ロックマンXセイヴァーⅡ 最終章~君を忘れない~後編

「くっ・・!」
「遅いな。やはり人間風情ではこれが限界か」
 瞬時に二連射された光の線は、双方二つの目標に到達する寸前にそれを失い、虚しく虚空を裂く。
完全に捉えた筈の狙撃なのだが、彼等はそんな常識など知ったことではないと云うように、
半瞬後にはウィドの懐まで飛び込んできていた。
「違うよ。単にこれが俺達と彼の決定的差・・ってことさ!」
「ちっ!」
 しかしウィドの反応もそれに負けじと素早い。もう片手に握り締めていたビーム・メスの刃で、捻り込まれるイクスの拳を受ける。
が、押し切られた。圧倒的な衝撃エネルギーを加えられたウィドはそのままロケットのような勢いで後方へと吹き飛び、
まだ奇跡的に無事だったトレーニングルームの壁へと叩き付けられる。
 呼吸が止まる程の鋭い痛み。ずるりと床に滑り落ち、膝をついたウィドだったが、骨折がないことを幸いとしながら足腰に力を込めた。
ここで例え一秒でも倒れているわけにはいかないのだ。奴等相手に、その一瞬の隙でさえ命取りとなる。
「・・一瞬は早く俺の拳をビーム・メスで受け止め、ダメージ覚悟で受け止めたのか?」
「いや、それだけじゃあない。自ら後ろに跳んで衝撃を大きく半減したようだ。この小僧、動きだけはなかなかのものだ」
「勝手な・・勝手なことを云いやがって」
 ペッと口の中に溜まったものを吐き出す。血とも唾液とも云えないものがべちょっと床に粘り付く。
多分喉の粘膜まで吐き出してしまったんだろうという錯覚に陥りつつも、ウィドはそれに気を配ることすら許されない。
 再びレーザー銃を正面に構え、もう片手でビーム・メスを握り締める。このまま二対一で闘った場合、勝率はほぼ零に等しいだろう。
それでもこうして構えることしか出来ないのだ。死ぬまでの時間を伸す為なのか、それとも零に等しい勝率に期待しているのか。
それはウィド自身にも判らないし、そんなことを考えている余裕もない。けれど、一つだけ確かなことがあった。
「ただの人間の少年だと思っていたけど、この暇つぶしはかなり楽しめそうだよレイ」
「お前も相変わらず余興好きだな。確かに動きがいいことは認めるが、この程度の小僧を殺すことなど造作もないこと」
「君もよく云うよレイ。だったら最初の一撃で首を斬ってしまえば良かったのに」
「ふんっ・・」
 以前セイアからリミテッドのデータを採取し、過去のデータベースにアクセスしたとき、
リミテッド体或いはリミート・レプリロイドについての考察が幾つかあったことを思い出す。
 その大半はリミテッドによるパワーアップ率や変化等を示した文章であり、ウィドにとってどうでもいいことであったが、
その中でも彼の目を引くものが一つだけあった。そう、奴等の弱点だ。
 セイアにも既に伝えているが、奴等リミテッド体の動力源は全て体内のリミテッドだ。
セイアに取り付いたものと同じデス・リミテッドの塊を中心にその全身を形成している故、それを破壊すればその形を留めることが出来ずに崩壊する。
「俺は貴様等の玩具ではない・・!」
 ウィドは思う。奴等が自分との闘いを長引かせ、楽しんでいるうちが最大のチャンスであると。
 スパイダス・リミテッドとの闘いから、このレーザー銃の出力で充分デス・リミテッドを破壊することが可能だということが判っている。
奴等の弱点は頭部だ。頭部にこのレーザーを一撃でも加えることが出来れば・・ウィドの勝ちだ。
「いいだろう、イクス。お前の余興にもう少し付き合ってやろう。しかし飽きたら即座に殺すぞ」
「はいはい、判ってますよ。さて準備はいいかい、ウィド君。次はもう少し優しくいくから安心するといい」
「そうやって遊んでいられる内が華だな、イクス・・レイ!」
 端から見れば完全に負け惜しみの一言を、ウィドは躊躇いもなく吐く。普段の彼ならばそんな負け犬じみた言葉は吐かないだろう。
これは計算だった。敢えて負け惜しみの言葉を放つことで、相手に優越感を与え、遊びの範囲を伸すことでチャンスを待つのだ。
 たった一発――いや二発だろうか――奴等の頭部にレーザーを撃ち込むことが出来れば・・。
そのチャンスまでなんとしてでも生き延びなければ。
 ウィドは部屋の反対側で闘っているセイアとイクセの方をチラリと見た。
 ――セイア・・頼んだぞ。
「余所見をしていて次が躱せるかな、ウィド君!」
 イクスの声にハッとしたウィドは、直ぐ様身を躱した。イクスのチャージ・ショットとレイの電刃零が同時にウィドの足元を掘り返す。
その光景に内心で肝を冷やすが、着地までの僅かな時間までをも奴等は許さない。空中からのレイの踵落しを受け、ウィドは地面に激突した。
いや、直前でバック転によって衝撃を殺し、受け身を取っていた。だが再び足が地面につく前にイクスの肘打ちを腹部に押し込まれ、
ウィドは溜まらずに腹部を抑えて踞った。
「っ・・くっ・・・・・!」
 人間というものは脆いものだとウィドは思う。これがセイアならばどうということはない衝撃だろうに、人間であるウィドは視界がぶれ始めている。
 顎先を蹴り上げられ、仰向けになって床を滑る。安定感が殆どない身体を起こすが、軽い脳震盪を起こしているのか上手く立ち上がれない。
 セイアとイクセの闘いがふとぶれた視界に入る。いい勝負だ。いや、いい勝負というよりもどんどんセイアの力が増しているように見える。
もしかしたらまだセイアの体内にリミテッドが残っているのかもしれない。だとしたら、このままでもイクセに勝てるだろう。
 その一方で自分のこの様はなんだ。弱点を知っていてもそれを突くことも出来ない、弱い自分。
相手がリミテッド体という強力な相手だからという言い訳は通用しない。これは殺し合いなのだ。負けた者は死ぬしかない。
ランク分けされたトレーニングとは違うのだ。
「ほらほら、早く立ち上がりなよ。このまま君を蒸発させることも出来るんだぜ?」
「お前が強く殴りすぎた所為だ。このまま呼吸困難で死ぬかもしれんぞ」
 相変わらず勝手なことを云う二人だ。ウィドは咽せる胸を押さえ込みつつ心の中で毒づいた。
本当に残酷で、勝手な二人・・二人・・・――二人?
「・・・?」
 ようやく視界が安定し始めたというのに、ウィドは立ち上がることも忘れて目を擦った。
イクスとレイ。確かに二人だ。だが、今の一瞬チラリと三人目が見えたような気がしたのは錯覚なのだろうか。
イクセでもセイアでもない三人目。無論自分でもなければ、イクスとレイの姿がだぶっての幻覚でもない三人目の姿。
「アレは・・一体・・」
 イクスとレイは気が付いていないようだ。ウィドはもう一度大きく咳き込んでから、涙で揺れる視界のままになんとか身体を持ち上げた。
 もういない三人目。ほんの一瞬だけ、イクスとレイの頭上の壁に貼り付いていたような・・気がするのだが・・。
「お、立ったね。さあウィド君。こっちから攻めるのだけでは申しわけなくなってきた。次は君から撃ってくるといい」
「貴様・・!」
「撃てるチャンスがある内に撃った方がいい、小僧。バラバラになった後ではトリガーを引くことも出来ないのだからな」
「舐めやがって!」
 腕を振り上げる様に二発!ウィドのレーザー銃が吠えた。狙うはイクスとレイの頭部。デス・リミテッド本体だ。
が、やはり当たらない。直撃する寸前で残像となった二人の姿を砕くだけで、奴等はまたウィドの視界の外まで瞬時に飛び出した。
 ウィドはすぐに後ろへ跳んで壁に背をつけた。これなら正面と頭上からしか攻撃を加えられることはない。
ほんの少しでも動きを捉えられる可能性が高くなるからだ。
 頭上と正面に向けてウィドは撃った。攻めてくるべく場所が二箇所しかない上、奴等の実力を考えればタイミングが速過ぎるということはない筈だ。
手応えは――ある。が、軽い。正面に現れたのはレイだ。
 振り上げるレイのセイバーの龍炎刃がウィドを襲う!ウィドはもう片手のメスで燃え沸るセイバーを受け止めた!
「くうっ・・・!?」
「飛び上がれ。宇宙船のようにな」
 セイバーが身体に食い込むことは阻止出来ても、レイの腕力を相殺することなど出来ない。
文字どおり宇宙船のような圧力で空へと放り出されたウィドは、なんとか空中姿勢を立て直しつつも思った。
 ――まずい。このままでは空中で待機しているだろうイクスに追い打ちをかけられて・・。
「・・・!?」
 が、ウィドは追い打ちを喰らうことなく天井に着地――着天というべきか――した。
そのまま身体が落下する際に壁にメスを突き刺し、体制を維持する。打ち上げたレイ自身も意外だったのか、見下ろした彼の顔は珍しく驚いた風だった。
「どうした、何をしているイクス!冗談はやめて出てこい」
「・・何・・?」
「イクス!返事をしろ、イクス!」
 レイは狼狽していた。冷静沈着な彼とは思えぬ口ぶりだが無理もないと云えるだろう。
ここにイクスがいなくなる要素など何も無いからだ。セイアはイクセと闘うことに夢中だし、ウィドがイクスを倒すことなどほぼ不可能だ。
更に本人の冗談でもないとすれば、それは有り得ないことであり、計算高い彼が驚いてしまうのも納得だ。
 計算高い者故の脆さだ。百%と自分で計算したものが意外にも失敗したりすると、計算高い者は驚く程狼狽える。
レイも例外ではなかったらしい。ウィドを舐めきっているのか、はたまたイクスという存在が彼の中でそれ程までに大きいのか、
レイは頭上のウィドを放ってイクスの姿を捜し始めた。
「馬鹿な、どこへ行ったと云うのだ!?イクス!」
 そしてウィドは見た。いや、見上げた。ポタリポタリと頭上から滑り落ちてくる何かの液体を。
血液か?いや、これはオイルだ。匂いと滑り方でよく判る。
「イクス・・・!」
 ウィドは思わず叫んでしまった。別にレプリロイドがオイルを流すところを見るのが苦手なわけではない。
単に信じられない光景がそこにあったからだ。それを先に見つけてしまったウィドは、レイと同じように口をポカンと開けた。
 それはイクスだった。天井に頭部をビーム・セイバーでくし刺しにされ、ぷらんぷらんと身体を揺らす・・イクス。
 機能は完全に停止している。当たり前だろう。弱点である頭部を完膚無きまでに貫かれているのだから。
 ・・・やがてビーム・セイバーのエネルギーが消失し、ぼとりと力無くイクスが地面にばらまかれた。
「・・!い、イクス・・・」
 レイは呆然と落下してきたイクスの亡骸を見詰めていた。ウィドもそれを呆然と見る。
 一体、何が起こったのだろう――セイアと自分は少なくとも何もしていない筈だ。なら、一体誰がイクスを仕留めたのか。
「ま、まさか・・さっきの・・!!」
 それしか考えられなかった。ぶれる視界の中で見た『三人目』。奴が、奴がイクスを仕留めたのだ。
馬鹿げた発想だが、これしか考えられなかった。自分とセイアの力を合計しても、今の一瞬でイクスを仕留めることなど出来はしない。
「だとしたら、今しかない!」
 その『三人目』が仮に本当に存在しそれが味方だったとして――ウィドはそこで思考を切る。
壁に突き刺して身体を支えていたビーム・メスを引き抜き、自由落下に身を任せる。
 レイが狼狽えている今が最大のチャンスなのだ。今の一瞬でレイの頭部を撃ち抜けば、ほぼ零の勝率が自分に傾いてくれる。
 ウィドはレーザー銃に備えつけられたダイヤルを捻る。出力をノーマルからマキシマムに移行。
この一撃に全てをかけるのだ。失敗は・・許されない!
「レイ!!」
「小僧!貴様ぁぁぁ!!」
 ウィドは着地すると同時に銃を構えた!が、憤慨したレイのセイバーの方が一手素早い!
奴の居合は超高速だ。ウィドが引き金を引くよりも先にウィドを斬るなど造作もないこと。しかしウィドは躊躇うことも、身を躱すこともなかった。
「ウィド!!」
 蒼と紅の閃光が迸った。部屋の正反対から飛んできた超密度のエネルギー波は、今まさにウィドを斬り裂こうとするレイのセイバーを彼の腕ごと吹き飛ばす。
イクセと闘いながらもセイアはずっと見ていたのだ。ウィドとレイの闘いを。そして放った。ウィドがレイを倒すことの出来る一瞬を作るために!
「セイア、貴様!?」
「勝負だレイ!!」
『いいですか、ウィド。もしその銃を使い続けるようなことがあれば、人の身であるあなたの身体は・・・――』
 いつか父に言付けられた場面を想う。だが、そんな父の言葉ですら今のウィドを止めることなど出来なかった。
 心無しかスローモーションに見える世界の中で、ウィドの指がトリガーを引く。
銃口にほんの半瞬、光が収束し始めたと思うと、一瞬後に極太の光の線が空を駆けた。
「――・・・!」
 ウィドとレイ、二人の声にならない悲鳴が大気を震わせる。そして同時にレイの頭部がレーザーによって撃ち抜かれた・・いや、吹き飛ばされた。
 ウィドとレイ。二人の身体が殆ど同じタイミングで地面に崩れ落ちる。頭部を失ったレイは痙攣しながら。
放った右腕の骨の殆どが砕けたウィドは絶叫しながら。
「ぐっ・・あああぁぁあぁぁぁぁぁっ!!」
 ウィドの悲痛な叫びが、旧ハンターベースのトレーニングルームに木霊するその様は、つい先日までの世界とは裏腹に地獄のようだった。
骨が弾け、皮膚が破裂した右腕から鮮血の噴水が勢いよく噴出し、破壊されたトレーニングルームの床を朱に染める。
 それはまさに酷い光景だった。絶叫を続け、右腕から止めどなく流血するウィドの傍らには、頭部を貫かれたイクスと、頭そのものを失ったレイ。
ビクビクと未だ痙攣する二体のリミテッドの痛みすら代返するように、ウィドは肺が壊れてしまうのではないかと思う程に絶叫し続けた。
「ああぁあぁあぁぁぁっあぁっぁっぁ!!」
「ウィド!ウィドぉ!!」
 セイアのウィドを呼ぶ声すら彼には届かない。やがて彼は握り締めていたビーム・メスを自分の右腕の傷口に押し付けた。
ジュゥゥと血液が蒸発する異臭を発しながら、その傷口はビーム・メスのエネルギーに焼かれる。そして出血が止まった。
 想像を絶する痛みと高熱に苛まれたウィドは、その痛みのショック故か、それとももはや痛みすら感じないのか、はたまた声が枯れてしまったのか。
やがて口を閉じた。ごろりとセイアの方を向く首。そこに埋まっている眼球はヒクヒクと痙攣していて、口からは血とも唾液ともつかないものを垂れ流し、
それでも尚意識が繋がっているのか、彼は枯れきった声でセイアの名を呼んだのだった。
「セ・・・イ・・・ア」
「ウィド!今助け・・!」
「君の相手はこのボクだろう?間違えてもらっちゃあ困るね」
 ウィドへと走り寄ろうとしたセイアに、イクセの強烈な飛びげりが決まる。その衝撃でウィドへの走路を断たれたセイアはくるくると空中で回転し、着地する。
その間にイクセはウィドを背にするように回り込んでいた。まるで苦しむウィドを助けられずに更に苦しむセイアを見て楽しむかのように。
「どけ・・イクセ」
「ふふふ。嫌だね」
「邪魔だ、どけぇ!!」
 飛び込んだセイアのゼット・セイバーがイクセを真っ二つに斬り裂く。いや、寸前で全く同じものがそれを阻んでいた。
雄々しく猛るセイアのセイバーはイクセには届かない。さっきまでの差と較べれば確かに実力差は拮抗しつつあるが、
それでもイクセの方がほんの少し上回っている。容易く剣線を崩され、隙だらけとなった腹部にイクセのバスターが爆ぜた。
「くぅっ・・!!」
 後方へと吹き飛ばされつつもセイアは諦めない。受け身を無視したフルムーンⅩ。
それがイクセの肩アーマーを吹き飛ばす。炸裂した――いや、炸裂していたのはセイアの方だ。
「――・・!?」
 イクセと同じくセイアの肩アーマーも吹き飛んだ。いや、吹き飛んだなんて生優しいものではない。爆裂したのだ。
ウィル・レーザーの強烈な閃光がセイアの肩を掠め、それをこそぎ取っていた。アーマーを削られたイクセに対して、
肩を完全に破壊されたセイアの方がダメージは大きいのは当たり前だった。
 よもやここまで読んでいるとは思わぬ切り返しに、セイアは思わず膝をつく。
ポタリポタリと肩から滑り落ちてくるオイルが床を濡らす。反対方向でウィドの流した鮮血が床を染める。
皮肉にも同じ右腕を破壊されたセイアとウィドの今の姿はなんと痛々しいことだろう。それでもイクセの辞書に容赦の文字は存在しえなかった。
「まさかイクス兄さんとレイ兄さんをウィド君が倒すなんて意外だったな。それとも何か奥の手を使ったのかな?
 どっちにしろ・・・・君はこのまま死なせて上げないけれどね」
「やめ・・ろ・・」
 イクセの感覚範囲にどうやら例の『三人目』は存在していなかったらしく、奴は二人をウィドが倒したと思い込んでいる。
勿論セイアも薄々その存在に気が付いていた。気が付いていたが、それが何かを考えよりも現状の方を優先したいのは明らかだった。
 イクセの顔は歪んでいる。さっきまでの楽しそうな顔とは違う。まるで、まるでそう――Dr.ワイリーに兄を殺された瞬間のセイアのように。
奴は怒っているのだ。兄を殺されたことに。大切な兄を殺されたことに。セイアは、そんなイクセを見て思わずハッとしてしまった。
「痛いかい右腕が?でもね、そんなものじゃ済ませて上げない」
「ぐっ・・ああっ・・あ」
 残酷無比な笑みと共に繰り出されるイクセの蹴りを受けても、もはや叫び声すら上げられないのか、ウィドは掠れた呻きを上げるだけだった。
既にボロボロだった全身に止めを差されたウィドの骨組は、ボキッと不気味な音を立てて断ち切られていく。
血を吐き、呻きを上げるウィド。セイアはそんなウィドを見詰めながら、ふらりと立ち上がった。もはや破壊された右肩のことなど気にならなかった。
「あはははははは。本当に、本当に計算外だった。君が、こんなひ弱な君が兄さん達を倒してしまうなんてねぇ!」
「やめろ・・・っ」
 セイアのか細い制止の声を聞いたのか、それともウィドの姿をセイアに見せつける為か、イクセの動きがピタリと止まる。
そしてセイアに向かって笑った。冷たい笑みだった。きっと昨日までのセイアならそれだけで脅え、竦んでしまうかのような。
強烈なプレッシャーと威圧。そして、怒り――ぶらりと空を掻く右腕を抑えつつ、セイアはそれを認めた。
「「やめろ」だって?やめろって云ったのかい、セイア?」
「イ・・クセ!」
「ふふ、あはははは。コイツは大笑いだ。「やめろ」だって?君にそんなことが云えるのかい。君だってエックスを殺したワイリーに憤慨したくせに、
 ボクにはやめろとほざくのか。正義の味方も所詮はエゴの塊だな!」
「っ・・!」
 イクセの言葉は、間違ってなどいない。何故ならイクセの言葉は同時にセイアの迷いと直結するからだ。
 一年前、セイアはワイリーを倒した。正義の為でも、ハンターの仕事の為でも、過去からの因縁の為でもない。
そうイクセの云うとおりエックスを殺したワイリーが憎かったからだ。全てを奴の所為にして、それを怒りと憎しみに任せて消し去りたかったからだ。
 確かにイクセは敵だ。しかし同時に自分の分身でもある。兄を失った怒りと悲しみは、イクセとて同じこと――
 セイアはここにきて迷ってしまった。ウィドを痛めつけるイクセの姿が完全に一年前の自分と重なってしまったからだ。
しかし気付きはしなかった。イクセを伐つことが出来なければ、セイアもまた一年前と同じ未熟者のままであるということを。
「よしよし良い子だ。この子を料理したらすぐに君も消して上げるよ。戦意喪失した君なんて、ただの鉄くず同然だからね」
「セ・・イア・・!ぐぁぁっ!!」
 そしてまたイクセはウィドを痛めつけ始めた。砕けた右腕を足でふみつけ、蹴り上げ、ウィドの絶叫に笑みを浮かべる。
辺りにはウィドの流す鮮血が舞う。床を濡らし、壁を濡らし、イクセの頬を濡らす真っ赤な・・血。
 それでもウィドはセイアを呼んでいた。それは助けを求める声でも、断末魔でもない。再びセイアの戦意を取り戻そうとする、必死の声だった。
「・・・・っ・・」
 セイアは左手の拳を握り締めた。再びイクセに対しての怒りが込み上げてくる。
 自分勝手な怒りだと、彼は自覚している。けれどそれを止められなかった。止めようともしなかった。
 例え敵が自分と同じ立場にあったとしても・・敵は敵だ。奴はイレギュラーだ。セイアはハンターだ。
なら、倒すしかない。自分と同じだからといってイクセを哀れむことは・・許されないのだ!
「やめろ・・やめろ、イクセ!!」
 セイアの左手のバスターが爆ぜた。蒼と紅の閃光は一つとなり、ウィドをけり続けるイクセの頭部を直撃し、その先の壁をも貫通して彼を外へと追いやる。
 セイアは静かに歩み始めた。吹き飛んだイクセを無視し、もはや無残な姿へと変わったウィドを抱き起こす。
彼は、辛うじて生きていた。力のない手でセイアの左肩を掴むと、ウィドは血だらけの顔で笑った。
「馬鹿・・野郎・・。躊躇うなと、云っただろ・・う?」
「ウィド・・」
「躊躇うな・・。お前は、勝てる・・筈だ。アイツに・・」
 一言話すことにも苦痛の表情を訴えるウィドの言葉は、最後までは紡がれなかった。それをイクセは許してくれなかったのだ。
ガラガラと瓦礫の中から姿を現わすイクセ。そしてウィドを静かに床に降ろし、ゼット・セイバーを構えるセイア。
 ぼやけ始めている視界の中でウィドは思う。最後の決着が今まさにつこうとしている、と。
「セイ・・ア」
「・・判ってる」
「どうやらそんなに先に料理して欲しいみたいだね。なら、もう遠慮なく首を斬らせて貰うよセイア!!」
「イクセ、もう終わりにしよう。貴様を倒す!」
 そしてセイアとイクセの姿がその瞬間、掻き消えた。


「セイアっ!!」

「イクセっ!!」

 紅の鎧と翠の鎧が交差した。



 そして静寂。



「・・・ぐあっ・・・!!」
 先に伏したのはセイアの方だった。胸を袈裟切りにザックリと斬り裂かれ、真っ赤なオイルを噴出させながら。
膝をつき、掌をつく。もはや戦闘不能。振り返り、認めたイクセは・・立っていた。
「ふふふふ・・」
 イクセは笑っていた。セイアを見下すように。ウィドを見下すように。自らの勝利を誇示するように。
「あーはっはっはっはっはっ!!!」
「・・・もう、終わりだ」
 ウィドが呟いたその言葉は、己等の終焉に向けてなのか、彼の破滅に向けてか。
間もなくその言葉は確かに現実のものとなる。床に伏したセイアは、その終わりを確かに見た。
「ははは・・・あははははははは!!」
「・・・イク・・セ」
 狂ったように笑うイクセの胴に、不意に斬り傷が走る。いや、胴が裂けた。
上半身と下半身に瞬時に両断されたイクセは、その笑い声を止めぬまま、やがて・・爆裂した。
 彼に相応しい終わりだったのかもしれない。もしかしたらあっけない終わりだったのかもしれない。
けれどそれを意識することはセイアもウィドもしなかった。イクスが倒れ、レイが倒れ、イクセが倒れ。
勝つことはほぼ不可能だと云われていた最凶の三人は、伏したのだ。事実はたったそれだけで良かった。
「ウィド・・・っ」
 ぼろりとヘルメットが崩れ落ちることも気にせず、セイアはよろよろとウィドの元へと向かう。
その無残な姿とは裏腹に、ウィドは笑っていた。きっとアドレナリンやらの分泌でもう痛みを感じていないのだろうと、セイアは中途な知識ながらも思う。
 ウィドを抱き起こす。ウィドはもはや自分で立つことが出来ない程に傷ついていた。砕けた右腕も・・もはや直視出来ない程に・・。
「ウィド、腕が・・・」
「こんなもん、義手にでもなんでもすればいい・・さ。生きてれば・・な」
「うん・・帰ろう。ベースに」
「・・あぁ」
 しかし運命というものはいつだって非常なものだ。セイアもウィドもいつもそれを知っていたつもりでいたけれど、今回ばかりはそれを実感せずにはいられなかった。
 ゴォッと風が吹いた。死の匂いを、オイルの匂いを、錆びの匂いを含んだ奇怪な風だった。
「なにっ・・!?」
 セイアの呻きに似た悲鳴が、もはや絶望を思わせる悲鳴が響く中で、それは止まることを知らずに始動する。
 倒れ伏した三体のリミテッド体・・イクス、レイ、イクセの身体がビクビクと痙攣したかと思うと、そこから粘液をまき散らす不気味なユニットが離脱する。
デス・リミテッド本体だ。呆然とするセイアとウィドはそれを撃つことすら出来ずに見送った。もしかしたらこれが最大のミスだったのかもしれない。
「あ・・ぁぁ・・」
「馬鹿・・な・・」
 あっと言う間に一箇所に集まった三体のデス・リミテッドは・・互いが互いに組み合わさり、グチャリと不気味な音を立てながら一つとなった。
 吹き飛ばされそうな程の死の風が舞う。圧倒的なその存在に脅えるように、暗雲が空へと立ちこめ、強烈な雷を鳴らす。
あたかも空間自体がそれに圧迫されているようだった。セイアもウィドも、今回ばかりは動けない。セイアとウィド、そして空間自体が見守る中で、
それは静かに静かに形を成した。これから始まる地獄を現わすかのような、地獄の番犬・ケルベロス。それが奴の姿だった。
「・・・ウィド、クロス・アーマーのチップを渡せ」
「・・・し、しかしアレはまだ未完成で・・」
「早くっ!!」
 セイアの剣幕は異常だった。逆らえば強引に奪われかねないと悟り、ウィドはなんとか持ち上げた左手で懐から一枚のチップを取り出す。
 クロス・アーマー。かつてセイアが電脳世界内でイクセと対峙した際に装着した鎧であり、ウィドとゲイトが対リミテッド用に開発した究極のアーマー。
秘められし力は未知数。未完成の現状でセイアに与える負担もまた未知数だが、セイアは悟ったのかもしれない。それでもこれを使わなければならない、と。
 ケルベロスは――いや、デス・リミテッドは動かずにそれを待っていた。まるで何をしても無駄だと云うように、その瞳には余裕すら伺える。
 静かにチップを腕に埋めたセイアは、もはや闘うことなど不可能な身体で立ち上がり、振り向かぬままに呟いた。
「ウィド・・先に帰っててくれ」
「なっ・・くっ・・ば、馬鹿な、セイア・・何を云って・・」
「今の君を護りながら闘うなんてボクには出来ない!君がいれば邪魔になるんだ!!」
 それは事実以外の何者でもない。ウィドは黙ってしまった。
セイアはふと剣幕を緩め、声を和らげた。しかし、彼は最後まで振り向かなかった。
「・・・ボクは必ず帰る。だから、待っててくれウィド」
「セイ・・ア。俺はまだ、お前と何もしちゃ・・いない。闘ってばかりで・・ロクな思い出もない。学校・・っだって、まだ一年・・ある。
 お前は・・お前は、エックス・・とゼロの跡を継ぐんだろ・・?こんなところで、死ぬなんて・・許さん・・ぞ」
 ――本当は喋ることだって辛かった筈だ。それでも一生懸命なウィドの言葉が、セイアは嬉しかった。
 振り返れなかった。振り返れば、泣いてしまいそうだった。逃げ出してしまいたくなりそうだった。弱音を吐くことになりそうだった。
だからセイアは振り返らなかった。だから見ることもなかった。ウィドの瞳に浮かんだ涙を・・セイアは知らなかった。
「・・判ったよ。続きは、また後で話そう」
 セイアが自らのアーマーから剥がした転送装置によって、ウィドは光に包まれた。
ウィドが最後にまた何か云っていたようだったが、もう聞こえない。振り向きそうになる衝動を必死で抑えつつ、セイアは云った。
「・・さよなら・・ウィド」
『友達ヘノオ別レハ済ンダノカ』
 見計らったように、デス・リミテッドが口を開いた。イクセ達とは全く違う、酷く機械的な冷たい声。
 セイアはキッと声と同じく感情のない瞳を見詰める。セイアの翠の瞳の眼光を受けた三つの首、六つの瞳は全く動じなかった。
『ソウイキリタツ必要ハナイ。スグニ彼モオ前ト同ジトコロヘ行クノダカラ』
「黙れ!貴様は、貴様はボクがこの命に代えてもここで倒す!それが・・貴様を生み出したボクの責任だ!」
『面白イ。ソノ死ニ損ナイノ身体デドコマデ闘エルカ、見セテモラオウカ』
「舐めるなぁ・・!」
 セイアが腕の中に埋めたクロス・アーマーのチップを今まさに発現させようとした瞬間、それを制止するものがあった。
「セイヴァー。お前のそれは勇気とは云えない。そんな闘い方はただの無謀だと、エックスに教わらなかったのか」
 セイアもデス・リミテッドも全く予測していなかった乱入者。一本の翠の閃光としてそれは、セイアとデス・リミテッドの間に静かに降り立った。
「ふんっ。随分と醜悪な姿になったものだな」
 程なくそれは人型を形成し、デス・リミテッドを一瞥するとこう云った。振り返ったそれとセイアの視線がぶつかる。
それは意外なことにセイアに似た姿をしていた。いや、寧ろエックスに似ていると云った方がいいのだろう。
 ボディカラーは・・そう、イクセ達と同じ翠色。肩アーマーと胴体部分の境が存在しない奇妙な鎧が特徴的で、顔には電撃の刺青が走っている。
一瞬また新たなリミテッド体が誕生したのかと身構えたセイアだったが、それが自分に向けての敵意を持っていないことから、
少なくとも敵ではないことを理解した。
「き、君は・・!?」
「これならまだあの生意気な三体の時の方がマシだった」
 狼狽えるセイアを余所に、それは再びデス・リミテッドを卑下する。
 怒ることも哀しむこともないデス・リミテッドはそんな蔑みなど一切気にせず、自らの評価だけを口にした。
『貴様・・オリジナルイクス。リターン・イクスダナ。裏デ暗躍シテイタノハ貴様ダッタノカ』
「暗躍とはご挨拶だ。二人の坊やに三人でかかった卑怯者共に云われる筋合いはない。
 それに私と同じ顔をした奴がいては目障りだったのでね」
 そしてリターン・イクスと呼ばれた彼はポイッとセイアに何かを投げ渡した。慌ててそれを受け取ると、意外なことにそれはエックス・サーベルに違いなかった。
慌てて自分のバックパックに手を伸す。今までゼット・セイバーだけを使っていたので気が付かなかったが、確かにそこにエックス・サーベルはなかった。
「無断で借用したお前のサーベルだ。今更だが返そう」
「し、しかしどうしてこれを・・」
 しかし相変わらずリターン・イクスはセイアに素性を話さない。必死にリターン・イクスに何かを云おうとするセイアを無視して、
またリターン・イクスはデス・リミテッドへと向き直った。
『フン、マアイイ。大方リミテッドノ気配ヲ感ジテ現レタトイウコトカ。イイダロウ、貴様モ我ガ一部トシテクレル』
「生憎だがお断りだ。貴様のようなおぞましいだけの下等生物と一緒にされては困る」
『オリジナルイクス。貴様ハ優秀ナリミテッド体ダ。我ト融合スレバ今以上ノ力ヲ手ニ出来ルノダ、悪クナイ話ダロウ』
 一連の話にセイアはついていけそうにもなかった。代わりにいつかデータベースで見た資料を思い出す。
 『オリジナルイクス』。その言葉が脳内で反響する。いた。確かにデータベースに存在していたのだ。リターン・イクスという名の過去のリミテッド体が。
 かつて・・そうデス・リミテッドの元となったリミテッド、並びにハイパー・リミテッドの騒動の際に生まれたエックスの分身・イクス。
一度はエックスとの闘いで敗北し、消滅したイクスだったが、再びハイパー・リミテッドの力によって復活を果たした。それがリターン・イクス。
「冗談。同じリミテッド戦士として貴様程癪に障る者はいない」
 兄達からリターン・イクスについての話を聞いたことは一度もなかった。
 しかしデータの上ではリターン・イクスはリミテッド騒動の最終決戦にて現れたシグマ・リミテッドとの闘いの際にエックス達に協力している。
その後の彼の行方は結局判らず終いであったが、今まさにここに存在していることだけは紛れもない事実だった。
「おいセイヴァー。力を貸してやる。コイツを抹消する為にな」
「リターン・イクス・・。君は、味方なのか?」
「正直そう捉えられることには抵抗があるが、今はそう認識して貰って差し支えはない」
 口ではそう言い放つリターン・イクスだったけれど、セイアはその瞳の中に確かにエックスと同じ暖かさを見た。
 ふとセイアは口もとに笑みを浮かべ、再びデス・リミテッドを見据える。まるで兄が傍にいるように、疲れきった身体に再び闘志が燃えた。
リターン・イクスも同じように醜悪なケルベロスを見上げた。そんな二人にデス・リミテッドは三つの口元をニヤリと歪めた。
感情の伴わない下衆な嘲笑だった。
『愚カナ。貴様等二人ナラ勝テルト思ウカ。貴様等ノヨウナ雑魚ガ何人集マロウト勝チ目ナド存在セヌワ!』
「勝てるさ」
 無遠慮なプレッシャーを与えるデス・リミテッドの言葉を、リターン・イクスはぴしゃりとその一言だけで斬り捨てて見せた。
横に並んだセイアが見るリターン・イクスの目に迷いはない。その横顔はいつも憧れてやまなかった兄の顔だった。
「セイヴァーと貴様では見詰めているものが違う。例えどれ程強力になろうと、貴様は最初から負けている」
「イクス・・兄、さん」
 思わずセイアはリターン・イクスを兄と呼んでいた。言葉も動作も乱暴で、取っつきにくい印象しか受けないリターン・イクスだけれど、
その瞳と言葉にはエックスと同じ強さと暖かみがあったからだ。まるでずっとセイアを知っていたかのように振る舞うリターン・イクスは迷わない。
兄と呼ばれたリターン・イクスは横目でセイアを見たあと、再びデス・リミテッドを見る。その一瞬の視線の中に笑みがあったことを、セイアは勿論知っていた。
「貴様のようにただ本能のみで生きている下等生物には判るまい」
「デス・リミテッド。貴様が僕から生まれた存在だとするのなら、今ここで・・僕は僕を越える!これが最後の闘いだ!」
「私とて元はエックスと同じ身。生きる目的はとうに見据えているわ」
 そして閃光が輝く。セイアの左腕を中心に、彼を蒼と紅の光が静かにゆっくりと・・そして力強く包み込む。
 あの時と同じだ。あの電脳世界内での闘いの時と同じ光。そしてあの時よりも強く、輝かしい。
ボロボロだったセイアの鎧が、光に包まれて変化を遂げた。更に鋭く。更に力強く。二人の兄に抱かれるセイアは、
最後に形成されたヘルメットによって再びロックマン・セイヴァーの輝きを取り戻した。
 クロス・アーマー。エックスとゼロの心を継ぐセイアにのみ装着することが許された究極の鎧だ。
『ソノ程度ノ輝キ、塗リ潰シテクレル。貴様ハ所詮太陽ノ前デ朽チルイカロスニ過ギントイウコトヲ思イ知レ』
「見せてやるがいいロックマン・セイヴァー。現代のイカロス神話は太陽をも越えるということをな」
「あぁ、闘おう!これを最後の闘いにする為に。力を貸してくれ、イクス兄さん!」
「ふむ・・よもや兄と呼ばれる日がくるとは思わなかった。が、悪くない・・」
 そして三人目の兄の力が更に交差する。
 リミテッド特有の能力で姿を変えたリターン・イクスが、セイアのクロス・アーマーを包み込むように更に融合を果たす。
 胴に、腕に、足に、頭に。そして心に――三人目の兄の心が交差した。
 そうしてようやくクロス・アーマーは完成を果たす。遂に不完全なままだった箇所を、リターン・イクスが埋めたのだ。
「暖かい・・・これが、僕の兄さん達の・・力。太陽を越えるイカロスの力!!」
 そしてセイアは・・ロックマン・セイヴァーはイカロスとなった。
 太陽に等しい力を持つデス・リミテッドに挑む為に。いや・・紛い物の太陽を打ち砕き、己が真の太陽となる為に。
 エックスの、ゼロの、ウィドの、ゲイトの、彼等が護ってきた沢山の人々の、そして・・イクスの輝きの中で、セイアは剣を抜いた。
そして叫ぶ。願わくば・・これが最後の闘いとなるように。
『リミテッド戦士トアロウ者ガ馴レ合イオッテ。小賢シイ!ナラバソノ闘志モ輝キモ骨ノ髄マデ砕ケルガイイ!』
「行くぞっ!勝負だデス・リミテッド!!」




 ――果たして・・・。


 ――果たして、どれだけの者がこの闘いを知っていたのだろう。


 ――果たして、どれだけの者がロックマン・セイヴァーの闘いを知っていたのだろう。


 ――果たして、どれだけの者が人知れぬ場所で自らの為に闘ってくれている者がいることを知っていただろう。


 ――いやきっと、誰も知らない。


 ――現代のイカロスを、誰も知らない。


 ――誰に支えられずとも、挫けず闘った戦士のことを、誰も知らない。


 ――それでもいつかは伝わるだろうか。


 ――ロックマン・セイヴァーという英雄の意思を継ぐ者が、誰も知らない場所で闘っていたことを。


 ――それでも・・いや、きっと伝わっているに違いない。


 ――ロックマン・セイヴァーを、そして徳川健次郎を待つ人々が思いの外多いことを。


 ――今はまだ伝わらないかもしれない。


 ――それでも・・いつか、彼の闘った軌跡はきっと輝くだろう。


 ――現代のイカロス神話と共に・・・。





 それから数時間後・・旧ハンターベースに存在していた膨大なエネルギー反応が完全にロストしたのだった・・・。

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最終更新:2012年09月11日 17:39