※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

 苗木誠をこの建物に閉じ込めてからどのくらい経ったのだろう。
最初は指を折って日を数えていたが、やっぱり飽きてやめてしまったのでわからなくなってしまった。

 白と黒で構成された広大な部屋。その部屋に設置された王室御用達の天蓋つきの巨大なベッドの上にて。
お気に入りのモノクマのぬいぐるみを抱いてゴロゴロしていたアタシは起き上がり、当の苗木誠に目を向ける。

首に鉄-くろがね-の輪をかけられ、そこから伸びる鎖によってこの場に繋ぎ止められた彼は部屋の片隅の粗末なソファに座って本を読んでいた。
年相応の雑誌や漫画を読んでるのかと思いきや、その手にあるのは聖書だった。
ちょっかいをかけようかと考えるが、すぐさま先が見えたのでやめる。
あの学園生活時と比べると相当な制限をかけているが、ある程度の自由は与えている。
ルールに反さない限りは何をしたって自由、当然何を読んでたって構わない。聖書を読んでいるのも特に深い理由はないのだろう。
そして何よりも、ちょっかいをかけたところで無駄しかも自分が不快になるのが目に見えている。
今の彼が、自分が置かれてしまった状況に絶望した末に、神に縋りつくなんてありはしない。
それどころか、この世に神がいようがいまいが、自分の足で立って歩くとでも言いそうだ。

……………。
……………実際、そうだ。
与えられた自由なんて本当にちっぽけに思えるほどの圧倒的な制約。肉体的にも首輪をつけられることで制限がかけられ、鎖が伸びる範囲までにしか移動できない。                      
しかも、常に絶望を振りまく、超高校級の絶望ことアタシ、江ノ島盾子に『直に』見られての監禁生活。
そんな絶望的状況の中でも、苗木は逞しく生き続けている。
食事を与えればちゃんと食べるし、話しかければ相手がアタシだろうと受け答えするし、着替えろと言えば用意された衣服を持ちわざわざ別室に移動して着替えてくる。
素直なものだ、と画面前のオマエラは捉えるだろうけど、コイツはアタシに従順な訳ではない。
あくまで自分の意志に基づいて動いている。……彼が信じる臭い希望に準じた確かな目的を持って臨んでいる。


――――― いい加減、あきらめたらどうだい?誰も苗木クンのことなんか助けにこないよ。
――――― ……………ボクは希望を持ち続ける。
――――― そんな屑な希望なんて捨ててしまう方が良いと思うけどね。何もかも全てアタシのように絶望に身を委ねれば楽になれるのに。

――――― ボクは希望を捨てない!たとえ、ボクとお前しかいない人類史上最悪な極上の絶望的状況に陥った世界にいたとしても!!
      ボクは生きる……生き続けてやる。この状況を打開するその時まで、その先までもだ!!!


苗木を学園から隔離し、この場に放り込んだ時、最初に為した会話が全てを物語る。

苗木は、いずれ仲間が助けに来てくれるという希望を持って生きることを決意した。

あの学園では今でもコロシアイ学園生活が展開されている。今となっては無意味な動機でかつてのクラスメイトを殺し、クロは処刑されの繰り返し。
アタシと苗木を除いて十四人もいた超高校級な学生達も、あっという間に半数を過ぎて、残るのはあと五人。その五人も絶望の渦中に飲み込まれているのに。
それを知らされても、ぶれることはない。

内心、安堵の息をつくアタシがいる。
もし、この男が最後まであの場にいたらせっかく絶望に満ちたクラスメイト達の無言を彼が持つ希望によって論破されてしまったのではないか。
コロシアイ学園生活から苗木誠を除外したのは正解だったといえよう。

 苗木誠。
このくだらない世界で、諦めることもなく、飽きることもなく、捨てることもなく、前を向いて生きる男。 
気に食わなかった。苛立ちを覚えた。憎しみに近い感情を抱いた。嫌いだった。
この男を除外しこの場に隔離した理由は、計画から不安定要素を消すこと。この理由がつくづく表向きなものだと改めて思い知らされる。
本当は、本当の理由は――――






   カチ…コチ…ゴーン、ゴーン、ゴーン……

壁に掛けられた古時計が時刻を告げる音。十回の鐘の音によってアタシは現実に引き戻された。

アタシが苗木を改めて見れば、彼は最後の鐘が鳴ると同時にパタンと聖書を閉じている。
同じ姿勢で読み続けていた為か、体が固まってるらしく、軽く伸びをする彼。その度に彼を繋いだ鎖が擦りあいジャラリと音を響かせる。
異質な音にはまだ慣れていないのか、彼の顔は少し歪む。僅かながらとはいえ、彼がそんな顔を見せるのがアタシにとっては愉快だった。
クツクツと込み上げる笑いを抑えてると、苗木に流し目で見られる。愉快愉快。

…………ああ、そういえば。

一瞥をくれて、扉に手をかけたところで、苗木は首を傾けた。本来この時間になれば開く筈なのに、いまだロックがかかっている。引いても押しても扉は微動だにしない。
当たり前だ。建物内の設備を全て管理するアタシがロックを解除してないのだから。
比較的頭の回転は悪くない苗木も扉のロックの原因に気づき、こちらに振り返ることなく厳しい声を発する。

「『夜時間の間はこの部屋の隣にある用意された個室で寝ること』。お前が提示したルールに……ボクは従ってるぞ。何が目的だ」

「よくよく考えてみれば、わたしって苗木クンの顔を間近の間近の超間近に見たことってないんだよねー。ずっとずっと一緒にいるのにねー、自分ながら不ッ思議だよー。
 だからさー、この機会に見ようかなって考えた訳。苗木クン、一緒に寝ようよー?」

「は…………?何を……言ってるんだ?……というか、だいたいお前がボクの顔を近くで見ない理由って、」

ぶりっこで発言したその内容に、唖然とする彼。女王になり高圧的な態度で彼のその先の発言を封殺する。

「………ここは学園内じゃないわよ、人間。何時いかなる時もルールに順守しなければならない空間じゃないの。    
 今現在、反抗的な態度を取っているけれど、コロシアイ学園生活から除外された所で、私様の手の内にいることは変わりはないってことを忘れてはいけないわ。
 あらゆる意味で束縛されているとはいえ、最低限の生活が送れているのは誰のおかげ?あなたが生きてこられているのは誰のおかげ?」    
「それ、は………」
「あなたには私様に逆らう権限なんてないのよ。こちらを向きなさい、苗木誠。
 ……………いいえ、その必要もない。私様がやればいいだけのこと」

手元にあるアタシのお気に入りのモノクマぬいぐるみ兼この建物を制御するラジコン。
百以上あるスイッチの一つを押せば、アタシがいる場所に即してる壁に取り付けられている滑車が瞬時に作動する。
滑車が引くのは苗木誠の首輪から延びる鎖。彼が驚く間も与えない。

あまりの勢いに彼の体は宙に浮かび、仰向けの状態でベッドの空いたスペースに投げ出される。
投げ出されたことによる痛みと、引かれている間、一時的に呼吸が出来なかったことでゲホゲホとせき込む彼を、強制的に全身を持ってその場に磔の状態にした。
彼の体をどこもかしこも舐めまわす様に見た後、率直な感想を漏らす。

「…………ふむ。身長は私より9cm低い癖に悪くない、それどころかなかなか良いものです。
 身長160㎝、体重52㎏、胸囲75㎝……いえ、そんな数値データなんて実物に触れればもはや関係ありませんね」
「な、何を…………」
「何を、って……………せっかくの男一人、女一人のこの状況……箱庭です……
 正直な所、…………何の変哲もないこの状況に飽き飽きしてしまったので……やってみようと思います……言ったでしょう……一緒に、寝ようと。
 嬉しくねェかァ!?
 超高校級のギャルであるオレにディープキスをされて舐められて齧られてェ!?こんなオレのナイスバディにテメェのを擦りつけるとかッ!!その他諸々エトセトラ!!!
 うぷぷぷぷぷ。まあ、キミにとっては嬉しくないかもしれないね。
 ここにキミを閉じ込めた張本人である超高校級の絶望のボクにこんなことされるなんて絶望的ーだったりするんじゃないの?さあ、どっちなんだー?」

ころころキャラを変えて

「………って、そんなのは後々。まず、アタシは苗木誠の顔を超間近に見ようと思ってたんだ。さぁて、と……………――――………え?」
「………………?」

間近で見る超高校級の希望の顔は――――これ以上なく―――

「アタシは待っていた……いいえ、待ち望んでいたのかもしれないわね。オマエのような人間を」

思わず、アタシの漏らした声に、自分のつけ爪で傷をつけないようゆっくりと彼の顔に手を添えたアタシの仕草に、漸く咳が止まった彼は静かに間近にあるアタシの顔を不思議そうに見た。

今、彼はアタシの、めったにしない顔を見ている。彼の瞳に何の穢れもなく映りこんでいる証拠が良い証拠だ。

この男を除外しこの場に隔離した理由。
本当は、本当の理由は――――彼の頭の先から足の先まで、骨の髄まで絶望に染め上げてしまいたかったから。その、筈だ。

 遥か遠くから見れば、一見童顔かと推測されがちな苗木誠の顔。けれども、断じて違う、と、この男の顔を間近で見るアタシがそれを否定しよう。

 苗木誠は、年相応の立派な男な顔の持ち主だ。
肌質は指を通じて感じている通りにさらさらしていて、乾燥もベタつきもない。
瞳はグレーとブラウンが融合した、彼の髪と同じ色で純粋さを帯びている。
唇は傷もなく、とても柔らかそうで親指でなぞれば本当にそう。
モデル業をやっていたアタシから見ても、全面的に整った顔立ちだ。

 ………ここで勘違いしないでほしい。
アタシが苗木誠の顔を見て、思いがけない行動を取ったのはそんな外面的要素からではない。

 ………内面的、要素からだ。

「江ノ島……盾、子……?」

 目の前にある顔に両手を添えたまま、アタシが何も言わずにいると、その顔を構成する一部分が動き、アタシのフルネ―ムを紡いだ。
勿論、アタシの名前を呼んだのは苗木誠だ。

 苗木は困惑の表情を浮かべている。
 首輪から伸びる鎖はすっかり短くなってしまい、結果、身動きが出来ない訳で、だからアタシを見るしかないのだが、彼にとってもアタシのこの表情は意外だったらしい。

「うぷ……うぷぷぷぷ。
今まで、観念や現象だけがアタシをこんな表情にさせてたんだけど……
まさか、あんたという個人がさせるなんて思ってもみなかった。
超高校級の幸運……?
いいえ、幸運の類じゃない……もはや、必然」
「何の話だ……?」



「そうね……こういうことよ」

「………――――ッ!?」

 まるで獲物を見つけた猫のように飛び掛かり、アタシは自らの唇を苗木の唇に強制的に重ねる。上半身と上半身を重ね合わせる。
驚きのあまり、彼の口が僅かに空いた隙にするりと自分の舌を入れた。歯を唾液腺を口腔内粘膜を貪るように舐めていき、やがては彼の舌をとらえ絡めていく……

「ん~~んーーっ!……~~!?……!…!!」

 コイツは隙を見せたが、アタシは隙を見せる怠惰はしない。
真っ直ぐに伸びた腕をなんとか曲げ、苗木は重なった体を押し返そうとするが、アタシは彼の掌を強引に自分の豊満な胸に移動させる。
抵抗すればする度にその柔らかな感触に出合うことになるというのに、尚抵抗する苗木は滑稽だ。

 蕩けるような熱さ、あがる息、徐々に速くなる鼓動、上がる体温。
長い長い口付けの末、アタシもいよいよ酸素が欲しくなり彼の唇から自分の唇を離す。
唇と唇の間に銀の糸が引かれ、息をゆっくりと吸いながら私は中指で静かに掬った。
一方、苗木は酸欠となった脳に酸素を取り込む為にひとしきり急き込んだ後に深呼吸を行っていた。
彼の顔は羞恥と怒りで赤い。

アタシは口端を吊り上げ、ころころと笑いながら苗木に訊く。

「フフフ。驚いた?興奮したかしら?」
「こ……のッ!!………ひゃ……!?」
「あらあら、私は今、あなたの右耳に息を吹き掛けただけですよ?
………これは……私の問いに対しての……答えと捉えて良いんですかね………?
アッヒャッヒャ!!苗木の反応、超ウケる!!」
「黙……れ………!」
「残念でしたぁ。私は黙りません!!でもぉ……結構早すぎじゃない?こんなペースじゃヤる前にイっちゃうよ?
 んーんーどうしよっか?
あ……そっかぁ。前座のペースを早めれば良いんだね!じゃあ、休みなく次いっちゃいましょう!」

 苗木の抵抗も見物だが、身体的なものは邪魔だ。

「無駄すぎる時間は排除しないとね!うぷぷぷ」

 ニコニコと笑顔で、素早くアタシは自分のネクタイを解くと、アタシの胸の位置にある苗木の手をひっつかむ。そして、無理矢理万歳をさせ首の後ろから伸びる鎖に両手首をネクタイで固く縛りつけた。

「これで完了ー!うぷ!さーてーとー!」

 掬いあげた糸を彼の顎に塗りたくりながら、改めて、フゥ……と今度は細々と静々と息を吹き掛ける。
すると、コイツの性器官はここにあるんじゃないかと考えられる程に、一定に与えられるくすぐったさに苗木は面白いように震える。

そのまま流れるように彼の耳たぶを軽く甘噛みし、舌を使って耳元で卑猥な音をたててやる。

「は…ぁ……ふ………やめ………」
「やめてなんて要望、アタシは聞かないよ……?
ねえお願い苗木クン、……声を聴かせて…………?」

クチュ…クチュ…とその音の間に、アタシの透き通ったボイスを挟む。苗木の脳に染み込ますように呟く……

「………ボクの……こえ………?」
「キミの喘ぎ声って良い感じに耳に残るんだよ。アタシの他は誰も聞いてないんだから。いいじゃない。ほら……鳴いて………?」
「や…っぱ、……り
、そう……いう……、……………うぅ……ぁ…」
「私様の為に鳴け。私の為に泣け……アタシの為だけに啼いて……?ねぇ……?駄目……?」

誘惑。誘惑。誘惑。
ひっきりなしに誘惑だ。
だが、それでも尚なかなか彼はしぶとい。苗木は目尻に涙を浮かべてたものの、出来る範囲で首を降り、キッと歯ぎしりし言う。

「誰が……お前なん、かの……為に……!」

無駄に息が乱れてる癖に……本当にしぶとい。

「そうかい、そうかい。キミらしいね、その反骨精神……ま、嫌いじゃないけど。
でもね、アタシは、素直にアタシのいうことをきくキミも見たい訳だよ。従順に動く、アタシだけのものになったキミをね。
ああ……別の話に乞うご期待って訳かい?…アタシが超女王でアンタが超下僕の過剰なSMプレイとかエトセトラ…別の話の江ノ島盾子×苗木誠に期待しろってことなのかい?」

 前半はとにかく、後半は一体全体何の話だ。
ゾクリと背筋を震わす苗木の鼻に、アタシはチョンと人差し指を当てる。

「まあ、いいさ。アタシはアタシのやれることをやるよ……」

 苗木の鼻から人差し指を離し、苗木から体を離し、テキパキと黒カーディガン、白ワイシャツのボタンと我ながら手慣れた手付きで外し脱いでいく。
 残ったキャミソールとブラジャー。それらはモノクマのぬいぐるみに備わった爪で、前で縦半分と切り裂いた。

 ……………。
 外気に。
 首が触れる。胸が触れる。腹が触れる。地肌が触れる。
 外気が、涼しい……。
|