ガリム・ギュール Garrim Gyr


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ガリムは目の前のテーブルの上に横たわる水晶を見遣りました。
それは昨日、鉱夫たちによって持ち込まれたものでした。
初めは銀と勘違いして、その力の前に彼らの中から二人ほどが犠牲となりました。
いまだにその理由は判然としませんでした。
別の鉱夫が語った物騒な話によれば、その物質に触れた労働者は外傷を負うこともなく、ただ死にました。
彼らは声も上げずに単に地面へと倒れこみ、生命の灯火は完全に消え去りました。
ついに鉱夫たちは脅威の源に気付き、そのうちの一人が稀に見る勇敢さで、一切れの布で水晶をつまみ上げ、そして彼の下へ持ってきたというわけでした。

水晶占いに使う初歩の呪文を唱えようとした将にそのとき、弟子のハエリスが研究室へと入ってきました。

「ノックをしろといつも言ってあるじゃろう?!」と、緊張のあまり実際の苛立ちよりも大きな怒りの色を含んで、ガリムが大声を上げました。
ハエリスはいつになく癇癪を起こした師に本当に驚いたようでした。

「申し訳ありません、師匠。ですがたった今師匠に呼ばれたばかりで、その……。」と、彼の声は消え入りました。

「ふむ……まあいいじゃろう。どうせ今来たなら、お前もここにいてよかろう。なんとも言えんが、ここからお前が学ぶこともあるかもしれん。だが静かにするんじゃぞ!」

ハエリスは静かにテーブルの傍へと歩み寄りましたが、少し不機嫌そうに見えました。

ガリムは彼を無視し、水晶へと注意を戻しました。
それは実に美しく、不幸な鉱夫たちが拾い上げようとする誘惑に駆られた気持ちをとてもよく理解できました。
表層の奥には、赤、紫、青といった光が煌いていました。おそらくそれは、間もなく埋め立てる予定となっている深い竪坑へと持ってゆき、廃棄するのが賢明だったのでしょう。
しかしガリムは、魔法の力が込められた秘宝に対して強い好奇心を見せるのが常でした。
それが慈愛に満ちた品であろうが有害な代物であろうがお構いなしです。

彼は左手を掲げ、水晶占いをするときの呪文を唱え始めました。
驚くべきことに、その物質は何の反応も見せませんでした。
ただの岩にでも呪文を使った方が、まだましだったかもしれません。
困惑して、彼は間近に水晶を眺めました。
光は未だに煌いており……しかし光が激しくなる間、その色は暗い色を帯びるように見え……本当に奇妙な現象が見て取れました。
見つめ続けていると、硫酸が金属を溶かすのに似たしゅうしゅうという音を立てて、いきなり黒い霧が水晶から湧き出し始めました。
霧はガリムに近付き始め、すぐに彼を完全に包み込んでしまいました。
しゅうしゅうという歯を擦るような音は次第に大きくなり、彼はそれが、沢山の囁き声が重なり合ったものであることに気が付きました。
「汝……呪文の戒め……我らは汝を要し……汝は我らを要す……力……想像を絶する力……我らに従え……我らに従え……遺物に触れよ……さすれば汝は自由の身とならん……」

ガリムは自分が水晶へと引き寄せられるのを感じ、意志の力を振り絞って咄嗟に我に返ると、それに手を伸ばして今にも触れようとするところでした。
囁き声は耳から離れ、彼の頭は再びはっきりとし、唐突に彼は、ここでなにと渡り合ったのかを理解しました。
「マンモン……。」と、彼は声をひそめて呟きました。
霧が再び近付いてきたので、彼は後ろへと飛びのき、複雑な印を結んで、覚えている中でも最も強力な防御の呪文を唱えました。
彼の前に輝く光の柱が現れ、霧は後ろへと退き、囁き声は今や誘惑よりも怒りの色を帯びていました。
ガリムは胸を撫で下ろして一息つきました。
それは間近にまで迫っていました。

安堵はすぐに恐怖へと変わりました。
ガリムは俄かに、光の障壁の反対側にいるハエリスと、素早く彼に近付く霧に気付きました。
ほんの少し前に彼を包み込んだのと全く同様にして、霧はハエリスを包み込みました。
しかしハエリスは、それほどの抵抗を示しませんでした。
光の壁の向こう側で行われている本当に恐ろしい出来事をガリムが呆気に取られて眺めている隙に、彼は前方へと身を乗り出し、水晶へと手を触れました。

水晶から一筋の光が伸びてハエリスの胸を直撃し、彼は苦悶の叫び声を上げました。
光は消えずに残り、彼から生命力を吸い上げるように脈動していました。
ハエリスの顔はますます歪み、肌はゆっくりと全ての色素を抜き取られ、その目は青みがかった色合いへと変わりました。
しかし突然に赤黒い光の筋は治まり、それと同時に霧も雲散霧消しました。感覚を取り戻すと、ガリムは急いで光の障壁を解呪し、瞳に虚ろな光を宿して立ち尽くす弟子の傍らへと駆け寄りました。

「大丈夫か? ハエリス、なんとか言うんじゃ!」

初めのうちは、彼は目の前にある水晶をただぼんやりと見つめるだけでした。
やがて彼はガリムに目を向け、その青褪めた顔は不意に冷笑に歪みました。

「いたって快調ですよ、師匠……。今やはっきりと理解できますよ……。」
ガリムは、以前は人当たりの良かった弟子の口から軽蔑の声を聞いて、衝撃を受けました。しかしながら、次に起こったことはそれ以上に恐ろしいものでした。

戦いは熾烈を極めました。
ガリムは身体を折り曲げて血を吐き出しましたが、なんとか倒れずに持ちこたえました。
彼の前には、焼け爛れて形を失った弟子や友人たちの焼死体が横たわっていました。
本当に痛ましいことに、そのほとんどはガリム自身の呪文で焼かれたものでした。
それでも、彼に選択の余地はありませんでした。
水晶は未だテーブルの上に横たわっており、その表面は偽りの穏やかさを湛えていました。
深い竪坑へと投げ捨てるべきであったという考えは、今や格段に魅力的に思えました。
その代物が陽の光を体現することは、決してありませんでした。
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