カラフル☆トーク(お題「掃除機」「色鉛筆」)

2013年07月08日(月) 14:04-鈴生れい

※下ネタ?注意

「日紫喜さんを落としたい」
目黒ソージが話しかけてきた。その発言の意図がつかめず、僕は無言のままだ。
するとそれを肯定と受け取ったのか、ソージはそのまま続けてきた。
「いやぁ、こうなんつーかお高く留まってるじゃん? だからこう、なんつーかこうさぁ、あるじゃん」
突然何を言っているのだろうこの色狂いは。僕にそんな発言をする前にもっとやるべきことがあるだろう。まずは語彙力を高めてから出直してきて欲しいいや出直さなくていいそのまま回れ右して帰るんだ。
心中穏やかでない僕の前で、ソージの要領を得ない、得たところで大して意味もない発言は続く。
「とにかく、あの人を落としたい」
知らないよ、なんでそんなの僕に言うんだ、と叫びたかった。心底そこの窓からフライアウェイしたかった。でも僕の良識がそれを拒んだ。
無言のまま黙りこくる僕をどう思ったのか、ソージは何故か涙声になっていた。
「頼むって、手伝ってくれよ。日紫喜さんを落とすの」
「やめろ僕を巻き込むな」
ああ、ついに話してしまった。これで会話になってしまった。いい加減に会話のサンドバッグとなるのは嫌だったのもあるが、抵抗したところでせいぜいミットにしかなるまい。畜生。
一度話してしまえば、僕の口は重たくない。むしろ軽くて軽佻浮薄だ。

<以下省略可能>
「ともかく僕を巻き込むのは止めろ百歩譲って日紫喜さんを落とすだのなんだのわめいてフラれるのは構わんというかむしろフラれてしまえばいいよ盛大に祝ってあげようその時ばかりは君に同情してプレゼントしてあげるよペアルックとかいいんじゃないかな似合うと思うけどどうだろうとにかく僕を巻き込むのだけはやめてくれそれ以上巻き込むつもりなら掃除機で吸い込んで不能にしてやるよこの軽佻浮薄野郎ああ別に覚えたてだから軽佻浮薄って使ってるんじゃないからね結構前から知ってたからねどうでもいいけど」
<省略可能ここまで>

ね、僕の口は軽佻浮薄だろう?
「まぁそう言わずにさ、頼むぜキイロ。お前の方が得意だろ?」
ここまで言ってやったのに、僕の話を聞いていなかったのかこの軽佻浮薄野郎。
それと僕まで軽佻浮薄にするんじゃないよ。僕が軽佻浮薄なのは口だけだ、だから普段は黙っているんだこの軽佻浮薄野郎。
「なんで僕がそういうの得意なんだよ。むしろ真逆だろ?」
僕はそういうのに興味ないしやろうとしたこともない。面倒だし面倒だし、後面倒なんだ。分かるだろう?
かといってそのまま引き下がる様子もないので、とりあえず僕はその場しのぎに別の話題を切り出してみた。
「他の人のことはどうなんだ? 『良い』のはいっぱいいるでしょ?」
「そりゃまぁ、粒ぞろいというかなんというか」
粒ぞろいなんて言葉知ってたのか。珍しく感心させられた。後で意味を尋ねておこう。
「は?」
「いや、だから『良い』っていう意味なら結構いるけどよ」
「うん、それで? そいつらのことはどう思ってるのさ? わざわざ日紫喜さんにしなくたっていいでしょ面倒臭い」
「そうなんだけど、でもあの性格だしなぁ。ぴったしでしょ?」
何がどうぴったしなのかはこの際つっこんで掘るのは嫌だ。話題を逸らすという当初の目的からずれる。
「じゃあ桃谷さんはどう? 清楚な感じじゃない?」
「いや、あれは清純そうに見えて尻軽だろ。裏じゃいっぱいやってんじゃね?」
その根拠はどこから来るのか知らないが、割と爽やかなイメージを保っている桃谷さんになんの恨みがあってマイナスプロモーションしてるんだ。掃除機に吸わすぞ。
「なら朱宮さんは? 明るくて活発じゃないか」
「いや、でも活発の延長線上で如何わしいことにまで活発なんじゃね?」
その根拠はどこから来るのか知らないが、割と爽やかなイメージを保っている朱宮さんになんの恨みがあってマイナスプロモーションしてるんだ。掃除機に吸わすぞ。
「だったら双子の金子と銀子は? 輝いて見えるでしょ?」
「いや、あれは一見そう見えるけど、中は相当汚れてるぜ。よくよく見てれば分かる」
まぁそれはそうか。
「だとするなら、水科さんは? 静かで清らかな印象だけど」
「いや、ああいうのはもう誰かに食われてるな。一途に惚れたらそのままゴール、みたいな?」
だから、さっきからこいつの偏見はなんなんだ。一体全体なんの恨みがあって掃除機に吸われたいんだ。・・・・・・あ、なんの恨みがあってマイナスプロモーションしてるんだ。掃除機で叩き折るぞ。
「逆に訊きたいんだけど、誰ならいいんだよ」
「うーん、緑さんとかまだそんな雰囲気しないぜ。おっとりしてていい感じだろ?」
よく分かってるじゃないか君とはいい友達になれそうだよソージくん。
そんな僕の様子を悟ったのか、ソージがからかうような口調になった。
「なんだ、お前緑さんのこと好きなのか?」

<以下省略可能>
「バカかお前は好きだとかそんなレベルじゃないんだよ僕の緑さんに向ける感情はそんななまっちょろいもんじゃないこれは愛だそれも飛び切り深い愛だ緑さんの願いなら僕はなんのためらいもなく掃除機に吸わすだろう掃除機で叩き折るだろうあるいは掃除機の下敷きにもなろう僕は彼女のためならなんでもするよ桃谷とか朱宮とか水科なんて目じゃないね金子とか銀子なんて視界に入りすらしないよあんな腐れビッチどもああ口にするだけでも緑さんへの背信になってしまうしまった僕はなんて迂闊なんだこの軽佻浮薄野郎め僕なんて掃除機に吸われてしまえばいいんだっ!」
<省略可能ここまで>

「おいまぁ落ち着けよ。よく分からんけど」
結局ソージは僕の緑さんへの愛を聞いてはいなかったようだ。残念ながらソージとは友達になれそうにない。なったらなったで掃除機に吸わすのは避けられないが。
ふぅと満足さから溢れる息を吐いて、僕はソージとの会話を続けた。とりあえずお互い共通の知り合いは全員話題に出してみたが、そうなると最終的に話題が日紫喜さんになってしまうことを僕は予測できていなかった。
「んで、日紫喜さんの件は手伝ってくれるんだよな?」
しまったと既に思った時には既に時既に遅し。ああ、なんと迂闊なんだろう。でも僕はまだ希望を捨ててはいなかった。
「まぁ待てよ。お前日紫喜さんのことはどう見えるんだ?」
とにかく手伝うなんて絶対御免だ。さっきも濁していたし、どうせ恥ずかしくて言えまい。その隙に僕は逃げよう。
案の定、ソージは言葉を濁した。あーとかうーとか唸っている。良し、最後に念押ししておこう。
「言えないんだったら手伝えないよ。それじゃ、そういうことで」
「ま、待てよ。分かった、言うからさ」
僕は盛大に舌打ちしたくて舌打ちした。念を押し過ぎて、却って裏目に出たようだ。振り切って逃げようと思ったが、無理だった。
しょうがなく、本当にどうしようもなく、僕はソージの相談に乗ることになった。
「お、俺は――」

 


翌日、日紫喜さんは死んだ。


やりたかったこと
・タイトル詐欺
・ギャグ
・ダブルミーニング
・省略可能

え、色鉛筆が関係ないって? 何言っているんですか、ははっ。

最終更新:2014年03月17日 19:38