ムダに困難に立ち向かうサワーズ社の人たち(リレー)

2013年09月28日(土) 14:26-御伽アリス


ルールを決めよう、と彼は言った。
勝手にすれば、と私はそっぽを向いた。大学一年生の夏休みが終わろうとしている九月の下旬、セミの鳴き声はもう完全に絶え、肌寒い秋風が吹き始めていた頃だった。
「自分の隣の人に対する悪口を必ず会話に盛り込まなければならない。これがルールだ」
彼はドヤ顔で言った。
「ルールを破ったら、温玉入りコーラを一気飲みだ。じゃあ、はじめ」
周りの意見を一切聞かずに彼はゲームを開始した。シーザーサラダの上に盛られた玉子をもうジュースにぶち込んでいる。
誰も文句を言う人はいない。それはそうだ。なぜなら、彼は社長だから。大学生だけで起業した《サワーズ》のボスだ。
「で、では私から……」向こう正面の田中が言う。「我が社の業績はぐんぐん伸びていますが、鈴木は一向にモテる気配がありません」
「何だと!!」次は鈴木のターンだ。「A社との取引は順調ですが、田中の競馬予想は当たったことがありません」
「むむむ……」田中が膨れ上がる。「ならばこれだ! 昨日B社から大量の注文が届きましたが、鈴木は未だに友達が少なくて毎晩一人で泣いています」
「それは言わない約束だぞ!」と泣き面の鈴木。
悪口を言い合っている田中と鈴木の茶番を目の前にうんざりする私であった。
私はため息をついて言う。
「我が社の未来は明るいのでしょうが、田中さんと鈴木さんの言う悪口は幼稚で、まるで子供の言い合いですね。そういう意味でも確かに未来が楽しみです。早く大人になりやがれ」
私の言葉に田中さんと鈴木さんの顔が凍りつく。
すると社長が笑い出した。
「ルール違反だ」
「は?」そう私は聞き返す。
「言ったろう? 隣の人の悪口だって。田中と鈴木は君の隣じゃない。アウト」
そう言いながら彼は私に温玉入りのコーラを差し出す。
そうか。こういうオチか。しかし、運命は変えられる。変えてやる、絶対に。
「社長、我が社のモットーは何でしたっけ?」
「決まってるだろ」社長は腕組みをして言う。「困難は分割せよ、だ」
「だったら」私はストローを二本、コップに突っ込む。「一緒に飲んでください」

「以上が、社長と佐藤さんの馴れ初めです」結婚式の友人の挨拶で、田中と鈴木はこのようにプレゼンした。


***
今回は時間制限つきリレー小説(?)でした。書き終わるまで約50分。タイトルは御伽が勝手につけました。

執筆順:三水→御伽→松村→花庭→三水→(以下続く)

なぜかはわかりませんが、リレー小説をやると頻繁におかしな男か、社長の肩書きを持つ男が登場します。
それと、リレーをやる時は最初から登場人物に名前を付けておいた方が混乱しないよね~、という意見が出ました。まあ参考程度に。

最終更新:2014年03月17日 19:45