カンドロス・ファー Kandros Fir


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アーチュラスは蝋燭の灯りの中に友人の姿を認めました。
地底の奥深くにあるこの神聖なる小部屋では、松明を使うことは禁じられていました。
彼らの放つすすと煙が、列柱に刻まれたルーン文字を見え難くしていました――柱の一面を覆う、誉れ高きドワーフの祖先たちによる業績と勇名を。
後世に伝えるため、この遺跡に物語を刻んで守り続けた古代のドワーフたちは、公式にはルーンの番人(Runewarden)といいましたが、俗には「手業の遠見師」と呼ばれていました。
常日頃から蝋燭の灯りに目を凝らしてきたせいで、彼らの視力は衰え、そのため彼らは文字や単語を指でなぞることで読み取ったのでした。
カンドロス・ファーは、ルーンの広間におけるファー氏族の最も新しい歴史が刻まれた区画に佇んでおり、手には鑿(のみ)が握られていました。

「いると思ったぞ、」とアーチュラスは言い、隣に膝をつきました。

「わしはあやつの一番近しい身内だった。その業績と勇名を、わしらの物語に加えてやらねばならんのでな。」

「そうだな、旧友よ。だがそれだけではなかろう?」カンドロスは首を縦に振りました。

「わしは我が王に忠誠を捧げておる。この身に懸けてもな。」

「だが?」

「わしは家族を見捨てるくらいなら、すぐさま自分の斧で命を絶つわい! お前さんの従兄弟であるグルンノスが姿を消したとする。お前さんならどうするね?」

アーチュラスは鼻を鳴らしました。「あんなろくでなしの話などするな! 偉大なるカンロア王に万一のことがあっても、奴より継承権が上の王子は何人もおる。それを喜ぶべきだろう。」

「だが?」

「だが…。奴がルアークのようなことになれば、わしはマンモンがおわす地獄にまで潜ることだろう。それで奴を助け出せるのであればな。だがそれも、王の許しを得られればの話だ! わしとて血縁の絆は知っておる。だが血縁とはなんだ? みずからの務めや友人たちを放り出して、無茶な捜索に出かける気か? この冬はお前のことも同じように連れ去ってしまうぞ。そんなことをしてどうなるというんだ?」

カンドロスは立ち上がって、鑿と金鎚を祭壇の裏側に置き、踵を返しました。
「わしの務めには、共に励む仲間がおる。友人たちにしてもそれは同じだ、アーチュラスよ。だがルアーク・ファーは独りぼっちなのだ。わしらの友情を大切に思ってくれるなら、お前さんはわしの邪魔をせんはずだ。」

地表まで辿り着くのは困難を極めました。
カンドロスの従兄弟であるルアークが地表を見聞するために出掛けて以来、外に出ることを許される者は誰もいませんでした。
冬は六世代以上も変わることなく未だに猛威を振るっていました。
しかし若きルアークは恐れを知らず、過酷な地表を探索するために地底を出る許可を、危険を承知でカンロア王に請いました。
地底の物資は乏しいものでした。黒色火薬の蓄えはとうの昔に底を尽き、その扱いを知る最後のドワーフたちもこの世を去っていました。
地底で版図を広げるには、つるはしや金鎚で地道に掘り進めるしかありませんでした。
香辛料はカンドロスが若い頃に早々に使い果たされ、彼の子供たちにとって豚や芋を食べることは日々の雑務でしかありませんでした。
そしてとうとうルアークに、荒れ果てた地表に秘められた別の可能性を値踏みするという許しが出されました。
しかし何ヶ月たってもルアークが戻ることはなく、カンロアの躊躇は正しかったのだとはっきりしました。
今や地表に出ることは完全に禁じられ、それゆえカンドロスは番兵の目を盗まなくてはならず、もし無事に戻っても謗りを受けることは免れないでしょう。

ドワーフ郷の出口は巨大な石の扉で封じられており、それを開けるのは、つるはしを梃子に使ってさえ疲れ果てるほどの大仕事でした。
カンドロスは故郷の馴染みある暗闇の中から、氷の時代の未知なる暗闇の中へと勇敢に足を踏み出しました。
彼は山腹に姿を現し、草を踏みしめました。
雪はどこにもなく、大気は張り詰めてはいましたが、生まれてからずっと言い聞かされてきたような、刺すほどの寒さはありませんでした。
彼は両腕を広げていっぱいに伸びをし、四方に開けた広がりに驚嘆しながら山腹を麓に向けて駆け出しました。
地底では、走ることは愚の骨頂でした。低い天井、急な曲がり角、突然の滑落などが、慎重な一歩を強いる困難として立ちはだかりました。
しかしここには自由がありました。

そして危険も。
カンドロスは、大きな灰色の狼に囲まれていることに気付きました。
彼はこうした獣たちの縄張りに近付きすぎたことを理解し、そして獣たちには、彼がここにいる理由など関係のないことなのでした。
最初の一匹が喉元めがけて飛びかかるより先に、彼はかろうじて手斧を構えました。
先制したのは、狼の喉を捉えた彼の刃でした。
そして突進してきた次の一匹の頭蓋を。
最後の一匹が息絶え、あるいは瀕死になって倒れるまで、彼は斧と松明からなる一陣のつむじ風と化しました。

こんなにも多くの獣たち…彼が不毛の土地だと思い込まされてきた地表には、この規模の群れを支えるのに充分なほどの獲物がいるというのでしょうか?
それから彼は、狼のねぐらに半分ほど埋まったあるものに気付きました。
彼はゆっくりと歩いていき、ごみの山の中から死体を引っ張り出して、息を呑みました。
狼が肉を食い荒らした後の、見るも無残な姿でしたが、それは紛れもなくドワーフの骸でした。
衣服の意匠は彼と同じ部族であることを示しており、カンドロスは、自分が従兄弟を見つけ出したことを理解したのでした。
彼は髭を掻き毟って、亡骸を嘆き悲しみました。
しばらくして、彼は亡骸をかき集めました。
ふるさとが見える場所に埋葬するつもりでした。
そして彼は気付きました…左の肩甲骨が真っ二つになっていることに。
割れたのではありません。
鋭い刃物で寸断されていたのです。
彼は慎重にそれを調べました。
ルアークは背後から戦斧の一撃を受けたのです。
ほぼ間違いなく、彼と似た背丈の者から。

「殺されたのだ…。」彼は闇夜の中に囁きました。

返答がありました。
闇夜からではなく、彼のすぐ背後に立つ、ミスリルの斧を構えた外套姿のドワーフから。
「そいつもお前も野放しにはさせんよ、ファー。」
そのドワーフは殺気と共に斧を振り下ろし、しかしそれを取り落とすと、口から血を吐き出しました。

「カンドロス!」アーチュラスが狼のねぐらの入り口から叫びました。
彼の斧が外套姿のドワーフの首筋に埋め込まれていました。
二人の友はひしと抱き合いました。

「わしはルアークと、そしておそらく彼を殺した犯人を見つけたよ。」とカンドロスは友人に告げました。

アーチュラス・ソーンは青褪めました。
「そしてわしのほうは、従兄弟殿を見付けたというわけだ。」彼が止めを刺したドワーフはグルンノス王子でした。

前回、カンドロスが国王の間にいたのは従兄弟の捜索に出かける許可を願い出るためでした。
今回は、国王自身の息子が自分の親族を殺めたという告発を行うためでした。
人望のあるアーチュラスが隣にいなければ、彼は人殺しと責められ、さらにはグルンノスを告発した恥知らずという謗りを受けたことでしょう。
カンロアは立ち上がり、二人のドワーフに向き合いました。
その顎髭はほとんど床にまで届くほどでした。
彼の長男と儀仗兵がその脇に控え、部屋にはその他に誰もいませんでした。
「お前は掟をないがしろにしたのだぞ、カンドロス・ファーよ。地表の世界は、恐ろしい神々とその軍勢たる巨人族が支配する過酷な地だ。里抜けは大逆も同然である。」

カンドロスは王の言葉を黙って聞いていましたが、それが終わると王を非難しました。
「氷はとうの昔に消え去っていましたぞ、我が王よ。冬は終わりを告げたのです。王が定められた掟は、我が民のふるさとを牢獄と成しました。それも偽りに基づいて!」

「今の話は本当です、叔父上、」とアーチュラスが言いました。
「おそらく斥候たちは何年にも渡って叔父上を欺いていたのです!」

「何年も、ではないぞ、愚かなアーチュラスよ。十ヶ月も前には本当に冬が荒れ狂っておったのだ。」

「ご存知でいらしたのですか?」カンドロスは喘ぐように言いました。

「そうだ、だがお前の従兄弟は、この秘密を守るためには死なねばならなかったのだ。冬の王が去ったとはいえ、地表の世界は悪意に満ちた領域だ。エルフや人間たちはあらゆる戦士を打ち倒す魔法を操り、強欲は戦争と果てしない支配を生む。ここであれば我が民たちは安全だ、そしてこの地で生き延び続けるのだ。」

「我らは庇護のために匿われるような、あなたの子供ではありませんぞ。カザードを解き放ち、その価値を証明するのです! 死人も同然に、石室の中に身を縮めるのではなく! あなたは我らの気高き魂を損なわれたのです! あなたは臆病者だ、カンロア王よ。大逆など知ったことか!」

「もうよい! 儀仗兵よ、この者らを処刑せよ!」儀仗兵たちは斧を構えはしたものの、ためらった様子で周りを見回しました。

「気でも触れたのですか、父上? この者らは何一つ間違ってなどおりませんぞ。父上は自らの行いで、ご自身と一族の名を汚されたのです。」
トリル王子は編まれた自分の顎髭を切り落とし、それを王の顔めがけて投げ付けました。
「この裏切りの知らせが玉座の間から外に広まれば、父上はすべての忠誠を失うことでしょう。同時に、生きる道をも。」
儀仗兵たちは彼の言葉を聞いて、武器を下ろしました。

「お前も余を見捨てるというのか。息子よ、耳を傾けよ――ドワーフの最後の一人が狩られ、馬上槍や魔法の杖の前に倒れるとき、彼らが最後の言葉で呪うのはお前の名になるのだぞ!」
カンロアは国王の間からよろめき出て、彼があれほど恐れた地表へと向かい、そして流浪の身となりました。

王子はアーチュラスに向き直りました。
「従兄弟殿よ、そなたは父上を除けば、存命の者の中では私の最も近しい血縁だ。人々が従うとすればそなたであろう。」

アーチュラスは旧友に向き直りました。
「カンドロスよ、わしが頼んだように、この件に目を瞑ることはできなかったのか? お前のせいで、わしは身内殺しの簒奪者となってしまったではないか。」

「なんだと? この茶番劇はカンロアが為したことではないか!」

「今わしが言っておるのは、この重苦しい気持ちで言うことは、王冠の重さゆえではない。お前は地表を追い求めた。お前はその地へと向かい、地底からは姿を消さねばならんのだ。支度を整え、一族を率い、地上に運命を切り拓こうとする者全員を連れて行け。これが公正なことだとは言わん。だが掟に背いた者が広間を歩いていては、地底に秩序など望むべくもない。お前は地表に出た時点で王の勅令に背いたのだ。」とアーチュラスは溜息混じりに言いました。

「お前さんを追った、わしもな。トリル、お前が王にならないというなら、わしの補佐役を務めてくれ。わしは自らの掟破りに対する罰として、地表に玉座を築こう。わしに従ってくれる者すべてと共に。」

そしてこの三百年で初めて、ドワーフの王が地底を後にしたのでした。
同時にファー氏族とその仲間たちは、彼ら自身のカザード国を築くために古巣と袂を分かちました。
最も親密な友人同士であった二人のドワーフは、この最後の時代におけるライバルたちの中でも、最も激しい関係となったのでした。
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