再臨、そして終演


再臨、そして終演

第二次文明戦争の際、太平洋上でユグドラシル軍に合流しソレグレイユへと渡ったリユニオン本隊を支援するため、ランゼルキアから少数の哨戒機が発っていった。
彼らはニイドウの警備が手薄になるタイミングをエラミーに連絡し、ニイドウを陥落させることに成功する。

また同時期、稜延(りょうえん)諸島沖東方海域遭遇戦すなわち久平海海戦にて、
久平国防軍の主力混成機動部隊がソレグレイユ先行偵察艦隊を嵐に乗じて急襲、
久平軍も空母2隻、戦艦1隻などを失ったものの、所属不明の艦の支援を受けて偵察艦隊を撃退した。

さらに次元決戦砲"レーヴァテイン"(ユグドラシル軍コードネーム『イムナイドラ』)の一時的な無力化、
そして各補給拠点を奇襲・制圧されたことによりソレグレイユ軍の戦線は後退、
首都メルシュテル郊外にまで侵攻を許してしまった。

メルシュテル防衛戦、別名カスティラン峡谷上空戦においては、ユグドラシル軍のD3兵器が暴走・自爆した後、
残ったD2兵器である中級悪魔Harvester Demonを元としたCrasher Unitと護衛する空軍混成機動旅団,
それを迎え撃つ国土防衛軍所属の最精鋭D.L.C.R.S.(Deffence Lands Counteroffensive Raiding Squadron=国土防衛反攻襲撃戦隊、通称『デルクロス』)のAFM-536ラザノルク級航宙機動突撃艇と
殲滅特化型重装騎士飛行型、そして対D2兵器であるAD-37G『Vernichten』の部隊が激突し、
死闘の末にD2は沈黙し帝国軍も半数近くが壊滅、辛くも首都への侵攻を阻止した。
この戦闘により、それまで連戦連勝だったユグドラシル軍は、首都を目前にして初めての大敗北を喫した。

そしてその後、これだけの屈辱を味あわせた連合軍に対し完全に激怒していたソレグレイユが黙っているはずはなかった。

軍事大国たるソレグレイユには、ニイドウを失っても尚十分過ぎるほどの戦力が残されていたのだ。
ソレグレイユは各地の陸海空軍・海兵隊・国境警備軍・特務警察庁・国土防衛軍・各省庁軍・州軍・
汎ソルグレイユ民主主義自由貿易協定連盟(ソレグレイユ連邦共和国を盟主とする多国籍共同体)軍・
精鋭特殊作戦群その他民間の私設傭兵部隊までも動員し、
遂に巡航機動要塞『アルカディオ』に率いられた史上最大級の艦艇群で構成された連合機動艦隊及び連合機甲師団を出撃させた。
『アルカディオ』は先行偵察艦隊を退けトラムツキー近海まで押し寄せたユグドラシル・久平連合艦隊を
殲滅しようと、淵奈爆撃に使用した主砲を再び起動させる。

ユグドラシル・久平軍の中には、淵奈爆撃を経験した者も少なからずいた。
そして彼らにとって、それはまさに破壊と、恐怖と、死の象徴であった。
彼らはその時、戦慄したという。
故郷を、家族を蹂躙し、焼き尽くした光が、いつか取り逃がした獲物である自分たちに、
もう一度牙を剥こうとしていたからだ。
彼らは、もはや止められない総力を賭けた全面戦争に突入しようとしていた。

しかし『アルカディオ』の主砲がまさに閃こうとした瞬間、思いもかけない事態が発生する。


突如上空から正体不明の光が『アルカディオ』中心部に命中、同艦は爆炎を巻き上げ、活動を停止したのだ。
これには両軍とも唖然とするしかなかった。
すると間もなく、黒い翼を持つ正体不明の巨大な悪魔が上空から姿を現した。


悪魔は集結する両軍の艦隊を見下ろすと、再び雲上へと消えていった。
そして現れたのは他でもない、Stingray Demonを始めとした悪魔の大群だったのだ。
どこから入ってきたのか全く不明だが、中には上級悪魔の姿も確認できた。


人類はここに来て再び、人知を超越した彼らの絶対的な恐怖を、思い知ることとなる。
人類はやむを得ず団結し、悪魔の大群に向かっていった――…

――十数時間もの死闘の後、人類軍は多大な犠牲と引き換えに、勝利を手にした。
しかし人類同士で戦争を続ける余力はもはや無く、
ソレグレイユ・ユグドラシル・久平の三国は龍陽京・太極府にて停戦協定を結んだ。

その条件は、ソレグレイユ・ユグドラシル両国による久平の独立国としての承認、
劉懿など要人の久平政府への身柄返還、久平魔導人民自治区及び次元科学開発地区からの
両国軍の全面撤退と久平独立領への再編入、
占領されたニイドウのソレグレイユへの全面返還と国際治安部隊の創設及び駐留、
打撃を受けた各地域の復興支援、三国間の技術者交流などであった。

これらは上天民主公国大総統劉裔伯紀とユグドラシル帝国皇帝アーサー・フォン・ユグドラシル、
そして開戦派であった前大統領クルーズ・マロリーの引責辞任に伴い就任した、議会内でも少数の穏健派であるソレグレイユ連邦共和国大統領イーニアス・ハートフィールドの主導という形で行われた。

併せて三国間で不可侵条約が交わされ、
ここに約一年半続いた「審判の日」以来の歴史上最大級の人類同士の戦争には事実上、一旦の終止符が打たれた。
メルシュテルにはユグドラシルから特使が派遣されて視察を行うようになり、
世界には束の間の安息が訪れたかに見えた。

しかし、これで終わるはずは無い。
長きに亘り暗い闇の深淵で息を潜めてきた“彼ら”が、遂にその巨大な姿の片鱗を見せ始めていたのだ。
人類は、“彼ら”の齎す恐怖を知らない。いや、忘れてしまったのだ。

後の世に言う所謂“終末戦争”は、まだ、始まったばかりだった。


『その時私の目に映ったのは、何か恐ろしい、題を知らない狂気に満ちた劇の一場面のような光景だった。
 風の音、大砲の唸り、人とそうでない者たちの絶叫……
 それら全てが、どこか現実離れした奇妙な恍惚感を私に与えていたのだ。

 ――終末論というものをご存知だろうか。

 かつて私は、古代の最終戦争の神話を読んだことがある。
 それによれば、最終戦争の前、大いなる冬が訪れ、秩序が崩れ、星が降り、
 世界は炎に包まれ、終末を迎えるという。

 そう、その恐ろしく壮大で、ある種の感動すら覚えたその景色はまさに、
 『大いなる冬』そのものであったのだ。

 すると次の瞬間、私の体は宙に投げ出された。私の意識は禍々しい光に呑まれ、あえなく消えていった。
 それから後は、まるで初めから何者かに仕組まれていたかのように、記憶が抜け落ちている。

 目覚めた時にはもう全てが、何もかもが終わっていた』


―――ブルーノ・シュニッツラー著『原罪』より

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最終更新:2022年08月31日 18:26