2005年01月11日(火) 17時51分-無学
眩い光を浴びながら、水面が穏やかに、静かに、揺らいでいた。
突如その静寂を脅かしたのは、三つの巨大な影。物々しくも優雅に水面を白く切り裂いていくその姿は、まさに動く要塞。見る間に三つの影はその戦艦の全貌を現した。
どこからともなく響いて来たのは、嗄れながらもなお矍鑠とした老人の声。
「雛っ子奴が、今日こそ五十年来の雪辱を果たしてくれるわ!」
その声に答えるのは、いかにも老紳士然とした別の男の声。
「そのような大きな声を出さずとも充分に聞こえますよ」
紳士は抑揚も無く、更に言葉を継いだ。
「ほう――これは『大和』、それに『長門』『陸奥』ですか。いや、なかなかの威容」
「ふん、分かったか? よっく目に焼き付けておくが良い小童。46サンチ砲の揃い踏みなぞ滅多に拝めるものではないぞ」
老人がさも得意そうに笑っている。
「相も変らず大艦巨砲主義とは頭の堅い。まずその旧弊な思考を改めた方が宜しい」
「難しい言葉を知っとるのう、小童。まあ今からこの重火砲撃で憎まれ口も利けなくしてやるが、の」
「なるほど。ならば私も受けてたちましょうか」
再び水面の静寂が破られる。『大和』ら三艦に面して現れたのは、航空母艦『ホーネット』。南太平洋海戦で活躍したヨークタウン型空母である。両者は悠然と進水しながら距離を詰め、静止した。
「てえい!」
老人の張り上げた濁声と共に、三艦の三連装主砲が火蓋を切った。続いてホーネットも応戦する。あっと言う間に白煙と火薬の匂いとが水面を覆っていく。水しぶきが両者に滝のように落ちかかる。しかし歴然たる火力の差は如何ともし難く、ホーネットから飛び立った艦載機は次々と高角砲の餌食となった。残った空母もまた成す術なく木の葉のように波に押され漂うのみで、沈むのは時間の問題と思われた。
呵呵とした老人の嘲笑が響き渡った。
「進退谷まったというやつじゃな。そんな蚊トンボのような攻撃なぞ痛くも痒くもないわ、おおかわゆい」
しかし相手は紳士の口調を崩さない。
「火力に頼るのみとは情けない。日本海軍にその人ありと謳われた名司令官、阿古八郎も年を召されましたかな? 艦載機の数を確認なさい」
「何じゃと?」
次の瞬間、急降下してきた数機の艦載機が強烈な弾幕を見舞った。三艦は高角砲を構え直すもとっさの事に反撃できない。急旋回した艦載機が止めの爆撃。哀れ三艦は忽ち大破、水底へ沈んでいく。
「こ、この卑怯者めが!」
「戦略です。艦載機を全て打ち落としたと思い込んだのが浅薄でしたな。予め武装を強化した戦闘機を控えて置いたのですよ」
歯軋りと地団駄。悔しそうな老人の唸り声。
「ええい、分かった、儂の敗けじゃ。焼くなり煮るなり、好きにせい!」
老紳士が諭すように言った。
「まあそうかっかなさらずに。次回の挑戦が楽しみです。そろそろ体も冷えて来たことですし、ゆっくりと湯に浸かったら如何です? なにしろここは――」
ちゃららんちゃらら~ん。場違いなほど脳天気な効果音。次いで、頭のネジが抜けたような若い男の声。
「老後の楽しみが欲しいというアナタ!」
同じく脳ミソが宙を飛んでいるような女の声。
「懐かしい青春の日々を取り戻したいというアナタ!」
で、ハモる。
「大人の遊び場へ、ようこそ!」
さきほどの老人たちなのか、二人の男が頭に手拭を乗せて湯に浸かっている映像に変わっている。そのうちの一人はまだ髪の豊かなロマンスグレーの渋い外人だ。
「太平温泉ではそんなアナタのささやかな願いが叶っちゃいます!」
「大浴場でゆったりまったりしながら戦争ゲームを楽しもう!」
「硝煙と湯の香の中、可愛いお孫さんと心ゆくまで戦争を語り合ってみませんか?」
「湯に浸かりつつ、思い出に浸りつつ」
「ははこりゃうまいね」
「体も心もホットする安らぎの場所!」
「年末年始も休まず営業!」
「ぜひ太平温泉虎の湯へ!!」
画面の両脇から二人の子供が現れて老人たちに抱きついている(たぶん孫だろう)。はっはっは、と和やかな談笑ムードの彼らを後に、画面が遠退く。浴場の一隅には幾つものラジコンの残骸が沈んでいる。おもちゃのアヒルがその上を気持ち良さそうに泳いでいる。目前にテロップが現れる。
「太平温泉虎の湯 ○○駅南口から徒歩五分」
(15点配分)
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( )「気になった部分への指摘」
( )「興味深い(面白い)と感じた部分の報告」
( )「技術的な長所と短所の指摘」
( )「読後に連想したものの報告」
( )「酷評(とても厳しい指摘)」
( )「好きなタイプの作品なのかどうか」
・特に重点的にチェック(指摘)してもらいたい部分。
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・読んで楽しんでもらいたいと考えている部分。
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・この作品で、いちばん書きたかった「もの/こと」
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泡投稿用。お題は「艦隊戦」。製作時間一時間弱という驚異の作品。てか、こんな話ですいません。