2013年10月27日(日) 15:30-三水夏葵
『本当の話』
「ねぇねぇ、兄さん、寝る前にお話聞かせてー」
「またか? しょうがないなぁ。じゃあ前回はおとぎ話だったから、今回は本当にあった話を聞かせてあげようかな。僕が本当に出会った話だよ」
「うん。わーい」
「そうだね、どこから話そうか……深夜のことだったな。コンビニから帰る途中に、首なしライダーに遭遇したんだ」
「えっ、それって本当の話なの?」
「本当さ、本当に見たんだよ。あの時はびっくりしたなぁ、真っ暗闇の中、前の方からバイクが走ってきて。たしか乗ってた人は赤いトレーナーみたいなのを着ていたな。でもその人、首から上は、何も無くて……」
「うわぁ」
「そしてそのバイクが僕の何メートルか先のところで止まってね。首なしライダーが出てくるなんてあまりに奇怪なもんだからじっと見てたら、なんだそんなことかぁ、と思ってね」
「分かった! その人、黒色のヘルメットを着けてたんでしょ!」
「おおー、よく分かったね。バイクが走ってた時は良く見えなかったけど、止まるとしっかり見えて来てね。微妙にちょっとした模様が入っていたもんだから」
「なーんだ、そんな話かー。つまんないの」
「いや、ここからが本番だよ。その乗ってる人がね、ヘルメットを外し始めて……」
「分かった! ヘルメットを外しても首なしだったとか?」
「……よく分かったね。それを見た時は本心びっくりしたよ。首なし人間に会う機会なんてそうそうないからね。あ、首なしの人間って、人間と呼べるのかな? 妖怪と呼ぶべきかな? でも首なし妖怪だと普通すぎるな……あ、それは関係ない話だからおいといて……そんなもんで、この貴重な機会を大事にしようと、サインもらっておくべきだと思ってね」
「えっ」
「カバンの中を確かめてみると、丁度良くサイン用の色紙とサインペンが入っていてね。これはチャンスだと思ってサインをもらいに首なしさんに近づいたんだ。そしたら……」
「分かった! その人、ヘルメットの下に黒いストッキングを被ってたから暗闇のなかで見えなかったんでしょ! もしかしたらそのバイクの人は、どっかでコンビニ強盗でもして、その時使ったストッキングを被ったままでヘルメットを被り、バイクで逃げてきたとか! そして兄さんはその強盗をとっちめた、とか? あ、でもそうだったら目の部分は開いていないと……うーん。ねぇ、どうなの?」
「いや、その後は目が覚めたから分かんない」
「えっ、目が覚めた? 夢だったの? 本当の話じゃなかったの?」
「本当の話だよ。僕が本当に見た夢の話。全部実際に見た話を話しているから、フィクションは少しも混ざってないよ」
「そ、そんなぁ……あんまりだぁ……」
「お、おい、泣くなよ……今回は少し怖すぎたかな、ごめん、次からやっぱり本当の話じゃなくておとぎ話にするよ。だから、もう、泣かないでよ……」
===========
あとがき(※ネタばれ注意)
「本当」という言葉の意味は人によって違ったりします。ある人によっては自分が感じた物すべてこそが「本当」であったり、ある人によっては「絶対的客観」な物質世界こそが「本当」であると信じてたりします。
どちらが正しいかは分かったものではありませんが、まあ、人間信じたい方を信じれば良いだろうと思っています。そして、環境の流れに沿ったものが生き残るだけです。
というわけで(強引ですみません)、夢の中のできごとを「本当」の話であると言い張る人が出てきても、それはそれで理解できると思います。その人個人にとっては夢は切実に感じたものであり、夢の中で感じたことはその時の自分が「本当」に感じたことです。
夢の自分を否定するのは過去の自分を否定するのと似たようなものではないかと思います。どちらも現在の自分にとっては記憶の中にしか留まらない存在です。
(現在の自分にとっての)夢と過去の違いとなると、他人あるいは物質によって確かめ得るかどうかですかね。分かりかねます。心理学をもっと学ぶべきかもしれません。
「本当」という言葉の意味についての話に戻りますが、今のご時世では「主観的感覚」より「客観的物質」の方を信じていると周りの人に言い張った方が生きていきやすいかもしれませんね。
話は変わりますが、人間は一旦苦労して「真実」に近づいたと思ってしまえば、それに満足してまんまと騙されてしまう場合があります。なんだかこういう作法はミステリーでよく出てくる気がします。
短いショートショートなのにあとがきを長々と書いてしまいました。ホラーなのかミステリーなのかギャグなのかなんだか良く分からないベタでたちの悪いショートショートだったかもしれませんが、そこは別に気にしないことにします。本当に書きたかったのはこのあとがきの方だったのかもしれません。
物語に混ぜ合わせて考えれば、哲学的思考は面白くて理解しやすくなるものですから。たぶん。
P.S.
「それにしても、ショートショートの中のお兄さんはどうして『首なし』の写真ではなくサインが欲しくなったんでしょうかね」「たぶんそれは、御伽の国の影響ですよ」
三水夏葵
2013年10月27日
ひさしぶりに投稿しました。
みなさんの冷たい目線を感じます。
ちなみにあとがき最後の「P.S.」部分は、たぶん部員だけが分かり得るネタです。すみません。
念のため「名前を言ってはいけないあの人」へもお詫びを申し上げときます。ひぇぇぇ、ごめんなさい。