きゃぷしょん
侍従術士ちゃんが分身ちゃんに言葉責めレズエッチされるSSです。
"独自解釈"を多分に含むため、地雷だったらごめんなさいね(ステンノ様)
"独自解釈"を多分に含むため、地雷だったらごめんなさいね(ステンノ様)
本文
――その日は、何かがおかしかった。
だらしなく間延びした声をあげながら、【侍従術士】は寝台へ倒れ込む。
鎖骨のまぶしい寝着に自力で着替えられたのは敢闘賞。
一党で取った四人部屋には主なき白い寝台がほかに三つ並び、
一階の喧騒から遠く離れた、心地のよい寂寞に浸らせてくれる。
鎖骨のまぶしい寝着に自力で着替えられたのは敢闘賞。
一党で取った四人部屋には主なき白い寝台がほかに三つ並び、
一階の喧騒から遠く離れた、心地のよい寂寞に浸らせてくれる。
なぜだか酒の回りが普段以上に早く。
宴会を辞してギルドの二階に一足早く引っ込んだ彼女は――
仰向けに瞼を閉じたまま、"もう一つの双眸"で仲間を眺めていた。
宴会を辞してギルドの二階に一足早く引っ込んだ彼女は――
仰向けに瞼を閉じたまま、"もう一つの双眸"で仲間を眺めていた。
当世具足(フリューテッド)に着られることなく泰然とした、
若く精悍な偉丈夫を【放浪牢人】という。
軍人家系の三男として将来を嘱望された、優れた神官戦士でありながらも、
正義の所在を広い世界に求め、みずから風雪に晒される道を選んだ青年。
若く精悍な偉丈夫を【放浪牢人】という。
軍人家系の三男として将来を嘱望された、優れた神官戦士でありながらも、
正義の所在を広い世界に求め、みずから風雪に晒される道を選んだ青年。
――侍従術士は放浪牢人が大好きである!
ライクである。リスペクトである。
それを通り越した先の感情もまぁ無いとは言えない。
名声や承認に拘るところなく、身を挺して他者を助ける、愚直で"体当たり(カミカゼ)"な生き方が。
ふと目を離してしまえば巨悪と心中仕(つかまつ)りかねない危うさが。
ときおり垣間見せる知性の輝きが。おっちょこちょいで抜けた一面すらも。
なにもかも愛おしく尊いものとして映る。
年頃のむすめとしての色目を抜きにしても、
生涯をかけて供回りをすべき……ただ一人。 運命の相手であった。
ライクである。リスペクトである。
それを通り越した先の感情もまぁ無いとは言えない。
名声や承認に拘るところなく、身を挺して他者を助ける、愚直で"体当たり(カミカゼ)"な生き方が。
ふと目を離してしまえば巨悪と心中仕(つかまつ)りかねない危うさが。
ときおり垣間見せる知性の輝きが。おっちょこちょいで抜けた一面すらも。
なにもかも愛おしく尊いものとして映る。
年頃のむすめとしての色目を抜きにしても、
生涯をかけて供回りをすべき……ただ一人。 運命の相手であった。
びっこ引く己の左足に、長い脚でゆっくりと歩速を合わせる不器用な笑みが。
侍従術士の世界に色を付けてくれたのだから。
侍従術士の世界に色を付けてくれたのだから。
……
抱く感情の内容はどうあれ、運命を信じてやまなかったのは、
さえずるばかりの少女ゆえの盲目だったのだろう。
運命は一つではない。
抱く感情の内容はどうあれ、運命を信じてやまなかったのは、
さえずるばかりの少女ゆえの盲目だったのだろう。
運命は一つではない。
彼の鎧を肘でうりうりと小突き、エール片手にくだらない冗句を飛ばす。
とがった耳に紫髪の麗人を見よ。
【槍兵斥候】。
父母の悲恋から混血として産まれ、閉鎖的な里を出てきたという半森人の少女。
ひょんなことから小鬼殺しの冒険を共にし、"三人でひとつ"となった、槍技と火計の達人。
とがった耳に紫髪の麗人を見よ。
【槍兵斥候】。
父母の悲恋から混血として産まれ、閉鎖的な里を出てきたという半森人の少女。
ひょんなことから小鬼殺しの冒険を共にし、"三人でひとつ"となった、槍技と火計の達人。
――侍従術士は槍兵斥候が大好きである!
ライクである。リスペクトである。
それを通り越した先の感情もまぁ無いとは言えない。
自らを破綻者と断じながら、見返りなき奉仕で無辜の人々のいとなみを愛し続ける、鉄火の生き方が。
ただ闘うことでしか存在証明を為せぬ悼ましさが。
日常会話に難をかかえた奥手な天気トークが。効率的な殺戮に奔する戦鬼の横顔すらも。
なにもかも気高く美しいものとして映る。
このように頼れる姉貴分が故郷にいてくれたなら、
生活苦への誤った義憤から、反乱分子に加わるようなこともなかったかもしれない。
ライクである。リスペクトである。
それを通り越した先の感情もまぁ無いとは言えない。
自らを破綻者と断じながら、見返りなき奉仕で無辜の人々のいとなみを愛し続ける、鉄火の生き方が。
ただ闘うことでしか存在証明を為せぬ悼ましさが。
日常会話に難をかかえた奥手な天気トークが。効率的な殺戮に奔する戦鬼の横顔すらも。
なにもかも気高く美しいものとして映る。
このように頼れる姉貴分が故郷にいてくれたなら、
生活苦への誤った義憤から、反乱分子に加わるようなこともなかったかもしれない。
(……ま。その世界線の場合、ウチ主様とも出会えてへんことになるしな。 結果オーライオーライ)
うつぶせになって足をはしたなくパタパタさせながら、
『もう一人の自分』の視界で、想い人二人の酒宴を覗き見る酔っ払い。
人の生活圏をおびやかす大毒蛇は、真言術の出番すらなく阿吽の連携で沈んだ。
それなりの報奨金が入ったとはいえ金欠はいつものこと、と、
牢人と槍兵は安酒と揚げ芋で無限に歓談を楽しめるモードに突入しているらしい。
『もう一人の自分』の視界で、想い人二人の酒宴を覗き見る酔っ払い。
人の生活圏をおびやかす大毒蛇は、真言術の出番すらなく阿吽の連携で沈んだ。
それなりの報奨金が入ったとはいえ金欠はいつものこと、と、
牢人と槍兵は安酒と揚げ芋で無限に歓談を楽しめるモードに突入しているらしい。
――つくづく、それはお似合いの男女の光景だ。
身の丈六尺にも迫る放浪牢人は、どこか年齢に似合わぬ落ち着きと威厳があり。
森人らしく彫刻のように磨き上げられた、槍兵斥候の肢体と美貌になんら位負けするところがない。
酌をつとめるのが小柄な自分ではそうはいかないだろう。
大人と子供。背伸びしようと兄妹くらいが関の山だ。
まあ、酒精にてんで弱く、依頼成功のテンションから"牛乳の炭酸割り"などという、
馬鹿舌の追放悪魔しか飲まないような錬成を始めているサマは。うん。
一党の精神年齢がどっこいどっこいであることを如実に示すのだが……
森人らしく彫刻のように磨き上げられた、槍兵斥候の肢体と美貌になんら位負けするところがない。
酌をつとめるのが小柄な自分ではそうはいかないだろう。
大人と子供。背伸びしようと兄妹くらいが関の山だ。
まあ、酒精にてんで弱く、依頼成功のテンションから"牛乳の炭酸割り"などという、
馬鹿舌の追放悪魔しか飲まないような錬成を始めているサマは。うん。
一党の精神年齢がどっこいどっこいであることを如実に示すのだが……
炭酸牛乳を口に含んだ仏頂面が、珍妙なカタチにゆがむ。
無魂の鉄槍が、なにを大輪の華のように笑う?
『もう一人の自分』がへらへらと相槌を打つ声が、聴覚に上滑りしていく――
無魂の鉄槍が、なにを大輪の華のように笑う?
『もう一人の自分』がへらへらと相槌を打つ声が、聴覚に上滑りしていく――
どうしてだろう。
好きな人を見ていれば胸が温かい。これは当たり前のことなのに。
好きな人を見ていれば胸が温かい。これは当たり前のことなのに。
――"好きな人と好きな人が、好き合っている"のを見るのが、
こんなに切なくて甘くて痛くて苦しいだなんて道理があるか?
こんなに切なくて甘くて痛くて苦しいだなんて道理があるか?
少女は四人部屋の寝台に独り。
思わず甘い懊悩の息を漏らす。
思わず甘い懊悩の息を漏らす。
いにしえの竜仕込みの卓越した魔術は、
なんらその気持ちをほどく一助にはならなかった。
古来より竜とは恋に敗れるものであるから。
なんらその気持ちをほどく一助にはならなかった。
古来より竜とは恋に敗れるものであるから。
……
…………
…………
「お姉ちゃん、足の傷診せて? マッサージしたげる」
「おお。おおきになー」
「大事な大事な本体ですから~~」
「おお。おおきになー」
「大事な大事な本体ですから~~」
共感覚で本体の不調を察したか。
『もう一人の自分』は茶々入れを切り上げ、侍従術士の介抱に顔を出してくる。
双子のように瓜二つの容姿。
体毛の色が桃から水色になっているのを除けば、心持ちニヒルで気楽げな表情が特徴だろうか。
『もう一人の自分』は茶々入れを切り上げ、侍従術士の介抱に顔を出してくる。
双子のように瓜二つの容姿。
体毛の色が桃から水色になっているのを除けば、心持ちニヒルで気楽げな表情が特徴だろうか。
【術士分身】と人は呼ぶ。
高位の真言魔法、《 分身 》によってかりそめに生み出すことのできる、第二の仮想肉体。
断じて宴会芸の余興で「幽体離脱~」や「裂ける乾酪(チーズ)」などの双子ネタをやるために使用する呪文ではない。
が。彼女の分身は、他にはない特異性として……
本体とは微妙に違う個としての人格をもって顕現し、自立行動を取るケがある。
原因不明のある種の誤作動ではあるのだが。
かねてより弟妹の欲しかった術士本人はこれに大喜び。
皿洗いに給仕のバイトに、と、ちょっとした所用でこの"双子の妹"を呼び出すようになった。
高位の真言魔法、《 分身 》によってかりそめに生み出すことのできる、第二の仮想肉体。
断じて宴会芸の余興で「幽体離脱~」や「裂ける乾酪(チーズ)」などの双子ネタをやるために使用する呪文ではない。
が。彼女の分身は、他にはない特異性として……
本体とは微妙に違う個としての人格をもって顕現し、自立行動を取るケがある。
原因不明のある種の誤作動ではあるのだが。
かねてより弟妹の欲しかった術士本人はこれに大喜び。
皿洗いに給仕のバイトに、と、ちょっとした所用でこの"双子の妹"を呼び出すようになった。
ナイトワンピースの裾をはしたなくめくり上げ、一人用の寝台に少女が二人。
奉仕する葵色。奉仕される茜色。
左の上脛に痛々しく刻まれた傷跡を矯めつ眇めつ、分身はいたってけなげに足裏を揉んだ。
「あぁ””~~ 極楽、極楽」
「女の子が出しちゃいけない声になってるなぁ……」
気持ちいいのはわかるけどさ、と苦笑を一つ。葵色の奉仕者が続ける。
「でも驚き桃の木だよねえ。 もうすっかり諦めてたのに。人並みに動くようになっちゃって」
「元気溌剌走り回れるでぇ! ねーさんサマサマやわ、ホンマ」
奉仕する葵色。奉仕される茜色。
左の上脛に痛々しく刻まれた傷跡を矯めつ眇めつ、分身はいたってけなげに足裏を揉んだ。
「あぁ””~~ 極楽、極楽」
「女の子が出しちゃいけない声になってるなぁ……」
気持ちいいのはわかるけどさ、と苦笑を一つ。葵色の奉仕者が続ける。
「でも驚き桃の木だよねえ。 もうすっかり諦めてたのに。人並みに動くようになっちゃって」
「元気溌剌走り回れるでぇ! ねーさんサマサマやわ、ホンマ」
三人が徒党を組んだ当初。侍従術士は片足を引きずって歩かねばならぬ障害の身であった。
広刃の剣で骨まで達する戦傷は、
もはや機能回復の見込みナシ、と当人たちも諦めていたのだが……
槍兵斥候のもたらした一日一杯の《 命水 》、そして森人式ストレッチが徐々に実を結び、
傷を負う前とそう遜色ないほどに機能快復を果たしたのだ。
広刃の剣で骨まで達する戦傷は、
もはや機能回復の見込みナシ、と当人たちも諦めていたのだが……
槍兵斥候のもたらした一日一杯の《 命水 》、そして森人式ストレッチが徐々に実を結び、
傷を負う前とそう遜色ないほどに機能快復を果たしたのだ。
惚れた男の運命の人は己だけではなかったが、その邂逅に主従がどれだけ救われたのか……
侍従術士にとって、放浪牢人、槍兵斥候は双方が大恩人である。
侍従術士にとって、放浪牢人、槍兵斥候は双方が大恩人である。
――だからこそ。目をそらし続けてこれたのかもしれない。
「……ホントに」
「? なんや?」
「? なんや?」
「ホントにさ――――"治ってよかった!" と思ってる?」
まったく同じ顔がずいと近づく。
しばし睨み合う。
「……はて。 なんの話やら」
「ごまかさないでよ、お姉ちゃん。 ボクたちは一心同体。二人がひとり。
隠し事なんて成立するワケもないんだから」
しばし睨み合う。
「……はて。 なんの話やら」
「ごまかさないでよ、お姉ちゃん。 ボクたちは一心同体。二人がひとり。
隠し事なんて成立するワケもないんだから」
分身の主張は、まったくもって事実であった。
ゆえに本体も。彼女が次に口にする言葉が、その本義がわかる。
ゆえに本体も。彼女が次に口にする言葉が、その本義がわかる。
「――この足さえ治らなければ。
巨大な"負い目"として。このさき永遠に、主様を束縛できたのに。
そう惜しむところが、まったく無いって言い切れる?」
「…………」
巨大な"負い目"として。このさき永遠に、主様を束縛できたのに。
そう惜しむところが、まったく無いって言い切れる?」
「…………」
そう。幼気な少女を不具とするほどのこの傷。
かつての放浪牢人の手によるものである。
英雄無き戦場に、民兵の鎮圧を主な任務としていたその青年にとって、
それは約束された将来と、富裕な生家を捨てるほどの……生涯無二の痛恨の証。
かつての放浪牢人の手によるものである。
英雄無き戦場に、民兵の鎮圧を主な任務としていたその青年にとって、
それは約束された将来と、富裕な生家を捨てるほどの……生涯無二の痛恨の証。
「何もかも投げ出して、たった二人で正義の在り処をさがす旅路のよすが。
あの長い脚でゆっくり合わせて歩いてくれる。
主様のそんな優しさに、ボクたちは惚れちゃったんだよ」
「わーーとっるわ」
不機嫌な声になるのもやむなしだろう。
とっくのとうに答えは出ている。
あの長い脚でゆっくり合わせて歩いてくれる。
主様のそんな優しさに、ボクたちは惚れちゃったんだよ」
「わーーとっるわ」
不機嫌な声になるのもやむなしだろう。
とっくのとうに答えは出ている。
「ウチ自身ならわざわざ聞くまでもないやろ?
ねーさんとのリハビリが功を奏して。ようやくウチが一人で走れるようなった日。
――主様がどんな顔で、駆けまわるウチを見てたか」
ねーさんとのリハビリが功を奏して。ようやくウチが一人で走れるようなった日。
――主様がどんな顔で、駆けまわるウチを見てたか」
放浪牢人は感情表現に乏しい男だ。
その時ばかりは無言で中座し、誰もいないところで少し泣いた。
槍兵斥候とその背中を尾けていたのはご愛嬌。
救ったのは彼だというのに――まるで、救われたかのような、落涙を。
その時ばかりは無言で中座し、誰もいないところで少し泣いた。
槍兵斥候とその背中を尾けていたのはご愛嬌。
救ったのは彼だというのに――まるで、救われたかのような、落涙を。
「かたわのヒロインは店じまいや。
そんな傷なんてなくとも、主様とはずうっと一緒。
主様はウチを見捨てへんし、仮に嫌と言おうが付きまとったる!!」
そんな傷なんてなくとも、主様とはずうっと一緒。
主様はウチを見捨てへんし、仮に嫌と言おうが付きまとったる!!」
斬った男と斬られた女。
二人の心は世の艱難に限界で、互い互いの共依存だったのかもしれない。
三人目がその欠落を補ってくれるいま、もはや必要のないよすがだ。
侍従術士はあえて口にすることなく、そう強く念じてみせた。
目の前の存在にはそれで十分。
二人の心は世の艱難に限界で、互い互いの共依存だったのかもしれない。
三人目がその欠落を補ってくれるいま、もはや必要のないよすがだ。
侍従術士はあえて口にすることなく、そう強く念じてみせた。
目の前の存在にはそれで十分。
「ホントにいいの」
「何が」
「勝ち目……ないよ」
「だからっ、何が!?」
「人の輪(サークル)が三人以上になってしまえば、『いちばん』は一人しか選べないッ!」
「何が」
「勝ち目……ないよ」
「だからっ、何が!?」
「人の輪(サークル)が三人以上になってしまえば、『いちばん』は一人しか選べないッ!」
念じてみせるだけで十分なはずなのに。
葵の少女は叫ぶ。
[自分はそのために生まれてきたのだ]と。
葵の少女は叫ぶ。
[自分はそのために生まれてきたのだ]と。
「大好きな主様とぉ、大好きなねーさんがぁ、
互いに互いを『いちばん』にしてもうたらー。
ウチはおまけになってまう~~!!」
「黙りや」
互いに互いを『いちばん』にしてもうたらー。
ウチはおまけになってまう~~!!」
「黙りや」
「本当はこう思ってやまない!
森人の血が濃くて、一緒に老いていくことのできないあんさんは、
つつましく身を引けやぁ~~ん♪」
「黙りや――!」
森人の血が濃くて、一緒に老いていくことのできないあんさんは、
つつましく身を引けやぁ~~ん♪」
「黙りや――!」
怒気を発した側の頭が、しかし無慈悲に組み敷かれる。
葵の少女が、茜の少女の両肩を掴んで押し倒していた。
葵の少女が、茜の少女の両肩を掴んで押し倒していた。
「わかるでしょう!? お姉ちゃんはボクなんだからっ。
[あるいはもう一つ、自分自身の真実]!」
[あるいはもう一つ、自分自身の真実]!」
「ウチはそんなこと思っとらん!
いっぺんたりとも考えたこともない!!
アンタみたいな……"ぱちもん"にくさされるほど、性悪でないわ!!」
いっぺんたりとも考えたこともない!!
アンタみたいな……"ぱちもん"にくさされるほど、性悪でないわ!!」
「――そう。お姉ちゃんは、またボクを抑圧(ころ)すんだね」
一人用の寝台に、少女が二人。
しばしの沈黙があった。
しばしの沈黙があった。
「……そうやって素直になれないから。人のためを思って優しく譲って生きるから。
『抑圧からの解放』を担当する側面なんてのが、こうして具現化してるのにねえ」
『抑圧からの解放』を担当する側面なんてのが、こうして具現化してるのにねえ」
我慢は毒♪ 我慢は毒♪ と歌うその膂力は、不思議と本体よりも強い。
誰も自分自身を振りほどくことなどできはしない。
誰も自分自身を振りほどくことなどできはしない。
「今日お酒の回りが早かったのは、
お姉ちゃんが主様にハツジョーしてるから♪」
そういう性欲の波ってありますわよね、とお嬢様のように笑いつつ
夜着の中に顔を豪快に突っ込み、ショーツを引き下ろす。
侍従術士はぴゃあ! と悲鳴を上げたが、すべての抵抗はやはり無為に終わった。
お姉ちゃんが主様にハツジョーしてるから♪」
そういう性欲の波ってありますわよね、とお嬢様のように笑いつつ
夜着の中に顔を豪快に突っ込み、ショーツを引き下ろす。
侍従術士はぴゃあ! と悲鳴を上げたが、すべての抵抗はやはり無為に終わった。
ぐいっ ぐいっ
……意図的に視界を押し付けてくる。
蜜のしたたる己の恥部が、眼前にたいへんよく見えた。
……意図的に視界を押し付けてくる。
蜜のしたたる己の恥部が、眼前にたいへんよく見えた。
「どぉれ。 ぺろりんちょ」
「――? ――――ッ”!!??」
「うんうん。ちょっとおしっこ臭いのもまた味ですなぁ」
「――? ――――ッ”!!??」
「うんうん。ちょっとおしっこ臭いのもまた味ですなぁ」
……
自分自身に性器を嘗められたことのある者など、果たしてこの世に存在するだろうか。
それは自分であるがゆえに正しく性感を突き、
あらゆる秘めた欲望を浮き彫りとしてしまう。
自分自身に性器を嘗められたことのある者など、果たしてこの世に存在するだろうか。
それは自分であるがゆえに正しく性感を突き、
あらゆる秘めた欲望を浮き彫りとしてしまう。
――曰く。
舐めるなら主様だが、舐めさせるならねーさんも一興。
舐めるなら主様だが、舐めさせるならねーさんも一興。
「あ”…… なぁあ……っ”」
想い人へ奉仕する妄想だけなら耐えられたろう。
同性すらも魅惑する、美しく勇ましい半森人の戦鬼が、小便臭い自分の秘裂を嘗めそぼっているイメージ。
自分自身の舌で慰められながら深層意識から発露したこの不埒な考えは、
およそ言語化不能の莫大な快楽を、侍従術士の脳髄に叩き込んだ。
同性すらも魅惑する、美しく勇ましい半森人の戦鬼が、小便臭い自分の秘裂を嘗めそぼっているイメージ。
自分自身の舌で慰められながら深層意識から発露したこの不埒な考えは、
およそ言語化不能の莫大な快楽を、侍従術士の脳髄に叩き込んだ。
がくがくと痙攣し、うめき声をあげながら甘く達してしまったのも。
きっと無理ならぬこと。
きっと無理ならぬこと。
「ね♪ ――これでわかったでしょ?
お姉ちゃんったら、ホントはこんなにエッチなんだって」
お姉ちゃんったら、ホントはこんなにエッチなんだって」
くすり
愛の蜜に濡れたくちびるで、左頬にそっと口吻を落とす。
愛の蜜に濡れたくちびるで、左頬にそっと口吻を落とす。
「大恩ある主様とー、あさましくも夫婦になっていちゃいちゃしたいし?
それを邪魔するかもしれないねーさんとも……
こうして、舐めて・触って・ギューして、滅茶苦茶してやりたいんだぁ……♪」
それを邪魔するかもしれないねーさんとも……
こうして、舐めて・触って・ギューして、滅茶苦茶してやりたいんだぁ……♪」
「…… 違うッッ!!」
「アンタなんかウチでない!!
きえろ
――《 消失 》!!」
――《 消失 》!!」
分身はあいまいな笑みを浮かべると、煙のように、ポンと消えた。
……
…………
追憶する枯れた農村の風景は、『抑圧』と『我慢』に満ちている。
一人っ子だったからだろうか?
侍従術士の貧しい暮らしの中には、常に"彼女"の息吹があった。
…………
追憶する枯れた農村の風景は、『抑圧』と『我慢』に満ちている。
一人っ子だったからだろうか?
侍従術士の貧しい暮らしの中には、常に"彼女"の息吹があった。
骨肉を削るような農作業。
雑穀を何倍もの水でかさましした粥。
そういったままならない現実を笑い飛ばす、奔放なムードメーカー。
もう一人の仮想の自分。
左足に深々と契約の傷が刻まれる日まで。
誰が孤独を癒してきたのか。
雑穀を何倍もの水でかさましした粥。
そういったままならない現実を笑い飛ばす、奔放なムードメーカー。
もう一人の仮想の自分。
左足に深々と契約の傷が刻まれる日まで。
誰が孤独を癒してきたのか。
《 分身 》の術を覚えたるは、具現化させるきっかけに過ぎない。
生まれたときから、ずっとボクは貴女のそばに。
生まれたときから、ずっとボクは貴女のそばに。
一階の喧騒から遠く離れた寂寞。
茜の少女はこうして独り。
大好きな二人へ、鬱屈した性欲を向けているという事実認識だけが、ただ虚空に残響す。
茜の少女はこうして独り。
大好きな二人へ、鬱屈した性欲を向けているという事実認識だけが、ただ虚空に残響す。
「…………ふ。
ぐ、うぅう”う”ううううううう――――ッ!!」
ぐ、うぅう”う”ううううううう――――ッ!!」
少女は哭いた。
ぐしょぐしょになったシーツ。
誤魔化しきれない女のにおい。
二人の腹はそろそろ満ちた頃合いだろう。
誤魔化しきれない女のにおい。
二人の腹はそろそろ満ちた頃合いだろう。
……とある呪文を唱えれば、後始末の手は二人に増える。
断固としてそうすることはなく。
侍従術士は換気窓を開け放ち、涙にえずきながら乾布で裸身を清めはじめた。
断固としてそうすることはなく。
侍従術士は換気窓を開け放ち、涙にえずきながら乾布で裸身を清めはじめた。
[アナザー/トゥルーオウン] 了
余談
本編とは似ても付かないネットリした話なので、
あえて牢人さんと槍兵さんには一切セリフがありません。
「術士ちゃんがこれくらい思い詰めてたらきゃわいいなぁ」、という純然たる私の願望。
槍兵さんのこともきっと心の底から大好きですし、好きだからこそ許せないことってあると思うんです。
あえて牢人さんと槍兵さんには一切セリフがありません。
「術士ちゃんがこれくらい思い詰めてたらきゃわいいなぁ」、という純然たる私の願望。
槍兵さんのこともきっと心の底から大好きですし、好きだからこそ許せないことってあると思うんです。