好奇を欲する少女の冒険譚


好奇を欲する少女の冒険譚

シュニッツラーの処女作にして代表作である冒険小説。
箱入り娘として育てられたが、お転婆で好奇心旺盛な「ワタシ」という一人の女児が、
偶然街で出会った世界の果てを見たと自称する旅人「あの人」と共に、架空の世界「この世界」で、
最果てという未知を求めてひたすら旅を続ける……という内容。

図は、作中で久平を参考にしたと思われる「東の国」のある廃れた神社を二人が訪れた時の挿絵。

シュニッツラーの作品の特徴として、人物名や地名に至るまで固有名詞という固有名詞が全て取り除かれ、
特徴を組み込むなどした代名詞でのみ表現されるという点がある。
これは、読者が登場人物を自分と重ねてより深く感情移入するのを狙ってのことだと言われる。

また物語の内容は、《放浪騎士アルカの戦い》などの様なファンタジー性を徹底的に廃し、
何も知らぬが故に知りたいと思う「ワタシ」の純粋な視点、
対して、世界を見たが故に常に現実を考える「あの人」の語りなどを通じた、
現実にも存在する差別や貧富の差などが反映されたこの世界の世情に対する批判など、
恰も別の世界のことを事実として綴った様な印象を受ける社会的なもの。

彼女自身の冒険の体験を元にしたということもあり、かなり現実味溢れるものとなっていて、
これが世界中で反響を巻き起こした原因となった。

尚、どうやら「あの人」のモデルはゴッヘルザッホである様で、
語りの端々に彼の手記に書かれた言葉が見える。
彼が特にこの世を嫌っていたという事実は知られていない為、
思想はシュニッツラー自身のものを反映したもののようだ。



「 南の国と東の国の境近くにある村で一泊した。
 その後、東の国の首都へ向かう道中で、この不思議な建物を見つけた。

 あの人に聞くと、これは昔神様を祀っていた場所なのだという。
 でも、神様ってもっと立派な場所にいるんだと思ってた。

『ふむ。それはね、君。君の考えている神様と、此処にいた神様が違うものだからだよ』

 質問してみたら、此処にいるのはとても優しくて親しみやすい本当の神様で、
 ワタシが考えてる神様は、悪い大人が嘘を吐いて、いい人を騙す為に創った偽物の神様なんだって。

 本当の神様は、信じてる人にもそうでない人にも色んなことをしてくれるけど、
 偽物の神様は、自分を信じてくれる人でも助けてくれないことがあるんだって。
 それで、悪い大人は、偽物の神様に助けてもらう為だって言って、
 色んなものを売りつけたりするんだって。

 ……うーん。でもさ。

『そんな悪い人なら、病気の人を助けたりはしないよね?』

 他にも親の居ない子どもの面倒を見たり。街にいる時に、そういう人を一杯見たんだけどな。

 そう言うと、あの人は驚いた後、嬉しそうな、悲しそうな顔をした。

「そういう人はね。本当に少ししかいないんだよ」

 その顔を見ていると、私は何も言えなくなって、しばらく静かに建物を見つめていた。」

―――作中より抜粋


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最終更新:2022年08月31日 18:57