くしゃみ昔話(お題「くしゃみ」)

2013年04月07日(日) 16:40-鈴生れい

ある村に、くしゃみがうるさいおばあさんと、静かにくしゃみするおじいさんが共に暮らしておりました。
ある夜のこと、おじいさんとおばあさんの家から大きなくしゃみが聞こえてきました。それはそれは大きなくしゃみで、たまたま川の近くを通っていた青年が音に驚いて川に落ちてしまうほどでした。
その青年は翌朝水死体で見つかり、村は騒然としました。平和な村で起きた出来事であり、また青年は村の誰からも好かれていた好青年でありましたので、悲嘆にくれる者も真実を追求しようとする者もおりました。
多くの者は事故を疑いました。この平和な村で殺人を犯すものがいるはずないと、大半の村人はそう考えたのです。しかし真実を追い求める者はそれはおかしいと村長に申しました。
青年の足腰はしっかりしており、酔っぱらった形跡もなく、また平素から泳げないことを自覚し水場では気を付けていたことから、彼が事故で落ちる可能性は極めて低いと言えるからです。
しかし殺人の証拠もうまく見つからず、捜査が行き詰っていたとき、ある人が証言しました。
「昨日の夜大きなくしゃみが聞こえてきたよ。自分もそれに起こされたし、彼もそれに驚いて落ちたんじゃないかな」
なるほどと真相を求める者は頷き、それならばとおばあさんを見ました。おばあさんのくしゃみがうるさいことは、この村では常識だったのです。
おばあさんは必死に否定しました。自分のくしゃみは確かにうるさいが、昨日の夜自分にはくしゃみした覚えがないと。
しかし先ほどの証言を皮切りにくしゃみを聞いた人が次々と現れ、場所もおじいさんとおばあさんの家で間違えないと言うのです。
おじいさんのくしゃみは静かなもので、家の外に響くことは滅多にありませんでした。ましてや青年を驚かして溺れさせることなど不可能です。
おばあさんの大きなくしゃみが青年を殺したことは今や明確でした。途方に暮れ涙するおばあさんに、村長は無慈悲に罪を償わせることを命じたのでした。
おばあさんは必死におじいさんに嘆願しました。自分が昨晩くしゃみをしていないことを証言してくれと頭を地面に擦り付けて頼み込んだのです。
しかしおじいさんは、
「すまん、くしゃみの有った時間、自分はもう寝ていて覚えていないのだ」
とおばあさんを冷たく突き放したのでした。当然おばあさんは、おじいさんと一緒に寝ていた自分にも覚えがないと申し上げたのですが、村長は聞く耳を持ちません。
いくら故意でなかったとはいえ、未来ある若い世代を殺してしまったのは事実。おばあさんは自らも入水することを申しつけられました。
がっくりと膝から落ちるおばあさんを尻目に、真相を追う者はおじいさんを見つめていました。いざおばあさんが入水しようとしたその瞬間、その口角が僅かばかり持ち上がったのを彼は見逃しませんでした。
「ちょっと待ってください」
彼は真犯人をおじいさんだとしました。予想外の展開にさらに村人たちの間に動揺が走ります。何故ならおじいさんに大きなくしゃみは出せないからです。
ですが彼はおじいさんに証言に矛盾があったと言うのです。彼は続けました。
「隣家の人が叩き起こされるぐらいの大きなくしゃみのすぐ隣で寝続けられるのは不自然じゃないか」
にわかに自分の足元が崩れ去り始めたおじいさんは、大慌てで自分には大きなくしゃみが出せないことを主張しました。
ですが、真実を追求するものは言い放ちました。
「自分のくしゃみで起きないのは自分だけ。すなわちおじいさんはおばあさんにくしゃみをさせることで、川の近くを歩いていた青年を溺れさせたのだ」
おじいさんは、今度こそ両手を地面について負けを認めました。
本当は人気も若さもある彼に嫉妬して、少しだけ驚かしてやろうとしたらまさかの結末になってしまったというのです。
村長は、再びこのような事態が起きないよう、二人とも溺れさせてしまいました。それ以来、この村で事件は起こらず、村人たちは平和に暮らしたのでありましたとさ。
ちゃんちゃん。

 

 


くしゃみ三つ目です。全部そこはかとなく狂気です。
昔話を書こうと思ったら、思い付いたのがこれでした。発想からしておかしいです。

最終更新:2014年03月17日 19:31