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「話したいことがあるので、午後11時、私の部屋まで来てください」  そんな手紙を出した。相手は、不二咲さん。  モノクマからコロシアイ学園生活を告げられてからしばらく経ったある日。  私はとある疑念を解消するために、件の人物を自身の部屋に呼び出していた。  セレスさんの提案である、夜時間の外出禁止を破るのは少しおこがましい気持ちもあったけれど、この密談は他の人に感付かれるわけには行かない。何を話していたか聞かれると後々面倒になる恐れもある。……二次元限定とか言いながら全然そこに留まってない人もいるし。  面倒、というのは、もしこの私の仮定……予想が真実だった場合、いろいろと問題が起きてくるから。  その予想は他でもない。  ピンポーン……  インターホンの音で意識をドアの方に向ける。 「どうぞ、入ってください。鍵は開いています」  開いた先には、当然ながら不二咲さんがいた。鍵は閉めてください、と小声で言い、密室を作る。それから、ベッドまで来るように促した。  私はベッドの枕の前に、両足を伸ばして座っている。彼女は端に座った。 「うふふ、こうして面と向かい合って話すのは初めてかもしれませんね?」 「そ、それで一体、何の用なのぉ……? できるだけ手短に済ませて欲しいんだけど……」  だったら、単刀直入に言ってしまおう。こっちとしても、早く真偽を確かめたいという気持ちが大きいから。私は彼女の目を見据える。不二咲さんはビクッと一回震えたけれど、構っていられない。無視してそれを告げる。 「不二咲さん、  あなた……男性ですよね?」  部屋の時間が止まったような気がした。私でさえがそんな感覚を受け取ったということは、本人は凄まじい感情の奔流があっただろう。目の前の様子からも、それは理解できる。  何か言葉を必死で紡ぎだそうとし、だけどショックが抜けないのか口をぱくぱくとさせている。  私は更に追い詰める。 「その反応……やっぱり、そうだったんですね……」  異性とは親しく話し、同性とは距離を置く。  どことなく違和感を感じる、普段の声色。  そして何より、苗木君から聞いた言葉。 「不二咲さんは、強くなりたいんだってさ。女の子だからそんな必要ないと思うんだけど……」  これだけの根拠があれば、『もしかしたら男性……?』という可能性を考えてもおかしくはないと思う。それに加えて、私は勘が利くほうなのだから。いつもはそれを苗木君を揶揄うことに使っているけれど。  今この瞬間までは半信半疑だった。でも、まさか的を射ていたなんて。  正直、驚愕よりも狼狽の方が大きい。  すると、不二咲『君』が漸く口を開いた。といっても未だ焦りはあるみたいで。 「な、何を言ってるの舞園ちゃん……? わ、わた、私は女の子だよ……ッ!」  認めないつもりだけど、もう証拠は揃ってしまっている。  目には涙を浮かべながら、必死で弁解を試みる『彼』には悪いけれど、もう一押しをする。 「でしたら……服を脱いでくれませんか? 女同士、別に構いませんよね?」 「…………!!」 笑顔を取り繕ったつもりだったけれど、不二咲君から見たら邪悪に見えていたかもしれない。 50  というよりも、見えていただろう。何故なら、私自身落ち着いていないのだから。  不二咲君に告げようとは思っていたけれど、その結果次第でどうするかは考えていなかった。 「どうして、どうして判ったの……? わた、ぼ、ボクが男だって……」  そこで浮かんだのは、邪もいい所の考え。  ……だったら、利用してみよう。 「不二咲君、問題なのはそこじゃありませんよ? 今大切なのは、不二咲君が抱えていた、知られたくない秘密を私が知ってしまったということ……。何を意味しているか、わかりますよね?」  不二咲君は、脅えたような表情を見せる。秘密を知られた、という時点でかなり涙を浮かべていたけれど、今度はそれ以上に逼迫した表情。 「ど……どうすれば……黙っててくれるのぉ……?」  そう、つまり交換条件、もっとはっきり言ってしまうと脅迫。  私は、凄く冷酷なことをしようとしている。 「そう……ですね、不二咲君が男性だというのは非常に驚きました。今でも少し信じられないくらいです……そこでですね不二咲君」  そこで一回言葉を切り、  ____その単語を口にする。 「く、クンニリングスをしてもらえませんか?」  言って、しまった。  淫乱な女だと思われたかもしれない。だけど、私だけじゃないはず。皆、表に出さないだけで、こういった側面を持っているはず、ううん絶対持っているんだ。  コロシアイ学園生活が始まってからはカメラを気にして全くそれをしていなかったけれど、ここに来る前、私は幾度となく自らの体を弄り、悶え、喘いできた。  テレビに映っている私でも、……ファンたちは考えもしないだろうけれど、裏でそんな快楽に身を委ねてきた。行き過ぎるのは良くないとわかっていながら、それでも。  だけど、いつからかその快楽を自分ひとりで満足するのは難しくなってきた。勿論誰かに相談するわけにも行かない。私は欲求不満なんて言葉では表せない、謂われようのない渇望を抱えていた。  ただ抱えるだけならまだ良かった。だけど、そんな感情と共にステージに立ち、歌姫を演じるのは、 苦痛で、辛辣だった。  コロシアイ学園生活が始まって、歌姫を演じることがなくなった。それと同時に、カメラというストッパーが抑制してきたこの欲求。  もうカメラなんて気にせずにやってしまおうか……そう思っていた矢先の、今日のこの状況。  利用しないわけにはいかない。  どうせ見られるなら、もっと大きなものの方が、カメラのことを忘れられる。 不二咲君は、顔を赤らめたあと、慌てたように両手を股間に当てた。  女装したとあっても、やっぱり男性なんだと実感させられる。 「く、クンニ? それって、ぼ、ボクが舞園さんの……」 「……ええ、それのことです」  交換条件、と形容したのは、つまりこういうこと。  不二咲君の「女装」という秘密の代わりに、私の「淫乱」という秘密を持ってもらうこと。  さあ、不二咲君。私の秘密を知ったからには、後戻りなんてさせませんよ……? 「舞園さんがエッチな人だったのは知らなかったよ……でも、ボクがそれをすれば黙っててくれるんだよね?」 「も、勿論です。じゃあまずは、二人とも服を脱ぎましょうか」  意外にも不二咲君がすぐに納得してくれた。  こっちとしては嬉しい限りなんだけれど。  やっぱり男性っていうのはそうなんだろうか。みんな所詮、「雄」なんだろうか。  そうして、二人の裸体が現れた。  今もカメラで見られているのかと思うと快くはないけれど、後戻りができないと言ったのは他でもない、私自身だ。覚悟を決める。 「じゃ、じゃあ舞園さん、横になってもらえるかなぁ……」 「は、はい」  誘いかけたのは私なのに、これじゃまるで不二咲君にリードされているみたいになっている。  ただ、私がリードしているとはとても言えそうにない。何故なら、これからの快楽を想像して、下半身は濡れてしまっているから。  ところで、言うまでもなく「クンニリングス」とは「男性が女性性器を愛撫すること」。 だから私もすぐに触れられ、舐められて、大きく感じるものだと思っていた。  だけど。 「え、ちょっ、不二咲君!? ど、どうして首筋なんかを舐めてるんですか!」 「あ、でもいきなりクンニはちょっと……大丈夫、すぐにそこまでいくから」 (う、ううううう……っ!)  足りない。こんな刺激だけじゃ足りない。  不二咲君はお腹、腕、足腰と愛撫をしていくけれど、微々たる量の刺激しか感じられない。  もうこうなったら体裁なんて気にしない。そもそも、男女二人がこんな行為をしている中で、体裁を気にするなんて逆におかしい。  不二咲君に言う。 「ふ、不二咲君、早く……早くしてください……っ」  ただそれでも不二咲君はいたずらっぽい笑みを浮かべて、 「えへへ、舞園さん……まだだよ、おあずけって言うのかな?」 「お、お願いですよ……!」  余計に不二咲君の気持ちを煽るのか、全然思い通りにならない。 そうしている間にも、私のあそこは疼き、さっき以上に濡れていく。  ここまで彼が執拗にじらしてくるとは思わなかった。こういったシチュエーションになると、 不二咲君みたいにひ弱そうな人でも、強気になってくるのだろうか。  ……よし、そんな欺瞞な積極性を、破壊してみよう。 急激に上体を起こす。虚をつかれた不二咲君は倒れ、足を開く。 それを見逃さない。  不二咲君の、いきり立ったそれ。 決して大きいとは言えないけれど、男性だと象徴する……その、不二咲君自身に顔を近付ける。 「えあ、あっ! ま、舞園さん!?」 「驚いたようなことを言っても、もう遅いですよ」  暴的に赤黒く、強烈に感じるその匂い。  当然、目にするのは初めて。 でも、先輩のアイドルから話を聞いたりはして、まったく知らないということはなかった。軽く掴んで、  先端を、軽く舐めた。 「ふ、ふあああっっ!」   ともすれば女の子とも間違えそうな、不二咲君の喘ぎ声。無視して、フェラチオを続ける。  掴んでいる右手を上下させながら、先端や側面に舌を走らせる。 「ああっ、だ、だめだよ舞園さんっ、頼まれたのはボクなのにぃ……」 「んっ……ふふ、その頼まれたクンニをやってくれない不二咲君への、ささやかな仕返しです…… んちゅ、私のここ、もうこんなに濡れてるんですよ?」  実際、もう我慢なんてしたくないのだけれど、私がリードされている、という姿が悔しかったから、こんな形を作ってしまった。 「ぷあっ、不二咲君、もしして欲しくないんだったら……」  そう言って私は体を動かし、秘部を不二咲君の顔の位置に持っていく。  身長差があるのがやりづらいけれど、体を曲げてカバーする。 「私を気持ちよくさせて、私を止めてくださいっ……」  シックスナインの形になって、再びフェラチオを開始する。 今度は舐めるだけでなく、軽く咥える。その状態で舌を絡め、尿道の出口に触れる。 「ひあ、あっ……! 舞園さん、そ、そこは!」 「ほら、私の方を留守にしちゃだめですよ? んぷ、私はさっきからずっと待ってるんですから……」  不二咲君のそれから、少し液が出てくる。先走りというものだろうか。  ただ私もいい加減限界だった。誘ってみたけれど、私のあそこはもう洪水といっておかしくないレベルだと思う。 お願いだから、早く気持ち良くさせてください……っ!  願いが通じたのか、不二咲君が私のお尻を触ったのを感じた。同時に、息遣いをも感じる。 「じ、じゃあ、舞園さん? いくよ……?」  待ってました、とばかりに不二咲君のそれを今以上に激しく刺激する。 私のお尻を掴む手が一瞬強く握られた。彼も大きく感じているんだろう。  そして、不二咲君が私の秘部に、  ずぷり、と舌を入れてきた。それも、かなり深く。 「ひっ……ひ、ああああああああああっっ!? な、なにこれっ……! や、あああああっ!」  途端に、莫大な刺激が、全身を駆け巡る。今までじらされていたからとか、そんな程度じゃない。  不二咲君の舌が、いや、舌だけでなく、同時に指でもかき回されている。  膣口を舐められながら、しっかりと赤くなってしまっているクリトリスを同時に刺激される。  今まで自分でやっていたのとは、桁が違う。 不二咲君へのフェラチオとか、そんなものを気にしていられずに、ただただ快楽の感覚に溺れていく感覚だった。 きっと、もう絶頂には達していると思う。けれど、もうそんなことはどうでもいいかのように恍惚の表情を浮かべ、意識を遠くへ 「あれ? 舞園さん、イっちゃったの? まだまだこれからなのに……っ!」 ……持っていくことを、彼が許さなかった。 「ひ、ひああああっ! ふ、不二咲君、私はもうイってます! も、これ以上は……」 「だったら」   不二咲君は、まるで遊んでいるかのように気楽な声で、 「ボクを気持ちよくさせて、止めてみてよ」 「~~~っっ!!」                               絶頂に達して、それでも今なお快感に襲われる。まさしく望んだはずの状態なのに、私が感じているのは恐怖だった。  何度これが繰り返されるの……?  私が今までやってきたのは、ただ一度きりの自己満足。一回イってしまえばそれで終わっていた。  何度も絶頂を迎える。そのことに、恐怖を抱いていた。  ……のだけれど。  よく考えてみる。  今、私はこれ以上なく気持ちいいと感じていた。  つまり。 『これから迎えるであろう絶頂も、私にとって快楽であるに違いない』 『だから、何を恐れる必要があるのだろう?』  そうか。  何も怖がらなくていい。  確かに、自分以外の人にこんな姿を晒して、愛撫してもらったのは初めてだった。  だから一瞬恐怖を感じたけれど。  不二咲君と共に、気持ちよくなれば。  私はもっと崇高な快楽に身を委ねることができる……! 「わかり、ました不二咲君。私も、あなたを気持ちよくして見せます。だからもっと私を気持ちよくしてください!」 「っ!? う、うん、わかったよ……?」  不二咲君がいきなり私の態度が変わったことをいぶかしんでいるけれど、私は加減も、容赦もしない。  不二咲君のそれを強めに握り、奥まで咥える。  さっきと同じように舌を絡めて、さらに、それを吸う。 「ふあ、ひゃあああああっ!!」 「んちゅっ、ぷあ、ふ、不二咲君、どうですか? ちゅぷ、もうそろそろ限界なんじゃないですか?」 「そんなっ、こと……あ、んああああ、い、イく、イっちゃうよおおおおっっ!」  抗おうとして私にも何回か愛撫を試みたみたいだけど、それより先に不二咲君のほうが限界で、絶頂を迎えたようだ。  勢いよく射精をする。それを口で受け止めようとするけれど、大半は零してしまった。  受け止められた一部の精液を飲み込むと、少し喉に絡んだ感覚があった。 「は、はあ、はあ、はあ……」  不二咲君は、疲れ果てたかのようにして息を吐いている。  よほど興奮したのか、それとも口を動かし続けて呼吸をあまりしなかった結果なのかはわからないけれど。 「はあ、き、気持ちよかったよ、舞園さん……正直、男だってばれちゃったってなって、 それから舞園さんに、その、クンニしろ、なんて言われて……もうどうにでもなれ、なんて思っちゃってさ……」  そう、か。  不二咲君がやけに能動的だと思ったのは、男性だということが明かされて、半ば自棄になっていたからだったのか。 「でもこれで、もういいよね……じゃあ、ボクは部屋に戻るから」 「まだ、ですよ?」 「え……?」 「私はまだ、一回しかイっていません……まだ、満足できていないんです……っ」  今までなら、これで終わっていたと思う。                             だけど、今日は違う。不二咲君の一回で激しい絶頂を迎えたのに、まだ欲求が抑えられない。  きっと、長い間行為に及んでこなかったからだと思う。  もっと、奥まで欲しい。  もっと、大きいものが欲しい。  私は、今一度言う。 「不二咲君……もう一度、ベッドで横になってください」 「え、あ……でもっ……」 「お願いです……っ!」  迫力に押されたのか、不二咲君はもう一度こっちに戻ってきた。  不二咲君は、言われたとおりベッドで横になった。いわば、一番最初と逆の状況。  彼のそれは、さっき射精したものが少し残っていて、少し白い液体が見える。同時に、さっきより格段に小さい。  エッチな気分になると大きく……勃起する、というのは聞いていたけれど、こんなに違うものだなんて。  そういったことを考えながら、彼の上にまたがる。やっぱり、裸のままで。 「ほら……見てください……」  そういって私は自分の秘部を自ら広げる。不二咲君は、再度顔を赤らめた。 「目を逸らさないでください……さっき、不二咲君に弄られたのに、まだヒクヒクって動いてるんですよ? お願いです、不二咲君……舌とか指とか、そんなものじゃなくて」  そこで不二咲君のそれを掴む。途端に、大きくなるのがわかった。 「これで……私を、め、めちゃくちゃにしてください!」 「いや、でも、それはだめだよぉっ……」 「じゃあ不二咲君はいいんですか?  さっきの精液、すっごく濃かった、と思うんですけど……不二咲君も、その、溜まって……たんですよね」 「そ、そう、だけどっ! ボクなんかがそんな」 「シックスナインまでして、『ボクなんか』はないですよ……今の不二咲君は、私の相手をする権利を持っているんです」  もうすっかり膨れ上がってしまった不二咲君のそれを、私の秘部にあてがう。  それだけで感じてしまう。やっぱり初めてで騎馬位はだめだったかな、と思うけれど、引き止めたのは私だ。 ここで負けるわけにはいかない。 「ま、舞園さん、無理しなくても……」 「だい、じょうぶ、ですっ」  ちっとも大丈夫に聞こえない声で答える。  挿入しようとするけれど、襲ってくる快感、そして処女膜を突き破ろうとする痛みが邪魔をする。 「あく、ふっ……んんんっ……」   もう、すこし、でっ…… 「ん、んあ、ああああああああああああっっ!!」  入った。  いや、入ってしまった。突如迫り来る、相反する二つの感覚、知覚。  即ち、激情と、激痛。  赤い液体を垂らしながら、その両方を全身で感じる。 「くあ、ああっ……! 痛い、のにっ、んはあっ、き、気持ちいいですっ……!」 「うああ、あっ、まい、ぞのさんっ……痛いなら、ううっ、止めてもいいんだよぉ……?」  痛みに耐えるとか、そんな必要性を感じない。ただただもう一つの存在である快感に意識を持っていけば、解放されていくから……!  腰を軽く動かす。不二咲君のそれに絡みついていくような、独特の感性。 「それ、にっ! 舞園さんが初めてだったなんて! ボクなんかでぇっ……」     「そんな、何度も言ってるじゃないですか……く、ううっ、私は不二咲君を認めた、いえ選んだんです…… だから、自分を卑下なんてしないでください、うあっ! 不二咲君も、初めてですよね……」 「そぉ、だけど……ふぁああっ! ほん、とに、いたくないのぉ?」  不二咲君自身初めてのことで、相当な快楽を受けているはず。それなのに、彼の口から出るのは例外なく私のことを思っている言葉。  やっぱりさっきまでの彼は少し取り乱していたからこそ、私を追い詰めるような言葉を言っていたのか。 これが本来の彼。これが素の不二咲君。  こんな状況でも優しいなんて、  ___虐めたくなってくる。 「ふじさき、くんっ……私よりも、自分のことを心配したらどうなんですか、あ、くううっ! ほら、私はこれだけで終わりませんよっ!」  徐々に痛みが引いてきて、より感じてくる。  粘膜と触れ合う感覚、子宮の入り口に亀頭が当たる感触。  今まで痛みのせいで気付かなかったけれど、これは、何とも違う。  かつての自慰行為とも、さっきの不二咲君からの愛撫とも、まるで違う。 「う、ああああああっ……まい、ぞのさんっ!」  ようやく不二咲君が感じていることを漏らした。喜びたい所だけど、そんな余裕はない。  気持ちいい、なんて言葉では表しきれないくらいの巨大な、強大な、甚大な感情の渦。  耐えられない。  『これだけで終わらない』というのが、自己の意識と別に具現化される。 「あくっ、あっ! ひい、いああああああ! やだっ、腰がかって、に……う、うごいてっ!」  強烈な心地良さが、体と精神に齟齬を発生させる。  ぱん、ぱん、と肌同士がぶつかり合う音、そして  じゅぷ、じゅぷ、と結合部から聞こえてくる音。  どちらも淫靡で、いっそう私の気分を高揚させる。 「まいぞの、さんっ……ボク、おかしくなっちゃいそうだよぉっ……」  おかしくなってしまいそうなのは、私も同じだ。でも、対抗心が生まれてしまった。 どこまでも、不二咲君を蹂躙したいというその欲望に従っていく。  下半身は血と愛液、上半身は汗と涎に塗れたその体。もはや快感を追うことだけしか考えていない、私の意志が介入できない、その体。  それでも、私は言葉を発する。紡ぐのではなく、発する。 「どう、ですか不二咲君……! ふああっ、また、イっちゃいそうなんじゃ、ないですかっ!」  精一杯の挑発。  快楽によって言うことを聞かない体でも、疲労位はある。  このままだと絶頂を迎える前に、そっちの限界が来てしまうかもしれない。  不二咲君はこの性交の中で、殆ど動いていない。だからこそ、その最後の一手を行う。 「休ませませんよ、ふじ、さきくんっ……! はあっ、ああっ、今度はっ! 不二咲君が前から着いてくださいぃっ……」  全力を使って、挿入を一旦終わらせる。  不二咲君のそれが抜けて、脱力する。けれど、私はまだ達していない。秘部が、じんじんと疼く。 「はあっ、はあっ、ふ、不二咲君早く……」  彼も性欲には勝てない。極限まで刺激された状態から、そのエクスタシーを味わわずに弛緩されたというのは、 いくら不二咲君でも抗えない不満だろう。  私に近づいて、彼は言う。 「が、我慢できないよ、舞園さん__!」                             再び、そして改めてつながる。 「ひゃ、ひゃあああああああああっっ! こ、こすれてますううっ!」 「ふうっ、うああああっ……」  奇声、嬌声。立場的には私が犯される位置。  今度は動かなくても不二咲君が私を突き上げてくれる。それでも私は、言葉という武器を使って彼に発破をかける。 「はあ、ああああんっ! ん、ふ、じさき、くん……もっと、いいですよお? 遠慮なんて、しないでくださいいいいっ!」 「あ、あっ! でも、ボクも、気持ちよすぎてぇっ……」  ピストンが乱暴になる。望んでいた行為。  不二咲君自身が、私の中を掻き回している感覚。自慰よりも深く、愛撫よりも濃いその快感。  体裁どころか、理性もない。ただ二人、叫び、喘いでいる。 「くあっ、あああっ、んんっ!」 「は、はあっ! ううあああ……」  自分の膣内が収縮して、彼を締め付ける。より、動きが大きくなって、擦れる。 それが何よりも、気持ち良い。途轍もなく、途方もなく気持ち良い。 「ふあっ……ふじさ、きくんっ! おねがいです、ひゃあっ、もっと、よってくださいっ!」  両手を伸ばして、不二咲君を迎える。彼は何も言わずに、いや、何も言えないほど余裕がないのだろう。 それでも体を倒し、私と抱擁をする。  抱きかかえてみて理解できる、華奢な体。そして私を犯している体。  もう忘れられない。忘れたくない。 「わた、ひっ……! も、不二咲君が癖になっちゃいましゅううううううううううっ!」 「あ、ふあああああああああああっ!」  呂律が回らなくなった、その最上の興奮の中で、不二咲君の腰も、これまで以上に上下する。  限界が近いのだろう。良かった。ちょうど、私もだ。  かつてない激しさの中、二人同時に駆け上がっていく。 「ふじ、さきくんんっ! このまま、出しちゃってくらさいいいい!」 「もう、だめだよっ、ああ……っ!」 「「ああああああああああああああっっっ!!」」  絶頂。共に、二度目の。  私の中に、熱く、篤い不二咲君の精液が注がれる。  不二咲君は自身のそれを私の中から出すと、私の横に倒れてきた。 「はあ、はあ、はあ…………」  相当激しく動いていたのだから、無理もない。  わたしも、体力はもう枯渇している。  自分の秘部を見ると、赤と白のコントラストがあった。何よりも、卑猥だった。  二人して、余韻に浸っていた。……というより、燃え尽きていた。  だけど、本当にしてしまった。不二咲君と、その、せっくすを。  とりあえず欲求を解消することはできたけど、きっとまだ終わらない。  あの感触。  今でこそ性欲を失っているけど、またいずれあの感触を欲するときが来る。  だから、そのときは。  ……よろしくお願いしますね、不二咲君。  五分ほどあと、不二咲君は起き上がった。 「……それで、舞園さん、そのー……」 「?」 「あの、中、に……出しちゃった、よね」  (……心配いりませんよ、今日は大丈夫な日でしたから)  実際にはそうなんだけれど、やっぱり、利用してしまおう。 「ええ、だから、責任を取ってもらわないといけませんね……」 「え、ええぇ!? そん、なぁ……」  結局、私は不二咲君のことをどう思っているのか。  それがわかるまでは、この関係を続けよう。   もう一度、今度ははっきりと言う。 「よろしくお願いしますね、不二咲君」

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