アメランキエル AMELANCHIER



たちこめる煙の匂いはひどくなる一方でした。
それは料理の火の匂いと違って、戦いを予感させる乾いた木の芳香が、彼のよく知っている木々の匂いと絡み合った匂いでした。
この匂いは、昨日の雨でまだ湿り気が残る木の葉が燃える匂い、森の奥深くの古のモミの木々が内側から炎上する匂い、そして炎に閉じ込められ、苦悶の死を遂げるのを待つばかりの動物たちの恐怖そのものでした。

彼の故郷は炎に包まれていました。

アメランキエルとその配下のレンジャー達が、彼らの故郷を燃やす地獄のような業火に遭遇するまでに、さほど時間はかかりませんでした。
彼は二人のレンジャーに合図を送り近郊のエレンダインへ向かわせ、市民に警告を、魔術師に戦いの準備をさせました。
残りはアメランキエルについて行き、炎を取り囲み、延焼の範囲を調べました。

間もなく、エルフの王子は肩に手を置かれ、止められました。
振り向くと、そこには盲目のカラティンがいました。
かの古のエルフは、アレンデル・パイドラの玉座へ嘆願した時の贈物でした。
「火災は森の自然の循環の一部じゃが、これほど急に、しかも広い範囲で起こることはないはずじゃ。この炎は…」

アメランキエルはうなずきました。
「まことに不自然じゃ。」

「そして恐らく…超自然、魔術によるものじゃろう。」彼らは険しい表情で、梢伝いに探索を続けました。

彼らの疑念が確信に変わるまでそう長い時間はかかりませんでした。
楕円状の炎の輪の中心では、既に戦いが起こっていたのです。
まばゆく輝く聖騎士の一団がバロールと戦っていましたが、アメランキエルの目に留まったのは独りの老人でした。
炎の渦は彼を端に発し、インプの群れに押し寄せ、連中は鼻のさすような匂いの煙となって瞬く間に消滅しました。

「奴らがどこにいるかわかるか。」アメランキエルは聞きました。

「否、じゃが森は知っておる。」カラティンは答えました。

「捕らえよ。」

カラティンは彼の腰掛けていたモミの巨樹に、やさしく語りかけました。
低いうなり声が大気を震わせましたが、地上の兵士たちが「それ」に気づく前に、周囲の根や藪が立ち上がり彼らを縛り付ました。
アメランキエルはバロールを指し、レンジャーたちは一斉に矢を放ちました。
矢は清められも、呪付もされていませんでした。
しかし悪魔は負傷し、エルフたちの放った矢はその魔物を射止めるのに十分すぎるほどでした。
バロールはうなり声を上げて倒れました。

ところが、ドルイド僧は人間たちを依然縛りつけたままにしていました。
「老人を連れてきてくれ」アメランキエルは言いました。
カラティンはうなずき、再び木の幹に語り掛けました。
しばらくすると彼らの隣の森が左右に分かれ、その間から巨大なトレントが現れると、ドルイド僧の目を見据えた後、後ろを振り向いて絡まった藪から老人を取り上げ、アメランキエルの目の前に吊り下げました。

「これは貴様の行いか、人間。この炎は。」

老人は彼の尊厳を振り絞るようにして答えました。
「私はポンティフ・エルミンからの使者だ。私はユーニルのメッセージをリョースアールヴに伝えにここまで来た。我々はエレンダインで蒼褪めたヴェールの信徒どもを見つけ、あなたの地から連中を駆除しようとしたのだ。」

「火をもってか。」

「ヴェールは地獄から堕落を世界にもたらす。世界の救済のためには、チャンスのある限り連中を駆逐せねばならぬ。」

「貴様が私の故郷を危険にさらしているというのに、どうして私が世界のことに構わなければならんというのだ。」

「既に世界はヴェールのもたらした穢れによって呻いている。穀物が枯れ、疫病が流行るのをあなたも目の当たりにしただろう。エルフ族にも来るべきアルマゲドンを無視することはできまい。」

アメランキエルは、彼の主張についてしばし考えているように見えました。「恐らくできるだろう。」彼は二本のの指を顔前にもっていき、トレントを指差しながら、ゆっくりと左右に分けました。
「侵入者がどのような目に遭うかを教えればね。」トレントは使者を二つに引き裂き、エルフのレンジャーたちは残った聖騎士を止まり木から打ち落としました。
最終更新:2012年09月29日 16:28