ビーリ・バウル Beeri Bawl



「さてさて皆よ寄りて見よ、金を掘り当てる小人でござい!」

その叫び声で、ビーリは檻の床で貪っていた快適とはいえない眠りから目覚めました。
彼は渋々身を起こし始めました。
見世物のことを告げられ、それに抵抗を試みて投獄された最初の数日間は、彼はてこでもその場を動こうとしませんでした。
しかしそれは自分の立場を悪くするだけでしかないことを、すぐに思い知りました。

彼は、パーペンタクの謁見の間に立ち並ぶたくさんの松明に、眩しさのあまり目をしばたたかせました。
パーペンタクは、ちょうど数週間前に彼を捕えた三倍も忌々しいお祭り道化師でした。
そのとき彼は遠く離れた国境近くの村を訪れており、そこにメリーマンの襲撃隊が襲い掛かったのでした。
奇妙な踊りにも似た彼らの戦い方に誰もが惑わされ、そうこうするうちに、ビーリはまるでじゃがいも袋のように引きずられ、彼らは歌と笑いに興じながら行軍していったのでした。

笑い声はここ数日のあいだに最も憎むべき敵となりました。
彼は時折いっそパーペンタクが処刑を命じてくれないものかと望み、それどころか拷問のため薄暗い地下牢へと呼ばれることさえ願いました。
あの道化師は彼の精神を破壊することを心に決めて、そのために最も効果的な方法を巧みに選んでいるように見えました。
でなければ単に退屈なだけだったのでしょう。ビーリはパーペンタクが何を考えているのかさっぱり理解できませんでした。
しかし彼の事情などはどうでもよいことでした。ビーリにとってたった一つの、間違いなく確かなことは――あの男を殺してやりたいということでした。
その顔から醜悪な微笑みを永遠に拭い去ってやるために。

見世物は今にも始まろうとしていました。
「キルモフよ、我に力を。」と彼は声をひそめて呟きました。
パーペンタクは口上を続けていました。

「暗闇を照らす眩しき輝きよ、泥の鉱脈に眠る黄金のひとかけらよ!」

パーペンタクは玉座から立ち上がり、彼の前に集められた貴族たちに向けて告げました。
彼らの全員が実に奇怪な色と拵えの服に身を包んでおり、ほとんどの者が仮面で顔を隠していました。
ビーリは、仮面の下に隠された彼らの本当の素顔は、(彼自身がそうであるように)仮面の表情ほどには喜んでいないのではないかと勘繰り、そして、統治者の怒りを買うことを避けるために調子を合わせているだけではないのかと疑いました。

ビーリの檻から離れた場所には、泥でいっぱいになった、流れが循環する溜め池がありました。
パーペンタクが彼を拷問するのに好んだやり方の中には、金貨探しというものがありました。
初めに泥の中に頭を突っ込み、その中に仕込まれた小さな金貨を掬い出すのです。
それは大抵一番底に沈んでいました。

ビーリは早足で溜め池のほうへと歩み寄り、できるかぎり急いで事を済ませようとしました。
彼は跪いて頭と腕を泥の中に突っ込み、集められた貴族たちの笑いと拍手を心の中から締め出そうとしました。
幸運なことに、すぐにお馴染みの丸い金貨の感触がありました。それを握り締めると、不意に彼はためらいを見せました。
滑るような形をした何かが泥の中を動き回っていました。
威嚇音が左耳を掠め、彼は叫び声を上げて後ろへと身を投げ出しました。
金貨はまだ掴んだままでした。
あと数秒遅かったら、蛇がその牙を彼の首筋に突き立てていたでしょう。
蛇は威嚇音を鳴らして溜め池の中へと戻っていきました。

「鉱脈の中には危険が潜む、いと暗き夢に沈む恐怖なるか」

ビーリの心臓は早鐘を打っていました。
パーペンタクの拷問は以前から創造性に富んではいましたが、このような命に関わるやり方を執ることは今までありませんでした。
おそらく彼は新しいおもちゃに飽きて、それを処分しようとしたのでした。
ビーリは自分の願望が受け入れられたらしいことを理解して、肩を竦めました。
蛇がいる溜め池へと身投げすることを思いとどまったのはただ、鉄格子のすぐ向こうで嘲笑っているくそったれどもと、生き延びた後に自分が成し得るであろう全ての創造物のことを考えたからでした。

しかしながら、見世物はこれで終わりではありませんでした。

「汝も見たり、小人は富を蓄えたり、此れなる忌まわしき獣、小人を如何にせん……」

彼がいる洞窟の壁面の一部が引き戸のように横に滑り、今までその存在を知ることがなかった通路が開いたため、ビーリはすかさず振り返りました。そして彼の目は大きく見開かれました。
そこには、ビーリの背丈の三倍はあり、その体格の二倍は太い棍棒を持った、激しい怒りに唸る丘巨人が立っていました。
今や彼は絶体絶命の危機でした。

しかし、ビーリの奥深くにあるなにかが、ここでむざむざと膝を屈して死ぬことを許しませんでした。
彼は、故郷の山にいる友人や家族たちのことも、彼が鍛え上げた、彼なしでは途方に暮れるしかない民たちのことも考えませんでした。
彼が考えることのできた全て、それは、パーペンタクが彼の死を演出し、彼が死ねば大喜びするだろうということでした――それだけは、なんとしても、あってはならないことでした。

彼は鈍重な巨人を無視して、代わりにその力強い手を溜め池の中へと突っ込み、のたうつ蛇の胴体を鷲掴みました。それから渾身の力を込めて、蛇を巨人に向かって放り投げました。
それは巨人の左足の上に落ち、蛇は危険を感じ取るや否や、巨人の足に牙を突き立てました。
巨人は痛みと怒りに咆哮し、蛇の頭を棍棒で叩き潰しましたが、見る間に痙攣を始め、口から緑色の泡を吹きながら、あっという間に仰向けになって倒れてしまいました。
パーペンタクは明らかに、とんでもなく強力な毒蛇を選んだのでした。皮肉にもそれが彼を救うことになりました。

謁見の間にいる群衆は再び拍手喝采しましたが、ビーリはパーペンタクが次なる死の罠を始めるのを、ただ待つだけでした。
しかし次に起こったことは彼を驚かせました。

「小人は大いなる褒美を勝ち取りたり、彼は示せり勇気と知恵の両輪を

遊戯はお開き、小人も敵も、花道行く小人に皆よ拍手を喝采を」

パーペンタクは優雅な足取りで檻の扉まで歩いてゆき、鍵を外してそれを大きく開いて、口元に怪しげな笑みを浮かべました。
ビーリは彼の目付きを信じることができませんでした。
これはもう一つの罠なのでしょうか? 彼は何人かの貴族たちが怒りに呟くのを聞きました。
それはこのように聞こえた気がしました。
「……貴重な人質を無駄にする気か」「彼のいつもの気まぐれか……」

ゆっくりと、ビーリは歩き始めました。
彼は少しのあいだ、扉を出ると同時にパーペンタクに襲い掛かり、衛兵が駆けつけて助け出すよりも先に、彼の首を掴んで絞め殺してやろうかと考えました。
しかし戦いに高揚した頭も冷えてきたため冷静な思考が働くようになり、それが自殺行為でしかないことを理解しました。
パーペンタクが本当に本気で彼を行かせるつもりなら、その後に軍を率いて取って返すこともできるはずでした。
強力な機械仕掛けのゴーレムでこの道化師をぺしゃんこにしてやるという考えは、彼の歩みを速めるのに充分なものでした。

彼は謁見の間の床を横切って走り始め、ときどき後ろを振り返りましたが、誰一人として彼を止めようとするものはおらず、パーペンタクは開かれた檻の扉の傍に立って微笑むだけでした。

辛くもパーペンタクの宮殿から逃げ出したビーリは、頭を振ってその場所に漂っていた狂気を振り切り、そして帰り道を辿り始めました。
最終更新:2013年03月08日 18:10
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