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「冬子……」

少女がその呼び名を聞いたのは、何年ぶりだろうか。







甘い甘い微睡みの中で、腐川冬子はベッドに横たわったままゆっくりと瞼を持ち上げた。
見慣れてきた天井に、窓のない部屋。
内装はホテル並とはいえ閉塞感の拭えないこの空間を認識していくにつれ、意識も少しずつ浮上し始めていく。
常夜灯のささやかな光がじんわりと目にしみた。

「夢……?」

ぼやけた視界から汲み取れる情報を脳が処理していく程に、嫌でも事実を見せ付けられていくような気がした。
即ち、夢と現実の乖離を。
現実世界ではありえない、まるで砂糖菓子のような夢の内容を想起して、腐川は淡い色の唇から自然と溜め息を漏らしていた。



暖かな夢を見ていた。

前を歩く最愛の人。
月光を溶かし込んだようなブロンドにすらりとしたシルエット、凛とした立ち姿の彼を、腐川は追い掛けていた。
しかし歩みを速めようとも走ろうとも中々追い付けない。
それどころか距離は広がっていくばかり、まるで叶わぬ恋を暗示しているようにも思えてしまう。
気付けば、目標としていた遠い背中は涙でぼやけていた。
白夜様。
縋るように、苦しげな声でそう呟いた瞬間、彼女の体は地に投げ出されていた。
自らの足に引っ掛かり、ものの見事に顔面から転んだのだ。
痛みと、それ以上に愛しの彼に追い付く事さえ出来ない自分に対する失望が全身を支配し、立ち上がる気力をも奪い去っていく。
恥ずかしげもなく涙と鼻水を垂れ流しながら、腐川は溢れ出そうになる醜い嗚咽を噛み殺していた。

「おい」

不意に頭上から苛立ちの籠もった声が降り注ぐ。
何故あんなにも離れてしまった十神が近くにいるのか。そんな疑問も抱けぬ程に冷たく、威圧感に満ちた声。
見上げれば鋭い光を宿した碧眼が腐川の心臓を貫く。恐怖から華奢な肩が大仰な程に跳ねた。
即座に彼の不興を買ってしまったのだと気付いた腐川は、青白い肌を一層青くするなり、慌てて謝罪を口にする。
ごめんなさいごめんなさい白夜様すみません。
しかし、その言葉は徐々に尻すぼみとなり、仕舞いには絶句に飲み込まれた。

「何をしている、早く立て」

何故なら、彼が、あの十神白夜が、彼女に向けて手を差し伸べていたからだ。
想像もしていなかった状況に驚きを隠せず彼の顔と手を交互に見つめる。
その時、更なる衝撃が彼女に走った。

「冬子」

普段と変わらぬ、それでもどこかに仄かな甘味を含んだ響きで、下の名を呼んだのだ。
呆れ顔の中に、一滴の心配を滲ませたような表情で――……。

腐川の夢はここで終わっていた。
夢の中であれ……否、夢の中だからこそ、想い人である十神白夜が優しく接してくれた。
極上の蜂蜜のような幸せを、だらしない口元を緩ませた笑みで享受する。頭に響くのは、たった三文字の短い言の葉。
『冬子』と、確かに彼はそう発していたのだ。

名前など、彼女にとっては有って無いようなものであった。
クラスメイトや知人はおろか、その名を授けた実の親にまで呼ばれなくなって久しい。もう一人の母親も、また然りだ。
それに、桃の節句という女児としては最良の日に生まれたにも拘らず、季節感を無視した冷たい名前に酷いコンプレックスと
トラウマを抱えていた事も確かだ。
誰からも紡がれない、紡がれたくもない、大嫌いな名前。
それでも彼が、彼だけは呼んでくれた。彼が名を呼ぶだけで、冬子という名前も受け容れられる。
元より幸福の閾値が常人よりも遥かに低い女なのだ。細やか過ぎる幸せも、腐川にとっては天恵にも等しい喜びであった。

「……っ、ん」

――それと同時に、奥手で内向的な少女の性を妖しく擽る甘美な悦びでもあったのだ。

彼の甘やかな低音を思い出すだけで、心臓が高鳴ると同時に下半身へと微熱が籠もっていくのを感じてしまう。
はしたないと分かっているのに、先程から内腿を擦り付ける動作が止められない。
落ち着かない様子で寝返りを繰り返してみるも、燻る熱は一向に治まる様子はなかった。
寧ろ、時が経つにつれて疼きも欲情も酷くなる一方だ。
遂に耐え切れなくなり、右半身を下にした状態で足の間に掛け布団を挟み込んだ。
するとパジャマ越しに勃起をし始めた陰核が刺激され、ぁ、と小さな声が上がる。
待ち侘びていた快楽に長い睫毛をふるりと震わせた。
そのままゆっくりとした動きで腰を布団へと擦り付ける。
もどかしいが、それでも確かに感じられる快楽。血色の悪い白磁の肌にほんのりと赤みが挿していく。
唇から零れた吐息は早くも淫靡な湿り気を帯びていて、部屋の雰囲気を一気にいかがわしいものへと変貌させていた。

「だ、駄目、なのに……っ、白夜様でこんな、は、はしたないこと……」

僅かに残る理性が警鐘を鳴らし、自制を訴える。けれども言葉とは裏腹に甘い疼きが全身を縛り、淫らな行為へと誘う。
湧き上がる欲を振り切ろうと固く目を閉ざすが、目蓋の裏を過るのは夢の中の彼。
耳に残る名前の響きを思い出すだけで、勝手に呼吸が荒くなっていく。もう腰が動き出すのを止められない。
ごめんなさい、白夜様。あなたを想うだけでこんなにも反応してしまう、ふしだらな私を許して下さい。
精一杯の懺悔を胸中で繰り返しつつ、恐る恐る右手を下腹部へと移動させた。

「ぁ……、んン……」

簡素なパジャマに手を入れて、申し訳程度にレースが付いただけの味気ない白のパンツに触れる。
クロッチの中心は既に薄ら湿っていて、下着の中がどんな惨状になっているのかを容易に想像させた。
己のふしだらな反応に思わず顔の赤らみが増すが、それでも、体は素直に快楽を求めてしまう。
股布の真ん中を人差し指で一撫で。
濡れた布は肌にぴったりと張り付いて、情欲に屈したいやらしい割れ目がくっきりと浮き上がる。
何度もそこを掻けば、刺激を求めて自然と腰の動きも大胆なものになっていく。
今にも粘り気を含んだ水音が聞こえてきそうな濡れ具合に、腐川は赤らんだ顔を枕に埋めた。

「ひぁっ、ア、白夜……様、っあ、きもちいい、です……!」

はしたない器官をなぞるこの指先が、彼のものであったなら。
そう思うだけで、もう我慢も制止も出来なくなる。
想像力は誰よりも逞しい彼女なのだ、コロシアイ学園生活という状況も、こちらを見つめる監視カメラの存在すらも忘れて
妄想の世界に溺れていく。
月光に満ちた褥で二人きり、愛しい彼が自分の大事なところに触れながらそっと顔を近付けて――。

『冬子』
「っひぁ、ぁああん……ッ!」

あの声を想起しただけだというのに、体の芯から震えてしまう程の快楽が駆け抜けた。
下着は最早粗相でもしたかのように塗れそぼっており、薄い布地から染みた愛液はか細い指をふやかしていた。
腐川は一旦パジャマから手を引き抜いて邪魔な布団を捲り上げると、疼く腰を僅かに擡げて下着ごと衣服を脱ぎ取っていく。
その際、太腿に刻まれた三十七もの傷を見てしまい一瞬手が震えてしまう。
が、しかし、妄想の中の十神は手を止める事さえ許してくれなかった。あの青い瞳が、無言の内に脱衣を促してくるのだ。
空想に踊らされるがままに、骨っぽい足を抜いてベッド下に衣服を落とした。
乾いた音の余韻を聞きながら、腐川は両足の踵を尻に引き付け膝を開いた。愛液まみれの陰部が外気に触れる。
指を伸ばせば、一転してくちゅりという卑猥な水音が鼓膜を擽った。
よく分からない焦燥感に駆られ、物欲しそうに口を開いている蜜壺を指で広げて、ゆっくりと中指を沈める。

「ぁっ、あ、白夜様……っ、白夜、さまぁ……! ぁあっ、感じちゃ……ンンっ、ぁあア……!」

熟れた対内はねっとりと肉襞を絡ませながら、指を求めて淫らに吸い付いてくる。
慎重に根元まで挿入してしまえば、後は動かすだけ。
蠕動を繰り返す膣を掻いて、軽く曲げた指で抜き差しを続ける。
溢れ出た愛液が挿入部で泡立ち、ちゅぷちゅぷと卑猥な水音が響いた。
それがまた堪らなく羞恥心を掻き立て、余計に腐川の感度を上げていく。

「ふぁ……ぁ、あア……! そこ、きもち、ぃです……! 白夜様ぁ、ッひぁ、ああんっ!」

左手は知らず知らずの内に腹を伝ってパジャマの内部に入り、申し訳程度に膨らんでいる胸の頂を摘んでいた。
淡い色をした乳首はすっかり硬くなっていて指を押し返している。
そこに甘く爪を立てれば、腐川の口から一層甲高い嬌声が溢れた。

「うぁ、ああァっ……! びゃくやさま、だめっ、だめなんです、ひぅ……ぁああン!」
『何が駄目、だ。この俺に逆らう気か?』

否定を紡ぎながらも、両方の手は止まる気配もない。
それどころか性器に突き刺した指は二本に増え、淫らな口を広げるように体内を掻き乱している。
乳首を弄る左手は、非難の仕置きとばかりに敏感な乳頭を爪でつねり上げた。

「ぁああアっ! ひァっ、ごめんなさ……びゃ、びゃくやさま、あぁっ、ごめんなさい……! ひぅ、あっ、
んぅう……ぁっ、も、許してぇ……っ!」
『却下だ』

容赦のない刺激が腐川の情欲を強く煽る。
同時に下肢に響く快楽とはまた別種の恍惚に胸中が満たされていく。
つまりは……生粋のサディストであり支配者である彼に虐げられる悦び、彼女のマゾヒズムを満たされる悦楽だ。
妄想上の彼が冷たくすれば冷たくするだけ、腐川の欲は反比例的に熱く燃え上がる。
指を深々と銜え込んだ陰唇からはとめどなく愛液が溢れ出て、すぐ下のシーツの色を変えている。
大量の分泌液を潤滑油にして、すっかり十神の指と同化した指は乱暴に内壁を蹂躙する。
荒々しい刺激を歓喜するように、膣はきゅうきゅうと収縮した。
絶え間ない快楽の波に飲まれ、固く閉ざしたままの目からは歓喜の涙が滲む。
下同様に緩み切った口は唾液と嬌声を垂れ流すだけの器官に成り下がり、唾液に塗れた口元の黒子がやけにいやらしく
光を返していた。

「ふ……ぁ、ぁああっ、すご、びゃくやしゃま……ぁ! ひぁ、激し……の、らめ……っぁああン!
イっちゃ……う、ぁ、ああっ、イく……!!」
『仕置きで感じるとは、途方も無い淫乱だな』
「ンンっ、あぁア……っあ、淫乱で、ごめ……なさぃ……ぁああ! んぁあ、すき、びゃくやさま、すきぃ……っ!
ひぁ、あ、らいすき……っぁああああ!」

強過ぎる快感に頭が真っ白になり、うわごとのように恋情を紡ぐ。
それでも愛しい人の妄想ばかりは一定のリアリティーを保ったまま腐川を執拗に攻め続ける。
サディスティックな表情を微かに陰らせ、小さな舌打ち。
そして――。

『冬子……』
「……ひあっ、や、ぁ、キちゃ…っ、やァ、イく……っぁあああああん!!」

名前を呼ばれた刹那、最大級の波が全身を襲い体が弓なりに反る。同時に膣が激しく収縮する。
直後、熟れ切った秘部から潮を吹き出しつつ、腐川は甲高い嬌声を上げて絶頂に達してしまった。
絶頂の余韻に体を小刻みに震わせながら、涙を纏った睫毛を重たげに持ち上げる。
勿論そこに愛する十神の姿はなかったが……、腐川は幸せの滲む瞳を虚空に向けた。

「ぁん……、はァ、びゃくや、さま、……はぁ、……お慕い、しています……」

一時でも甘い夢を見られた幸福を、そしてそんな幸福を教えてくれた十神への愛情を噛み締めながら、
疲労に侵食され始めた体をベッドに預け、腐川はまた静かに目を閉ざした。
いつか、本当に名前を呼ばれ、愛してもらえる日が訪れる事を願って。






――後日、コロシアイ学園生活が全国ネットで生中継されていると知り、腐川が一人で壮絶な百面相をしたのは、
言うまでもない。
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