社長の困惑(キセル文リレー小説)

2013年09月20日(金) 20:37-御伽アリス

(執筆:安住&三水)


「社長、この通りです。」
「いや、どの通りだよ。」
机の上に乗ったものを凝視する。色とりどりの紙が散乱している。
「どうなってんだこれ。」
「あのですねえ、新人君が間違えて折り紙の中に混ぜてしまったらしくて。」
「そしてその折り紙をパーティー用に切りきざんでしまいまして。」
「そして、この通りです。」
だまりこんでしまう社長。顔色が段々と悪くなっていく。それを目にした社員たちがひや汗を流す。
社長は大きくため息をついた。
「困ったなあ~これ、何人分の書類が混ざっているんだ。」
「プレゼン資料でしたので、20人分ですねえ。」
1枚の切れ端を持ち上げて、田中が言う。彼女が持っているのはちょうど、参加人数が書かれた場所だった。
「そもそもこれ、何のパーティーに使う用だったの?」
「新製品発表のパーティーです」
それを聞いた社長が更に顔色を悪くした。
「まずいぞ。そのパーティーには大事なゲストが参加するんだ。バックアップはあるのか?」
「できたばかりでしたので……まだ……」
「パソコンにデータ残ってないのか……、いや、紙ふぶきなんだから良いとは思っ……えないよなあ。紙ふぶきにプレゼン資料混ざってたらまずいだろう。」
「そうですよねえ、どうしましょう?」
「新人くんは?」
社長がこんなことをやらかしてくれた張本人を探す。
「あ、彼はコンビニにお昼ごはん買いに行きました。」
「あれ? ラーメンの出前とってたはずじゃ……。」
「ちわーラーメン1番亭でーす。」
満面に笑顔を浮かべたラーメン屋の坊主を見て社員たち一同がびくっとした。
誰も出前を受け取りにいかない。新人はいったいどこに行ったんだろうか、こんな肝心な時に。
気まずい空気がただよう。
「あのー、ラーメンの出前でーす」
ラーメン屋の坊主も空気を察したようで、気まずく声をかける。
「ああ……ごめんなさい。ちょっとそこ置いてくれる? お金は私が払う。」
見かねた田中が新人の机を指差しながら財布を手に持った。
「かしこまりましたー!!」
ラーメン屋の坊主が一歩足を踏み出す。その足元には散乱している紙。
「ここです……うわっ」
「散らかっててごめんなさいね。えっと、いくらでしたっけ?」
坊主がラーメンを新人の机に置いて言う。
「500円ですー」
「どうもご苦労さん」田中がお金を渡す。
「まいどありー」帰ろうとした坊主が散らばった紙屑を見て、靴の裏を見た。田中が彼を見る。
「何、どうかした?」
「いや、足の裏とかに引っついてそうだと。それじゃ、またごひいきに!」
社長がため息をつきながら机にもたれかかる。佐藤がラーメン屋の坊主に手を振り、パソコンを立ち上げた。
「社長、もう、今からプレゼン資料作り直すしかないです。」
「間に合うのか? もうあまり時間はない上にあの量だ」
「しかし、もうそうする他……」佐藤がため息をつく。
「こうしましょう」田中が提案をする。「作り直すと同時に私が復元を試みます」
「そうだな」
「復元? どうやって?」
「ばらばらになってしまっていますが、別にシュレッダーにかけられたわけではないので、復元しようとすれば何とかなるはずです。まずは資料の部分をこの中から取り出していけば……」
「よし、それで行こう」社長が身をのり出す。「重要な資料だ、私も手伝う」
社長が立ち上がった反動で、椅子が新人の机に当たった。
「ああっっ!!」
みんなの目の前で、スローモーションのようにラーメンのどんぶりが動き、中身がちらばった。
「あちゃー、やらかした」社長が目をつむる。
「社長……何を……。」
田中の顔が青ざめる。ラーメンの汁にひたった紙ふぶきの中を絶望的な空気が漂う。
「ただいま戻りました期待の新人くんでーす!!」ドアを蹴やぶって、この騒動の張本人が帰ってきた。
「とりゃー」社長が新人の腹に全力でけりを入れる。「全部お前のせいだ!」
「え? なんですか俺何かしましたか!」新人が涙目で手に持っていた書類袋を渡す。
「家から持ってきたプレゼンの資料間違えたんで本物持ってきたんすけど。」
「え? じゃあこっちは……」
「いらないほうです。」
「分からん! 最近の若者は何を考えているんだ」
社長は困惑した。
全てはパズルだ。


***
キセル文とは、初めと終わりの一文が決められていて、その間に挟まる物語を考えるという作文法です。この作品の最初と最後の文は文庫本から無作為に引用しました。おまけに今回はルーズリーフの両面一枚で完成させるというルールもありました(たぶん)。
同時にアップした九条&御伽ペアの作品も、この安住&三水ペアの作品と同じ文で始まり、同じ文で終わるものです。読み比べてみると面白いです。

最終更新:2014年03月17日 19:44