ロックマンXセイヴァーⅡ 第参章~交差する力~中編

 サイバー・スペース。一般的に電脳空間のことを指す言葉だ。
この空間はプログラム配列を持つ電子機器全てに存在している。
家庭用の電子レンジから、ハンターベースのマザーコンピュータまでありとあらゆるものに。
 その実体は文字どおりプログラム配列だ。サイバー・スペースとは、それを擬似的に現実世界のものに見立てた際の言葉であり、
基本的にコンピュータにレプリロイドやメカニロイドがダイヴ――メインプログラムをインストール――した時にだけ使用される。
 プログラム内にダイヴしたレプリロイドは、そこで作用するソフトウェアの力により、
サイバー・スペース内をあたかも現実世界かのように運動することが出来る。
無論それは視覚的・感覚的なものであるから、ダイヴしている本人以外にそれを知覚することは出来ないのだが。
 プログラムに直接ダイヴしたレプリロイドは、その場で万能プログラムと化す。
内部のプログラムに攻撃行為を行えばそれを破壊することが出来るし、逆に修理を行うも出来る。
そう・・つまりロックマン・セイヴァーは自らがワクチンとなってウィルスを消去しに向かうのだ。
スペース内に蔓延っているウィルスプログラムを直接攻撃し、消滅させることが出来れば、その時点でマザーコンピュータにアクセスすることが可能となる。
 が、そんなダイヴ行為にも、代償としてあらゆる危険が付き纏う。
ダイヴを決行中のレプリロイドは完全無防備だ。ボディやプロテクトといった防御機能が全て外された、いわば丸裸であり、
最もデリケートな部分を露出した状態となる。
 しかもプログラム内にインストールするのがメインプログラムである以上、それは実戦よりも遙かに危険なことが明白である。
もし仮にダイヴしたレプリロイドがサイバー・スペース内で撃破されるようなことがあれば、その崩壊は一気にメインプログラムを侵食し、破壊され、
繋ぎ止める間もなくその人格を消去するだろう。
それはつまり人間でいう『死』、だ。ボディが無傷であるから、その死は更に質が悪い。
 だがしかし、サイバー・スペース内で死亡したレプリロイドを復活させる手段は確かに存在する。
ボディや頭部が破壊されていない以上、法律上でもそれは『死』とは認識されず、単に行動不能に陥ったと判断されるからだ。
 レプリロイドの再生を行う方法は実に単純明確。それは、全く同じプログラムを組み直し、そこに残された記憶メモリを植え付ける。
たったそれだけだ。たったそれだけで、あたかも生前の人格を再生したかのようにそのレプリロイドは復活する。
だが、それは――



「だがそれは・・本物のセイアじゃない。同じ記憶を持った『別人』だ」
 セイアのメインプログラムがマザーコンピュータにインストールされ始めた。
ウィドは、ふとゲイトが呟いたレプリロイドの再生方法に対して、そう漏らす。
幸いなのか否なのか。セイアは既に目を瞑っており、彼等の会話は聞こえていないようだった。
「・・そうだね。そうかもしれない」
 マザーへのセイアのインストールは、ウィドのモバイルを使用して決行された。
当然だと云えば当然の結果だろう。マザーに直接近づくことが出来ない以上、外部からアクセスするしか手はない。
だがベース内の全てのコンピュータはマザーに直結している為、その全てがウィルスに侵されている。
 ただ一つ生き残ったのは、完全隔離状態であったウィドのモバイルだけだ。
だが、それを使用してセイアのインストールを行うことが出来るのもたった一度だけだ。
マザーにアクセスした時点でウィルスが逆流し、瞬く間にプログラム内に侵入していくだろう。
まさに片道切符。セイアが現実世界に戻る為には、マザー内のウィルスを撃破するしか手立てはないという、残酷な一本道。
「セイアのオペレートを行える限界時間は?」
「ウィルスの侵入が思ったよりも素早い。保って三十分といったところかな・・。こちらからのデータ転送も一回が限界だ」
 セイアのインストール状況を映し出すバーは、既にその半分以上が完了を意味している。
あと一分もしないうちにセイアはサイバー・スペース内に降り立つだろう。だが問題はそれからだ。
 誤作動するウィルス・バスターやファイア・ウォール。迷路のような進路を潜り抜け、セイアを最深部へと導かなければならない。
ウィドが云ったように、その限界時間はたった三十分。セイアがダメージを受けた際に転送出来るリペアプログラムも一回が限界。
もしこれがマザーの暴走という最悪の事態でなければ、他のハンターは絶対に行わない絶望的な作戦だ。
 それでもやらなければならないのだ――セイアも、ウィドも、ゲイトも、同じことを考えていた。
「インストール完了・・。よし、セイア。聞こえるか?」



「ここが・・マザーコンピュータ・・」
 知識としては持ってはいたものの、セイアがサイバー・スペース内に降り立ったのは生まれてこの方これが始めての経験だった。
 辺りはまるで星空のように煌めいている。あちこちに拡がる意味不明の二進数や、破壊されたクズデータの数々。
確かに身体は現実のものと相違無く動かすことが出来るけれど、ここが現実だとはどうにも信じられそうにはなかった。
『セイア、聞こえるか?』
 ヘルメットのイヤー部分の通信機――実際は違うが、違和感をなくす為にそう設定されている――から、少し不安げな声が聞こえてくる。
知識ある者独自の不安だろう。辺りから接近する敵影がないことを充分確認してから、セイアは素早く答えた。
「こっちは大丈夫。それよりも、思ったよりデータの崩壊が激しいみたいだ」
『そうか・・。どっちにせよこっちのオペレート時間も限られているんだ。素早く進んでくれ』
「判った!」
 そしてセイアは仮想ボディのメットバイザーを下ろした。インストールの際にウィドかゲイトがデータを入力しておいてくれたらしい。
マザーコンピュータのサイバー・スペース空間の見取り図が記されている。
 現在セイアが立っているのは第一階層。ウィルスが潜んでいると考えられるエリアは第六階層だ。
それまでには幾つものファイア・ウォールやウィルス・バスターが潜んでいる。下手をすれば第六階層に辿り着く前に撃破されてしまいそうだが、
仲間内のウィルス・バスターに撃破されることよりもみっともないことは無い。一気に潜り抜ける他なさそうだ。
『第二階層へと続く道はマップに入力されている筈だ。ウィルス・バスターが作動したらこちらで報告する』
「・・了解。
 第十七精鋭部隊副隊長・ロックマン・セイヴァー。これより任務を開始する。
 任務内容はマザーコンピュータ内のウィルスの削除。ならびにそれの奪還である」
 他の十七部隊員達はベース内のメカニロイド掃討にかからせているので、
事実上ここに存在する十七部隊隊員はセイアのみだ。
けれどセイアはわざと声に出して報告する。この号令はエックスがいなくなったあとから、一度も欠かすことなくしているものだ。
 かつて部隊長であったエックスがそうであったように、セイアもその姿を追い掛けているのかもしれない――
『二時の方向にウィルス・バスター。数は二だ』
「了解・・!」
 セイアが走り出したのに合わせるかのように、ウィドの指令がイヤー部分で響く。
セイアは指示通りに二時方向にバスターを放つ。が、流石はマザーのウィルス・バスターというべきか、
セイアの光弾を軽く回避した二体のウィルス・バスターは、現実世界では不可能な動きで、セイアとの間合をグッと詰めた。
「電脳内では自由自在ってことか・・!けど!」
 なんとも形容しづらい形の二体のウィルス・バスターを前に、セイアはバックパックに搭載されている二本の柄のうち、左側のものを抜いた。
エックス・サーベルだ。瞬時に刃を具現化したサーベルで、セイアは飛び上がり様に電刃を放った!
現実世界とはほんの少し違う、グラフィックの電撃をまき散らす刃が、右側の敵機を破壊する。
運良く躱した左側だったが、セイアが着地するよりも前に放ったホーミング・トーピードによって、一秒後に粉々に爆散した。
 ほぼ同時に足元に落下した二体分の破片は、地面に激突すると共にクズデータとなって崩れ落ちた。
成る程プログラム内では不必要なデータは即座に削除されるのかと納得しつつも、自分が撃破された時は同じ運命を辿ると思うと、
ほんの少し背筋が凍りついた。
『上手く撃破したな、だが第二階層前のゲートにファイア・ウォールがある』
「ファイア・ウォール・・。突破法は?」
『本来なら解除コードを検索し、入力するところだが・・生憎そんな時間はない。正面から突破しろ』
「乱暴な手段になるね・・」
『安心していいよ、セイア。幾ら壊したところで、操作が可能になれば幾らでもリカバリーが可能だろうからね』
 通信に割り込んできたゲイトの声は嫌に楽観的だ。
 が、それも悪くない。セイアは苦笑混じりの笑みを口もとに浮かべると、そろそろ見えてきた最初のファイア・ウォールを確認した。
 流石はファイア・ウォールと名を冠するだけのことはある。セイアは冗談混じりにそう思った。
その外見は文字どおり炎の壁だったからだ。絶えることを知らない、空虚な空間から生み出される灼熱の炎。
確かにあれに無条件で触れれば、大抵のウィルスは地獄の業火に焼き尽くされることだろう。
 だがセイアは違う。ファイア・ウォールの真正面で立ち止まると、肩幅に足を開き、両掌を腰の辺りで繋げ、構える。
手首の辺りで繋げられた両掌の間に、蒼と紅のエネルギーが除々に収束されていく。
 それは、セイアがついこの前の学校内での闘いの時に新たなに手に入れたスキルだ。
両掌に集中させた高出力圧縮エネルギーを、線ではなく弾として撃ち出す一撃必殺。
その名は――
「波動拳!」
 両手を回転させつつセイアがそれを前方に突き出すと、巨大なエネルギー弾が撃ち出された。
綺麗に蒼と紅の染められた炎に似たその弾は、燃え盛る炎の壁に直撃するやいなや、それをガラスが砕け散るかのように破壊せしめた。
 見た目とは裏腹にパキンと高音を立てて砕けるファイア・ウォールを尻目に、セイアは走る!
現在位置は第一階層。目指すは第六階層。道のりは・・長い。
「波動拳、使えるなこれ」
『云っておくが今のお前より強い奴はそうそう見つからないぞ』


――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 感覚が、薄い。視界は既に真っ黒に塗りつぶされ、指先すらピクリとも動かない。
さっきまでの不快感もない。除々に身体が舞うような浮遊感を憶えつつも、それとは裏腹に酷く身体が怠い。
 必死に振り回したつもりの四肢は空を掻く。いや、四肢を動かしているような感覚すらそこにはなかった。
声を出そうとしても何も起こらない。まるで、虚空に自らの精神だけが置き去りにされたように。
 あやふやになりつつある自らの記憶の中から、なんとか重大な部分を掘り起こす。
それでもハッキリとはそれが理解出来なくて、彼はもしかしたら自分が死んでしまったのではないかという仮説だけに行き着いた。
 死とは無限の虚空。果てない孤独。それについて考えるようになったのは兄が死んでからだ。
自分が死んだとき、一体自分はどうなってしまうのだろうか。人間でもレプリロイドでも、一度はそう考えたことがあるだろう。
 ある者は云う。死は絶対の結末だ。死の後には何も残らない、と。
しかしある者は云う。死とは一つの結末であり、一つの始点だと。
だが彼はそのどちらの考えにも同調はしなかった。
 死とは無限の虚空。果てない孤独。何も無い真っ暗な空間に、完全に機能しない意識だけが放り出される。そんな、闇の世界。
そこでは身体という感覚も、自分という個体も、他人という存在もなにもありはしない。
あるのはただの真っ暗な空間のみ。そして、それを嘆くことすら許されない空虚な自分。たった、それだけ――
「・・・・・――・・」
 声は出ない――当たり前だ――そんなことを考える自分の意識もそろそろぼやけ始めるだろう。
なにせ自分は死に直面しているのだから。その内自分は完全に消滅することも、復活することも許されぬまま闇に同化する。
そう、このまま。
 薄ぼんやりとした意識の中で、彼がそんな幻想を許容しようとしているとき、彼とは違う別の声が囁いた。
『ヤァ、セイア』
「・・・・――?」
 突然目の前に光球が現れた。ダークグリーンの光球だった。
どうやらその声はそこから発せられているらしく、その声に合わせて光球は点滅する。
 光球はふよふよと浮遊し、くるくると自らの周りを回り始めた。彼にはそれが、踊っているかのように軽やかに見えた。
『コンナ真ッ暗ナ場所デ・・君ハ消滅シテシマウノカイ?』
「――・・――・・・」
 何かを呟いたつもりだったが、声にはならない。
 それが可笑しいのか、光球は更にはしゃいだように点滅し、弾んだ声で彼を誘う。
『勿体ナイナ。君ハマダマダ生キテユケルトイウノニ』
「・・・く・・は」
 声が出た。少なくとも、自分の声として知覚出来る音の波が。
 まるで光球が彼の周りを回れば回る程、彼の機能が戻っていくかのように。
 必死に声を絞りだそうと喘ぐ。が、それでもまだ充分に声は出ない。
けれど意識は急速に鮮明になりつつあった。少しずつ少しずつ、『自分』という感覚が戻っていく。
『君ダッテマダ死ニタクハナイデショウ?』
「・・僕・・は・・っ」
『フフ。ダカラネ、ボクガ君ヲ助ケテアゲルヨ』
「僕を・・助け・・?」
『ソウ。ソウスレバ君ハ、生キルコトガ出来ルヨ。今ヨリモモットモット強クナッテネ』
「・・くっ・・ぅ」
 あやふやの意識を、鮮明になりつつ意識が引っ叩いた気がした。
 まるで暗闇の中で突然照明をつけられたかのように、意識の電気炉に電気が走る。
拳を握れと身体に命令する。見えはしないけれど、確かに拳という感覚がそれに応えた。身体が重力を感じ始め、半開きの瞳が開かれる。
「・・違・・う!」
 違う。これは『死』なんかじゃない。この感覚は以前にも味わったことがあるのだ。
それがいつだったは思い出せない。きっと今思い出す必要もない。
けれど彼、セイアには判った。これは死でもなんでもない。これは――幻想だ!
「これ・・が・・!」
 今まで身体を支配していた気怠さを強引に振りほどくように、セイアは全身に力を込めた。
ブチンと何かが弾けた音がして、身体の自由が投げ返される。
今まで楽しそうに踊っていたダークグリーンの光球は、それが不満なのか、ピタリとその動きを止めた。
「・・っ!これがお前の手か!」
 そして完全に自らの者となった全身で、セイアは光球にバスターを向けた。
「人の心の隙に付け入って、再びボクを取り込む・・・。確かに有効的な手段かもしれない。
 けど、その根性は相変わらずだなっ!」
 そして自らの心を惑わそうとした自らの影の名を叫ぶ!
「イクセっ!!」
『・・ふ、あはははは。腐っても鯛だね、セイア?
 同じ手を二度も使うなんて、君を舐めてたよ。これは失礼』
 光球は人型へと変わった。見たくもない、ダークグリーンと変色したセイアの姿に。
 セイアはギリッと歯軋りをしつつもチャージしたバスターを放つ。自らの闇を、そしてこの空間を斬り裂く為に!
「ボクの心はボクのものだ。お前には決して渡さない!」
『ふふふ。楽しみにしているよセイア。君と闘えるときのことをね』
 そして蒼と紅のエネルギーは、文字どおり辺りの闇を斬り裂いていった。



「おぉぉおぉぉおぉぉっ!!」
 所狭しと仮想ボディに貼り付いた金色の光球が、セイアの叫びと共に次々と砕け散った。
セイアはデタラメに全身を動かしながら、自らを侵す光球達を払っていくと、
さっきまで全く手応えがなかったそれらは、セイアの振り回す手足に砕かれ、クズデータとなってデリートされていく。
「お前等・・ぁっ!」
 懲りずに殺到してくる光球を一瞥しつつも、セイアは身を翻した。
バッと全身で前方に何かを撃ち出すような仕草をとるセイアから、彼の輪郭を模した光の人型が前方へと駆け抜けた。
それをターゲットだと誤認した球体はそれに吊られ、激突していくものの、光の人型に触れた途端、それらは砕け散った。
 所狭しと駆け巡る光の人型が放たれて僅か十数秒後、辺りの金の球体は数える程になってしまっていた。
「イクセめ・・。厄介なものを」
 それはエックスがレプリフォース大戦内でスプリット・マシュラームより入手したソウル・ボディだった。
高圧縮エネルギーによって自らの分身を作り出し、相手にぶつける。その用途は撹乱から奇襲まで様々だ。
そしてなによりの特徴は、そのエネルギー密度。ソウル・ボディを形成するエネルギーの密度は、バスターやサーベルの比ではない。
 そう金色の光球の正体は――マザーを脅かすウィルスそのものだ。
バスターやサーベルのエネルギー密度では破壊することが出来ない、非常に柔軟性に富んだ設計の。
だから今までのセイアの攻撃は全て通用しなかった。これを破壊する為には、これよりもエネルギー密度が高く、尚且つ攻撃力の高い武器を使用するしかない。
「もうお前達の弱点は判った。もう・・お前達にボクは止められない!」
 残った数体の光球が、セイア目掛けて襲い来る。
が、もはやセイアの瞳に恐れも戸惑いも無い。
空円舞を駆使して空中へと大ジャンプし、追跡する形で追ってきた球体・・いや、ウィルスに天空覇を添加した空円斬を叩き付ける!
 数えて七体のウィルスは、その場でスパンと真っ二つにされ、消滅する。
綺麗にスタンと着地するセイア。それとほぼ同じタイミングで、ウィドの通信がイヤー部分に響いた。
『・・ア、セイア!セイアっ!!』
「聞こえるよ、ウィド。五階層のエネミーは全部やっつけ・・」
『馬鹿野郎!』
 いきなり怒鳴り付けられて、セイアはハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてしまった。
通信の奥のウィドの顔は見えないけれど、その声が尋常でない程怒っているのは、セイアでなくても判る。
ウィルスを相手に戸惑いを見せなかった戦士は、怒った親友に身を縮めつつ、彼の名を呼んだ。
「ウィド・・」
『・・馬鹿野郎。心配かけさせやがって』
「・・ごめんね。でもボクは大丈夫だ」
『・・無事ならいい』
 現実世界では、わなわなと震える手でイヤホンマイクを握り締めるウィドの姿があった。
本来なら、そこでゲイトがクスリとでもウィドに笑みを浮かべることだろう。けれど、ウィドも気が付かない間にゲイトの姿はそこにはなかった。
 いつの間にいなくなったのか。ウィドがそのことに気が付くのは大分後かもしれなかった。
『全く・・無茶をする。お前も、ゼロも・・』
「え、何か云った?」
『いや、なんでもない。それよりも時間がない。第六階層へ向かうんだ』
「う、うん。了解!」
 実際Dr.ゲイトは研究室のドアの前で闘っていた。というよりも、立っているだけに等しかった。
 今のイレギュラー・ハンターの隊員数は非常に少ない。最近ようやく部隊制が戻ったといえど、その数は全盛期の半分にも満たないだろう。
だからこそ遠隔操作のメカニロイドが複数配備されているのが現状なのだ。結果的に云えば弱体化し減少した現状のハンター達は、
自らの下僕を止める術を持たない。一体一体ならばどうにかなろうものだが、数の勝負となると圧倒的に不利だ。
 これはウィドも考えていなかったことなのだが、セイアがマザーにダイヴするにあたっての最大の問題は研究室の防衛だった。
隊員たちの宿舎から遠いこの研究室は、格好の標的だ。そんな場所で呑気にコンピュータを弄くる時間を与えてくれるメカニロイド達ではない筈だ。
 だからこそ、ゲイトがいまここで研究室を護っているのだ。彼曰く『ボクの城』である研究室を。
「ふうむ。やっぱり予算が足りなかったのかな。ボクの作品にしては性能が低いみたいだね」
 Dr.ゲイトは科学者型レプリロイドだ。
だがかの有名なナイトメア事件発祥の張本人である彼は、ゼロのDNAデータを元に造り出した自らの鎧でエックスと闘ったという前歴を持つ。
勿論ゲイト本人の戦闘力はハンターであるエックスには遠く及ばない。それでも彼がエックスと闘い、彼を大いに苦しめた理由がこれだった。
「最も一体一体にこのボクのナイトメア・アーマーが破壊されるようなことは有り得ないんだけれどね」
 今、ゲイトの全身は金色の鎧に包まれている。おおよそけばけばしいと形容しても過言ではないほど、キンキンに輝くド派手な鎧。
それがゲイトの云うナイトメア・アーマーであり、エックスを大いに苦しめた要因であった。
 ゼロのDNAのデータをフル活用して作成されたこの鎧は、かつてのハイマックスの剛性を大きく上回る。
その剛性はエックスのフルチャージの一撃をも全く受け付けない程だ。それ程の剛性を持つ鎧が、たかたが量産型メカニロイド程度に破壊されうる筈もない。
 ゲイトはただ単純にある程度のメカニロイドが群がってきたところで、ナイトメア・ボールと名付けられたエネルギー弾を投げるだけで良かった。
「ふふふ。ボクの城には指一本触れさせない。その代わり、君達にはボクの美技をとくと見せて上げようじゃないか!」
 今のゲイトを止めることは、恐らくセイアでも不可能であろう。

タグ:

+ タグ編集
  • タグ:

このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー利用規約 が適用されます。

最終更新:2012年09月11日 17:36