姉さん女房

2004年12月20日(月) 21時11分-穂永秋琴

 
 昔の人は信心深かった。これはまあ、皆さんのお爺様やお婆様のことをご覧いただければ分かると思います。今は科学の時代です。しかしながら、科学の時代になったのはほんの一昔前からにすぎないわけでして、それより前は神様仏様の時代だったわけですな。この神様仏様ゆうのはなんとも気まぐれな方々でして、ときには人助けなどもなさる。ところがあの方々の考えることと、人が考えることとは食い違うこともありまして、それで色んな面白い話も伝わっております。まァ、懲らしめかいたずらか、ほんとの勘違いかは我々凡人には分からんのですがね。
 私がこれからお話しようと思うのはある一組の、歳の離れた夫婦の身に起きた出来事です。この夫婦、いつの時代の人だかは存じません。しかし昔の人たちには違いない。したがって信心深かったはずです。たといどんなに放蕩な男、奇特な女でありましょうとも、心の底には怪力乱神を畏れるものを持っていたはずです。
 サテ歳の離れた、と申し上げました。どれくらい離れているかといえば、なんと三十も離れていたと聞いています。こう申せば、皆様は「ハハァ、金持ちの年寄りが見栄を張って若い女と一緒になったんだろう」と早合点なさるかもしれない。したがって私にはこう申し上げる義務がありましょう。年下なのは男のほうだったのです。男は四十歳、女は七十歳の夫婦。
 では男はなぜ三十も年上の女と夫婦になったか。答えましょう、当時としては珍しい、自由恋愛の成果。その一幕は簡単に申し上げることができます。つまりは一目惚れ。若者にはよくある過ちってやつですな。その時、女は三十九歳。未婚だったのはなぜだか分かりませんが、相当な美人だったことは間違いないようで。あるいは娼婦だったのかも知れませんが、とにかくその時には美貌が衰えていたわけではないようです。
 え? 女が三十九歳なら、男は九歳じゃないかって? ええそうです、そうですとも。子供というやつは何を考えてるか分かりませんよねえ。この男は富家の出でした。しかも両親は早くに亡くなり、祖父母に育てられたと聞きます。祖父母というのは、つまりまァ、子供を甘やかしてやりたい放題させる連中です。九歳の子供を結婚させたんだから驚くじゃァありませんか。
 でもまァ、信じ難いことかもしれませんが、これといった事件もなく、夫婦は仲良く年老いていったそうですよ。ドラマなんてやつを信じちゃいけません、世の中ってのは案外そうやって渡っていけてしまうものなんです。
 少し横道にそれましたかな。では閑話休題と致しまして、男が四十歳、女が七十歳のときに起きた事件――そう、あるいは事故と言うべきかも知れませんな、ええ、この事故のことをお話ししましょう。思いがけず円満に過ごしてきた夫婦生活にも、そろそろ暗雲が立ちこめて参ったころです。理由は夜、いや女性の方も聞いてらっしゃるからよしましょう。理由は察してください。
 さて仏様は、この夫婦がいつも信心深くおつとめをしたのを気に入りまして、二人のもとへ姿を顕しまして、こう言ったと聞きます。
「そなたたちの善行をたたえ、願い事を一つかなえてやろう」と。
 そこで女は食べきれないほどのご馳走とあでやかな着衣を所望し、手に入れました。
 男はこう言ったそうです。
「妻を私より三十歳ほど若くしてください」
 仏様はそこで、男を百歳にしてしまったとか。

 ご無礼しました。


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穂永秋琴 2004年
最終更新:2014年03月18日 13:39