花家の決戦 ~『仙侠五花剣』第二十七回より

2005年01月03日(月) 23時26分-穂永秋琴

 (ここまでのあらすじ:剣仙・空空児は誤って賊人・燕子飛を弟子とし、仙剣である芙蓉剣までも与えてしまった。燕子飛はこの剣を頼みに、為さない悪はないといった有様だった。仲間から燕子飛の行状を聞いた燕子飛は激怒し、深夜に燕子飛のところに忍び込み、自ら芙蓉剣を盗み出す。剣を取られた燕子飛は、再び奪い返すべく、密かにその跡をつける。)

 空空児は戻ってきて皆と会うと、剣を取り戻した話をし、またこうも言った。「奴はきっと今晩、剣を奪い返しにやってくるだろう。計略を設けて捕えねばならん」
 黄衫客はそこで、剣仙や侠客とともに八手に分かれ、花家の前後左右の屋上の八面に埋伏した。虬髯公は東、紅綫女は南、聶隠娘は西、黄衫客自身は北。さらに雷一鳴が東南、文雲竜は西南、白素雲は東北、薛飛霞は西北とし、空空児と花珊珊は中央で待ち受けた。また武剛以下、県の捕役たちもおのおの縄や鉄の鎖を携えて家の下に控えた。
 時は二更を過ぎ、燕子飛は西北からやって来た。西北に控える薛飛霞は黄衫客と聶隠娘に報せ、黄衫客と聶隠娘もそれぞれ隣に報せ、燕子飛が瓦を取った(屋内に催眠作用のある煙をいれるため)ときには屋上の各人は準備万端整えていた。燕子飛は自分の足を頼みにし、四方に注意を払わず、屋根瓦を剥がしたが、八面の侠客たちはなお行動を起こさなかった。中央の空空児と花珊珊は燕子飛の様子をはっきりと見ていた。花珊珊は五口の飛刀を持っており、百発百中の腕前である。以前燕子飛と対峙したときは、闇夜でしかも人通りが多く、余人を傷つけるのを恐れて使わなかったが、今夜の月は昼のように明るく、この技を使うのに向いている。そこで袋から取り出した。
 第一刀は燕子飛の頭上をかすめ、第二刀は背中を斜めにかすめた。第三刀は後頭部を狙った。燕子飛は二本の飛刀をかわしたが、さらに第三刀が襲ってきたのを見、かわし得ないと判断して、口中の竜肝石を吐き出すと、身をひねって口で刀を受け止めた。花珊珊は月光でこれを見て大いに恐れ、第四刀を投げようとして燕子飛に見つかった。燕子飛はくわえて止めた刀を手に持ちかえ、花珊珊に向けて投げ返した。花珊珊は「きゃっ!」と悲鳴を上げて身を伏せたが、燕子飛の投げ返した飛刀はその頭上すれすれをかすめていった。花珊珊は青ざめた。が、すぐに気を取り直して叫んだ。「仙長、道姑の皆さん、賊を捕えてください!」
 この言葉が終わらぬうちに、空空児が芙蓉剣を手に、「無礼を働くのをやめよ、わしがここにあるぞ!」と叫んで屋上から飛び降りた。燕子飛は空空児が剣を手にしているのを見て、今晩の成功はおぼつかないと悟り、答えは返さずに西南へ向かって逃げ出した。たちまち一人の少女が行く手をさえぎった。道家の装束をまとい、桃花剣を手にしている。「どこへ行くつもり? 白素雲ここにあり!」と叫び、腰をひねって斬りつけてきた。燕子飛はこれを見、自身の手には武器がないことを考え、戦おうとせずに西へ向かって逃げる。だが数歩も行かないうちに、またしても一人の女性が道をふさいだ。紅い衣装のこの女性こそ、まさしく紅綫であり、剣をとって斬りつけてきた。燕子飛はこれを見てあとずさりし、ひそかに思う。「西南はだめだ。東南へ向かって逃げよう」
 跳躍すると、東へ向かったが、ここには聶隠娘が控えている。燕子飛はこの道も防がれているのを見ると、南へ逃走したが、黄衫客が待ち受けていた。「燕子飛、今宵こそそなたの命も終わりだ。わしの剣を受けよ!」
 燕子飛は四面みな塞がれているのを知り、魂が身から離れるほど恐れたが、いかんともするなく、命を懸けて黄衫客と戦い、道を切り開いて逃げるしかないと覚悟を決めた。その時、後ろから「ひょう」という音が聞こえた。飛刀かと思って頭をめぐらせ、よく見てみると、一条の青い光が空中を切り裂いていた。これは空空児が芙蓉剣を祭って彼を倒そうとしたのである。燕子飛は恐れ、また喜んだ。恐れたのは芙蓉剣が鋭利で彼の命も危ないからであり、喜んだのは空空児の弟子だったとき、剣を納める術を習っていたから、あるいは剣を取り戻せるかもしれないと思ったからだ。気持ちは決まった。その時、黄衫客の拳も迫っていた。
 この拳が届かず、黄衫客がまだ飛竜剣を収めていないとき、すでに芙蓉剣は燕子飛の眼前に迫っていた。燕子飛は急いで左手で剣訣を握り、右手で仙剣を招いて、「来い!」と呼んだ。すると奇怪にも、剣は燕子飛の手元へ飛んできて止まった。燕子飛は喜び、すぐに剣の柄を握り、叫んだ。「恩師、剣をありがとうございます!」
 すぐに左手の剣訣をとき、右手で剣を黄衫客に向け、斬りつけた。黄衫客は驚き、開いた口も塞がらない。空空児は雷のように怒り、後悔しても及ばず、地団駄を踏んで「畜生め、貴様を捕えぬ限り、誓ってわしは山へ帰らぬ!」そう言い終わるや、自分の紫電剣を抜き、燕子飛に立ち向かった。燕子飛はこの時、仙剣が手の中にあることで、虎が翼を得た思い。人と戦うのも恐れはしない。「恩師、剣を祭って弟子を殺そうとするからには、弟子の無礼もお許しくださるでしょうな!」と言い、剣を掲げて空空児を迎え撃った。黄衫客は大いに怒り、飛竜剣を祭って空空児を助けようとしたが、燕子飛はなおもひるまず、左を斬り右を突き、その豪勇は当たるべからざる有様。
 虬髯公ら仙侠たちは、空空児と黄衫客が勝利を得られないのを見て、怒らない者はなかった。虬髯公は今ここで芙蓉剣を取り戻さなければ、またしても大変なことが起こるのを悟り、手中の屠竜剣を祭り、仙侠たちとともに燕子飛を取り囲み、殺そうとした。燕子飛の意気はますます上がり、五仙五侠を敵に回してなお全く隙を見せない。下の武剛ら捕役たちは、屋上で戦いが繰り広げられているのを見、下から助太刀しようとしたが、戦いの有様ときたら夢を見ているようで、肝の小さな者は出て行くこともできず、やや肝のすわった者たちですら、様子を窺うことしかできない。
 ただ月光の元で、五彩の霞光が無数に走っているのだけが見えた。青が一条、黄が一条、赤が一条、黒が一条、白が一条、それぞれが東へ西へと。時は秋八月十五日、名月のもとではなはだ良く見えた。その光があまりに激しいので、両目を見開くことができないほどだった。中には五本の光があり、ひとつは深黄色、ひとつは淡紅色、ひとつは紫色、ひとつは深緑色、ひとつは浅碧色。この五道の光の中央には一本の青い光があり、起きては落ち、高くなり低くなり、最も強烈な光彩を放っていた。その他の光がみな散漫に見えたほどである。十本の宝光のほか、さらに中で旋舞する一筋の寒光がある。青に似て青に非ず、白に似て白に非ず、これはすなわち花珊珊の日本刀である。光が交わり、遠ざかる。やがて時が過ぎていった。
 やがて深黄色の光が二つに分かれ、青い光の真中を冒して進んでいった。これは黄衫客の飛竜双剣である。また紫色の光が激しくなるのが見え、淡紅色、浅碧色、深緑色の光も空を沸かせた。この紫色のは空空児の紫電剣、淡紅色は紅綫の飛虹剣、浅碧色は聶隠娘の碧雲剣、深緑色は虬髯公の屠竜剣である。燕子飛の剣技が優れているのを見て、おのおの仙剣を祭り、手を惜しまず彼を殺害しようとしたのだ。燕子飛は眼も手も冴え渡り、芙蓉剣を空に向け、左手で剣訣を握り、右手の三本の指を立て、口中で一喝した。「奔れ!」 芙蓉剣は海中の蒼竜の如く空を舞い巡った。見ている者たちはみな「やはり素晴らしい剣だ」と思った。
 空空児は燕子飛の芙蓉剣を取り戻すべく、剣訣を握り右手を上に向けて「止まれ!」と叫んだ。芙蓉剣が止まり、落ちてくるだろうと思ったのだが、燕子飛は早くも防ぎとめ、剣訣をとかず、剣をなおも握り締めていた。空空児は息を飲み、怒りの余り眼から火花が散る思いをした。紫電剣を構えて斬りつけ、芙蓉剣を叩き落そうとした。剣光は鋭く、当たるべからざる勢い。黄衫客らもこれに応じ、流星のように迫った。
 この時、五本の仙剣は一箇所に集い、五色の彩雲が風を起こし、青き芙蓉剣にようやく抵抗しえなくなってきた。桃花、葵花、榴花、蘚花の五柄の仙剣も芙蓉剣には及ばず、まして飛竜剣、紫電剣などは黄衫客や空空児が平素焼成したもので、その力は計り知れないとはいえ、なお芙蓉剣にはかなわない。文雲竜、雷一鳴、白素雲、薛飛霞らは仙剣を手にしているとはいえ、剣技は奥義に達していない。
 ただ花珊珊は、仙侠たちが苦戦しているのを見、なお二口残っている飛刀を使うべきだと考えた。そこで燕子飛の腿のあたりを狙って飛刀を投げつけた。燕子飛はこれに備えをしておらず、間近に迫ってようやく気づき、「うわっ!」と叫ぶと、「飛燕帰巣の勢」を使ってかわした。飛刀は空を斬り、かえって白素雲を傷つけんとした。白素雲は身をひねってかわした。
 花珊珊は思う。「いつも飛刀にかけては百発百中だと自負していたけれど、今夜四本の飛刀を放ってもみなかわされてしまった。これで最後の刀までかわされてしまったなら、もう命なんていらない。燕子飛を追いかけ、日本刀で刺し殺してやる」
 そして最後の飛刀を手にとり、燕子飛の心臓をめがけて投げつけた。燕子飛の眼は仙剣を追っているとはいえ、耳は留意していたため、背後から音が聞こえると暗器だと悟り、あわてて身を伏せた。刀は彼の頭上を通り、頭巾と頭髪を切り裂いて飛んでいった。燕子飛は魂が離れる思いがして、「おのれ、よくも暗器を使ったな。今度貴様を捕えたら生かしてはおかん。俺の仙剣の滋味を味わわせ、この恨みに報いてやる!」と罵っていると、注意が途切れ、剣訣はとけてしまい、芙蓉剣を取り落とした。飛竜剣、紫電剣など五本の仙剣は風を巻き起こしながら燕子飛に迫った。燕子飛は青ざめ、慌てて剣を取り直し、剣遁に乗じて逃げ始めた。
 燕子飛が目前に迫ると、花珊珊は日本刀を構え、腰をひねって斬りつけた。燕子飛はかわすことができず、芙蓉剣で受けた。すると鋭利無比な日本刀も真っ二つに割れてしまった。花珊珊は刀が軽くなったのをいぶかり、よく見てみると、半分しか残っていない。思わず色を失った。
 雷一鳴は燕子飛が逃げ始めたのを見て、遠くへ行かないうちに倒そうと蘚花剣を構えたが、肩口のほうに白いものが飛んできたのを見、これが花珊珊の折られた刀だと思い至らず、燕子飛の暗器であると思い、立ち止まってかわした。燕子飛はこの隙に乗じ、道を開いて逃げ出した。空空児、虬髯公、黄衫客、紅綫、聶隠娘の五人の剣仙は剣遁に乗じて燕子飛を追った。雷一鳴らは剣遁の術を習得していないので、追っても無駄だと知り、屋上にとどまった。花珊珊は折れた刀を捨てると、ため息をつき、屋上に立ち尽くすほか、どうすることもできなかった。


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・読んで楽しんでもらいたいと考えている部分。
(ど派手なアクションとヘタレな翻訳)

・この作品で、いちばん書きたかった「もの/こと」
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アクション描写の練習と翻訳の練習のためにワンシーン切り抜きました。
実はあちこち誤魔化してます。

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穂永秋琴 2005年
最終更新:2014年03月18日 13:48