自分の本心に素直になれないのなら、

2013年04月25日(木) 15:36-鈴生れい


自分の本心に素直になれないのなら、砂糖を混ぜてみるといい。
自分の本心に正直すぎるのなら、塩を混ぜてみるといい。
この飲み物は、そういうものだ。


どうしても、そいつには素直になれないんだ。
ずっとドジだと思ってた。そのくせ口ばかり達者で、売り言葉に買い言葉、何度喧嘩をしただろう。
仲良くなりたいのに、ずっと憎まれ口ばかり叩く日々が続いていたんだ。

右にあるのはペットボトル、中身はよく分からないけど透明な液体、無味無臭。
左にあるのは塩と砂糖。どうやらおまけで匙もつけてくれららしい。
さぁ砂糖を混ぜてみよう。きっとそいつに素直になれる。

でもそうなったとき、そいつはどう反応するだろう。気持ち悪いと拒絶されるかもしれない。
そう思った途端、左手に持った匙がとても生々しい重さを持って自分を苦しめる。
苦しいんだ、辛いんだ。でももう喧嘩するのは嫌なんだ。

砂糖をすくい、量を調整してペットボトルの中に突っ込む。白い粉は霧のように舞って、やがて姿を消した。
後はこれを飲むだけだ。これを飲むだけで、自分は本心を打ち明けられる。
喉の奥が引きつっている。ああ、不安が胸を押し潰している。呼吸すら怪しくなって、視界が白く明滅する。

目を瞑って、自分は一気にペットボトルを振りかざした。体の中に、ひやりと冷たい液体が流れていく。
味は砂糖。甘くて、でも優しくない、ただ甘いだけの味だった。するりと体の奥に差し込まれ、凝り固まった心をほぐしていく。
ああ、今なら言える。そいつに、自分のホントの気持ちを。


私の名前はあまのじゃく。自分の心に素直になれない、そんなあなたにこれを勧めよう。
この液体は、塩を混ぜれば自分に素直に、砂糖を混ぜれば自分に嘘をつけるよ。
え、さっきと言ってることが違う? そりゃそうだ、だってこれ、ただの水だもの。

 

 


新入生に対抗すべく(笑)、お題小説。お題は「あまのじゃく」と「砂糖」です。まぁ、ありきたりなネタですが。

あまのじゃくとツンデレって書く分には楽しいです。

最終更新:2014年03月17日 19:32