オズ=ガベラ

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&setpagename(オズ=ガベラ Os-Gabella) #image(os-gabella.gif) 絶叫が、ガルヴェホルムじゅうに響き渡りました。その頻度を予測する術はなく、たいていは数日おきや数週おきに聞こえました。 しかしひとたび悲鳴が上がるときには、込められた悲痛な苦悶に耳を塞ぐことは不可能でした。 もっとも非情な者でさえ犠牲者のために静かな祈りを呟き、都市の多くの人々は涙を流さずにはいられませんでした。 ガウロスは女性の扱いというものを心得ており、彼自身それを自負していました。彼の悪巧みや笑顔をもってすれば、落とせない目標はほとんどありませんでした。 おそらく彼女たちは、彼の秘めた欲望の大半を拒んだことでしょうが、暗い地下室へと一人で彼に同行し、彼にとってはそれだけで充分なのでした。 彼は幼い少女が最も与し易いことを見出しました。無邪気に彼と会うことに応じ、いったん二人きりになれば強引な手管に抵抗できず、彼の欲望に最も大きな満足をもたらしました。 たとえ幼くとも彼女らはやはり女性であり、彼の魅力に大いに惑わされるのでした。 しかし彼はやりすぎました。彼の隊商が美しい少女たちでたわわに実った村を訪れたとき、彼の心は釘付けになりました。 彼らは小さな神殿のはずれで互いに追いかけあい、やわらかな肢体を睦みあいました。3人が行方知れずになった後、その村は半狂乱に陥りました。 隊商は千々に引き裂かれ、彼は人殺しの咎で告発されました。 証拠は何もありませんでしたが、ガウロスが彼らの手出しできぬ地、シェアイムの領土へと向かっている状況にあっては、そんなものは必要とされませんでした。 そのとき彼はシェアイムの門の外で、最底辺の貧民の群れの中に立っていました。 移民が都市へ入ることを許されるためには何らかの技能を示さなくてはならず、門番が男である以上、ガウロスには何の手立てもありませんでした。 人々は既に脇に寄って焚き火の準備を始めており、誰一人として引き返す者はいませんでした。 彼が門を前にして三日目のこと、都市の内部で動きがありました。衛兵たちが唐突に(その点では無慈悲で怠慢だと言えますが)警告に現れ、門番が全ての人々に門から退去するよう命じました。 壁に小便をしたり、群れ集まった移民たちの上で脱糞したりしていた知性のかけらもない者たちは、任務に忠実な存在へと様変わりしました。 ガウロスと大勢の哀れな人々は、静かに待ちました。シェアイムを脅かすものなど何もなく、多くの人々が門から離れた場所へと離れ始めました。 そして彼らは到来する恐怖の源を目にしました。 燃え盛る蹄と獰猛で残忍な瞳をした馬に牽かれた、黒い馬車です。さらに近付いたため、人々は、その馬が狼のように鋭い歯を持っていること、肉を引き千切るのに慣れていること、野獣が次の獲物を見る目付きで群集を見つめていることに気付きました。 メビウスの魔女が馬車を御していました。彼女の姿は、でこぼこな石の上できつく引き伸ばされたなめし皮のように、捩れて後ろにのけぞり、まるでこの次元へと完全には現れることができていないかのようでした。 しかし馬車の中はさらに驚くべき光景でした。 オズ=ガベラ――嵐の女王は、腰を下ろして外をほとんど気にかけていませんでした。馬車の頑丈な作りにもかかわらず、窓は開け放たれ、乗客を守ろうという様子はいささかも見られませんでした。 馬車は都市に向かう準備をする前に門の前で停車し、オズ=ガベラは門番にいくつか小声で質問を投げかけました。 それが自分に唯一の才能を活かす最後の機会かもしれないと悟り、ガウロスは馬車の後方の路上へと進み出ました。 「我が女王よ、どうか私めに、あなた様の見目麗しき都へと足を踏み入れるお許しを賜りください。」 彼女は感情のない目で彼を見つめました。門番はガウロスの振る舞いに恐怖と衝撃を受けました。 オズ=ガベラの首が伸びてガウロスの頭を噛み千切ったとしても、門の前にいる誰も驚きはしなかったでしょう。そうではなく、このとき門番はガウロスに続けさせるよう任ぜられたからなのでした。 「あなたの美しさを称える伝説が、私をこの地まで運んだのです。不毛な荒野と、危険な街道を乗り越えて。しかし今私は、あなたについて語った者たちが誤りであったと分かりました。なぜならあなたは、彼らが話していたよりも遥かに美しいからです。」 再び息苦しいほどの沈黙だけがありました。そしてついにオズ=ガベラが答えました。「入るがいい。」 呆気に取られ、誰一人として身動きが取れませんでした。オズ=ガベラは馬車の扉を蹴り開け、その衝撃で門番が自失から引き戻され、行動に移りました。 門番はガウロスが中に乗り込むあいだ扉を支えました。 貴族や農民たちが先を争って逃げ惑うあいだに、馬車はガルヴェホルムを突き進みました。彼らは恐れと驚きをもってオズ=ガベラとガウロスを眺めました。 これこそ彼が慣れ親しんだ生き様でした。 彼は通りから視線を外し、彼女が自分をじっと見つめていることに気付きました。 決まって女性が褒めそやす両の瞳を少年のような前髪が覆い隠すのに任せたまま、彼は俯いて彼女と視線を交わしました。 彼は顔を上げて微笑みましたが、彼女の表情は変わりませんでした。 少し居心地の悪さを感じて、ガウロスは尋ねました。「私たちはどこへ向かっているのでしょうね?」 「お前の父親に会うのだ。」 メビウスの魔女が纏うローブの、ぼろぼろになった裾先が馬車の窓から届き、ガウロスの首筋を撫で付けました。日中の過酷な暑さの中でさえ、その感触は彼を身震いさせました。 ガウロスの父はラヌーンの都市ボランスで荷役人夫をしており、もう何年も会っておらず、この馬車の目的地だとはとても思えないその場所を彼は思い浮かべることができませんでした。 前方にシェアイムの宮殿があり、馬車が到着すると門が開け放たれました。彼らは狂宴者たちが言い争いをしている中庭で停車しました。 オズ=ガベラはてらいもなく馬車から降り立ちました。 ガウロスはその後に続き、それは彼女と一緒にいたい一心でというよりも、独りで奇妙な怪物と共に取り残される恐ろしさに駆られてのことでした。 宮殿の中に入ると、奴隷たちが引っ立てられて暗黒の馬たちに餌として与えられる様子が聞こえてきました。 内部でミノタウロスが壮大な霊堂の扉を開け放ちました。扉の向こう側では、階段が宮殿の地下深くへといざなっていました。 ガウロスは少しのあいだ進むことを躊躇いましたが、ミノタウロスが一瞥すると、オズ=ガベラの後に続いて階段を這い下り始めました。 宮殿の建築様式は自然の洞窟へと取って代わりました。階段は、オズ=ガベラが無意識に歩いた場所が磨り減ってでこぼこになった石の床に置き換わりました。 彼女の鎧に埋め込まれた宝石が淡い光を放ち、通路で唯一の照明となりました。ガウロスは死に物狂いで光が届く範囲から離れないようにしました。 通路は石造りのアーチが中央に据えられた小部屋に辿り着きました。 オズ=ガベラはアーチに近付き、その前で中空にルーン文字をなぞりました。そしてアーチをくぐると部屋は闇に包まれました。 ガウロスは慌てて前方に急ぎました。彼には暗い地下室まで一緒に来るようそそのかした少女たちの、ぼんやりとした記憶がありました。 そのときは少女たちよりも夜目が利いて、落ち着いて彼女らが暗闇に手探りする様子を眺めることができたのでした。 彼は、彼が傷付け、その手にかけた全ての少女たちが彼を見つめ、彼を道連れにする前に、この最後のひとときを楽しんでいるのだという思いにとらわれました。 その記憶に彼は平静を失い、石造りのアーチに激しく身体を打ち付けながら門をくぐり抜けました。 突然の明るさに目が眩みました。松明が壁に掲げられ、部屋の中央には一人の男が輝く銀の鎖に戒められて、奈落の穴の上に吊り下げられていました。 その男は痩せ衰え、疲弊を通り越して死に瀕しているように見えましたが、どこも傷付いてはいませんでした。 オズ=ガベラは男の元まで歩き、鎧から水晶を一つ取り外すと、それを奈落の上部に固定しました。 ガウロスは気を取り直すと、彼女の後に続きました。鎖に繋がれた男は驚いて視線を上げると、大声で叫びました。 「逃げなさい、我が子よ、逃げるのだ!」 ガウロスは凍り付きました。その男の言葉は力強く、しかしガウロスがアーチを振り返っても暗闇があるだけで、その向こう側には彼の手にかかった少女たちの幻が見えるのでした。 他に逃げる場所などどこにもありませんでした。代わりにガウロスはオズ=ガベラに話しかけました。 「あれは俺の親父なんかじゃない。」 オズ=ガベラは作り笑いを浮かべて言いました。「もちろんだとも、あれは人類の最初の父。ネヴェズ――我が夫である。」 彼女は最後の部分に明らかな侮蔑を込めて言いました。「我らは奴を滅する方法を見付けるためにここにいるのだ。」 そう言うと、真っ黒な炎が奈落の穴の外側まで立ち昇りました。 「この炎は最も深い地獄に由来し、エーテル体を焼き尽くすことができると言われている。永遠の定めを持つ肉体に対して、どのような効果を及ぼすのであろうな。」 オズ=ガベラが手を上げると、ネヴェズが奈落の底へと突き落とされました。絶叫が部屋を突き抜け、ガルヴェホルムじゅうに響き渡りました。ガウロスは踵を返して逃げ出しました。 亡霊への恐怖は、目の前にした責め苦に取って代わられました。しかしオズ=ガベラは逃しませんでした。彼女は彼の襟首を掴んで、奈落の穴まで引きずっていきました。 「死すべき定めの肉体にどんな効果を及ぼすのかも、同様に知っておかねばな。」 ガウロスは衣服の折り目に手を伸ばし、そこには常にナイフが忍ばせてありました。滑らかな一連の動作で、彼はそれをオズ=ガベラの喉元に突き立てました。 オズ=ガベラは笑い声を上げました。「貴様に私を殺せるものなら、我らがこんな忌々しい実験を行う必要などもなかろうよ!」 ガウロスは再び突き刺すためにナイフを引き抜きましたが、ナイフが取り除かれると傷がたちまち塞がることを知るだけでした。 そしてオズ=ガベラは、叫び声を上げるネヴェズがいる奈落へと彼を突き落としました。炎は瞬く間に彼の脚、胸、そして頭へと殺到しました。彼の絶叫がネヴェズのそれに加わりました。 ガウロスは灰色の荒野で目覚めました。彼の肌は火傷で水ぶくれになり、少年のような髪は燃え尽きていました。 身動きするたびに痛みが襲い掛かりました。彼は自分が死んだことを知りました。その死後の世界は心地良いものとは言えませんでしたが、耐えられないほどではありませんでした。 彼が手にかけた少女たちの霊魂が、こちらに向かってくるのを目にするまでは。
&setpagename(オズ=ガベラ Os-Gabella) #pc(){ #image(os-gabella.gif) } #mobile(){ #image(os-gabella50.gif) } 絶叫が、ガルヴェホルムじゅうに響き渡りました。その頻度を予測する術はなく、たいていは数日おきや数週おきに聞こえました。 しかしひとたび悲鳴が上がるときには、込められた悲痛な苦悶に耳を塞ぐことは不可能でした。 もっとも非情な者でさえ犠牲者のために静かな祈りを呟き、都市の多くの人々は涙を流さずにはいられませんでした。 ガウロスは女性の扱いというものを心得ており、彼自身それを自負していました。彼の悪巧みや笑顔をもってすれば、落とせない目標はほとんどありませんでした。 おそらく彼女たちは、彼の秘めた欲望の大半を拒んだことでしょうが、暗い地下室へと一人で彼に同行し、彼にとってはそれだけで充分なのでした。 彼は幼い少女が最も与し易いことを見出しました。無邪気に彼と会うことに応じ、いったん二人きりになれば強引な手管に抵抗できず、彼の欲望に最も大きな満足をもたらしました。 たとえ幼くとも彼女らはやはり女性であり、彼の魅力に大いに惑わされるのでした。 しかし彼はやりすぎました。彼の隊商が美しい少女たちでたわわに実った村を訪れたとき、彼の心は釘付けになりました。 彼らは小さな神殿のはずれで互いに追いかけあい、やわらかな肢体を睦みあいました。3人が行方知れずになった後、その村は半狂乱に陥りました。 隊商は千々に引き裂かれ、彼は人殺しの咎で告発されました。 証拠は何もありませんでしたが、ガウロスが彼らの手出しできぬ地、シェアイムの領土へと向かっている状況にあっては、そんなものは必要とされませんでした。 そのとき彼はシェアイムの門の外で、最底辺の貧民の群れの中に立っていました。 移民が都市へ入ることを許されるためには何らかの技能を示さなくてはならず、門番が男である以上、ガウロスには何の手立てもありませんでした。 人々は既に脇に寄って焚き火の準備を始めており、誰一人として引き返す者はいませんでした。 彼が門を前にして三日目のこと、都市の内部で動きがありました。衛兵たちが唐突に(その点では無慈悲で怠慢だと言えますが)警告に現れ、門番が全ての人々に門から退去するよう命じました。 壁に小便をしたり、群れ集まった移民たちの上で脱糞したりしていた知性のかけらもない者たちは、任務に忠実な存在へと様変わりしました。 ガウロスと大勢の哀れな人々は、静かに待ちました。シェアイムを脅かすものなど何もなく、多くの人々が門から離れた場所へと離れ始めました。 そして彼らは到来する恐怖の源を目にしました。 燃え盛る蹄と獰猛で残忍な瞳をした馬に牽かれた、黒い馬車です。さらに近付いたため、人々は、その馬が狼のように鋭い歯を持っていること、肉を引き千切るのに慣れていること、野獣が次の獲物を見る目付きで群集を見つめていることに気付きました。 メビウスの魔女が馬車を御していました。彼女の姿は、でこぼこな石の上できつく引き伸ばされたなめし皮のように、捩れて後ろにのけぞり、まるでこの次元へと完全には現れることができていないかのようでした。 しかし馬車の中はさらに驚くべき光景でした。 オズ=ガベラ――嵐の女王は、腰を下ろして外をほとんど気にかけていませんでした。馬車の頑丈な作りにもかかわらず、窓は開け放たれ、乗客を守ろうという様子はいささかも見られませんでした。 馬車は都市に向かう準備をする前に門の前で停車し、オズ=ガベラは門番にいくつか小声で質問を投げかけました。 それが自分に唯一の才能を活かす最後の機会かもしれないと悟り、ガウロスは馬車の後方の路上へと進み出ました。 「我が女王よ、どうか私めに、あなた様の見目麗しき都へと足を踏み入れるお許しを賜りください。」 彼女は感情のない目で彼を見つめました。門番はガウロスの振る舞いに恐怖と衝撃を受けました。 オズ=ガベラの首が伸びてガウロスの頭を噛み千切ったとしても、門の前にいる誰も驚きはしなかったでしょう。そうではなく、このとき門番はガウロスに続けさせるよう任ぜられたからなのでした。 「あなたの美しさを称える伝説が、私をこの地まで運んだのです。不毛な荒野と、危険な街道を乗り越えて。しかし今私は、あなたについて語った者たちが誤りであったと分かりました。なぜならあなたは、彼らが話していたよりも遥かに美しいからです。」 再び息苦しいほどの沈黙だけがありました。そしてついにオズ=ガベラが答えました。「入るがいい。」 呆気に取られ、誰一人として身動きが取れませんでした。オズ=ガベラは馬車の扉を蹴り開け、その衝撃で門番が自失から引き戻され、行動に移りました。 門番はガウロスが中に乗り込むあいだ扉を支えました。 貴族や農民たちが先を争って逃げ惑うあいだに、馬車はガルヴェホルムを突き進みました。彼らは恐れと驚きをもってオズ=ガベラとガウロスを眺めました。 これこそ彼が慣れ親しんだ生き様でした。 彼は通りから視線を外し、彼女が自分をじっと見つめていることに気付きました。 決まって女性が褒めそやす両の瞳を少年のような前髪が覆い隠すのに任せたまま、彼は俯いて彼女と視線を交わしました。 彼は顔を上げて微笑みましたが、彼女の表情は変わりませんでした。 少し居心地の悪さを感じて、ガウロスは尋ねました。「私たちはどこへ向かっているのでしょうね?」 「お前の父親に会うのだ。」 メビウスの魔女が纏うローブの、ぼろぼろになった裾先が馬車の窓から届き、ガウロスの首筋を撫で付けました。日中の過酷な暑さの中でさえ、その感触は彼を身震いさせました。 ガウロスの父はラヌーンの都市ボランスで荷役人夫をしており、もう何年も会っておらず、この馬車の目的地だとはとても思えないその場所を彼は思い浮かべることができませんでした。 前方にシェアイムの宮殿があり、馬車が到着すると門が開け放たれました。彼らは狂宴者たちが言い争いをしている中庭で停車しました。 オズ=ガベラはてらいもなく馬車から降り立ちました。 ガウロスはその後に続き、それは彼女と一緒にいたい一心でというよりも、独りで奇妙な怪物と共に取り残される恐ろしさに駆られてのことでした。 宮殿の中に入ると、奴隷たちが引っ立てられて暗黒の馬たちに餌として与えられる様子が聞こえてきました。 内部でミノタウロスが壮大な霊堂の扉を開け放ちました。扉の向こう側では、階段が宮殿の地下深くへといざなっていました。 ガウロスは少しのあいだ進むことを躊躇いましたが、ミノタウロスが一瞥すると、オズ=ガベラの後に続いて階段を這い下り始めました。 宮殿の建築様式は自然の洞窟へと取って代わりました。階段は、オズ=ガベラが無意識に歩いた場所が磨り減ってでこぼこになった石の床に置き換わりました。 彼女の鎧に埋め込まれた宝石が淡い光を放ち、通路で唯一の照明となりました。ガウロスは死に物狂いで光が届く範囲から離れないようにしました。 通路は石造りのアーチが中央に据えられた小部屋に辿り着きました。 オズ=ガベラはアーチに近付き、その前で中空にルーン文字をなぞりました。そしてアーチをくぐると部屋は闇に包まれました。 ガウロスは慌てて前方に急ぎました。彼には暗い地下室まで一緒に来るようそそのかした少女たちの、ぼんやりとした記憶がありました。 そのときは少女たちよりも夜目が利いて、落ち着いて彼女らが暗闇に手探りする様子を眺めることができたのでした。 彼は、彼が傷付け、その手にかけた全ての少女たちが彼を見つめ、彼を道連れにする前に、この最後のひとときを楽しんでいるのだという思いにとらわれました。 その記憶に彼は平静を失い、石造りのアーチに激しく身体を打ち付けながら門をくぐり抜けました。 突然の明るさに目が眩みました。松明が壁に掲げられ、部屋の中央には一人の男が輝く銀の鎖に戒められて、奈落の穴の上に吊り下げられていました。 その男は痩せ衰え、疲弊を通り越して死に瀕しているように見えましたが、どこも傷付いてはいませんでした。 オズ=ガベラは男の元まで歩き、鎧から水晶を一つ取り外すと、それを奈落の上部に固定しました。 ガウロスは気を取り直すと、彼女の後に続きました。鎖に繋がれた男は驚いて視線を上げると、大声で叫びました。 「逃げなさい、我が子よ、逃げるのだ!」 ガウロスは凍り付きました。その男の言葉は力強く、しかしガウロスがアーチを振り返っても暗闇があるだけで、その向こう側には彼の手にかかった少女たちの幻が見えるのでした。 他に逃げる場所などどこにもありませんでした。代わりにガウロスはオズ=ガベラに話しかけました。 「あれは俺の親父なんかじゃない。」 オズ=ガベラは作り笑いを浮かべて言いました。「もちろんだとも、あれは人類の最初の父。ネヴェズ――我が夫である。」 彼女は最後の部分に明らかな侮蔑を込めて言いました。「我らは奴を滅する方法を見付けるためにここにいるのだ。」 そう言うと、真っ黒な炎が奈落の穴の外側まで立ち昇りました。 「この炎は最も深い地獄に由来し、エーテル体を焼き尽くすことができると言われている。永遠の定めを持つ肉体に対して、どのような効果を及ぼすのであろうな。」 オズ=ガベラが手を上げると、ネヴェズが奈落の底へと突き落とされました。絶叫が部屋を突き抜け、ガルヴェホルムじゅうに響き渡りました。ガウロスは踵を返して逃げ出しました。 亡霊への恐怖は、目の前にした責め苦に取って代わられました。しかしオズ=ガベラは逃しませんでした。彼女は彼の襟首を掴んで、奈落の穴まで引きずっていきました。 「死すべき定めの肉体にどんな効果を及ぼすのかも、同様に知っておかねばな。」 ガウロスは衣服の折り目に手を伸ばし、そこには常にナイフが忍ばせてありました。滑らかな一連の動作で、彼はそれをオズ=ガベラの喉元に突き立てました。 オズ=ガベラは笑い声を上げました。「貴様に私を殺せるものなら、我らがこんな忌々しい実験を行う必要などもなかろうよ!」 ガウロスは再び突き刺すためにナイフを引き抜きましたが、ナイフが取り除かれると傷がたちまち塞がることを知るだけでした。 そしてオズ=ガベラは、叫び声を上げるネヴェズがいる奈落へと彼を突き落としました。炎は瞬く間に彼の脚、胸、そして頭へと殺到しました。彼の絶叫がネヴェズのそれに加わりました。 ガウロスは灰色の荒野で目覚めました。彼の肌は火傷で水ぶくれになり、少年のような髪は燃え尽きていました。 身動きするたびに痛みが襲い掛かりました。彼は自分が死んだことを知りました。その死後の世界は心地良いものとは言えませんでしたが、耐えられないほどではありませんでした。 彼が手にかけた少女たちの霊魂が、こちらに向かってくるのを目にするまでは。

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