カプリア Capria



転移門の傍で待つために、カプリアはサブラを近くに抱き寄せました。
恐れのためか興奮からかはわかりませんが、彼女の妹は震えていました。
いずれにせよ、カプリアの父親は妹を静かにさせておくよう彼女に伝えていたので、彼女はそのようにしました。

目線の高さを合わせて、彼女は言いました。
「何の話をしたか覚えてる? サブラ。私たちは家へ帰るのよ。だから今日は特別に勇気を振り絞らなくてはいけないわ。家はどんなふうになっているかしら?」

サブラは笑顔になりました。
「怪物がいない!」

「その通りよ、他には?」

「炎が空だけに浮かんでて、周りは燃えてないの。わたしは草の上で遊ぶことができて、駆け回っても穴や溶岩の中に落ちたりしないし、影に食べられたりもしないわ!」

「よくできました、いい子ね。」とカプリアは言い、人々が幼い子供たちに聞かせた物語が本当になればいいと願いました。
彼女自身、外界がどんなところであるのか、年長者たちの言葉を信じていました。
しかし例え記憶が誇張されていたにせよ、ここでの生活よりも悪いことなどあるはずがありませんでした。

彼女にそれを証明するかのように、サバシエルの朗々たる声が響き渡りました。
「武器を取りし、つわものたちよ! 我々は追われる身である!」男たちは、新たなる世界に足を踏み出すときを待っている妻や子供たちをその場に残し、集団のしんがりに駆けつけました。
カプリアは飛び跳ねる妹を腕に抱きかかえました。
「ブラドゥークの民よ! 帰還の備えをせよ!」そうサバシエルは叫び、自らの羽を広げました。
大天使から目映い光が迸り、カプリアは目を覆い、やがて光はおさまりました。
サバシエルは彼らに向かって立っており、彼の後ろには光の門が現れ、渓谷の裏側を彼らの家路へと変えていました。
「急ぐべし! 男たちもそういつまでもは持たぬ!」

家族たちは転移門に近づきましたが、くぐることに躊躇いを見せました。
カプリアは歯軋りして、人々を押し分けながら前方へと進みました。
「来るのです、我が同胞たちよ! 我らがこれまで永らえてきたのは、ひとえにこのときのためでしょう!」再び振り返ることなく、彼女は光の中へと足を踏み出し……

……そして炎の中へと現れました。
彼女が最初に気付いたのは、背中に感じる熱さでした。
戦列の第二陣を受け持つ女性兵士が身に付ける皮製の重装鎧を通して、それはほとんど肌を焼くほどでした。
絶え間のない赤いもやの代わりに、今度は暗闇が彼女に警鐘を鳴らしました。
漆黒の闇が頭上を覆い、無数の光点がそれを貫いていました。
後ろを振り向くと、炎の中から多くの人々が現れて彼女と同じような反応を見せ、驚いて前方に駆け出している姿が目に入りました。
それから再び前方を向くと、悲鳴に気付きました。

「これで自由なのね! ひいいいい!」老婦人の声でした。
緑色の肌をした著しく特徴的な人々が、数ヤード先の地面に彼女を捻り倒していました。
他の緑色をした人々は、彼らの聖なる炎の中から見慣れぬ者たちが現れるのを、衝撃と共に見守っていました。

「彼らは私たちの都市に何をしたの?」と、炎の中から現れた年配の女性が問いました。

「ふむ、親愛なる老バアルは、今宵我らにどんな贈り物をくだされたのだ?」と、低い声がオークの男から響きました。
彼は人間たちの傍でものを食べたり炎と戯れたりしていたオークの子供たちを押し分けて現れました。
滑らかな肌の若いオークたちとは違い、長い骨の棘が彼の背中や肩や腕から突き出ていました。
「剣を持った小娘だと? 者ども、槍を構えろ。」その巨漢のオークはずっしりとした斧を持ち上げ、カプリアに向かってにやりと笑いました。
長い木製の槍を巧みに操る他のオークたちが現れました。

カプリアは妹を地面に下ろすために身を屈め、それから目にも留まらぬ速さでオークの子供を捕まえ、喉元に短剣を突きつけました。
「お前たち化け物が何者なのかは知りません。しかし我々にお前たちを害する意図はありません。我々を黙って行かせてくれるなら、お前たちの子供は無事です。」

「取引か? 小娘。我らのたった一つの命と、貴様ら全員の命で?」オルタスは研ぎ澄まされた骨の短刀を革帯から引き抜きました。
「割に合う取引とは思えんな。」オルタスは腕を振りかぶり、短刀がカプリアに向けて放たれました。
彼女は瞬きをし、そして目を見開く前に、顔に迸る暖かな鮮血を感じました。
しかし彼女の血ではありませんでした。
オークの子供は叫び声を上げることもできずに、彼女の腕の中で力を失いました。

「貴様は命に価値があると思っているな、人間よ。俺が取引するのは、死という通貨だ。」オルタスは自分の斧を持ち上げ、人々のほうへと迫り始めました。

鮮血がドナルの顔に飛び散りました。
その燃えるような熱さに、血が悪魔のものだと分かりました。
彼は歯を軋らせ、身を屈めて跳びかかる地獄の番犬を避けながら、小剣を上方に向けて突き刺しました。唸り声は悲鳴へと変わり、しかし番犬はかろうじて彼の兜を蹴飛ばして、見苦しく地面に倒れ込みました。ドナルは炎の精霊が投げつけてくる火球を受け流すために盾を掲げて、肩越しに叫びました。
「我らはここで役目を終えるのでしょうか、閣下? 我らと別れたと知れば、彼らは悲しむでしょうね。」

サバシエルはぶつぶつと呟きました。
「今少し……あともう数分である、我が友よ。それで老いた者らもこの忌まわしき地を後にしよう。持ちこたえられると汝らを信じてよいな?」

「我らは為すべきことを為すまでです!」とアレッシが言いました。
ドナルの逞しい戦友は、広い弧を描いてハルバード(鉾槍)を振り回し、Gaersteedの膝を打ってその騎手を叩き落としました。
しかし死の騎士は突撃を続け、アレッシの左肩をその長い漆黒の刃で貫きました。
戦士は長柄の武器を取り落として体勢を崩し、止めの一撃に対して完全に無防備になりました。
ドナルは彼らに向けて身を翻し、悪魔騎士の腕を叩き落として、さらに致命的な一撃ではらわたに風穴を開けました。

悪魔は怒号を上げ、盾による鋭い強打で彼を地面に殴り倒しました。それはドナルに向かって歩を進めましたが、その胸に矢が突き立ちました。
さらにもう一矢、三矢目、四矢目。ついに悪魔はくずおれました。

「いったん退いて、態勢を立て直すんだ!」と、狙撃手がハーピーの群れに襲われる直前に言いました。

ドナルは剣を鞘に収め、足元の戦友を助け起こしました。
「陽の光を見るまで、死なせはせんぞ、アレッシ。誓って。」仲間たちが彼らの後方で陣形を整えたので、二人はふらつく足取りで転移門の方向へと下がりました。

カプリアは突進してくるオークから身を引こうとして足をもつれさせました。
彼女の手元には、豚を焼くために使われて黒く焼け焦げた長槍が落ちていました。
彼女がそれを突き出して、突進してくるオークの喉元に押し込むと、オークは鼻を鳴らして倒れました。
槍は音を立てて二つに折れ、刺されたオークと同様にその役目を終えました。
「しっかりなさい、同胞たちよ! 我らはこれまで、今よりも最悪な事態に直面してきたではありませんか!」彼女は鞘から小剣を抜きました。
「円陣の隊形! 少年も女性も武器を取りなさい。子供と老人は中央に! 我らはどうにかして門扉まで移動します。野獣どもが襲い掛かってくるなら打ち倒しなさい、ただし持ち場を離れてはだめです!」一匹のオークが、最初に槍を持って彼女に突撃しました。
彼女は身を躱す体勢を整えましたが、そのオークは彼女に辿り着く前に、投げつけられた石で地面に打ち倒されました。

集団は、あばら屋の向こう側にある柵の門扉に向けて移動を始めました。彼らの背後では、傷付いた男が炎から抜け出し、胸を押さえて苦しんでいました。
一組のゴブリンが彼の上に飛び出し、繰り返し武器を突き立てました。彼は最期に息を引き取る前に、なんとか一掴みの草を手にすることを果たせました。

「逃げられるなどと思わんことだ、人間よ。」とオルタスが叫びました。
凶暴に武器を振り回しながら、彼は人々の陣形を押し潰し、隊列を乱し、少女をちょうど肋骨の下から真っ二つにしました。

カプリアは、かろうじて親友の死に気付きました。
彼女の目には、蛮族王の手の中に吊り下げられる妹の姿が飛び込んできました。
彼女は身を沈めて棘の下をかいくぐり、オルタスの正面、斧を振るうには近すぎる位置まで一気に間合いを詰めました。
彼女の後ろで、人々は陣形を整えました。

「私が死にうんざりしていることを喜ぶがいい、」カプリアは怒号と共に、手にした剣をオルタスのはらわたに深々と突き立てました。
彼女は止めを刺すために立ち止まるようなことはせず、妹を肩に乗せて引き返しました。
最悪のオークたちは既に阻止され、自由が目と鼻の先まで迫っていました。

「汝が最後である、ドナルよ。」とサバシエルが言いました。
他の兵たちは、大混戦に訪れた最後の凪のあいだに、転移門へと向けて突進していました。
少なくとも、この猛攻撃を生き延びた者は。

「それでは後に続いてくださいますか、閣下?」

「門を保つには、いずれかの者がこの台座に残らねばならぬ。我があとに残るべし。」

「なりません。我が民は、あなたを必要としています。どうか行ってください!」

「次なる新たな世界では、我はこの地獄の底で彼らを導いたようにはいかぬのだ、ドナル。」

「彼らには指導者が必要なわけではありません。勇気や知恵なら、年若き少女にだってあります、勇敢なカプリアのような。彼らが必要としているのは、地上世界で団結するための旗印なのです、閣下。あなたは行かねばなりません。私はあなたのために門扉を開いておきましょう。」

「我は誰も残してゆくことはできぬ、ドナル!」

ドナル・ルーは、肩にのしかかる巨大な重責を感じながら、大天使の傍らに立ちました。
「ここにはきっと別の出口があるに違いありません、サバシエル。私はどこかでそれを見付け、きっと無事に戻りましょう。そのために地獄の悪魔すべてを打ち倒さねばならぬとしたら、それを成しましょう。」うめき声が彼らの注意を引きました。
戦友たちの死体が起き上がり始め、崖の上ではインプたちがけたけた笑いながら輪になって踊っていました。
サバシエルとドナルは最後の一瞥を交わしました。
そして大天使は男を抱きしめ、転移門を通って飛び去ってゆきました。
大天使の話が間違いだったという儚い望みを抱いて、ドナルが転移門へ向けて一歩を踏み出すや否や、それは消滅し、彼は溜め息を吐きました。
やがて彼はよろよろ歩きの死体の方へ向き直りました。

「いいだろう、我が友よ。最初は誰だ?」

添付ファイル