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 舞園さんの動きが気になる。
 普段からにこやかな彼女ではあるが、最近輪を掛けて機嫌が良い気がする。何より苗木君と話している時のテンションがいつも以上に高い。
 更に、ひそひそ話をしている時に耳を澄ませば、『超高校級のアイドル』の口から零れたとなると物議を醸しかねない「ご主人様」だの「旦那様」だのという言葉が稀に聞こえてくる。
 その言葉が出た途端両者が赤面するというのが二人の『流行り』となっているようだった。
 そんな風に様子を窺っていると、不意に舞園さんの視線がこちらを向くことがある。まるで聞き耳を立てている私に気付いた、エスパーであるかの様に。
 一瞬だけかち合った視線は、すぐに苗木君の顔へ戻される。
 申し訳なさそうな、でも少しだけ得意そうな、なんとも言えない睫毛と唇の曲線を、私の網膜に残して。


「霧切さんが来てくれるのって、なんだか久しぶりみたいな気がするよ」
 苗木君は寮の鍵を開けながら、少し上ずった声で言った。
「ええ、最近は捜査が立て込んでいたものね。優秀な『助手』には苦労をかけるわ」
 返答しながら、自分の顔が赤くなっていることを自覚する。
 なにしろ、私の純潔を苗木君に捧げたのが、他ならぬここだから。
 それ以降も何度か身体を重ねはしたが、苗木君の寮を訪れたのは「初めて」以来のことだ。
「もう、大げさだよ霧切さん」
 お互いをソレを意識したのだろう、私たちはぎこちなく靴を脱ぎ、そろそろと廊下を歩いて、ワンルームの部屋に入った。
 壁際にベッドと本棚とデスクがあり、部屋の真ん中に低いテーブルがあってその正面にテレビとゲーム機。
 前に来た時と同じで、整頓された部屋だ。約束なしの来訪にも拘らずこの様子ということは、苗木君はやはり綺麗好きなのだろう。
「じゃ、じゃあ、お茶でもいれてくるね」
「お構いなく」
 そうは言ってみたものの、苗木君はコンロの方へと向かった。寮はワンルームだが、コンロと流し台は暖簾で目隠しされる造りになっていた。
「――――」
 苗木君の準備に時間が掛かることを予測して、私は「捜査」に取り掛かった。
 さしあたっては部屋に入った直後、彼がちらちらと視線を送っていた本棚の上から三段目と、デスクの上。
 本棚の方は本や雑貨が詰まっていたので、先にデスクを観察する。
 そこは片づけられた部屋の中で例外的に、少し乱雑になっていた。
 今日二人で勉強する予定(その実、私が苗木君の勉強を見てあげる形になる、のだけれど)の、広げられたままの英語の問題集が大部分の面積を占めているが、これは本命ではないだろう。
「霧切さんはコーヒー? 紅茶? 甘いものが欲しいなら、ココアもあるけど」
「コーヒーをお願いできるかしら」
「うん、ちょっと待っててね。適当にくつろいでいてよ」
 調理場から掛けられる声に平静を装って応えつつ、私は目を凝らす。
 お湯の沸騰からお菓子の用意、飲み物の提供まで(以前訪れた時の行程を参考にしてある)、与えられた時間はせいぜい数分。
 直感的に目に付くものをピックアップしてゆく。
 ――舞園さんに関わりのありそうなモノ、を推測する。
 そうやって作りかけのプラモデルや読みかけの文庫本を候補から除外してゆけば、残されたのはパソコンと、掌大の黒いケースだった。
 勝手にパソコンの電源を点けるのは怪しまれるだろうから今回はケースに注目する。
 ジッパーを開ければ、中から覗くのはデジタルカメラ。

 ――理論よりも勘――

 ひとつの考え方に過ぎないが、経験上あながち馬鹿にも出来ない。
 本体を引っ張り出し、メモリーカードだけを抜き出してカメラは元に戻す。
 そしてカードを、ポケットに用意していたガジェットに差し込んだ。
「お待たせ、霧切さん」
「ありがとう、苗木君」
 全てが終わったタイミングで戻ってきた苗木君に、私は小さな笑みを向けた。
 大丈夫、何も気づかれていない。
 それにもし何かの異変に気付いたとしても、『隠したいもの』について『隠したい相手』に話題として上げるだろうか?


「ごめん、ちょっとトイレ」
 勉強を始めて一時間程経過した頃、苗木君が席を立った。
 私はすぐにガジェットからカードを取り出し、デスクのデジタルカメラへと戻した。
 この端末は、メモリー関連を差し込むだけでファイルを高速で吸い出すことが出来る。
 「探偵の七つ道具」なんて大袈裟なものでは無いけれど潜入捜査には欠かせない代物だ。
(もう少し――時間はあるかしら)
 そうして私は、この一時間で苗木君が「気にしていた」場所を調べてみることにする。
 部屋に入った時にも視線を向けていた本棚の上から三段目――の右側、分厚い辞典のカバーが並んでいるところ。
 素早く、しかし慎重に取り出してみる。
 案の定というべきか、辞典のカバーはカムフラージュだった。五センチほどの枠の中に、数冊の薄い本が詰められている。

 ――戻ってくる

 仕方なく背表紙だけに目を通して元の位置に戻し、何事もなかったかのように座る。
 帰りがけにでも本屋に寄って確認してみようかしら。

「ごめんごめん」
 苗木君が戻ってきてから私たちは勉強を再開した。
 小一時間が過ぎたころ、苗木君が露骨にそわそわし始める。
 集中力が切れた、というよりも「別の何か」が気になって仕方がないようだ。
「どうしたのかしら、苗木君」
 そ知らぬふりで尋ねてみると、彼は可愛らしくビクッと肩を震わせた。
「な、な、なんでもないよ!」
 照れ笑いしながらノートに向かうが、それも長くは続かない。
 ちらちらと揺らぐ視線は、今度は本棚やデスクではない場所を泳いでいた。
 私の手と、唇と――ベッド。
 私はそれとなく、カーペットに置いていた掌を、苗木君の近くに寄せてみる。
 すると苗木君の目がピクリと動いて、顔がどんどん赤くなる。
 数秒もぞもぞと悩む様子を見せていた彼の手は、意を決したように私の手の上に重ねられた。
 ――許しを乞うような数秒。
「苗木君」
 あえて素っ気なく、視線すら合わせずに名前だけを読んでみると、彼の緊張がさらに高まるのが感じられた。
 でも、彼は手を離さない。
 そのまま意外な力で私を引き寄せてくる。
 私は抵抗せず、苗木君に完全に抱き締められたそこで初めて目を合わせた。
 可能な限り無表情に、そ知らぬ振りで問うてみる。
「どうしたの、苗木君。勉強中ではなかったのかしら」
「そ、そう、だけど、その」
 苗木君の胸にカラダを預けると、まるでそのスペースに収まることが生まれた時から定められていたかのように、安心する。
「その――どうしたのかしら。言葉にしてくれないと分からないわ。私はエスパーではないもの、ね? 苗木君、どうしたの?」
 口ごもる苗木君を見ていると、まるでぐずる弟をあやす姉の様な心境になってくる
 しかし――このあたりで、私は多弁になり始めている自分に気付いた。
 要は、緊張しているのは私も同じということ。
 私たちの鼓動が速まって、相手に伝わって、もっと速くなる。
 求められて尚、余裕を維持できるほど、私は恋仲の駆け引きに明るい訳じゃない。信用のおけない相手とする交渉事と、苗木君との逢瀬は、勝手が全く違う。
 その証拠に。
「ふふふ……苗木君ったら、あ……んむ……んちゅ、ちゅ……」
「霧切さん……んんっ……」
 唇が触れ合った瞬間、打算や思索、まして学校の勉強などどこかへ飛んでしまった。 
 うまく言葉に出来ない思いを、苗木君は正直に行動にして示してくれた。
 馬鹿正直な苗木君。
 疑い深い私にはとても危なっかしく感じられて、だけど羨ましい。
 苗木君とひとつになっている時だって、私はまだ、正直になりきれていないから。

「あっ……んんんん、っむちゅ、ぷはっ」
 苗木君のキスが甘いのは、彼が飲んでいたココアのせい、だけじゃない。
 ここにきてコーヒーを頼んだことが悔やまれるけれど、それでも苗木君に私のキスを甘く感じて欲しいと思うのは、わがままだろうか。
「んむ、んっ……ちゅ、んちゅ、ぷはぁ……こういうときばかり、んん、ごういん、なんだから……」
 恨みがましく言ってみるが、きっと私は蕩けた顔をしている。なんの説得力もないだろう。
 ここで先程の思いつきを、形にしてみる。
 お茶うけに置かれていたチョコレートをひとかけ咥えて、唇を差し出す。
「き、霧切さん……っ!!」
 期待通り、苗木君は血相を変えてむしゃぶりついてくれた。
「んんっ!! んんむ、んちゅあ、くちゃぁ、ちゅ、ちゅ、んぁ……」
 顔が汚れようとかまわない。汚されるなら本望。
 でも苗木君の汚れは、私が舐め取る。
 チョコレートはすぐになくなり、再びお皿に手を伸ばす。
 お互い顔をベタベタにしながら、とても自然な流れで、私のネクタイが解かれた。
 不意に苗木君が唇を離し、シャツのジッパーに掛かっていた手も止まる。
 梯子を外されたような心地がしていると、顔を真っ赤にした苗木君は俯きながら、シャワーを浴びることを提案してきた。
 このまま泥の様に抱き合うのは――いちど、やってみたくはあるけれど――皺だらけの濡れ鼠で家に帰る前準備のようなものである。
 私は了承した。


 ノズルから噴き出たお湯が、狭い浴室で壁と障害物に乱反射する。
「んく、ちゅ、ちゅぱっ、んんん……」
 熱い飛沫を体中に受けながら、私たちはお互いの肢体をスポンジで擦りあい、キスを交わしていた。
 私の手は、今、晒されている。
 ほとんど手袋を外すことのない私にとって、この解放感は薄ら寒い心地すらする。
 でも、手袋を外しても大丈夫だという安心感は何物にも代えがたい。
 私の醜い傷も、苗木君は受け入れてくれる。
 だからこそ、私は自分の手で、大切な苗木君の身体を清めてあげたい。

「んく、霧切さん、っんん……」
「ふぁ、はん……ん、苗木、ちゅ、くんっ……」
 こうして触れてみると気付かされるのだが、苗木君の身体はほどよく引き締まっていて、背筋や肩のあたりを触ってみると私などとは違う質の筋肉の集まりがわかる。
 しかし手足は若木の様にすらりとのびていて、中性的という言葉がこれほど似合う人も中々いないだろう。
 彼は、体格が小さめなことを気にする素振りをたまに見せるが、十分魅力的な身体を持っていると思う――こうして全て曝け出してみないと気付くことは難しいが。
 むしろ身体についての文句なら私にだってある。
 探偵業に身を置いている以上、自己防衛のためのトレーニングは最低限積んでいる。
 その為贅肉は大方落としているが、もう少し肉が付いていた方が苗木君は喜ぶのではないだろうか。
「んんっ……なえぎくん、ちゅ……む、胸ばかりあらってもダメよ……んんっ!」 
 そう、行為の時、苗木君は執拗なまでに私の胸を責めたててくるような気がする。
 まるで早く大きくなれと言わんばかり。
 スポンジで泡立てて。
 掌で揉み込んで。
 指で抓って。
 シャワーで流して。
 唇で吸って。
 舌で転がして。
 歯で甘噛みして――
「んんっ!!」
 閃いた刺激に声が漏れてしまった。
「あ、ゴメン!! その、痛かった?」
 シャワーでくぐもり、浴室内で反響する苗木君の声はとても申し訳なさそうだった。
 ――そんな顔を見せられたら、「お返し」したくなってしまう。
 私は直立した苗木君の身体を伝ってしゃがみ込み、反り返ったペニスを口に含んだ。
 それは突然の行為で、彼にとっては不意打ちもいい所だっただろう。
「うわあっ?!」
「くちゅ、っむちゅ、ぷはぁっ……ふふ、大きい、苗木君の……あぁむ」
 すべすべした亀頭が、水のたまった陰皮が、私の舌を滑って奥へ誘われる。
 もうほとんど清められていた苗木君のペニスは、私の唾液でべとべとになり、それがまたシャワーで洗われる。
「うっくっ……気持ちよすぎるよ、霧切さん……っく!!」
「んふ、おぉむ、んむぅ、くちゅぁぁ……んむぅっ?!」
 苗木君の腰が少し震えたのを感じ取った瞬間、私の後頭部が彼の手に抱え込まれて、剛直が喉の奥まで押し込まれた。
 瞬間、熱い迸りが呼吸を塞いだ。

「んふぅぅぅぅっ?! がはっ、げほ、こほっ」
 カッとするような熱が咽頭を焼く。
 驚きのあまり私は苗木君のペニスを口から吐き出し、噎せてしまった。
 うずくまる私の背中を、慌てた苗木君がさすってくれる。 
「ごめん霧切さんっ!! 大丈夫?! その、本当にごめん……」
「けほっ……大丈夫よ。もう大丈夫。少し驚いただけだから」
「ごめん、ボク、自分のことばっかりで……」
 しゅん、と落ち込んでしまった苗木君を励まそうと私は言葉を重ねる。
「勝手に私が……その、苗木君のを咥え込んだのだから、あなたに非はないわ……まぁ」
 そこで私は苗木君のおとがいを上げさせると、軽いキスをして微笑みかける。
「あんなに早く出しちゃうなんて思わなかったけれど」
「あ、あれは霧切さんが上手すぎるから……!!」
 苗木君は恥ずかしそうにそう言った。どうやら、立ち直ってくれたようだ。
「でも……飲み込めなくて残念」
 私が零した白濁は、噴き出し続けるシャワーのお湯に流されてしまった。
「そ、それなら、さ……」
 期待と羞恥を含んだ声で、私はあることに気付かされる。
「しようよ、霧切さん」
 出したばかりだというのにはち切れそうな苗木君のペニスと、挿入を今か今かと心待ちにしている彼の表情。
 その言いようのない迫力に圧され、私は少し声を上ずらせた。
「え、ええ……でも苗木君、ここでは駄目よ。ちゃんと避妊具を付けないと……」
 未婚の男女では、ましてや高校生同士では、至極当然のこと。
 私の『初めて』から今まで遵守してきた暗黙のルール。
 その時。
 苗木君の顔が一瞬、おあずけを喰らったように固まった。
「あ……そ、そうだよね」
 苗木君の手がシャワーのコックを閉じる。
 滴るお湯はゆるゆると、二人の垢を溶かして排水溝へ流れ込んでいった。


「あっ、苗木君、苗木、くん、んんっ、あっ、なえぎくんっ……!」
「霧切さん、うくっ……」
 お互いの身体を一枚のバスタオルで拭き合い、髪も乾ききらないまま、抱き合った私たちはもつれ合うようにしてベッドへ倒れ込んだ。
 そしてもどかしい手付きで避妊具を装着すると、苗木君は前戯も無しで私に挿入した。
 もっとも私の女陰は、すっかり濡れそぼっていた。
 ずるりっ、と抵抗もなく私は苗木君を受け入れることができた。

 いきなり最奥を突く苗木君のペニスに私は翻弄される。
「ああっ!! んあっ、苗木君!! はげしっ……んむちゅ、んちゅ、ちゅ……」
 苗木君は貪るようなキスを繰り出しながら、猛烈な勢いで私を責めたててくる。普段なら私が上位になのに――と余裕を無くしていると、急に苗木君の動作が緩慢になった。
「ご、ごめん霧切さん、ちょっと強くし過ぎたね……んんっ」
 苗木君はキスをしながら、正常位で組み敷いていた私と、上下を転換させた。つまり私が苗木君に覆い被さる形になる。
 いつも苗木君は私に気遣ったセックスをする。
 自分だって思うまま快楽を得たいだろうに、二人の身体が馴染み合うまではキスをしたまま私をじっと抱き締めていてくれる。
 行為の間中動かずに抱き合ったまま、ということもあった。正直、それだけでも私はいっぱいいっぱいなのだけれど。
 だから、この気遣いはとてもありがたい。最初の勢いのままに責められていたら、どんな痴態を晒す羽目になるのか見当もつかない。
「ふふ……許してほしい? んちゅ、んんん……ぷはっ」
 苗木君の身体を食べるようにして、私はゆっくりと全身を円運動させる。ゴム越しに、大きなペニスが私の子宮口を舐めて、甘い痺れが全身を火照らせる。
 すると苗木君の足が私の腰に絡みついた。まるで淫蕩の匂いを染み込ませるかのように、擦り付けてくる。
「ちゅ、ちゅ……んもう、苗木君ったら、赤ん坊みたいなんだから、ああっ、んくぁっ……」
 その快感が思ったよりも大きく、私は少し大きめの喘ぎを漏らしてしまった。ぐずぐずに濡れそぼった秘所から一層の愛液が染み出る。
「あ、んんん、んぁ、ダメ、らめ、はっ、はっ」
「はっ、んあっ、きり、ぎりさん……」
「あっ、なえぎくん、んあぁ、あ、あ」
 尚も送り続けられる快楽が私を虜にし、熱い息が止まらなくなってしまう。
 奥深くまで入り込んだ苗木君のペニスが、じりじりと私を追い詰める。
 指を絡み合わせ、舌を吸い、お互いの汗を擦り付け合う。
 浴室から昂ぶらされた私の身体は限界を迎えようとしていた。
「あ、らめ、あ、やぁ、苗木くんっ」
 思考がショートして、本心を隠すことが出来なくなる。
「あ、なえぎくんっ、んっ、だ、すきっ、なえぎくんっ…………ああ、ああああぁ……」
 私は彼の名を呼びながら、緩やかな絶頂へと押し上げられた。
 悦びに満ち足りて、愛しい想いの止まらない、楽園の様。
 絞り出すような、長い長い絶頂。
 一瞬、この一瞬だけは、世界は苗木君と私の二人ぼっちになってしまう。
 だから――
「きり、ぎりさんっ、ボク、まだなんだっ……その、ナカに、出したい……! 霧切さんを、生で、味わいたいよっ……!」
 ――苗木君の懇願が、私にとっては世界で唯一の声になってしまう。
「あはぁ、あぁ、っだ、らめよ、ナカにだすなんて、だめなんだからぁ……んちゅっ、ちゅ……」
 私は残る理性を総動員して――あるいは理性を排除した脊髄反射のように――苗木君の欲求を止めようとした。
 しかし、もし、苗木君が私の蕩けた秘裂からペニスを引き出し、避妊具を抜き取って再び容赦なく挿入し、動物の様に腰を振って私の子宮にいっぱいいっぱい子種を注ぎ込もうとも、一切の抵抗はできなかっただろう。
 むしろ『事故』だと言い訳して、理性では否定し続けている望外の欲求が叶ってしまったことに昏い悦びを覚えたのかもしれない。
 だが、苗木君は、いつも私に気遣ったセックスをする。
「そ……そう、だよね。ごめんね、無理をいって、うっ、く……」
 私が嫌といえば、それはしないのだ。
 数十秒して、苗木君がゴム越しに射精した温度を私は感じ取っていた。

「……はぁ」
 苗木君の家からの帰途で、私は近頃確実に流されやすくなっている自分を恥じていた。
 あのままだと、膣内射精されていてもおかしくなかった。
 辛うじて許可を出さなかったことと、そして苗木君が大人しく引き下がっていてくれたのが幸いした。
 もっとも苗木君には軽くお説教しておいた。

 赤ん坊はコウノトリが運んでくる訳でも、キャベツ畑や木の根の近くに居る訳でもない。ここまで言えば分かるわよね、苗木君?

 しかしあれだけ蕩けた顔を見せた相手に居丈高になっても、まるで説得力というものはなかったことだろう。
 それに縮こまって、しゅん、とした苗木君を見ていると、責める気が失せてしまう。
 ちなみに、家まで送っていくという苗木君の申し出は必死に押し止めさせていただいた。
 身体を重ねた直後に、顔を突き合わせたままでいるなんて、何を口走ってしまうか知れたものではない。
 冷静なフリをしようとして、からかおうとして、自爆するのが目に見えている。たとえば――
(超高校級の探偵あらため――超高校級の妊婦)
 余りにも笑えない冗談――と思いたかった、のだが、お腹を大きくした私と、その隣にいてくれる苗木君の姿が夢想された途端、顔から火が出るのを自覚した。
 迷いなく彼の顔が浮かんだのも然ることながら、なにより満更でもなく思ってしまったことが何よりも気恥ずかしい。
 頭を振って邪念を追い払い、少しだけ澄んだ思考を始める。
 つくづく私は、苗木誠という少年を、他の全てを差し置いて許容してしまっている。
 手袋を、その奥の掌を見る。 
 私は、信頼や結束、まして愛情などというものを、軒並み遠ざけて生きてきた。
 この学校に入学したのは――どうしても捨てきれなかったひとつの絆を確かめるためだった。
 だから他の人間関係は排除して、私はいつものように孤立していた。それを気にしてもいなかった。
 外国で暮らしていた時も私に声を掛ける人間は多数いたが、興味本位であればまだマシな方。
 下卑た欲望を隠さない者もいれば、邪魔者、あるいは商売敵として「処理」するための準備というケースも珍しくはなかった。
 どうせ断たれる関係なら元から無い方がいい。
 苗木君と初めて出会った時も、それは同じだと思っていた。おせっかいな男の子、それくらいの印象だった。
 気が付けば私は、級友たちの輪の中に入れられていて。
 気が付けば私は、それが不安ではなくなっていて。
 気が付けば私は、輪の中に引き込んでくれた少年に恋をしていた。
「どうして、こうなったのかしら……ふふっ」
 溜息を吐いたつもりだった。が、その呼気には違う感情が込められていた。
 そんな風に様々な思惑が頭の中を駆け巡っていると、駅前に辿り着いていた。ここまでくれば私の住居まではあと少しなのだが――
「本屋を調べる必要があったわね」
 雑踏の中、私は足を駅近くの大型書店へ向けていた。

 苗木君のカモフラージュの中にあった、数冊の本のタイトル。
 暗記していたソレを店内の検索装置に掛けると、『アイドル・写真集』のコーナーが表示された。
「アイドル……」
 そのフレーズだけで半分くらい答えが出てしまったような気がしたが、私はそこに向かうことにした。
 人のまばらな店の奥に進んでゆく。
 普段こんなコーナーには立ち寄らない分、妙に緊張してしまう――これが只の『捜査』なら、きっとそのようなことはないのだけれど。
 果たして『アイドル・写真集』コーナーは発見され、苗木君の持っていた本のほとんどもここで見つかった。
(胸、やっぱりあったほうがいいのかしら)
 鼻白む素振りをしつつ内心落ち込みながら、しかし私は一冊のタイトルだけが見つからないことに気付く。
(売り切れ? それとも――)
 入念に探してみたが、やはりそれは見つからなかった。その近辺も同じだ。
 なぜその一冊に執着するのか?
 それは、私が懸念した『被写体』の本が発見されていないからである。
 だが見つからない以上、今日は諦めて帰ろうと店の入り口付近まで戻り、特設コーナーにふと目をやって――
「……あ」
 思わず声が漏れた。
 私の目線の先には、『超高校級のアイドル』の笑顔が九面、店頭の一番目を引く場所を占拠している様相があった。
 タイトルは、まさに私が探していた、最後のひとつ。 


「…………」
 家に着くなり部屋に引きこもって、私はビニール袋から購入した写真集を取り出す。
 薄いビニールを破り、表紙を開く。
 読み進めて、時折止まって、またページをめくって。
 あっという間に最後の写真に辿り着く。
「これで、三千円」
 割高なのだろうか。それとも、これくらいが普通の価格帯なのだろうか。
 私は探偵として、貴賤を問わず様々な情報に通じているつもりだが、さすがにアイドル写真集の適正価格などは寡聞にして見当もつかない。
「普段から会っているから、ありがたみが薄いのかもしれないわね」
 自分で言いながら、嫌気が差す。

 こんな独り言は負け惜しみでしかない。
 それは、彼女が国民的アイドルグループのセンターマイクであること、大型書店の一等地を写真集で埋め尽くしていること、愛くるしい容姿と恵まれたスタイルを有していること、についてではない。
 勿論、多少なりとも羨ましくはあるが、本質は別。
 つまり、私がひとりだけ恋い慕っている男の子は、私だけを見ている訳ではないというその事実。
 少し考えれば当然なのかもしれない。いくら苗木君が大人しい気性だとしても、思春期の少年であることに変わりはない。
 本当に、嫌気が差す。
 私に彼を束縛する権利などないし、彼が私を憎からず思ってくれているはずの気持ちにも嘘はないだろうに。
 苗木君が絡むと、私の論理はねじ曲がってしまう。
「はぁ」
 こめかみを押さえつつ目を閉じていると、不意にメモリーカードのことを思いだした。
 私は機器を取り出し、デスクのパソコンに繋ぐ。
 作業をしながら、私はもう一つの自己嫌悪に苛まれた。
 恋だのなんだのと言いながら、苗木君のプライバシーを盗み見ている自分。
 結局、彼のことも信用していない――そう指摘されれば反論出来ない自分。
 醜い。
 己の醜さを改めて自覚しつつ、マウスを握る。
 カリカリと音を立ててコンピュータがデータを読み取り、いくつかのファイルが表示され、その中のひとつをなんの覚悟も無く展開した。
 せいぜいアイドルの水着画像などを貯めたメモリーの隠し場所を、デジタルカメラにしている程度のことだろうと、思っていた。

「……えっ?」

 疲れてしょぼついていた目が勝手に見開かれる。
 ディスプレイに視線が釘付けになる。
 余りにも直情的な画像のせいで、別の何かと見間違えたかと思い――そうでないことに二度目の驚愕をさせられる。

 端的に言えば、パソコンに写り込んでいたのは、少女が男性のペニスを咥えている様子だった。

 顔を上気させ、涙と精液と涎と汗で顔をぐしゃぐしゃにし、苦しげに怒張を頬張る美しい少女。
 それだけなら、あるいは苗木君が少々過激な画像を持っていただけだと――少なくとも理解は出来ただろう。
 しかし異常だったのは、その画像には一切のモザイクもぼかしも入っていなかったことである。
 勃起したペニスも、少女の素顔も、すべてが曝け出されていた。
 おまけにこのメモリーカードが入っていたのは、苗木君の部屋にあったデジタルカメラの中である。
 つまり、この画像はあのカメラで撮影されたものという可能性が極めて高い。
 画像を拡大してみるが、コラージュの痕跡も見られなかった。

 ――私が何故、真っ先に画像の加工について調べたのか?

 それは、泣き腫らした少女の顔は、今もなおパソコン横の紙の上で笑顔を見せている、
「……舞園、さん」
 『超高校級のアイドル』舞園さやかの、変わり果てた姿だったからだ。

 生唾を呑み込みながら写真を検証する。
 どうやら写真は、彼女の不意を狙って撮影されたものらしい。
 あるいは、彼女の見開いた目から察するに、別のことに集中していたところを呼び掛けられて急にカメラの方向を向くよう指示されて、という状況か。
「…………」
 次の画像はブレが激しくて不鮮明であったが、その次の画像で、目隠しをされた少女の姿が映し出された。その目を塞いでいるモノは彼女の着ている制服から抜き取られたと見えるリボンだ。
 ――この制服も、舞園さんのと同じ。
 それにしても、目隠しをされているだけで、どうしてこうも淫靡さが増すのだろうか。
 一生懸命に奉仕する彼女の口元から、『悲しみ』『諦め』などの一括りにはし難い感情が伝わってくる。
 目隠しで奉仕する画像はその後も何枚か続いたが、次の画像は大写しになった彼女の股間であった。もちろん、一切のモザイクはない。
 その露悪さもさることながら――私は驚きを禁じ得ず、声を上げてしまう。
「これ、は……」
 彼女の秘部には、先程の画像で彼女が奉仕していたと思われる肉棒が容赦なく打ちこまれていた。びしょびしょに濡れた性器が大写しになり、赤黒い肉棒を必死に呑み込んでいる最中といった具合。
 私が驚愕したのは、彼女を穿つその剛直に一切の避妊具も見て取れなかったことである。
 この『行為』が、合意に基づくものか否かは差し置いても、『超高校級のアイドル』として活動する彼女にとっては妊娠など絶対にあってはならないことだ。
 かのようなリスクを無視して、男のペニスは、舞園さやかの子宮を責めたてていた。
 その写真から数枚後、リボンの目隠しが解かれ、全身を絶頂に反り返らせる彼女の姿が大写しになって、画像のフォルダは終りを告げていた。
「………あ、はぁ」
 じゅくり、と、股間が疼いた。
 写真から、ベッドの軋みや快楽に巻き込まれた舞園さんの喘ぎ声、擦れ合う体液同士の粘ついた音、絡み合う息遣いまで聞こえてくる気がする。
 幻聴が私の耳を襲って、苗木君に苛められて疲れていたはずの身体が再び火照り始める。
(避妊具なしの……しゃ、せいっ……)
 想像が体の奥で燻って子宮を甘噛みした。
 舞園さんは知っているのだろうか。
 迸る精液が最奥を叩く熱さを、私の知らないものを知っているのだろうか。
「……んんっ! は、は、はぁ、あぁ……」
 くちゅ、くちゅ、にちにちゃ、くちゅ、にちゃぁ。
 知らずの内に、指が濡れそぼった秘部を弄くっている。
 唇を噛みながら、私は、写真の『その後』について妄想し、自慰の手を逸らせる。
 酩酊したような頭で私は思考する。
 私が考えたのは、この写真の相手は誰かということ。
「くっ……うぅ……」

 考えるまでもなく、分かっていた。
 彼の体つきを、私が見紛うはずもない。
 だとすると、最近の舞園さんの態度や、苗木君が今日の交わりで垣間見せた膣内射精へのこだわりにも説明がつく。
 だとすると――
「苗木、くんっ……くふっ、あっ、ま、舞園さんに、んん、膣内で……あぁっ!!」
 その結末に思考が至った途端、性器がビクリと反応した。思わず溢れ出た声が、涎と共に唇を伝ってたれ落ちる。
 苗木君が舞園さんの名前を呼ぶ。
 舞園さんが苗木君の名前を呼ぶ。
 苗木君が舞園さんの唇を啄む。
 舞園さんが苗木君の唇を啄む。
 苗木君が舞園さんの乳首に吸い付く。
 舞園さんが苗木君の胸板に押し潰される。
 苗木君が舞園さんの最奥を味わう。
 舞園さんが苗木君に最奥を――
「はっ、ああぁ……あ、はぁ、あ、んんん、んん、んぁぁ……」
 悔しさと、孤独と、昏い悦びが、私の内側を爛れさせた。
 胸は痛いほど締め付けられて、凍えそうな程寂しいのに、涙が出るくらいいとおしいのに、性器を弄る指が止まらない。
 キスをしたいと口を開けても私の唇は虚空を噛むばかりで、まろび出た舌が空しく空気に晒される。でも、零れるほどの唾液が滴って、嗚咽がその上を滑り落ちる。
 くちゅ!! にちゃ、にちゃあ、ぎゅう!! くちゅくちゅくちゅくちゅくちゅくっ!!
 指が膣口を割り、体内へ潜り込もうともがくが、しかし浅瀬を擦るばかり。
 それでも腰がガクガクと痙攣し出し、耐えかねた私はキーボードに顔を押し付けるように身体を曲げた。
 とうとうもう片方の手が、痛いほど屹立していた肉芽を抓り始める。
「ん、は、や、はむ、んんあ、あ、あ、あ、あ、ああ、あぁ――――――――――」
 やがて静かで長い絶頂が私の精神を摩耗させる。

 妄想は、苗木君の腰に舞園さんの足が巻き付き、子宮から溢れ出た精液が腿を伝い落ちるところで、疲れ切った意識と共に途切れた。
 堕ち際に見たその情景は、果たして、只の私の妄想に過ぎなかったのだろうか。
 それとも。
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