《浸水した貧民街/Flooded slum》
永世中立、平和主義を唱え、弱小国家が結束し誕生した
久平と言う国家。
しかし、それは産業の自立と言う大きな枷を嵌めることとなった。
開発地区のもたらす恩恵はその島内で完結し、他の島に流出することはない。
つまり、実質的に久平内部の島同士は経済的な分断を行っていた。
ここは、開発地区を設置されなかった久平の一角。
水位の上昇を止めるのに必要な資金もその島内にはなく、そして、中立国の安全を求めた大量の異邦人が流入した地区。
衛生状態も決して良いものとは言えず、年に数回、『木』と呼ばれる居住区が縦方向に積集したものが倒れる事故も起きる。
身分を明かさなくても、どのような犯罪に手を染めていても、金が無くても、生きていける。
中立国家に世界の皺が少しづつ寄り集まり、倒れようとしている。
『異臭が鼻を突いた。どこからか、腐った臭いが漂ってくる。鉄の臭いがする。
血だ。はっきりと悟った。 デイバックから拳銃を取り出す。弾は入っていた。
「ここは、どこだ?久平から出たのか?」
「ちげェますよ。ねェさん。ここはクソどものごった煮さァ。木に入るかェ?どうせェ、死体しかなかとおもうけンど」
少し前に乗った舟の、歯の抜けたガイドがそう答えた。水が緑に染まっている。
私はそびえ立つ貧民街の一つに横付けしてもらって、木のなかに入った――』
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反逆者エラミーの回顧録より
最終更新:2022年08月31日 18:38