取っ手を片方亡くした女
その女は生まれながらに腰に螺子巻きを巻いていた。
毎日几帳面に、決まった時間にその螺子を巻く男のもと、
寝る時仰向けに寝れないとか、背凭れのある椅子に座れないとか、
不便ではあったが、女はそれなりに不自由のない生活を送った。
毎日甲斐甲斐しく男の世話をしては、決まった時間に螺子を巻いてもらう。
そんな日々は何時までも続くのだと、傍から見ていても思ったものだ。
そんなある日男は亡くなった。老衰だった。
男は今際の際に女の腰の螺子巻きの取っ手を片方取り上げ、
女に待っていると云うと、静かに息を引き取った。
しかし女は男のもとに行けなかった。
待てど暮らせど女は死ねず、思い悩んだ挙句、近くの崖に身を落とそうと考えた。
傍らで見ているしか出来なかった私は、崖に身を落とした女がどうなったのか、それを知れない。
最終更新:2022年08月28日 23:33