深窓への招かれざる道化


深窓への招かれざる道化

ソレグレイユのとある住宅街を少し外れた丘の上にその屋敷はある。
このあたり一帯の土地の大地主である資産家の屋敷で、
政界にも顔の利く主が何人もの奉公人を召抱えて住んでいる。

屋敷の主には年頃の娘が一人いる。
身体が弱く幼少の頃より屋敷の敷地から出たことはほとんどない。

――世間知らずのお嬢様は、さぞ容易く手篭めにできよう――
有名議員の御曹司、名の通った病院の院長の倅、大企業の跡取り息子、
果ては彼女の行動を監視し屋敷のどの通路を通るか割り出し、
伸びだした木の枝や梯子を使って手近な窓から彼女を口説きに来た街の二枚目。
これまで何人もの男が邪な心で彼女の下を訪れ、そのまま敢え無く撃沈していった。

父からの教えでどんな相手が危険かだいたい聞かされていたのもあるが、
目を見れば相手がどんな人間か察しが付いていた。
最初こそ、多様な手段を講じて近づく男たちの軽薄さに軽蔑しすぐに追い返していた彼女だったが、
今となってはそんな姿がむしろ滑稽と、すぐには振らずにさまざまな『お願い』を聞かせ、
時間を掛けて楽しんでいる。

彼女にとって自分を妻に迎えようと必死な男たちは、滑稽なさまを披露し人々を笑わせるピエロのようで
薄い色合いの人生に細やかな彩りを添える娯楽のようなもので、一人ひとりが玩具なのだ。

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最終更新:2022年08月30日 22:16
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