竹林を越えた先


竹林を越えた先

やはり、旅先でふらふらと歩くものではない。
用事で訪れた町で竹林を見つけた。
昔から一人でいるとあっちこっち歩き回ってしまう性分であったため
この日も私はなんとなく目にとまったこの竹林へと足を向けたのだ。

子供の頃にあまり外に出歩かなかった反動か、はたまたこの楽しみを昔から知っていた所為なのか、
こういう怪しげで不思議な場所に無性に心惹かれてしまう。
この先には何があるのだろう。このまま進んで戻ってこられるのだろうか。
期待と好奇心、そして不安を胸に私は出かける度に気ままに散歩に出てはちょっとした冒険気分に浸り、
そして迷子になってきた。

この日も、私は迷子になっていた。
夕暮れ時に竹林へ足を踏み入れたのが運の尽きである。
足場も定かではない見ず知らずの土地で迷子になるのは、よくよく考えればかなりの危機だ。
正常な思考さえ奪うとは、おのれ好奇心め。
依然として道は分からないが、月が出ているのがせめてもの救いだろう。
当てもないので月の出ている方へ歩いてみようか。
ここまでくればもう自棄だ。

しばらく歩いてやはり無謀だったかと後悔していた頃、開けた場所に出られた。
竹林を抜けた先、そこには屋敷が建っていた。
明りは点いていないし、玄関にもしっかり鍵が掛かっている。
人が住んでいるのを祈っていたが、誰もいないのなら縁側で一晩夜を明かすまでだ。
そう思い縁側で寝る姿勢をとった時、

「あら、人様の家で断りもなく寛ごうだなんて、無粋な方」

背後の襖がすっと開き、中から着物姿の女性が現れた。長い黒髪に凛とした面持ち。
とっくに夜目にが利いていた両目は、わずかに差し込む月明かりに映える彼女の顔をしっかりと映していた。
どうにか明日の朝に寒さで目を覚ますことはなくなりそうだ。

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最終更新:2014年04月18日 01:38
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