餅(お題、餅)

2014月01月09日(木) 23:49-夕坂貞史


刈られ、剝かれて、蒸かされて。
こうして考えてみると、随分目にあっているもののように思う。少し同情の念が湧いた。
まあ、人のことは言えないなあと思いつつ、庭を見まわす。
女性陣が目に映ったところで、別の善からぬことが微かに考えた自分が恨めしい。
何を考えたかは聞かないでほしい。僕とて、健全な男子なので。
もちろん、縁に腰かけた妹相手だけは絶対にないが。
そこでちらり、幼馴染と目が合って、僕は誤魔化すように口へ放り込んだ。

ついて、つかれて、丸められて。
字面だけを追うと、なんだかそれはわたしのようじゃのう。いや、皆きっとそうかもしれんな。
揉みくちゃにされながらも、何も言えぬまま、棘を抜かれてしまっておる。
縁に腰かけて庭を眺めると、彼女も考え事をしておるように見えた。
アホ兄貴はこの際どうでもよいので、視線を手元に戻す。
白くて、とても温かくて、可愛らしい。
どこか愛しいその端を咥えると、もにゅーんと引っ張った。


干され、焼かれて、喰らわれて。
何もこれに限った話じゃない。比喩的には人だってそう。なんとも残酷な響き。
とか、思ってみたり。自分でもよく分かってない。
難しいことを考えるのは、私のすることじゃない。とりあえず、彼の仕事。
こちらを盗み見た許嫁には、私が何を考えたか、分かってないんだろうな。
それは多分、縁に座った友にも言える。
ないまぜな想いと一緒に、唾液に絡んでいるだろうそれを飲み込んだ。

蒼月、杪姫、燈の三人の餅つきは、今年もあまり言葉が交わされない。けれど、なんとなく三人は一所に集まっている。それは通じ合っている証拠であり、通じ合いたい意志であり。
ただ、この行事は紛うことなく、三人の縁を取り持っているのだろう。餅だけに。

最終更新:2014年03月17日 19:56