お題「記念日」

2013年03月24日(日) 23:07-竹之内大

僕は今までいわゆる「優等生」をやってきたと思う。高校三年間は無遅刻無欠席だったし、成績もずっと中の上をキープし続けた。生徒会の副会長を二年間つとめあげ、教師陣の覚えもめでたく大学へは推薦で進学を決めた。

だが、ふと思うのだ。このまま「いい子」として周囲の期待に応えていくのか。唯々諾々と決められた路線を歩き続けていくのだろうか。感じたことはないだろうか。ロボットのように生きることの不満。ちょっと道を踏み外した、アウトローのかっこよさ。卒業という普段と違った高揚した雰囲気の下、僕も思い切って踏み外してみようと思ったのだった。

卒業式の日、俺は万引きをした。

今まで感じたことのないようなドキドキを感じながら俺は手の中で万引きした消しゴムを転がした。思わずニヤついてしまう。これまでの「いい子」の殻を破って生まれ変わった気がした。なんだか自分が一回りも二回りも大きな人間になった気がした。

ドン、ドン、部屋の扉をたたかれる。

ビクッ

文字通り飛び上がった。扉の外から母が呼ぶ。

「今学校から電話があったんだけど」

何だって、もうばれたというのか。しかも学校に連絡がいってるなんて。学校の奴に見られていたのか。まさか学生手帳を落としたのか。俺はどうなるのだろうか。少年院に入るとか。いや、さすがに初犯だからそれはないはずだ。しかし大学入学は取り消されるだろう。友人、親、教師をはじめとした周囲の大人たちからどんな目で見られることか。今まで自分が築きあげてきた評価が地に落ちることは想像に難くない。考えるだけでぞっとした。逃げるしかない。逃げて何が変わるわけではない。しかしとにかく逃げるということしか僕の頭にはなかった。僕は自分の部屋の窓から飛び出した。

「あら…あの子ったらどこ行っちゃったのかしら。……ええ。はい、はい。すいませんねぇ、先生。本当にもう卒業証書を机の中に忘れてくるだなんて、どこか抜けてるんだから…。…はい、では本人に後で取りに行かせますので、よろしくお願いしますね。」

最終更新:2014年03月17日 19:28