コスチューム


コスチューム

ユグドラシル廃図書館の蔵書に記されていた、変装術に用いる服飾の総称。
その種類は多岐に渡り、図に示したのは用いられることの多い三種類である。
順番に、従僕として潜入するためのメイド服、魔人(ケモミミ)に扮して情報を収集する為の付け耳、
志願者が多く明確な身元を問われないソレグレイユの兵器搭乗員に成りすますための女性用特殊防護服である。

元々は、廃図書館の管理を任されていた者が気まぐれで書庫に入り、偶然手にした本にこのような
変装術があることが記されており、これを隠密の手段として使えないかと上層部に報告した結果、見事に採用。
以降、ユグドラシル七師将が一人ザッバーハ率いる暗部ハサンで、殊に女性の構成員が重用している。
尚、この変装術は一部の高官の間で、「手軽に子飼いの諜報員を作れる」と大流行し、
合同で女性の私設諜報部隊を設立して構成員を密かに募集しているという。


『確かに私はあの図書館に入る手段を探していた。
………だが、何故、よりにもよってあんなことをしなければならなかったのか。

「最悪だ……」

軋むボロいベッドに仰向けに寝転んで呟いた言葉は、隠れ家にしていた廃屋の天井に吸い込まれていった。



ユグドラシルで諜報活動に従事して暫く経った頃。
どこかにある旧世界遺物の廃図書館とやらに、ソレグレイユの起源やこの歪な世界の発端が記された古書があるという情報を得て、私は潜入する方法を探していた。

そして、偶然ではあるがそんな都合のいい方法を知る人物に出会った。
聞けば、その手段を実行するには幾つか外見の条件を満たさなければならないと言うので、
仕方なく活動の邪魔になるような真似をして条件を整えた。
運動を控えて筋肉を落とし、代わりに食べて脂肪を増やし、上流社会のマナーを学んだ。

そうやって無意味に過ごすこと二週間。
やっと条件を達成したというので、私は奴に連れられてある高級官僚の自宅に赴いた。

こうして女性らしい格好をさせられて、身体つきまで条件に入れる。
どうせ、口にするのもおぞましいようなことを肥え太った金と権力の亡者どもにされるのだろうと、
そういう覚悟はしていた。どうせ女であることを捨てたような人生だ。
何をされようが構わない、と、その時まではそう思っていた。

だが、待っていたのは陵辱される方がまだましだと思える様な辱めの嵐だった。

まず、通された部屋にいたのは、無数の衣装を手に持った屋敷の女従僕達。
何だ、と思う間もなく、私は着ている服を引っぺがされ、彼女らの持つ服を代わる代わるに着る“着せ替え人形”と化した。
きゃあきゃあと黄色い声を上げながら、着替えさせられる度に早口で何かを捲くし立てるのが聞こえた。

「やっぱ巫女の服は人に着せる方が萌えるわー」
「何言ってんの猫系の付け耳とメイド服が最強に決まってるでしょ」
「いいや(我慢の)限界だッ(私はこのパイロットスーツを)推すねッ」
「素肌に男用作業着という組み合わせが至高な私は異端ですね分かります」

……何を言っているのかさっぱりだった。異世界人語の方がまだ分かる。

そして、最終的に決まったソリビエの民族衣装のまま、私は次の部屋へと送られた。
そこにいたのは、先に見たのと同じような服装をした女性数人と、それを取り囲み最近開発されたという
映像を紙に焼き写す魔術礼装で彼女らを激写しているこの屋敷の主と他数名の高官共。
聞こえてきたのは、何やらハァハァと荒い息。

「奴らめ久平の[キモノ]を着た女性の美しさを知らんとは哀れな」
「ああ……旧世界の看護師服を着た女性を見るこの時だけは家族のいない悲しみを忘れられる」
「圧倒的ではないかわが軍(の戦力と軍服の萌え度)は」
「兎の付け耳の露出《バニー》服ktkrこれで後半年はソレグレイユへの憎しみを忘れない」

……それぞれ事情があってソレグレイユを心底憎んでいるのはよく分かったが、それ以上に気色悪く気味が悪く気持ち悪かった。

当然、私もそこへ放り込まれ、体感時間で丸三時間程は撮られつづけた。
これは羞恥のあまり考えることを放棄した脳の勘違いで、本当は五時間も経っていた。
そうして、何かこう、精神の新たな境地に達しかけた時、女従僕達が告げた[時間]とやらになったというので、高官達は皆帰っていった。
辛うじて目当ての高官に話しかけ、廃図書館へ入ることを報奨としてもらうことは出来たが、他の女性達と私は鬱状態だった。
何が悲しくて一生涯でそう何度もない究極の恥を態々後代まで残りかねない媒体に残さなければならないのか。鬱だ死にたい。

同じように死んだ魚の目をしていた周りの女性達に、私はリユニオンへの参加を勧めた。
一も二もなく承諾してくれた。
その時交わした握手で、彼女らとの間に強い絆が出来た気がした』

―――反逆者エラミーの回顧録原本、炙り出しにされていた文章