とある会話(お題「磁石」「友人」)

2013年06月25日(火) 00:09-花庭京史郎


「はあ……」
『どうしたの? ため息なんかついちゃって。君にしては珍しいね』
「……実は昨日、彼と別れたの」
『彼? 誰のこと? 代名詞で言われても意味不明なんだけど』
「それ、ジョークのつもり?」
『真面目のつもり』
「……付き合ってた人と別れたのよ」
『そんなに深刻な顔をしてるってことは、もしかして死別?』
「……あのさ、殴っていい?」
『は?』
「私のこと、からかってるよね?」
『単に確認してるだけだよ。可能性の低いものから』
「アホか! 普通、可能性の高いものから考えるだろ!」
『昨晩読んだ本格ミステリーの影響かも』
「やっぱり、私のことからかってる!」
『そんなつもりは、毛頭ございません』
「うそつき! 髪の毛あるじゃん!」
『それ、面白くないよ』
「うっ……」
『それに、自分で言うのもなんだけど、僕は滅多に嘘をつかない人間だから』
「…………」
『へー。でも、君に恋人なんていたんだ。ちょっとビックリ』
「……それ、どういう意味?」
『蓼食う虫も好き好きだな、と』
「……アッパーとボディブロー、どっちが好み?』
『ポニーテール』
「……そうなの?」
『アッパーとボディブローよりは、はるかに好きだよ』
「……ふうん。そうなんだ……」
『……ところで』
「ん?」
『あ、いや、なんでも……ない』
「……珍しいわね。口ごもるなんて」
『…………』
「はっきりしなさいよ。ききたいことあるんでしょ?」
『あ、うん。まあ、その……』
「さっさと言え!」
『いや、その、付き合ってた彼って、どんな人なのかな、と』
「……知りたいの?」
『い、一応……』
「どうして?」
『な、なんとなく……かな」
「……わかった」
『……え? えええっ? な、なんで僕を指さすの?』
「…………」
『ちょ、ちょっと待って? おかしいよね? 別に僕たち付き合っているわけじゃ……』
「……夢」
『……は?』
「……夢の中での話……なの」
『…………』
「…………」
『この展開は、正直予想していなかったなあ……』
「で?」
『……はい?』
「私のこと、どう思ってるの?」
『どうして、そんなこときくの?』
「ききたいから」
『えっと、それは……』
「滅多に嘘をつかない人間なんだよね?」
『……どうしてかなあ』
「えっ?」
『好きになるなら、もっと自分と価値観を共有できる人だと思ってたんだけど……』
「正反対で、悪かったわね」
『いや、いくらなんでも、コサインシータがマイナス1ってことは……』
「難しいこと言わないで」
『高校で習わなかった?』
「記憶にない」
『クーロンの法則、知ってる?』
「アイ・ドント・ノウ」
『じゃあ、磁石は?』
「それくらいなら」
『どっちがS極かな?』
「それは、これから決めればいいわ」
『……僕たち、うまくやっていけるかな?』
「心配性ね。大丈夫に決まってるじゃない」
『いや、でも、君の夢が予知夢ってことも……』
「大丈夫、大丈夫」
『やけに自信あるね』
「もちろんよ。だって、大嘘だから」
『……前言撤回・正反対だ。なんで好きになったかなあ』
「自然界の法則には、私の彼氏も逆らえないのであった、マル」

 

最終更新:2014年03月17日 19:36