全てはパズルなのか?(キセル文リレー小説)

2013年09月20日(金) 20:39-御伽アリス


(執筆:九条&御伽)


「社長、この通りです」
社長秘書のケンイチは一枚の紙を胸元のポケットから取り出した。
きっちりと四つ折りにされた紙をケンイチは社長の前で広げてみせた。
「これは、まさか、脅迫状じゃないのか君!」
「ええ、そのようです」
そこには、新聞紙から一字一字切り抜いた文字たちが歪に並んでいた。
「私は破滅するのかね、このままだと」
「社長、眉間のしわが深すぎます。それと……」
ケンイチはズボンの右ポケットから新たに紙を取り出した。そこに書かれていた文字に、社長の目が見開かれる。
「この社長、通り魔です、だと? ご丁寧に私の顔写真つきじゃないか。何だこれは!」
「犯人の挑発ですね。要するにネタです。おふざけです。さて、さっきの脅迫状ですが……」
「なんと! ネタと脅迫状を同時に送りつけてくるとは、なんたる悪党なんだ!! ……私はもっとマシな顔をしてるはずだが」
「全く許せませんね。大ばか者です。たわけものです。大うつけです」
「犯人の素性は分かっているのか?」
「それがなんとも……。この脅迫状から推測するしかないようです」
2人がそう話していると。
「お困りのようですねェ、お2人さん」そう言って怪しげな2人の男が現れた。ハゲの専務と、チビデブメガネの係長だ。ハゲ専務がケンイチの手からムリヤリに脅迫状をひったくり、読み上げる。
「なになに。このパズルを解読せよ。今日中に答えを見つけなければ社長の命はない。うっふっふ、だと?」
「ほっほーう。これは大変ですねえ~」
チビデブメガネは小指で眼鏡のブリッジを持ち上げた。
「皆で協力すれば何かが分かるかもしれんね。おっほっほ」
ハゲの専務は高らかに笑った。
「この“うっふっふ”的に専務殿、君怪しいのではないかね?」
社長ハゲの専務を訝しげにジロジロ眺めた。
「私のは“おっほっほ”ですので月とスッポン、亀と亀の子たわしくらい違いますよ。おっほっほっほ」
「仲間割れはよしましょうや。まずはパズルを吟味しましょう」そう係長が言う。
脅迫状に添えられたパズル。その内容は。
「全てはパズルだ、か……」ケンイチは険しい表情でつぶやく。
「おい、君も眉間にしわが寄ってるぞ」と社長。
「お前よりマシだ……」とケンイチがぼそっと言う。
「え?」社長はケンイチを見る。
「いや、何でもないです」
「あのー」突如か細い声で割り込んできたのは平社員の板尾だった。
「お、板尾! 調度良いところに!! ……いや社長、こいつは三流小学校、三流中学校、三流高校、超一流有名大学の四浪卒でしてね、もしかしたら役に立つかもしれません」と、係長は平社員の背中を押した。
「ちょっと何さ集まっちゃってねえ!!」野太い声で割り込んだのは掃除婦。
「これって、並べかえなのでは?」と言う板尾。
「並べかえ?」そう尋ねる社長に割り込んで掃除婦が話し出す。
「あ~、『全てはパズルだ』っていう文の文字を並べかえて、別の文を作るってやつね。あたしゃそういうの得意だよ」
「うるさいどけ。お前は黙れ」
みんなが黙り込む。『全てはパズルだ』とは。このままでは埒が明かない。本当に全てはパズルのようだ。
「わかった! 『すべてはパズルだ』を入れ替えると、『だてはすべるぱず』→『だて(眼鏡)はすべるぱず』的な!」
「ぱずって何だよ」ぼそっとケンイチが呟いた。
「ちっちっち、甘いな。その『ぱ』の丸は、最後の句点を表すのだよ。つまり犯人は、チビデブメガネの係長、君だよ」
係長は顔を赤らめた。
「君はよくずりおちるメガネを小指で持ち上げているね。こんな形で予告文を書いて、名前まで残すとは……!」
「いや、ちがう。そんな不完全なパズルはパズルと呼ばない!」となぜかケンイチが怒る。
「じゃあこれはどうだ。『全てはまだハズレの。』とか。の、で終わってんのはよく分からないけど」
「おい、どこから『ま』が出てきたんだよ」
「あれ、『ま』入れちゃだめ?」
「おい待て。私は気付いたぞ!」社長が叫んだ。
「ようやくお気付きか、ヘボ社長」ケンイチは呟いた。
「さすが社長!」「社長さまさま!」「して、いかに……」手でごまをすりながらそれぞれが呟く。
「犯人はケンイチだ。しかし私の命を狙っているわけではない。『ま』が入るのは正解なんだ。ケンイチは最初こう言った。『社長、この通りです』と。そして、もう一つの紙に書いてあった文。これはケンイチのセリフを入れ替えて、さらに『ま』を加えたものだった。『この社長、通り魔です』とはそういうこと。つまりパズル文にも『ま』を加える。すると『全てはまだハズレの。』となる。いいか、この文の意味はな、社長の座を狙う秘書のケンイチの気持ちなのさ。自分には秘書では役不足、社長には自分がなるべき、そう言いたいんだろう。それが『ハズレ』ってことだ。新聞紙から切り取った文字が並んでいたのは、並べかえをしろというサイン。そういうことさ」
みんなが、あっと驚いた表情でケンイチを見る。ケンイチはフフ、と笑って、最後にこう言った。
全てはパズルだ。


***
キセル文とは、初めと終わりの一文が決められていて、その間に挟まる物語を考えるという作文法です。この作品の最初と最後の文は文庫本から無作為に引用しました。おまけに今回はルーズリーフの両面一枚で完成させるというルールもありました(たぶん)。
同時にアップした安住&三水ペアの作品も、この九条&御伽ペアの作品と同じ文で始まり、同じ文で終わるものです。読み比べてみると面白いです。

最終更新:2014年03月17日 19:44