深層世界にて


ゴッヘルザッホ 深層世界にて

『状況を整理しよう。

私は確かに先程まで野宿をしていた筈だ。今日は朝から歩き詰めで、野宿の際も、うとうととしていた。
だとすれば眠ってしまったのだろうことも頷ける。
ならば彼女は、この景色は、私が見ている夢ということなのか?だが、
夢というものは、その者の脳が記憶を整理する際に見せる記憶の投影だと、昔何処かで聞いたことがある。
だとするとこれは私の記憶ではないのかもしれない。もし記憶の底に埋もれているしまっているのだとしても、やはり疑問は拭い切れない。

そうこう考えていると、目の前の女性が語りかけてきた。白いドレスに身を包む金髪の美しい女性だ。
だがしかし、その眼には一点の輝きも無かった。

「■■■■■■■■■■■■■■■■■」

と、何故か彼女の言葉は私にまで届かなかった。
彼女の云わんことを聞き取ろうと耳を澄ませば澄ますほど、私は辺りの状況を知ることになる。
騒がしいのだ。目の前にいる彼女の言葉が全く聞こえない程、辺り一帯に雄叫びが響き渡っているのだ。

「■■■■■■■■■、■■■■」

「■■■■■■」

そんな私のことは知る由もなく、彼女は言葉を紡いでいく。

待ってくれ、君の声が聞こえないんだ。もっと大きな声で話してくれないか?

声を張り上げて彼女に訴えかけるが、どうも彼女は聞こえていないようだ。というより、
まるで意に介さないといった風であった。
よく観察してみると、彼女は確かに私の方を向いているが、その眼は私を見ていないではないか。
まるで私ではない誰かに対して話しかけているようではないか。

若い頃に読唇術を習得しておかなかったことが、ここにきて悔やまれる。

「―――■■■■■■■■■」

その言葉を最後に世界が突然曖昧になりだした。
視界が歪み雑音が遠ざかっていく……待ってくれ、まだ何も分かっていない。まだ……



次に意識を取り戻した時、既に朝になっていた。一体あれはなんだったのだろうか。
緩慢と野宿の後始末を終え、旅支度を整える。
気にしていてもはじまらない。とにかく進もう。

と、荷物を背負った所で気付いた。物思いに耽っていてまるで気付かなかった。
遺跡だ。ここにも旧世界の遺物があったのか。まるで城のようだ。
次の目的地は決まった。さて、今度こそ行くとしよう。』

―――探検家ゴッヘルザッホの手記より

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最終更新:2022年08月31日 19:07
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