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窓に嵌められたガラスは数世紀もの時間を経て変形し、エルフ族にとってさえゆっくりと感じられる速さで窓枠を飲み込もうとしていました。
今や波紋のように波打ったガラスは、向こう側にある森の木陰を歪んで現実離れしたふうに見せていました。
アレンデルは窓に凝らされた技巧に感銘を受ける一方で、その洗練された窓が森と宮殿とを隔ててしまっていることを同じくらい残念に思いました。
「ここでの滞在はくつろげるものだったかしら。」
ファエリルが私室を訪れました。
彼女は侍者たちに控えるよう頼んでいたため、部屋にいるのはふたりの女王だけでした。
「ええ、もちろん。月影の王宮の美しさや、住人たちの礼儀正しさにはいつも驚かされるわ。」
ファエリルは、賛辞に対して頷きました。
彼女は権威の象徴であり、女王の証でもあるエルフの王冠、タン=エリンを身に着けていました。
女王たる彼女は同様の賛辞を返す必要がなく、返礼はその簡単な動作で充分だったのです。
アレンデルが王冠を戴いていた昨日には、ファエリルの側が同様の敬意を示していました。
彼女たちはちょうど秋の戴冠式を終えたばかりでした。
エルフの統治者たる地位を、陽光の王宮(シーリー・コート)から月影の王宮(アンシーリー・コート)へと委譲する儀式です。
ファエリルは王位を返上する春の戴冠式までの半年間を統治します。
それぞれの王宮は、竜の時代から今に至るまで一年の半分ずつを統治してきました。
ファエリルはアレンデルを見つめ、彼女を覆っている、らしくない沈んだ雰囲気の原因を探ろうとしました。
「アレンデル、何か心配事かしら。ご家族はお元気?」
「おかげさまで、変わりないわ。お気遣いありがとう。」アレンデルは自分の陰鬱な気分について思いを巡らせました。
「ええ、ずっと悩んでいることがあるの。でも謝らなければならないわね。ほんとうに、あなたや月影の王宮には関わりがないことなのに……。それが何かはわからないの。でも私たちに危険が迫っている気がする。今年の冬の訪れは、あまりに早すぎるもの。秋の戴冠式を終えたばかりだというのに、斥候たちはもう初雪の訪れを報告しているわ。司祭たちは夢で強い神託を受けているし、森の木々は冬の眠りに落ちるどころか、再び花を付けているみたい……。」
「イヴァンから聞いているでしょう? 彼はここで同じようなことを言って、はっきりとは言えない警告をいくつか残していったわ。あなたは指導者としての責任を忘れて、休息すべきよ。冬が去って、私が王冠をあなたに返すときの為の準備が必要でしょう。そのときまでは、なにか起こっても私が対処します。」
彼女は真摯でした。アレンデルは本当の姉妹のようなファエリルのことを好きでしたが、短期間で王位が交代してしまうことにファエリルが不満を持っていることを、彼女は知っていました。ファエリルは自らが立案したさまざまな積極的な政策を達成できないままでいました。おそらくは時間が短すぎるのです。それでエルフ族はこれまで有意義な変化をなにもしてこれませんでした。
「ええ、そのとおりね、女王さま。私の心配で煩わせてしまってごめんなさい。」
「……今日はいい日和ね、アレンデル。まだ時が残されている証拠よ。あなたは統治をしているあいだ、エルフの国のことばかりを考えて、自分自身のことを失念してはいないかしら。今は自分の身を労ることね。おそらく今年の冬はとても厳しく、スケルスは私たちを支えるために新たな種を授けてくれることでしょう。」
アレンデルは頷きました。
「もう行かなくては。今日はやることがたくさんあるの。もしよければ夕食を一緒にどうかしら。」
「ええ、喜んで。」アレンデルは言いました。「よき客人として振る舞うことを約束するわ。」
「必ず来るのよ。さもないと私が食事をここに運んで、あなたがお気に入りのこの窓の前に一緒に座って食べることになるわ。女王がいないせいで、右往左往する他の客人たちを放っておいてね。」
ふたりは微笑み合いました。
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窓に嵌められたガラスは数世紀もの時間を経て変形し、エルフ族にとってさえゆっくりと感じられる速さで窓枠を飲み込もうとしていました。
今や波紋のように波打ったガラスは、向こう側にある森の木陰を歪んで現実離れしたふうに見せていました。
アレンデルは窓に凝らされた技巧に感銘を受ける一方で、その洗練された窓が森と宮殿とを隔ててしまっていることを同じくらい残念に思いました。
「ここでの滞在はくつろげるものだったかしら。」
ファエリルが私室を訪れました。
彼女は侍者たちに控えるよう頼んでいたため、部屋にいるのはふたりの女王だけでした。
「ええ、もちろん。月影の王宮の美しさや、住人たちの礼儀正しさにはいつも驚かされるわ。」
ファエリルは、賛辞に対して頷きました。
彼女は権威の象徴であり、女王の証でもあるエルフの王冠、タン=エリンを身に着けていました。
女王たる彼女は同様の賛辞を返す必要がなく、返礼はその簡単な動作で充分だったのです。
アレンデルが王冠を戴いていた昨日には、ファエリルの側が同様の敬意を示していました。
彼女たちはちょうど秋の戴冠式を終えたばかりでした。
エルフの統治者たる地位を、陽光の王宮(シーリー・コート)から月影の王宮(アンシーリー・コート)へと委譲する儀式です。
ファエリルは王位を返上する春の戴冠式までの半年間を統治します。
それぞれの王宮は、竜の時代から今に至るまで一年の半分ずつを統治してきました。
ファエリルはアレンデルを見つめ、彼女を覆っている、らしくない沈んだ雰囲気の原因を探ろうとしました。
「アレンデル、何か心配事かしら。ご家族はお元気?」
「おかげさまで、変わりないわ。お気遣いありがとう。」アレンデルは自分の陰鬱な気分について思いを巡らせました。
「ええ、ずっと悩んでいることがあるの。でも謝らなければならないわね。ほんとうに、あなたや月影の王宮には関わりがないことなのに……。それが何かはわからないの。でも私たちに危険が迫っている気がする。今年の冬の訪れは、あまりに早すぎるもの。秋の戴冠式を終えたばかりだというのに、斥候たちはもう初雪の訪れを報告しているわ。司祭たちは夢で強い神託を受けているし、森の木々は冬の眠りに落ちるどころか、再び花を付けているみたい……。」
「イヴァンから聞いているでしょう? 彼はここで同じようなことを言って、はっきりとは言えない警告をいくつか残していったわ。あなたは指導者としての責任を忘れて、休息すべきよ。冬が去って、私が王冠をあなたに返すときの為の準備が必要でしょう。そのときまでは、なにか起こっても私が対処します。」
彼女は真摯でした。アレンデルは本当の姉妹のようなファエリルのことを好きでしたが、短期間で王位が交代してしまうことにファエリルが不満を持っていることを、彼女は知っていました。ファエリルは自らが立案したさまざまな積極的な政策を達成できないままでいました。おそらくは時間が短すぎるのです。それでエルフ族はこれまで有意義な変化をなにもしてこれませんでした。
「ええ、そのとおりね、女王さま。私の心配で煩わせてしまってごめんなさい。」
「……今日はいい日和ね、アレンデル。まだ時が残されている証拠よ。あなたは統治をしているあいだ、エルフの国のことばかりを考えて、自分自身のことを失念してはいないかしら。今は自分の身を労ることね。おそらく今年の冬はとても厳しく、スケルスは私たちを支えるために新たな種を授けてくれることでしょう。」
アレンデルは頷きました。
「もう行かなくては。今日はやることがたくさんあるの。もしよければ夕食を一緒にどうかしら。」
「ええ、喜んで。」アレンデルは言いました。「よき客人として振る舞うことを約束するわ。」
「必ず来るのよ。さもないと私が食事をここに運んで、あなたがお気に入りのこの窓の前に一緒に座って食べることになるわ。女王がいないせいで、右往左往する他の客人たちを放っておいてね。」
ふたりは微笑み合いました。