バシウム Basium


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天使たちの言葉には「愛(love)」を意味する単語があります。
それも幾つも。「慈悲(mercy)」、「思いやり(compassion)」、「優しさ(tender kindness)」などです。
特にこうした意味で用いられる単語に最も近いものを探せば、それは彼の左前腕部に刻まれています。
曰く、「思慮(prudence)」と。
これと同じようにして、彼は自分の胸部にちょうど単語を刻み終えたところでした。
曰く、「正義(justice)」と。
これは、今や現世に受肉した彼自身の肉体に、天使たちの言葉を以て、血と痛みを伴いながら書かれた祈りでした。
「高潔(Holiness)」と頬にありました。
「天罰(Wrath)」と右前腕部にありました。
「審判(Judgment)」と額にありました。
「勇気(Courage)」と胴体にありました。
彼が背いた神々への、それぞれの祈り。
これらは、彼が魂の中で磨き上げんと追い求める、神の裁きに伴う本質なのです。

ちょうど右手の指に祈りが刻み終わる頃、二人の若者がその君臨する者へと近付いてきました。
彼らは先導する無表情な兵士と比べ、まるで小人のように見えました。
「何を……彼は何をしてるんですか?」

「祈りを捧げているのだ……すべての痛みと共に。我は務めを果たすべく力を請い願う。」彼は立ち上がりました。
そして配下の大柄な兵士たちをも凌ぐほどに高くそびえました。

もう一人が息を呑みました。
「しかしあなたは……あなたこそが神なのではないですか? いったい誰に祈りを捧げているというのです、閣下?」

バシウムは男たちに向き直りました。
「我を煩わせる用向きは何だ?」

「俺はラルス・ロルトといいます、バシウム閣下。俺たちはあなたの配下に加わりたいんです。俺と、ここにいる神戸です。地獄の野獣どもによる大群が、俺たちの故郷の町を滅ぼしました。俺たち二人だけが生き残ったんです。」

「ならば剣を取れ――我らは明朝に出立する。」

「ええ、それがその、」と神戸が言いました。
「俺たち二人はただの剣売りなんかよりよっぽど役に立ちますよ。ほら、二人とも魔法にはちょっとした覚えがあるんです。魔法で姿を隠して襲撃を切り抜けたんですから。でも俺たちは奴らを見て学び取ったことがあります。待ってください、今それを見せます。」二人の若い魔術師は許しを待つこともなく、呪文の詠唱を始めました。
バシウムはゆっくりと深呼吸し、左腕の疼きを感じました。

バシウムを最初に警戒させたのは硫黄の臭いでした。
彼は敵が現れたことを認識する前から、すべての筋肉を緊張させました。
奇妙なことに、そのバロールは野営地の真ん中で身動きもせずじっと立っていました。
「どうです、すごいでしょう?」ラルスは大喜びで叫びました。
「俺たちは地獄の軍勢が増援を呼び出すやり方を見てたんです! でも俺たちは、そいつに俺たちの周囲を守らせる命令のやり方を見つけ出しました。こうすれば、炎を以て炎を制することができますよ!」

バシウムは地獄の魔物に向かって跳びかかり、素手でその首を絞め上げました。
悪魔の皮膚からは肉が焼ける音と共に直ちに煙が立ち昇り、間もなくバシウムの指は炎に炙られ始めました。
堕天使の指には、最も尊き神の五天使がそれぞれ一つずつ名前を刻まれていました。
バロールはラルスが与えている簡単な守護の命令を振りほどいて、苦しみにのたうちました。
バロールは尻尾でバシウムを叩き、鉤爪で背中を掻き毟り、この世のものとは思えない咆哮を上げましたが、すべては空しく――そのマーキュリアンはびくともしませんでした。
ついに悪魔は哀れに痙攣して呻くだけになり、やがて後に残されたのは、地獄の臭いとぶくぶく泡立つ真っ黒な血だまりだけでした。

バシウムは立ち上がり、二人の魔術師に向かって歩いていきました。
「我の本営でバロールを呼び出すだと? 我が炎をどうするのか身を以て知るがいい――吹き飛ばすのだ!」バシウムは咆えました。
ラルスは弟の温かい血が横顔に迸るのを感じました。
バシウムが自分の戦鎚を手に取ったことに気付くいとまもありませんでした。
彼が二振り目に気付くこは決してありませんでした。

バシウムは焚き火の傍にある自分の席へと戻りました。
そして儀式用の短剣を拾い上げると、腕に「W」の文字をなぞり始めました。
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