピュータにダイヴしてウィルスを倒せばなんとかなります!」
「・・それがどれだけ危険なことだか判っているかい?」
「・・・はい」
「セイア。仮にお前がダイヴし、仮想ボディでマザーコンピュータ内に侵入するとしよう。
 だがこの状況では一度ダイヴするのが限界だし、そのウィルスを除去するまで戻ってはこれないぞ。
 そして・・」
 ウィドは敢えて言葉を切った。この続きを云うことが恐ろしかったからだ。
 確かにセイア自身のプログラムをマザーコンピュータにダイヴすれば、
セイアはあたかも現実世界での闘いかのように、マザー内でウィルスと対戦することが出来る。
 しかしそれは極めて危険な行為だ。ウィドの云うとおり、この状況下でレプリロイドをマザーコンピュータにダイヴさせること自体が自殺行為だ。
下手をすれば仮想ボディが形成される前にウィルスに攻撃され、プログラムが消滅する。
そしてそれは電脳空間内で力尽きることも同意義のことだ。ログアウトが出来ないということは、電脳空間内で瀕死になろうとも決してそこから出ることが出来ず、
仮にそこで力尽きれば、セイアは彼をセイアとして形成している全てのプログラムを失うことになる。
人間で云えばそれは、『死』、だ。
「だけどこの状況を打破しなくちゃいけないのも事実だ!」
「だが・・!」
「ウィド君、やらせて上げよう」
 尚も食い下がろうとするウィドを制する為に、ゲイトは彼の肩に手を置く。
表情こは余り崩れてはいなかったが、ウィドの瞳は歪んでいた。これも友を心配してのことだろう。
 ゲイトも同じ気持ちだったけれど、ハンター専属の研究員として、マザーコンピュータが破壊されることを見過ごすわけにはいかないのだ。
「だけどね、セイア。一つだけ条件がある。それを呑んでくれなければ、君を電脳世界に送ることは出来ない。いいね?」
「はい」
「ウィルスを撃破し、必ず生還すること。電脳世界内での消滅は許さない」
「判りました。必ず生きて帰ります」