エイニオン・ロゴス

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&setpagename(エイニオン・ロゴス Einion Logos) #image(einion.gif) クルヴァ。 彼はいつも「クルヴァ」で始めました。 それはラヌーンの言葉で、愛という意味です。 彼は、彼のリストを完遂しました。 全ての単語と、その意味とを吟じながら。 はじめは全て暗唱することが出来ましたが、毎週少しずつ追加され、リストの最後に近づいた頃には、その仕事の為の日誌を読まなければなりませんでした。 彼女が命を落としたのは、二年前のことでした。 彼は彼女をいつかエーゲ諸島に連れて行くと約束していましたが、しかしそれはいつも延期されていました。 戦争の間は戦いの為に、そうでない時には平和の維持の為に、彼は必要とされていたのです。 彼を見つけた侵攻軍はすぐさま退却し、交渉を拒否していた敵も彼が条約を首都の門まで運んできた時には平和を切望する者となっていました。 けれども、悪魔との間に結べる良い取引というものは存在しませんでした。 彼は丁度、地獄の軍勢との交渉から戻ってきたところでした。 砕けた骨と山羊頭の深蒼の悪魔は、平和条約を結ぶことには同意しましたが、しかしそこには幾つかの要求がありました。 その悪魔は多くのものを失っており、そのことで激昂していました。 彼はエイニオンを脅しましたが、エイニオンはそれを無視して完全な降伏を要求しました。 その悪魔に、選択肢は残されていませんでした。 条約は調印されました。 地獄の軍勢とエロヒムとの間の戦争は、終結しました。 条約調印前の犯罪は、全て水に流されることでしょう。 悪魔は署名し、そして微笑みました。 その微笑は、エイニオンが帰宅するまでの三日間、彼の脳裏に付きまといました。 皆が彼の成功を、終戦を称えましたが、エイニオンの心には暗雲が立ち込めていました。 彼が隠遁生活を送っている館の扉を開けたその時、その理由を彼は理解しました。 悪臭が彼の鼻を突きました。 何が起きたか、彼はすぐ理解しました。 それは戦場で嗅ぎ慣れた匂いでした。 知識の呪縛は、希望を打ち砕きます。 何が起きたか、何が起きているか、何が起こるか、知らないままで無知でいたい、という希望を。 エイニオンは館の中を歩きました。 妻の元に駆け寄りたい気持ちで一杯でしたが、彼を取り巻く恐怖の中を、歩くより早くは動きたくありませんでした。 辺りは、一面の血の海でした。 休憩室に置かれた上品なガラスの棚には、彼女の痕跡がありました。 彼女の手と顔の形の、血痕が。棚の中には、彼女自身が彩色した繊細な貝殻が無傷なままで残っていました。 彼女はガラスに押し付けられてはいませんでした。 ちょうど跡を残す程度に、彼女の顔は持ち上げられ、擦り付けられ、保持されていました。 全ての部屋がそんな様子でした。 彼女は居間の垂木に攀じ登り、その長い髪を支柱のロープに結び付けました。 それから彼女は飛び降り……彼女の髪と頭皮の破片はまだそこにぶらさがっていました。 寝室へと続く廊下に飾られた絵の上には、彼宛ての残酷なメッセージが書かれていました……全て彼女の筆跡で。 エイニオンはそれらを無視しようと努めました。 寝室からは、灰色の灯りが漏れていました。 それは、まるでランタンの前で襤褸襤褸の旗を振っているかのような奇妙に揺れ動く影を廊下に作っていました。 エイニオンは彼女の死体を目にする覚悟をしました。 しかし、彼女は死ねないでいました。 彼女には皮膚がありませんでした。 それは、彼女自身によって削ぎ取られていました。 彼女は切り裂かれ、四肢は間接から引き抜かれて奇妙な角度でだらりとぶら下がっていました。 光は、彼女の胸の上の灰色の印から発せられていました。 彼女が死ぬことをゆるさず、彼女が経験したあらゆる苦痛から開放されることを赦さない、その印から。 彼女の魂は、その拷問された肉体に囚われていました。 肉体は苦痛にもだえ苦しみ、魂も苦痛を長引かせられていました。 魂は逃げ出そうとしていましたが、その印章の力にがっちりと捕らえられていました。 彼女は苦痛によって発狂し、声にならない叫びをあげていました。 エイニオンはベッドの脇に跪き、涙を流しました。 彼はその印を消し去る呪文を詠唱し、それが消えると彼は彼女を殺しました。 そして、ベッドの脇に崩れ落ち、彼女に赦しを請う祈りをささげました。 その日の夕方、エイニオンの為に開かれた祝賀会に彼が姿を現さないことに不審を覚えた彼のルエ・デ・グアル(盾持ち)によって彼は発見されました。 都市全体が、悲しみに包まれました。幼い子どもからベテランの戦士まで、皆が涙を共有しました。 都市全体が血を、休戦の破棄を要求して声を上げましたが、しかしエイニオンだけがそれを否定しました。 彼は、「the Council of Ayes」にこう著しています。 もし私を哀れむなら、武器を降ろしてください。 もし私を愛するなら、戦場へ行軍せず、あなたの妻と子供達の下へ戻ってください。 あなたの船を貿易や探検へと出航させ、あなたの夢を、子供達が庭で戯れ、長年友人との時を費やせることとしてください。 私は、妻を葬ってきます。 僅かな時しか、共に過ごすことの出来なかった妻を。 あなたの時を簡単に過ぎ去らせてしまうことを、あなたは許してはいけません。
&setpagename(エイニオン・ロゴス Einion Logos) #pc(){ #image(einion.gif) } #mobile(){ #image(einion50.gif) } クルヴァ。 彼はいつも「クルヴァ」で始めました。 それはラヌーンの言葉で、愛という意味です。 彼は、彼のリストを完遂しました。 全ての単語と、その意味とを吟じながら。 はじめは全て暗唱することが出来ましたが、毎週少しずつ追加され、リストの最後に近づいた頃には、その仕事の為の日誌を読まなければなりませんでした。 彼女が命を落としたのは、二年前のことでした。 彼は彼女をいつかエーゲ諸島に連れて行くと約束していましたが、しかしそれはいつも延期されていました。 戦争の間は戦いの為に、そうでない時には平和の維持の為に、彼は必要とされていたのです。 彼を見つけた侵攻軍はすぐさま退却し、交渉を拒否していた敵も彼が条約を首都の門まで運んできた時には平和を切望する者となっていました。 けれども、悪魔との間に結べる良い取引というものは存在しませんでした。 彼は丁度、地獄の軍勢との交渉から戻ってきたところでした。 砕けた骨と山羊頭の深蒼の悪魔は、平和条約を結ぶことには同意しましたが、しかしそこには幾つかの要求がありました。 その悪魔は多くのものを失っており、そのことで激昂していました。 彼はエイニオンを脅しましたが、エイニオンはそれを無視して完全な降伏を要求しました。 その悪魔に、選択肢は残されていませんでした。 条約は調印されました。 地獄の軍勢とエロヒムとの間の戦争は、終結しました。 条約調印前の犯罪は、全て水に流されることでしょう。 悪魔は署名し、そして微笑みました。 その微笑は、エイニオンが帰宅するまでの三日間、彼の脳裏に付きまといました。 皆が彼の成功を、終戦を称えましたが、エイニオンの心には暗雲が立ち込めていました。 彼が隠遁生活を送っている館の扉を開けたその時、その理由を彼は理解しました。 悪臭が彼の鼻を突きました。 何が起きたか、彼はすぐ理解しました。 それは戦場で嗅ぎ慣れた匂いでした。 知識の呪縛は、希望を打ち砕きます。 何が起きたか、何が起きているか、何が起こるか、知らないままで無知でいたい、という希望を。 エイニオンは館の中を歩きました。 妻の元に駆け寄りたい気持ちで一杯でしたが、彼を取り巻く恐怖の中を、歩くより早くは動きたくありませんでした。 辺りは、一面の血の海でした。 休憩室に置かれた上品なガラスの棚には、彼女の痕跡がありました。 彼女の手と顔の形の、血痕が。棚の中には、彼女自身が彩色した繊細な貝殻が無傷なままで残っていました。 彼女はガラスに押し付けられてはいませんでした。 ちょうど跡を残す程度に、彼女の顔は持ち上げられ、擦り付けられ、保持されていました。 全ての部屋がそんな様子でした。 彼女は居間の垂木に攀じ登り、その長い髪を支柱のロープに結び付けました。 それから彼女は飛び降り……彼女の髪と頭皮の破片はまだそこにぶらさがっていました。 寝室へと続く廊下に飾られた絵の上には、彼宛ての残酷なメッセージが書かれていました……全て彼女の筆跡で。 エイニオンはそれらを無視しようと努めました。 寝室からは、灰色の灯りが漏れていました。 それは、まるでランタンの前で襤褸襤褸の旗を振っているかのような奇妙に揺れ動く影を廊下に作っていました。 エイニオンは彼女の死体を目にする覚悟をしました。 しかし、彼女は死ねないでいました。 彼女には皮膚がありませんでした。 それは、彼女自身によって削ぎ取られていました。 彼女は切り裂かれ、四肢は間接から引き抜かれて奇妙な角度でだらりとぶら下がっていました。 光は、彼女の胸の上の灰色の印から発せられていました。 彼女が死ぬことをゆるさず、彼女が経験したあらゆる苦痛から開放されることを赦さない、その印から。 彼女の魂は、その拷問された肉体に囚われていました。 肉体は苦痛にもだえ苦しみ、魂も苦痛を長引かせられていました。 魂は逃げ出そうとしていましたが、その印章の力にがっちりと捕らえられていました。 彼女は苦痛によって発狂し、声にならない叫びをあげていました。 エイニオンはベッドの脇に跪き、涙を流しました。 彼はその印を消し去る呪文を詠唱し、それが消えると彼は彼女を殺しました。 そして、ベッドの脇に崩れ落ち、彼女に赦しを請う祈りをささげました。 その日の夕方、エイニオンの為に開かれた祝賀会に彼が姿を現さないことに不審を覚えた彼のルエ・デ・グアル(盾持ち)によって彼は発見されました。 都市全体が、悲しみに包まれました。幼い子どもからベテランの戦士まで、皆が涙を共有しました。 都市全体が血を、休戦の破棄を要求して声を上げましたが、しかしエイニオンだけがそれを否定しました。 彼は、「the Council of Ayes」にこう著しています。 もし私を哀れむなら、武器を降ろしてください。 もし私を愛するなら、戦場へ行軍せず、あなたの妻と子供達の下へ戻ってください。 あなたの船を貿易や探検へと出航させ、あなたの夢を、子供達が庭で戯れ、長年友人との時を費やせることとしてください。 私は、妻を葬ってきます。 僅かな時しか、共に過ごすことの出来なかった妻を。 あなたの時を簡単に過ぎ去らせてしまうことを、あなたは許してはいけません。

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