シェルバ Sheelba


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戦いは熾烈を極めましたが、バンノールの男たちは真実を示しました。トリノは後詰めの部隊から召集を受け、負傷者の手当てに必要になるかもしれないと、残り物や湿布薬などをかき集めました。悲しいかな、彼らが示した遺体は、彼や彼が信奉する神の手には負えないものでした。

「トリノ…。」アエシルは話し始めました。「我々はそれを炉端で見つけたのだ。すまない、友よ。」その護衛は握った手を開いて、秩序の侍者の家紋が刻まれた、小さな腕輪を見せました。トリノはそれを握り締め、彼を押しのけて、炉端に向かって膝を落としました。融けた雪に混じるオークや人々の血が下半身を濡らし、彼はそこにあった小さなしゃれこうべを手の中に掻き抱きました。

「私のジェシュア…。」と彼は呟きました。一縷の希望でも、縋ることはできました。そして今、灰と化した娘を目にしたことで、その希望は断たれたのでした。

「少なくともこのオークどもは、これ以上を道連れにすることはない。」とアエシルが言い、軍刀を拭って荒れ果てた野営地を見渡しました。「とはいえ、引き返せばすぐにでもこことは別の野営地が見つかりそうだな。」

「副官殿!」と、赤ん坊を抱きかかえた一人の戦士が近付いてきました。「こいつはまだ生きてます!」

アエシルはオークの子供の足を掴んで高く掲げ、それを良く観察しました。子供を包んでいた布が踏み荒らされた地面の上に落ちました。「雌だな。醜く呪われた種族ではあるが、確かに雌だ。トリノ、こいつを受け取れ。殺すんだ。少しは気も紛れるだろう。」

トリノは友人から子供を受け取ると、まるで自分の娘であるかのように、それを腕に抱きしめました。「この子が私の娘を殺したわけではない。この子が死んだところで、裁きが為されるわけではないのだ。」

「そいつは堕落と荒廃の象徴だぞ。お前がそいつを殺せば、別の誰かの子供を、そいつから産まれてくる獣どもから救い出すことになるんだ。」

「アエシル、この子はまだ赤ん坊だ!」

「いいさ、ならここに置き去りにして、北風と狼に処分を任せるとしよう。それともまさか、お前が自分で育てるつもりじゃないだろうな?」

聖職者は既に自分の外套にその子供を包んでいました。「そうするとも、アエシル。そしてこの子がいかに文明に慣れてゆくかを、この目で確かめるのだ。法と善良な心を教えてやることができれば、我々の果てしない戦を終えることもできよう。」

「トリノ聴罪司祭! さあさあ入った入った。奥方のことは聞いたよ。心からお悔やみ申し上げる。」

トリノは手で髪を梳いて、溜め息を吐きました。「ああ。私たちは共に冬の終わりを確かめるまで永らえることを夢見てきたのだが…。彼女は今頃、緑の牧草地を眺めていることだろう…私よりも一足先に。」トリノはその術使いに暖炉の傍にある椅子まで案内させ、そして彼らはしばらく無言で座っていました。「研究のほうはどうだね、ファルサルス?」

「ついに良い報せだ。トーロレリアルとサバシエル様ご自身から、公式に認可するとのお達しがあった。我々が発見したマナの研究を続けることができそうだ。それが戦に役立ち、この地の法と平和に貢献する限りはな。」

「うむ、それでその、ひとつ頼みがあるのだが。私の…あのオークの子供のことなんだが――」

「ああ、あの子がどうかしたか?」

「私は楽観的に過ぎたのかもしれん。あの子は欲張りでわがままに育った。どうにかよちよち歩きができるまでになり、私たちの会話を覚え、あれを指しては『いや』これを指しては『いや』と言う。まるであの子自身の混沌とした気性が表に現れているかのようだ。妻に先立たれ、仕事と両立させながら育てることが難しくなっているのだ。だが、あの子を追いやらねばならないような事態は避けたい。」

「ジェシュア…先の子が亡くなったのは何歳のときだったかな?」

「あの子がさらわれたのは、ちょうど乳離れした頃だった。何が言いたいのだ?」

「たぶん、お前は単に、そのオークの子供を上手く扱うだけの経験がないのだ。子供というものは――」

「違う。私の愛しいジェシュアは、あの子供のような振る舞いはしなかった!」

「わかったわかった、それで、頼みたいことというのは何だ?」

「お前が見つけ出したという呪文の噂を耳に入れてな。それは人の心に触れ、忠誠を課すことができるという。私の子供に、その呪文を施して欲しいのだ。」

ファルサルスは溜め息を吐きました。「それは本当に研究中の代物でしかないことを、あらかじめ断っておくぞ。だがお前を思い留まらせようなどという愚は冒すまい。髪の毛の一束か、他に何かその子の一部分があれば、ここで今すぐにでも執り行おう。」

トリノは小さな牙を取り出し、それを差し出しました。「あの子はちょうど歯が抜けたところだ。」

術使いはそれを受け取り、隣の部屋へと移りました。そこは、秘薬を収める棚と、石の床から削り出された完全に円形の火炉の他には、家具がなにもない殺風景な部屋でした。彼は何種類かの触媒を選び出し、そこに牙を加えて燃やし始めました。そしてそれを火にくべると、呪文を唱えました。ときには標準語で、ときには古代語で。最後にはこう結びました。「Qualum en noctum et solum nivum sheelba!」

トリノは儀式の終わりを計りかねながら、それを戸口から見つめていました。そしてファルサルスが振り向きました。「完了だ。この呪文は、最後の単語を唱えるたびにその子の中で力を増すだろう。」

「シェルバ。」

「そうだ。それはその子の母国語に由来する言葉だ。見捨てられし者。『夜にありても昼にありても、見捨てられることなかれ。』とな。」

「礼を言う、我が友よ。トルゥ・エリルの中枢で野生のオークを育てたとなれば、私の身がどうなるものか、考えただけでぞっとするよ。」

熱狂的な祝賀が文明世界のいたるところで行われ、それはトルゥ・エリルにある司祭長の家も例外ではありませんでした。「この日を見ることが敵わなかった者たちのために、」と、トリノは最上級の葡萄酒で友に向けて乾杯をしました。窓は大きく開け放たれ、ついに、冬の冷たい風ではなく、春のうららかな風が吹き込んでいました。その都市守備隊長は一気に酒を呷りました。

「もっとだ! この年代物は飲み尽くしてしまったほうがいいぞ、トリノよ。次の収穫で、もっと上物の葡萄酒が出来上がるに違いないんだからな。」

「ああ、まったくだ。」トリノはアエシルの求めに応えるべく、席を立ちました。

「座れ座れ、雑用を任せられるオークがいるってのに、お前さんが立つこともなかろう?」

「いや、それは…。」トリノは座りました。「シェルバ、私の友人のために、もっと葡萄酒を持ってきてもらえないか。」

「わかったわ、お父様。」彼女が去ると、トリノは自分の酒杯を飲み干し、それを空っぽとなった器の山に積みました。

「お前さん、あれになんと呼ばせてるんだ?『お父様!』」と、アエシルは吐き捨てるように言いました。「お前はあれの父親なんかじゃない。分かってるだろう、あれの父親は、おそらく間違いなく私自身の手にかかっている。もう12、13年前になるか?」

「アエシル! お願いだ、今は幸せな時間なんだ。」ファルサルスは、彼のローブの正面に葡萄酒をぶちまけてそれを遮りました。

「お前はあれにキラディアの衣装を着せているんじゃないのか? シェルバ・ジェシュア・ストーンロウとでも呼んでいるのか? 言わせてもらうが、悪趣味が過ぎるぞ。」

「違う…あの子は…あの子は私の娘ではない、アエシル、分かっているとも。あの子と共にいることは、私にとって慰めなのだ、わかるだろう? 外で蛮行を働くよりずっといいではないか。」彼はそう言いながら、友の視線から目を背けました。

「あれがきちんと葡萄酒を持ってくることができるなら、そうだろうとも。」アエシルは立ち上がり、台所に向かって足をもつれさせました。「おおい! 私は喉が渇いたぞ!」トリノはファルサルスの後に続きました。彼らは葡萄酒が台所の調理台の上に置かれ、勝手口が開いていることに気付きました。直ちに捜索を行いましたが、少女は見つかりませんでした。

「あの子はどこだ?」とトリノが問いました。

「おそらく…私たちの話を聞いていたのだろう、トリノ。」とファルサルスが言いました。「多分お前の言葉を聞いて、行方をくらましたのだ…。」

「あの子がいなくなることなんてありえない! あの子は私のすべてだというのに!」トリノは魔術師に向き直りました。「ファルサルス、私は教えてもらった言葉を毎日唱えた。だからあの子はそれを自分の名前だと思い込んだのだ! お前の忠誠の呪文はどうなったのだ?」

「私の、何だって? お前は何を…あのときの? あれは十年も前のことだぞ! 私はほんの術使いに過ぎなかったし、まだ研究中の呪文だと言ってあったではないか!」

「つまり、呪文の効果が切れてしまったというのか?」

「いいや、最初から呪文の効果などなかったのだ。私はあのとき秘薬の調合を誤ったのだ。てっきりそのことは伝えてあったものだと…。」

「効果はあったとも! あの日からあの子は決して私の傍を離れなかった! 私が出会った中でも、最高に正直で忠実な娘になったのだ。」

アエシルは友人の瞳の中に苦悶の色を認め、ほんの束の間、彼が生涯をかけて戦ってきた種族に対する嫌悪を乗り越えました。「トリノ、わからないのか? 彼女が忠実だったのは、呪文のせいなんかじゃない! 彼女は成長したんだ、お前の娘へと! それは、あの子の中にいつも反抗の兆しを窺っていたお前が、常に一緒にいるよう努め始めたからじゃないか。」

聴罪司祭は白髪が混じり始めた頭を抱えて、膝から崩れ落ちました。「おお神よ、私がいったい何をしたというのですか?」

彼女は村落から逃げ出し、文明が纏わせた装飾を引き千切りました。言葉は彼女から消え失せ、咆哮を上げて鬱蒼とした密林の中を駆け抜けました。そのオークに捕まったとき、彼女はほとんど衣服を身に付けていませんでした。

「いただき! おい、お前は人間じゃないな、」と巨漢のオークが言いました。

「違う、私は違う、私は?」シェルバは身をよじって彼を振りほどきました。「私は人間じゃない、そしてあいつはお父様なんかじゃない。あいつらなんて私には何の意味もない。燃やしてやる、全部燃やしてやる!」彼女は一言ごとに、目の前にいるオークの胸板を叩きました。息を切らせて、ついには彼の足元にへたり込みました。彼は彼女を持ち上げました。

「俺は残り火一族のランタインだ。お前は?」

「シェルバよ。」

「来るがいい、シェルバ。お前の里に連れて行ってやろう。」
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