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「しっかし、コレからどうしたもんか…」
写真は小泉に送りつけてしまった。手紙を偽装した事も近い内にバレるだろう。誰かに相談されているかもしれない。
写真からあのゲームが深く関わると悟られ、いずれは最も復讐を望むであろう人物として疑いが掛かるのは時間の問題だ。
島を出るにしてもやはり彼等と敵対したままではやり辛いしペコにも負担が掛かる。
「ぼっちゃん…」
辺古山がどうしたものか考えあぐねていた所に、ドアをノックする音が聞こえた。
重ね重ね述べてしまうが、この島に来てから九頭龍が他人からの訪問を快く受け入れた事は無かった。
「誰だ」
自然に返事を返していた。
『俺だ…日向だ。九頭龍、居るのか?』
「ぼっちゃん…」
不安そうにドアと九頭龍を交互に見詰める彼女の髪を撫でた。
「ペコ、此処でゆっくり休んでろ。あと…サイズ多分合わねぇだろうがコレ使えよ」
と、替えのシャツを掛けてやる。
ペコはただ頷いた。
『九頭龍?』
「ちょっと待てよ、今着替えてんだ」
早足で浴室に向かう。

「…わりぃ、待たせた」
日向が来てから十数分後に漸くコテージのドアが開いた。
「ああ、いや…こっちこそ急にすまない。シャワーでも浴びてたのか?」
「まぁな」
軽くシャツを羽織り、首にタオルを掛けているのを見て日向はそう言った。
「………」
「何だよ?俺の顔に何かついてんのか?」
「い、いや…何時もより反応が、その軟らかいかなぁ…なんて…」
「ん?…あぁ、まぁ…そうか?」
否定でもなく逆ギレでもなく、どっち付かずな反応。普段なら絶対有り得ない筈の反応に九頭龍自身も少なからず驚いた。
「…で、わざわざ訪ねてきて何の用だ?」
「…九頭龍、話があるんだ」
「お前が俺に?」
「正確には俺自身からじゃないんだが…大事な話だ。多分お前が一番心当たり有る筈だ」
急に表情を引き締めた様子からただの世間話ではなさそう…いや、どう考えても例の件絡みだ。
「…分かった」
「例え断られてもお前には絶対来て……え?」
「何だよ?」
「え…あ、いや…絶対嫌だって言われると思ってたから…」
「話があるんだろ?何で俺が断っ……あー…」
そう言えば、話がしたいからって所詮は他人等にホイホイ付いていく所か邪険にして追い払う、のが九頭龍のやり方だった。
いよいよどうかしてしまったらしい。
考えられる原因は…やはりアレだろうか。ペコのお陰かもしれない。だとしたらペコ効果恐るべし。
「ど、どうした?ブツブツ言ったりして…」
「あ…ああ、いや何でもねぇよ」
「それで…話の内容が内容なんだが当事者達だけで話をさせるのは少し心配だから、俺達全員で立ち会って話し合おう…
って七海の提案なんだけど、辺古山を見てないか?」
「ペコ…山がどうした?」
「いや、ソニアが女子だけでビーチに集まって親睦会を開く話をしたのに時間になっても来ないし、
島中探しても見当たらないから女性陣が心配してるみたいなんだ。
ソニアは泣き出すし西園寺はお前が何かしたんじゃないかって言い出すし、小泉は特に一生懸命探してたんだ…
それでなくとも何処かで具合悪くしたり怪我して無かったら良いけど…」
又聞きにしては日向の表情にも不安の影が見えた。日向なりに彼女を心配しているのだろう。
仲間に対するそれ、にしては妙に焦りも見える。
「…だってよペコ。良かったじゃねぇか、色んな奴に気に掛けて貰って…」
九頭龍が後ろを振り向いたのと辺古山を名前で呼んだのを日向が疑問に思う間もなく。
「皆大袈裟ですね…私が言えた義理ではありませんが」
ドアの隙間から、眼鏡を外し明らかにサイズの合わないシャツで前を隠す裸の辺古山の姿が見えた。

「辺古山…」
「私なら此処だ。要らぬ心配をさせてすまなかったな日向」
首筋には赤く鬱結した痕すら見える。
その姿からは明らかに『偶々立ち寄っただけ』とか『具合が悪くて休んでいた』とか、そんな誤魔化しをされてもとても信じられない。
日向は一瞬動揺したが、直ぐに平静を取り戻した。
「…仲間だからな。何ともなくて良かった。辺古山、お前も一緒に立ち会ってくれないか」
「ああ、構わないが4,5分だけ時間をくれないか?少し汗を流したい」
「…良いさ。あまり急がなくて良いから」
「かたじけない」
「俺も外で待つぜ。女の着替えはジロジロ見るもんじゃねぇからな」
辺古山は微笑んで身支度をシャワーを浴びようと動く。
「つう訳だ。日向、ちょっと離れてろよ。俺が出辛いし…これ以上ペコの素肌を無断で拝ませる訳にはいかないからな」
「ああ…」
二人がドアの外で会話無く待つ事4分、
「待たせてすまない。行こうか」
出てきた辺古山は普段通りの身嗜みの整った格好と落ち着き払った雰囲気に、さっきまでの艶やかで無防備な姿が幻覚か
何かの類いに感じられて、女性の知られざる一面に二人は驚くのだった。

「俺は九頭龍、お前を糾弾したいとか問い詰めたいとかそんな気はない」
「そいつはつまり…現段階で俺に対する疑惑が濃厚だっつう事だろ?」
「………すまない」
「構わねぇよ、疑われんのは慣れっこだ。ペコもそんな顔すんな」
「………」
出来ればヌイグルミ共に邪魔されたく無かったが旧館には狛枝がいるし先の事件を思い起こすので、結局レストランで話を
するとの事だった。
旧館を閉め切ってもモノクマが入ってこられたのだから何処に居ても無駄だと開き直ったのが最もな本音かもしれないが。
レストラン入ると、辺古山の姿を見つけた他の女性陣が駆け寄る。
ソニアや罪木はいきなり泣き出すし、澪田は抱きついてくるし、西園寺は文句を言いつつも涙目だし、小泉は両手を握って
きて無事を知ると安心したのかその場で崩れ落ちたりするから辺古山は酷く戸惑う。
「おう、辺古山見付かったのか!オレすげぇ探したのに全然分かんなかったぜ」
「オメーは早々に飽きてココでひたすらメシ食ってただけだろ!」
左右田のツッコミに気を悪くした様子はなく、終里はひたすら食べ物で頬を膨らませていた。
「ん?アレ?…何か急に食いもんが美味くなった?何でだ?」
首を傾げながらも、何処か雰囲気が穏やかになった気がする。成る程、終里なりに辺古山を気に掛けていたのだろう。
「辺古山さん…何ともないようだね」
「七海か、心配を掛けたな。終里もすまなかったな」
終里は首を傾げてひたすら食に没頭した。左右田はツッコミを放棄したみたいだ。
しかし、誰からともなく九頭龍の存在に戸惑い、或いは警戒し始めると和やかな雰囲気が霞んだ。
「あ…あのぅ…どど、どうして辺古山さんと九頭龍さんが一緒に来たんですかぁ?
お二人共何だかとっても仲良しさんに見えま……ふああっ!?
ごめんなさいごめんなさいっ私なんかが気にする事じゃないですよね!ごめんなさいごめんなさいっ!」
意外にも罪木が切り出したものだから途端に周囲が騒ぎ出す。
「あれ?辺古山?虫に刺されたのか?首のとこいっぱい痕が付いてるみてーだけど」
白粉で隠したハズなのに、よりによって終里に指摘された動揺から首元を隠す素振りをしてしまった。
更なる疑念でいよいよ周囲が落ち着かなくなる。が、
「皆落ち着いてくれ!俺達はそんな話をする為に集まった訳じゃないだろ?」
日向の一声で一同は鎮まった。しかし誰もが妙な困惑を隠せないでいた。
九頭龍と辺古山は少しバツが悪そうにお互いを見合わせた。

テーブルで九頭龍・辺古山と小泉・西園寺・澪田・罪木が向かい合わせに座る。
両陣の間を取り持つように日向が立っている。
周囲に他のメンバーが思い思いの表情で佇んでいた。七海が日向の後ろに控えている。
「ちょっと、何で辺古山おねぇが九頭龍の隣に座ってるの?あの話に全然関係ないじゃん」
「…つう事はやっぱりあのゲーム絡みの話か」
九頭龍が核心を持ち出した。
「まあ、目の前でこれ見よがしに見せ付けられたら下手な言い訳する気にならねぇしな」
自嘲気味に一蹴した九頭龍の前には、大きめの封筒とその中身とおぼしき数枚の写真…それから金属バットと2通の手紙。
「九頭龍、コレらに見覚えあるか?」
日向が穏やかでありながら厳しい眼差しでテーブルの上の物を差した。
「見覚えあるも何も、俺が小泉に送り付けたモンとビーチハウスに隠しておいたモンと偽装して小泉と西園寺に送り付けた
モンじゃねぇか」

悪びれも慌てもせずすんなり認める。
「じゃあやっぱりアンタが…!」
西園寺が勢いよくテーブルを叩き付け立ち上がる。
「西園寺!」
「日寄子ちゃん、落ち着いて」
「でもっ日向おにぃ、小泉おねぇ!」
「俺達は冷静に話をする為に集まったんだ。言い争いをしに来たんじゃない」
「う…うぅ…」
渋々座る西園寺は、しかし批難の眼差しを九頭龍から外す事はなかった。
「…此処に居る連中の中であのゲームをやったか内容を把握している奴がどれだけ居るんだ?」
九頭龍からの問いに各々が各々を見合わせた。
終里や田中は明らかに興味なさそうにしていたが、それ以外の人間は程度の差こそ有れども概ね理解しているようだった。
「今更説明するまでも無いって言われるだろうが再度の確認と、全員の持っている情報の差違を無くす為にも順を追って
説明しようと思う。…当事者の皆には辛い思いをさせるだろうが…」
第三者である日向が説明するのは当事者達の視線による先入観が混じった説明では後々議論の支障になりかねないのと、
全員が冷静に考えられるようにする為の配慮だ…と、弐大からの指摘に対する七海の弁解である。
「話をまともに進める為にも、これからどうするか考える為にも必要なんだろ?妙な遠慮しねぇでとっとと始めてくれよ」
「…すまない、九頭龍。…小泉達も良いか?」
4人共に頷いた。
日向が話してくれたゲームの内容…事件のあらましやトリック、真犯人については九頭龍からは特に口を挟む気が起きない位
完璧で分かりやすくて…ある意味でやはり残酷だった。
話終わる頃には誰もが沈黙に支配され、説明していた本人も全て説明しきった途端両手をテーブルについて暗く俯いた。
七海が小さく「お疲れ様…」と声を掛ける。
沈黙は意外と直ぐに破られる。
「…E子を…私の親友だったって言うサトウ、さんを殺したの…九頭龍…アンタなの…?」
「…………」
「ちょっと、何ダンマリ決め込んでんのよ?小泉おねぇの質問に答えなよ」
「…俺は何も覚えちゃいねぇ……」
「そんな言い訳通じると思ってんの?!」
西園寺が掴み掛かろうとした瞬間、西園寺は寒気で背筋が震えた。
「…辺、古山…おねぇ……?」
「口を慎め、西園寺」
西園寺の首筋に触れるか否かの距離にペン先があった。
後少し辺古山の殺気に気付かせて貰わなければペン先は確実に西園寺の首を貫いていた。
「どう、して……」
「私の前でこの方への無礼は許さん」
「な…何でそんな奴庇うの…?…さてはアンタ、そいつに何か脅されてんの?言う事聞かなきゃ道場潰すとか…」
「口を慎めと言ったのが分からないか?」
紅い瞳が狂暴に煌めく。
「誰からも嫌われるようなヤクザ野郎にペコペコしてるなんてっ“超高校級の剣道家”さんも落ちぶれたものだよねぇ…!
ああ、アンタの名前“辺古山ペコ”だったよね!?ペコペコすんのが趣味って訳?」
怒りか恐怖からか…それとも自棄か、西園寺は震えながらも辺古山に対する挑発を次々とぶつけていく。
「二人共いい加減にせんかぁ!!」
「止めろ西園寺!辺古山も落ち着け!」
「はわ…はわ…!?」

「止めねぇかペコ!!!」

騒然となり掛けた所に響く怒号。
「……!」
一同は固まり、辺古山の殺気が霧散した。と同時に辺古山はすぐさま佇まいを正し九頭龍に向き直った。
「しかし、この者は…」
「みっともねぇ言い訳すんな!カタギ相手にマジになってんじゃねぇぞ!お前は加減を弁えろと何時も言ってんだろ!!」
「申し訳ありません…」
床に膝を付け、九頭龍に頭を下げた。
「西園寺に詫び入れんのが先だろうが!」
「は…!…西園寺」
「な、何…」
「脅かすような真似をして申し訳ありません…」
深く頭を下げる。
「え…あの…」
辺古山から素直に謝罪をされ、西園寺は毒気を抜かれ戸惑う。
「…席に付け。次はねぇと思ってろ」
「はっ」
言われた通り大人しく席に付いた。
「西園寺、ビビらせちまって悪かったな。コイツ俺の事になると女子供でも加減を知らねぇからな」
「わた…し、ビビってなんか…!」
「けど、コイツの脅しに噛み付いてくる奴は初めて見たぜ。度胸あんのな、見直したよ」
「………!」
西園寺は無言で目に涙を溜め、小泉にすがりついた。
何時もなら直ぐに泣き出す西園寺が屈せず立ち向かったのは小泉を思ってが故の行動だろう。
周囲は息を飲んだ。
忘れていた。九頭龍冬彦は国内最大の暴力団九頭龍組の跡取り候補であり、“超高校級の極道”だ。
見た目で舐めて掛かっていい相手ではない。
日向は額に滲む汗を拭う。
「…辺古山さん、そろそろあなたの事について説明して貰えるかな?皆今ので困惑してるだろうし」
七海が切り出す。
「そういやちゃんとした説明がまだだったか。ペコ話してやれ…これ以上の隠し立ては無駄だからな」
「私は物心付く前からこの方…冬彦ぼっちゃんをお護りする為だけに存在し生きてきた九頭龍組の…いえ、九頭龍冬彦様だけ
の“道具”であります。 私の役目はぼっちゃんの意思を代弁し、望みを遂行する事…あらゆる苦難から防ぎ護る盾であり、
あらゆる災厄を切り払う剣にてございます」
立ち上がった辺古山は恭しく一礼した。
「“道具”…?」
「コイツは赤ん坊の頃捨てられてたのを組頭…俺の親父が拾って以来、そうするよう育てられた…要は俺専属の護衛でヒットマンて所だ。
親父が勝手に決めやがったんだがな。あと“道具”は止めろ、ペコ」
「じゃあ辺古山の言ってた幼馴染みって、九頭龍の事だったのか?」
辺古山は頷く。
「時々九頭龍くんに連絡をしてくれてたのは偶々引き受けた訳じゃなくて、辺古山さんにとっては当たり前の事だったんだね」
「何だよソレ…道具とかヒットマンとか…関係無い振りして俺達を騙してたのかよ?」
左右田が嫌悪と疑惑の眼差しを向ける。
「手下と一緒に島に連れてこられるなんて都合良すぎだろ!覚えてねぇなんて嘘なんじゃねぇのか?本当は忘れた振りしてるだけなんだろ!
今回の件もオメー等二人が共謀して小泉と西園寺をぶっ殺そうと……!」
「おやめなさーーーーい!」
ソニアが一喝した。
「お二人方にも事情が有ったのでしょう。それに主を護る者が世間に溶け込む場合、普段からそれを公言するのは一般生活や護衛の際相手に
要らぬ警戒心を 抱かせてしまい行動に支障が出てしまうものです。こんな状況でなくともばか正直に話すのは愚の骨董品です!」
「骨頂、だね」
「それでなくともお二方に対して言葉が過ぎるのでは無いですか?手下や道具…殺人鬼呼ばわりなんて…お二方に失礼です!」
「いや、道具云々は辺古山自身が言い出しっぺですし殺人鬼までは言ってませんが……」
とか何とか言ってた左右田に冷ややかな視線が集う。
「え?え?何?何コレ?もしかして俺が悪いのかよ!?何だよソレ!理不尽じゃねぇか!」
「左右田はもう良いだろ。話を戻すぞ」
「おい!日向テメェ!もう良いってなんだよ、もう良いって!」
「それで、今回の件は九頭龍と辺古山の二人が仕組んだ事なのか?」
「…殆んど俺だ。ペコは少しだけ手を貸してくれただけなんだ」
「どっちが何だろうと関係無いわよ…」
西園寺の声が鋭く響く。
「アンタ達が私と小泉おねぇを会わせないようにして一人ずつ誘き寄せて殺すつもりだったんでしょ?そこの金属バットで!」
「何でそう思った?」
「と、惚けないで!あのゲームでアンタの妹殺されたんでしょ!?
犯人らしきE子はもう居ないから代わりにE子と関係有りそうな私達を始末しようって企んだんじゃないの!?」
「ふぇぇっ!?」
「そ、そうなんすか冬彦ちゃん?!」
「……狙ってたのは小泉ただ一人だけだ。他には興味無ぇよ」
「「「!?」」」
「あの話が本当ならE子と共犯関係にあったのは小泉だけだろう。…お嬢様を見ぬ振りをしていた貴様等に憤りを感じぬ訳ではないがな。
だから小泉が一人になるよう仕向けたんだ」
「それで手紙の偽装か…なら何で西園寺を先に呼んだ?西園寺への手紙には小泉より早く時間を指定していたみたいだが……まさか」
「本当に察しが良いな…日向…」
辺古山は降参したかのように首を横に振る。
「西園寺だけと待ち合わせしてるんだったら…上手く使わない手はないだろ?罪を擦り付ける相手としてな」
九頭龍の言葉に西園寺はいよいよ絶句した。
「こ、こここコイツ等やっぱアッチの世界の人間なんだ!人殺すのに何の躊躇いもないって面してやがるっ!
コイツ等も狛枝みてぇにどっかにふん縛った方が良くねぇか!?野放しにしてたらゼッテー何かやらかすって!」
「左右田さんはもう良いでしょう。その余計なお喋りしかなさらないお口を一切合切閉じていて貰えませんか?」
「ソニアさんっ?!」
「左右田うるせーぞ、飯が不味くなんだろ」
「………」
終里にまで邪険にされてしまった左右田はもう良いだろう。
「…良いよ、もう」
「小泉?」
「二人が私をどうしたかったとか…もう良いの。だって二人共そんな気はもう無いんでしょ?」
「………」
「………」
「小泉さんの言う通りだよ。二人がまだ小泉さんに対して何かする気なら今此処でお互い向き合ってないだろうからね。
…二人共ありがとう、思い止まってくれて」
そういった七海の声には何処か感極まったような安堵したような…そんな風に聞こえた。
「礼を言われる筋合いはねぇよ、七海」
「…これで日寄子ちゃんや罪木ちゃん達にも何かしようとしたんだったら許せないけど…私だけなら……」
「小泉…」
「おねぇ…」
「でも日寄子ちゃんを巻き込もうとした事には謝ってね…」
「分かってる…西園寺、本当にすまなかった」
九頭龍が両手を付いて西園寺に頭を下げた。
「わ、私は…別にっ…!」
返答に窮してしまい西園寺は何も返せず俯いた。
「ねぇ…二人にとって妹さんてどんな人?」
「…アイツとは口喧嘩とかどつき合いが絶えなくて…本当にクソ生意気な奴で…入学の時の見送りだって憎まれ口しか叩いてこなくて…。
それでも組の連中や後輩の面倒見良くて人当たり良くて…俺なんかよりよっぽど組の跡取りに、極道に向いてて…
…俺にとっては世界で一番可愛い“超高校級の妹”なんだ…」
「…ぼっちゃんの言う通りです…“道具”である私などにも色々気に掛けて頂いて…放課後や授業の無い日はよく色んな所に同伴させて頂いて……。
今思えばぼっちゃんとの事も気を回して下さったのだろう……世間から見てぼっちゃんが幼馴染みなら、お嬢様とも幼馴染みなのでしょう…
とても大切でかけがえの無い、な…」
ポツリポツリと語る二人は何を思い巡らせているか。きっと幼い頃から数え切れない程の彼女との想い出が二人を満たしているのか。
彼女と過ごした自分達を互いに思い浮かべているのだろう。日向は涙を堪えた。二人が余りに優しくて哀しい微笑みと声色で語るものだから。
「そっか…ありがとう…妹さんはきっと素敵な人で幸せなんだろうね…二人からそんなに思われてるんだから…」
「…ありがとな……」
小泉は目を伏せた。何を思うか、彼女の表情からは図りきれない。
「私は…きっと彼女…サトウさんとは学園に入学した後に仲良くなったのかな……サトウさんの事何も知らないし…覚えてないの……
……親友だって言われても全然ピンと来なくて ………これじゃサトウさんが可哀想よね……肝心の私が何にも覚えてないんだから…」
「俺にとってソイツは入学前から何の心当たりも興味も無いし、妹の仇でしかねぇ…けど、根は腐ってなかったんだと思うぜ…
…小泉、テメーのダチなんだからよ」
「…………ありがとう………けど…やっぱり…」
小泉は悲しげに首を横に振る。
「私、何もかも覚えてない…覚えてないのに、親友がいたとか、殺されてたとか…その親友が人を殺して…その家族や幼馴染みを悲しませて
…それが私の為だって… …そんなの何も知らない…知らないのに…見なかったフリなんて出来なくて……本当なら償わなくちゃいけない…
…でも、私も大切な人を奪われてる…それも親友が奪った人の家族に …目の前の仲間に……色んな事がぐちゃぐちゃになって…どうしたら
良いのか分からない……!」
…小泉が本当に償いたいと、ただそれだけを思っていたなら、とっくの昔に自分から切り出して何度でも詫びを入れようとしただろう。
例え覚えがなくても、許しを得られなかったとしても。
それを今日この時に至っても出来なかったのは、受け止めるには余りにも残酷で重すぎたから…。
「でね…改めて聞かせてくれる?サトウさんを殺した犯人が誰か、九頭龍…アンタ心当たりある?」
「…イヤな聞き方だな……あの状況と登場人物から見て、どう考えても俺しか居ねぇだろ」
「いえ、それは有り得ません」
「辺古山?」
「ペコ、お前何言って…」

「あああああのぅ…あのゲームには私達や九頭龍さんがモデルになってて…九頭龍さんの妹さんを奪われた恨みをこれでもかって位強調
されてたと思うんですぅ…。 辺古山さんが庇いたい気持ち分からなくないんですけど…」
「ぼっちゃんが強く恨まれてたのならば尚更だ。ぼっちゃんは犯人ではない。E子を、サトウを殺したのは……私だ」
「は…?」
辺古山の言葉に誰もが唖然とした。
「…そう思う根拠は何だ?聞かせてくれ辺古山」
日向は出来る限り冷静に問う。
「言った筈だ。私はぼっちゃんの意思を代弁し望みを叶える為だけの存在。ぼっちゃんがお喜びになられるなら何だってするし、
誰かの存在を疎ましく思われれば代わりに排除するまで」
「辺古山…お前…!」
辺古山は立ち上がり毅然と言い放つ。
「ぼっちゃんの“道具”である私が、お嬢様を奪われた悲しみと憎しみに心痛めるぼっちゃんを見てるだけなど…出来る訳ないだろう」
辺古山の表情が悲しんでいるようにも微笑んでいるようにも見えた。
「なんと…辺古山は“失われし記憶の所持者(ホルダーオブロストメモリアル)”だったと言うのか…!?」
「田中、私がそんな記憶等持ち合わせていればこの島に連れて来られた時点で手を下すさ。
…確かにぼっちゃんは図り知れぬ程の殺意を抱いたのかも知れない。
だが、その殺意を受け止め晴らすが“道具”たる私の役目。だから…恨むなら私を恨め。ぼっちゃんは何も関係無い」
「ペコ!」
辺古山は立ち上がろうとした九頭龍を制す。
「よいのですよ、ぼっちゃん」
「何が良いんだよ!お前自分が何言ってるのか…」
「分かっております。…言ったでしょう?貴方に振り掛かるあらゆる危険や困難を切り払い貴方を守護するが私の役目。
貴方に向けられる憎しみも恨みもまた然り。 例え覚えなき真相がどうであったとしても」
「お前……!」
辺古山にとって真相等どうでも良かった。
悲しみも憎しみも怒りも何もかも、行き場無き感情が主に向けられ苦しまないように。ただその一心だった。
「小泉、お前の友の仇は此処だ。好きなようにしろ」
そう言って小泉達の方に向かう。
「小泉が嫌なら別に西園寺でも澪田でも罪木でも構わないんだぞ。お前達の友を奪った罰は幾らでもこの身で受けよう」
これで主も、皆も互いに啀み合わずに済むなら…。
「おい!ペコ!」
「……」
小泉が無言で立ち上がる。そのまま辺古山に向き直る。
「小泉、待って…待ってくれ!コイツは…」
小泉の左手がテーブルに付く。直ぐ近くには金属バット。誰もが手に取ると焦り危惧した瞬間――――。


パンッ!


何かが弾けるような、軽い打撃音。
辺古山は何が起きたか…否、何故それが起きたか理解出来ず、思わず右頬を押さえた。
「こ…い、ず……」
頬に滲む痛み…叩かれた、と自覚して辺古山は超高校級の剣道家として、そして裏稼業で生きる人間として有り得ない位呆然となる。
「バカ…!」
そんな事を主以外に言われたのも初めてで。
「何が“道具”よ…何でそんな風に自分を粗末にしようとするの…?
皆が…九頭龍さえ無事なら自分はどうなっても良い?ふざけんのも大概にしなさいよ…!」
「私はっ…ふざけてなど…!」
小泉が辺古山の両腕を掴む。
「こんなにも温かいのに…血が通ってるのに…私や皆と一緒のクセして…九頭龍の事必死で庇おうとしてるクセに…
何をどう考えたら“道具”なんて言葉出てくる訳…?」
震える声で絞り出す。辺古山の胸元に顔を寄せては伏せる。
「私が出会ったのも話をしたのも友達になったのも…辺古山ペコちゃんってたった一人の“人間”なんだから…」
「とも…だち…?小泉が…私を……?」
「そうよ…友達を憎むとか…傷付けるとか…友達の大切なヒト恨んだりなんか…出来る訳無いじゃない…」
「………」
どうしたら…どう反応したら良いか分からなくて、辺古山はいよいよただ立ち尽くす事しか出来なかった。
そんな二人を見て九頭龍は胸を締め付けられた。不意にテーブルに置かれた写真に目をやる。
罪木達。妹の死体。割れた花瓶。そしてサトウの死体。
「………」
小泉はペコの事を"友人”と言ってくれた。こんな写真が有っても無くても…そう、こんなもの無くて良かったのだ。
「……何で…何で…こんなの……」
小泉は写真に手を伸ばす。
「…こんな写真…知らない……撮った覚えなんてない………ないのに………凄く見覚えがある……これアタシが撮ったやつだ……」
“超高校級の写真家”である小泉が、自分の撮ったものを見違えるなど有り得なかった。
「何で……こんなの……撮っちゃったのかな………こんな…悲しいだけの訳分かんない写真なんか…
…信じらんない……嘘だって言いたいよ……」
「くっ……!」
九頭龍は拳を強く握り、苦渋の表情を浮かべた。
辺古山が庇うのも、小泉が苦しんでいるのも、皆が戸惑うのも全てあのゲームが発端…いや、あのゲームをよりにもよって登場人物のモデルの
一人である九頭龍がクリアしてしまったのがそもそもの始まりで。
「初めからあんなゲーム…やるんじゃなかったなぁ……畜生っ……!」
他の誰かがやった所で混乱は避けられなかったのだろう。
それでも九頭龍は後悔してもし切れなかった。
本当にあのゲームは…失われた記憶の裏に隠された忌まわしき事件は、絶対に紐解いてはならぬ“パンドラの箱”だったのだ。

「九頭龍、小泉」
突如、俯いたままの日向が口を開く。
「お前達はお互いの事、どう思っているんだ?この写真を見て、あのゲームをして…お互い居なくなれば良いと思うか?
コロシアイたい程憎くて、嫌いなのか?」
その手に写真を携える。
「冗談じゃねぇよ…あんな胸糞悪い裁判や処刑に、ペコやペコをダチだって言ってくれた奴を巻き込んで堪るか!」
「わ…たし…コロシアイなんかしたくないっ!九頭龍は確かに生意気でムカツクけど、親友を奪われたかもしれないけど、居なくなれなんて
思ってない…思いたくない… 誰かを憎んだり恨んだりなんかしたくない…!」
それを聞いて日向は………写真を一気に破りだした。
「日向くん!?」
「ちょっと日向!?」
「お、おいっ」
誰かが止める間もなく写真は粉々に千切られる。
「日向…?」
呆然としていた辺古山が不思議そうに見詰める。
「あんなゲームも、こんな写真も…無かったんだ。初めから」
「日向?お前何言って…」
「九頭龍も小泉もコロシアイなんて…憎み合うなんて嫌なんだろ?じゃあ忘れちまえよ、全部…何もかも!」
「忘れるとかお前…」
「か、簡単に言わないでよ!人が、お互いの大切な人が亡くなって……」
「それが何だってんだよ」
「「なっ!!?」」
「こんなの…あの鬱陶しい生き物が勝手に用意して渡してきたもんなんか信じて堪るかよ、アイツが作ったツマラナイ脚本真に受けてられるか!」
「しかし、日向…これは…」
「じゃあ、辺古山。お前はどっちを信じるんだ?あの胡散臭い生き物か?それともお前が世界で一番大切で守りたい人の妹か?
九頭龍も小泉もどうなんだ?あのクマか、それとも妹と親友か?」
そんな言い方、ズルい。そんな事聞かれたら答えは一つしかないじゃないか。
「お前達の大切な人達はあんな妄想話で殺されて良いのかっ?」
欺瞞だって言葉遊びだって言われたって構わない。友達が、仲間が…啀み合ってコロシアイをしなくて良いのなら。
何時の間にか日向は涙を堪えていた。七海が優しく見守る。
「私には……あのお嬢様がそう容易く殺されるなんて思えません……でしょう、ぼっちゃん?」
「…誰かを傷つけてその家族や友達を悲しませたり苦しめる人が私の親友な訳ない、よね?」
辺古山は九頭龍に、小泉は西園寺達に向き直って問う。まるで自分に言い聞かせるように。

議論はこれにて終幕と相成った。

 ***

「…じゃあ、仲直りの握手だね」
何が“じゃあ”なのか、落ち着きなくもどかしい沈黙を七海は突然打ち崩す。
「握手って…」
「だって九頭龍クン達も小泉さん達もこれで仲直りしてこれから仲良くしていくんだよね?
だったら先ずは仲直りとヨロシクを兼ねて握手は必須……と思うよ?」
「「な、何でコイツと握手なんか…」」
九頭龍と小泉の声がハモる。
「早速息がピッタリで良い感じだね、これは尚更握手が必要だと思うのですっ」
「ぅ…う…」
「えっと…」
「じゃあ、小泉さん、辺古山さんと握手出来る?」
「それは勿論…」
小泉は左手で辺古山の左手を取って握手する。

「九頭龍、辺古山とだったら握手出来るだろ?」
何かを察知したのか日向が九頭龍に問う。
「…たりめーだろ」
九頭龍は右手で辺古山の右手を取って握手する。
「え…あの…二人共…」
辺古山が戸惑うより早く日向と七海が素早くテーブルを回りこみ、七海が小泉の左手を、日向が九頭龍の右手を取って引っ付き合わせた。
「な!」
「ちょっ!」
「これで二人共…」
「仲直り、だな…」
悪戯っぽく笑う日向と七海に、九頭龍と小泉はしてやられたと言う顔をした。
「あの…日向、七海…」
両手を拘束された形になってしまい、4人の顔を忙しなく見渡す。
「辺古山ともコレで仲直りで、ヨロシクだな」
困ったのか照れたのか、恥ずかしそうに俯く彼女を見て九頭龍も小泉も思わず吹き出した。
「日寄子ちゃん達も!」
「え…?」
「そうだよ、西園寺さん達も一緒に握手しよう」
「け、けど…」
「えっと…えっと…!」
「……」
澪田が戸惑う西園寺と罪木を見遣り……。
「ほらほら二人共、唯吹達も握手するッス!創ちゃんや千秋ちゃんばかり良い思いさせてらんないッス!」
「ひああっ!?」
「ちょっとぉ!!」
意外に力のある澪田に引っ張られ、二人が抵抗する間もなく3人揃って日向達と手を重ねた。
「唯吹も日寄子ちゃんも蜜柑ちゃんも皆と仲良しあーくしゅ!にへへっ」
「握手と言うより…手合わせに近い気が……」
「ちょっとゲロブタ!汚い手で触んないでよ!」
「ふああああっ!?ごめんなさいごめんなさいごめんなさいっ」
悪態をつきながら、泣きながらも…決して不快に思っている節は見られなかった。
「皆さんばっかりズルいです!私達も握手したいですっ」
ソニアが羨ましそうに疼く。
「当たり前だろ!皆仲間なんだからなっ」
日向の言葉に可憐な笑顔が花咲く。
「そそそそそソニアさん!俺と一緒にあああ、あく………」
「田中さん、参りましょう!」
「フン、メス猫め…忘れたか俺様の左手には封印されし……おいっそんな強く引っ張るな!
俺様は今我が内に潜む邪悪な魔王を押さえ込んでい…
…!!…あ、あたっ…何かあたって…っ!」
左腕を強く抱えられ、その腕に伝わる柔らかい感触に田中は翻弄されながらもソニアに連れられた。
「…………………」
左右田の視界が歪んで霞む。
「何だ何だ?皆何やってんだ?」
「ガッハッハ!終里も参加せい!ワシらの結束を固めるいい機会……何じゃ、左右田。何をそんなに泣いておる?みっともない」
「はい…みっともないですよね…はい……」
「いっちょ前の男子が輪に混ざるのを躊躇ってどうする…仕方ないのう」
「すいません…何か…すいません……本当……」
左右田の有様に憐憫の眼差しを向けつつ、弐大は彼の手を引いて終里と共に輪に混じる。
重なった左右田の手には熱く逞しい弐大の手の感触が大いに与えられた。
本人の意図に因るものではないが…終里に阻まれソニアとは爪先すらも掠らない。

日向、七海、小泉、西園寺、澪田、罪木、ソニア、田中、弐大、終里、左右田、
そして…敬愛する主…いや、心から最も愛しく思うたった一人の人…

「ぼっちゃん……冬彦さん……」
「…ん?何か言ったか?」
「いえ、何も…」
「?」

ああ、そうか。
私は今…とても幸せな“人間”なのか。

―――

「日向、ありがとう」
「ん?辺古山、どうした急に」
「お前には色々感謝している。今回の事も…以前相談に乗ってくれた事も…」
「ああ、いやそんな大した事…」
日向が照れくさそうに頬を掻く。
「いや…お前が私に“笑顔”の作り方を思いださせてくれたから私はぼっちゃんの前でちゃんと笑う事が出来た。
最終的にはぼっちゃん自身が思い止まって下さったとはいえ、な」
「九頭龍にお前の笑顔見せれたのか?」
辺古山は頷く。
「………」
きっと九頭龍が苦しい時に彼女なりに慰めようとしたのだろう。
その想いが彼に伝わった…だから、今こうして誰も傷付かずに笑い合っている。
以前辺古山が小泉の写真を見て笑顔は人を暖かくさせると言っていたことがあった。
今なら分かる。笑顔の力はとても凄いもので伝染するものだ、と。
辺古山の笑顔が皆の笑顔を引き出してくれた…日向にはそう思えて仕方なかった。
「礼を言うのは俺の方だ…本当にありがとう」
「わ、私は…何も…」
ほんの少し戸惑ったが、直ぐに柔らかく微笑んだ。

パシャ!

シャッター音が横から聞こえ、フラッシュに驚く。
犯人はただ一人しかいない。
「こ、小泉!?」
「ペコちゃんの笑顔GET!…やっと撮れた」
「やっと?」
「皆の中で笑顔の写真が撮れなかったのペコちゃんだけだったから……念願の夢が叶ったみたいで凄く嬉しい…」
「小泉…」
「やっぱり私こうでなくっちゃ。皆の色んな笑顔の写真を撮っている方が一番らしく居られる。
あんなの…嘘っぱちだったのよ」
「小泉、あんなのって?」
「…さあ?何だったかな?忘れちゃった」
日向と小泉のわざとらしい会話に辺古山は口出ししなかった。辺古山にも何の事か心当たり無かったのだから。
「あっと、こうしちゃいられない!ペコちゃんも手伝って、赤音ちゃんが片っ端から食べちゃうから料理が追いつかないの!」
せっかくの機会だから突発で懇親会を行うことにしたのだった。その為に料理やら何やらを作っている最中だったのだ。
「ああ……よせっそんな強く引っ張るな、おい…!」
忙しなく走る二人を日向は優しく見守る。
「日向くん」
「七海…」
「良かったね…」
「ああ…」
少し寂しさを含んだ眼差しを辺古山の方に向けた。
「日向くん?辺古山さんがどうかした?」
「ああ、いや…アイツの幼馴染で好きな奴が九頭龍だったんだな…って」
その笑顔にほんの少し切なさを含ませていた。
「もしかして辺古山さんの事……」
「正直この島に居る間なら少しはチャンスあるかなー、とか思ってたけど…肝心の相手が最初から一緒だったんじゃなぁ…」
七海には掛ける言葉が思いつかなかった。
「日向くん………行こうか。皆てんてこ舞いみたいだから」
だから誘う。騒がしくも楽しいお祭り騒ぎに。


 ***


「…あれ?」
一人の男が外からの階段で上がってくる。
「皆何をしてるのかな?」
旧館で縛り付けられていた狛枝だった。
「うぷぷ…狛枝クン残念だったね!ちょっと出遅れちゃったみたいだよっ」
モノクマが聞いてもいない事のあらましをザックリバッサリ貶しながら貶めながら騙る説明を、持ち前の頭の回転で日向達の好み
…性格を考慮して変換しつつも狛枝はどうにか理解する。
「…で、めでたくコロシアイは回避されたって訳か」
「折角用意した動機がこんなしょうもない形で無駄になるなんて…非常に残念です」
そう項垂れるヌイグルミの言葉の真偽は全く信用するに値しないが、コロシアイが起きなかった事についてのみ狛枝は残念に思い、
心中で僅かながらの侮蔑と冷めた賛辞を日向達に捧げた。
因みに彼を解放したのは、特にする事もなく眠りこけていた間にこっそり訪れたモノミの仕業だったのは、狛枝には知る由もなかった。
「…にしても、僕は兎も角、よく君が邪魔に入らなかっ……ああ」
モノクマの傍らで転がる残骸…モノミだ。モノミが無惨な姿で転がっているのを見て大体把握した。
「全く、モノミにも困ったものだよ。折角の面白そうなイベントを見物しそびれたし。
兄の邪魔をする悪い妹はうんとオシオキしなくっちゃね!
何処かの勘違いしちゃってる“道具”さんみたいに目上に逆らうとどうなるか……うぷぷぷぷぅ!」
モノクマは残骸を放置して立ち去ろうとする。
彼(?)にとってアホ面してヘラヘラ笑う連中が起こすばか騒ぎに混ざるなんてこの上なく退屈な事、真っ平ゴメンだったからだ。
「狛枝クンは参加しないの?折角のお遊戯会なんだし」
「ボクは良いよ、ボクみたいなゴミクズが参加しても皆の気分を害するだけだし」
困ったような薄ら笑いで否定した。

モノクマが去った後、出来るだけ気配を消して階段を降りようとして。
「………」
狛枝はジッと見詰める。


大勢に取り囲まれ、九頭龍と仲睦まじく微笑む辺古山の姿。

「………」
この度の立役者の一人は間違いなく彼女だろう。
「………」
温度の図り知れぬ瞳で隅から隅まで舐めるように眺める。
表情、仕草、視線、輪郭、体型…何から何まで。

「……ふぅん……」
口端を吊り上げた。

悟られる前に視線を逸らし、階段を降りる。
「辺古山さん…辺古山さん……辺古山さん……辺古山さん………辺古山ペコ、さん………クスッ」

その笑顔の裏に潜む感情を伺い知る者は居なかった。


「…………」
「終里?外なんか見て、どうかしたのか?」
「んー…誰かが辺古山を見てた気がすんだけど…」
「私を?」
「モノクマ辺りじゃねぇの?今回全然姿見なかったし」
「へっ…どうせ悔し紛れかなんかだろ。何せ折角用意した動機が無駄になってコロシアイが起きなかったんだからよぉ?
気にする事ねぇよ、ペコ」
「えぇ…そうですね…」

騒がしい夜は更けていく。誰の心にも不安も懸念も紛れる余裕がない位に………。
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